久々マイルでも"非"逃走宣言! ミッキーアイル
2015/5/31(日)
-:安田記念(G1)に出走するミッキーアイル(牡4、栗東・音無厩舎)についてお願いします。
音無秀孝調教師:ええ、至って順調ですよ。今回も(前に)行かないレースをやって、どこまでできるか、ですね。マイルで行かないレースをするのは初めてなのでね。前回もお話させてもらった通り、去年までは全部ハナに行こうとして行って、もちろん去年の暮れの阪神CとマイルCSは、行こうとしてハナに行けない中途半端なレースを2回やって、それが2回とも超ハイペースに嵌まってしまって、後ろにいる馬にやられてしまったのでね。
-:アシストしてしまったと。
音:それを見せられて、僕もハナ行くのは止めようと決心したのが去年の暮れですね。阪神Cが終わって放牧に出した後に、行かないレースをするから、馬の後ろで競馬をするようなシミュレーションで調教をして欲しい、ということを牧場にお願いしました。帰ってきてからも全部馬の後ろで調教して、今回もそういう形でやっています。僕は阪急杯が一番シミュレーションをできたと思うのですよ。それは上手いことインコースを引いているし、行く馬のポケットにポコッと嵌まって、それで、馬も落ち着いて走っていたのでね。
-: 1400mにしてはだいぶ遅いペースでしたよね
音:それで、直線に入り口でポーンと出して、上手いこと本命馬を交わして勝ったかと思ったら、ダイワマッジョーレにちょっとやられて。しかし、収穫はあったよね。これなら、1200ならもっと楽に折り合えると思ったら、実は誤算が生じたんですよ。それは枠順です。雨が降ったでしょ?(ハクサンムーンの)酒井学の頭の中まで僕は分からないから。ポーンとハナを切ったら、ハクサンムーンはウチの馬より遅かったのです。しかし、ハナに行こうとして行く訳ですよ。段々、段々行きますよね。内に入らないで、ずっとウチの馬の斜め前にいたのです。
▲高松宮記念は誤算が生じたと語る音無師
-:張り気味になってということですね。
音:そうそう。ミッキーアイルはそれで引っ掛かっている訳ですよ。向正面でハミを噛んで、噛んで。馬の後ろに付けられるどころか、ずっとハクサンムーンを追い掛けてしまって、直線もしょうがないので行かざるを得なくなって……。おっしゃられるように、ずっと張られていたのです。
-:しかも、その中で馬場状態も稍重で滑りやすい、ミッキーアイルの苦手な馬場状態で3着というのは成長を感じますね。
音:よく頑張ったと思います。ですから、1600で抑えるのは初めてですが、阪急杯の方がより上手いこと行っている訳だから、あんな競馬で上手く行ってほしいと思っているのです。
-:今度は、もう少し内枠で馬の後ろに付けれれば……。
音:枠順はあんまり言わない方が良いな。どうなるか分からないから、ハハハ(笑)。
-:ちなみに、香港で勝ったエアロヴェロシティという馬はどうでしたか?
音:いやいや、今度手合わせする機会があれば勝ちたいね。雨が振ったり、ウチは外を回っているから、その分もあると思いますよ。
-:ミッキーアイルも差しに転じてから3戦目ですが、この辺りで府中のマイルでも、NHKマイルC以来の勝利が欲しいですね。
音:去年は玉砕しているレースなのでね。
-:16着でした。
音:しかし、道悪で相当下(馬場)が悪かった。それを前半35秒で行っているのですよ。相当速い。ですから、ミッキーアイルを追い掛けてきた馬はみんな潰れましたよね。
-:今年はアシストしないで、自らが?
音:アシストしてもらわないといかんね、ハハハ(笑)。
浜中騎手が騎乗して、CWコースで一週前追い切り
クランモンタナとの併せ馬で7F96.2-12.2秒をマークし、先着している
-:昨日(5/27)の追い切りの評価というのはいかがですか?
音:思った通りの調教で、スタンドから見ていた新聞社の人たちがみんな来て「すごい良かった」という訳よ。動きが良かったというのは僕だけじゃないから。それだけでも、今で8割ぐらいできたから、あとは来週にもう1回やればですね。
-:先ほど、馬を見せていただきましたが、相変わらずプリプリした良い体ですね。
音:ええ。マイルの距離で、しかも東京で逃げ切ったNHKマイルCとは違う形で、成長したミッキーアイルが差してきて勝つことを、僕は夢見ています。
-:オーナーの野田みづきさんはミッキークイーンでオークスを制覇されたばかりです。野田さんの勢いに乗って、ミッキーアイルも勝ちたいですね。
音:それもありますが、ジョッキーも同じ浜中なので引っ掛ける訳じゃありませんが、何とか野田みづきさんのためにも、自分ももう1回夢をみたいなと。G1を勝ちたいな、とはいつも思っていますので。
もうひとつは、ミッキーアイルが将来は種馬になると思いますから、古馬になってもG1を勝ったという、そういう重みが欲しいですね。NHKマイルCは勝ったとはいえ、安田記念と1200のスプリンターズS、もう1回高松宮記念、1600、1200のG1を勝つのが僕の夢です。それで、箔を付けて種馬にしたいですね。
-:あとは、先生が自ら(騎手時代)勝ったオークスをトレーナーとして勝つのも夢ではありませんか?
音:そうやね。まだ勝てませんが、もちろん夢ですよ。桜花賞も。ただ、男馬の皐月賞と菊花賞は勝っているので、本音はダービーに勝って3冠をしたいですね。キリがないね、ヘヘヘ(笑)。
-:ちなみに、今回もトライアビットを着用して折り合い重視でしょうか?
音:トライアビットは真っ直ぐ走らせるということが基本ですから。あの馬にトライアビットをした理由は、新馬の時に内に飛び込んで負けたじゃないですか。あれで、浜中が内に飛び込まれたら嫌だから、テンから内ラチを走らせたいからハナに行き出したのですよ。それが、ずっとアイツのトラウマになっている訳です。しかし、内に飛び込むのは困るから、やっぱりトライアビットで修正して、差して直線で抜け出したところを飛び込むというのを防がなきゃいけない訳でしょう?浜中には“トライアビットを着けたから大丈夫だよ”ということを暗示に掛けて、ずっとそれをしているですから。
-:先生なりの愛情だということですね。
音:そうそう。
「レースを見ていると勝ちにくいのは1600だと思うね。あの馬はスピードがあり過ぎますから。とはいえ、マイルより1200の方が勝ちやすいのであれば、マイルのG1はひとつ勝っているから、そういう意味では気楽に1200の方が勝ちやすいのかなと」
-:マイルの馬は1200は不得手だし、1200を勝てるスピードがある馬は、マイルまでのスタミナはないということもありますよね。
音:しかし、レースを見ていると勝ちにくいのは1600だと思うね。あの馬はスピードがあり過ぎますから。とはいえ、マイルより1200の方が勝ちやすいのであれば、マイルのG1はひとつ勝っているから、そういう意味では気楽に1200の方が勝ちやすいのかなと。しかも、行かないレースをするのだから。
-:去年から取り組んできたことが、この春に成果を結ぶと良いですね。
音:阪急杯の時はまだ半年も経っていなかったからね。今度はもう半年以上経つ訳だから、行かないレースをさせるためにね。
-:ディープインパクトらしい瞬発力を、ゴール前で発揮できれば。
音:そういうことやね。
-:ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=山中博喜)
プロフィール
【音無 秀孝】 Hidetaka Otonashi
1979年に騎手デビュー。1985年のオークスをノアノハコブネで制したが、通算は1212戦85勝と決して振るわなかった。脚光を浴びるようになったのは厩舎を開業させてから。開業年にイナズマタカオーで重賞を2勝。 以降も坂路を主体とした調教方法で実績を積み重ねると、オレハマッテルゼ、ヴィクトリー、オウケンブルースリ、カンパニー、そしてこのミッキーアイルらのG1馬を輩出。常にリーディング上位に名を刻む栗東のトップステーブルとして、その地位を固めている。
1954年宮崎県出身。
1994年に調教師免許を取得。
1995年に厩舎開業。
初出走:
95年6月24日 3回中京3日目12R キーペガサス
初勝利:
95年7月23日 2回小倉4日目11R イナズマタカオー
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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