屈腱炎からの再起!! 超良血馬が遂にG1の舞台へ ヴァンセンヌ
2015/5/31(日)
500万から重賞まで破竹の4連勝
-:安田記念(G1)に出走するヴァンセンヌ(牡6、栗東・松永幹厩舎)ですが、4連勝の後の京王杯スプリングCで2着になりました。3歳500万を2着した時からすごい充実振りですよね。帰ってくるまでと帰ってきてからの10月のレースからと、どう変わったかを教えていただいても良いですか?
井上智史調教助手:それが帰ってくるまで1回か2回しか乗ったことがなくて……。ただ、トモはすごく良くなったなと思いますね。復帰してから今まででも。だいぶ変わってきたのですよ。
-:復帰してからは担当しているのですか?
井:最初の2戦と後半の2戦ですね。間の2戦は、ちょっと他の方がやっていました。取りあえず500万、1000万は通用すると思っていました。詳しく言うと、当時のこの馬は、追い切った後に歩様がヨチヨチ歩きになったりするんです。競馬が終わった後も、歩けないぐらいトモが疲れてしまっていたのですよ。それが復帰緒戦から3戦目ぐらいまでもヨチヨチ歩きというか、1000万を勝つまではそういう感じでしたが、東京新聞杯を使った辺りから、競馬後にヨチヨチ歩きにならなくなりましたね。
-:ヨチヨチ歩きというのは、完歩が出せなくなるということですか?
井:出せなくなって、コトコトコトという感じですね。いつもフラフラし過ぎて、トモがバンバン当たって交突していたんですよ。交突症と言って、走っている時に自分で自分の脚を蹴っちゃうことがずっとあったのですが、前走の京王杯SCの後は全くなくて、結局はトモがドンドンしっかりとしてきているんだろうなというのは、復帰してから今まででもずっと感じていますね。
ヴァンセンヌの成長に井上助手も驚きを隠せない様子だ
-:元々、500キロぐらいの馬だったので、休み明けの時でもそんなに体重がガラッと変わることはなかったですね。いまだに508くらいだと思うので、体重面での変化ではなく中身の変化があったと。
井:そういうことですね。
-:この馬はお母さんがフラワーパークという名スプリンターで、スプリントでも走れるし、マイルでも行ける馬ですか?
井:試していないだけで走れると思いますよ。今は結果が出ていますし、ちょっとゲートが遅いところがあるので、マイルの方が良いかなと思っていますが。
-:実際、デビューの時から1800を使われていますし、育成段階から距離は長くなっても問題ないと思われていたんでしょうね。
井:復帰緒戦の時に前の担当者に聞いたら「1800くらいの馬だと思いますよ」と言っていたので。ただ、引っ掛かり癖があったので、1800はちょっときついかなというのがあって、復帰2戦目の福島は、小回りしか持たないだろうなと思っての1800でした。ローカルの1800だったら直線が短いし、仮に引っ掛かってしまっても保つだろうと思い、実際に引っ掛かって持ってしまったレースでした。
「全てが収穫だったので、東京新聞杯みたいな競馬を京王杯SCでしていると、今回に向けての期待度が、それほど上がらなかったと思うのです」
-:東京新聞杯は京都新聞杯以来、2回目の重賞挑戦でしたが、それでいきなり結果を出せるあたりはすごい上昇度ですね。最初の助走からしたら、一気に上昇した感じがあったのではないですか?
井:それは本当にビックリしましたね。前走もビックリしましたし、前々走もビックリしましたし、準オープンもビックリしましたね。準オープンの勝ち方がえげつなかったんですよ。3コーナーから捲っていって、4コーナー直線で後ろを抜かせず、力でねじ伏せた走り方を見た時に、準オープンながらもこれはすごいなと思ったので。
-:時計的に言うと、メチャクチャ速い勝ちタイムはないじゃないですか。その辺に関してはまだ上積みというか、馬場さえ綺麗なところで走らせれば違ったところは見られそうですか?
井:それはちょっとやってみないと分からないですね。前走で収穫だなと思ったのが、良馬場の重賞でまともに勝負できたということがひとつと、ゲートを出遅れなかったこと、道中で引っ掛からなかったこと、それに終いがあんなに切れるとは思わなかったということ、全てが収穫だったので、東京新聞杯みたいな競馬を京王杯SCでしていると、今回に向けての期待度が、それほど上がらなかったと思うのです。
自己主張の強い性格が出世の原動力
-:今日(5/27)、坂路に向かうところを見させていただいたのですが、すごく体が充実していますね。
井:そうですね。京王杯SCを使って安田記念というのはもう決まっていたので、京王杯自体が「仕上げていない」と言ったら語弊がありますが、“安田記念への前哨戦”と割り切って使っていたので、今は思っていた通りの状態ではありますね。ガレていないといいますか、安田記念に向けて上り調子になるように、と思って使ったので。
-:今で520ぐらいあるのですか?
井:先週で514ですね。それで京王杯SCの前が522だったんですよ。
-:見た目はけっこう大きく見えますね。
井:見えますね。背がずいぶんデカイとは思いますし。
-:横から見たボリューム感だけだったら、もうちょっと体重があるように思いますが、幅がそんなにないので520で収まっているのかなと。ディープインパクトにしてはある程度骨量がありますね。
井:ディープインパクトの子供っぽくないですね。
-:リアルインパクトやサトノアラジンらも大型ですものね。ディープインパクトクラスだったら、色々な活躍馬が出ますが、案外ディープに似た小柄な形より500キロくらいある方がトップまで行っているのかな、というイメージがあるのですが。
井:そうですね。結果的にそうなっていますよね。
-:この馬の性格についても教えて下さい。
井:性格は思いっきり男馬ですね。“ケンカを売られたら買うよ。俺が俺が”という空気をずっと出しているタイプなので。
-:重賞は2回目でほとんど初めてに近い東京新聞杯でいきなり勝てたのも、その勝ち気なハートがあったり、パドックで威圧感を感じずにいられたからですか?
井:あると思いますよ。マイペースですね。自分のテリトリーがあるので、それを汚されるのも嫌というか、あんまりベタベタするとケンカ吹っ掛けられるので、ちょっと距離を置いて接しています。あの性格は実際に競馬に行って良い方に向いているなと思います。もっとカリカリしている馬だったら、京王杯SCを使ってから、安田記念に行きましょうなんて、多分言っていないでしょうね。性格も含めて、この馬は治まるなと思ったので。
-:そういう精神的にタフな面もあるし、オンとオフを切り替えて自分の世界をちゃんと持っいると。
井:思います。競馬やとイライラしてこないというか。
-:逆にそれを考えると、担当者が体重をコントロールしたりせずに、ある程度強めにやってあげた方が成績は出るんですかね。
井:僕は基本、体重をコントロールしようと思ってやっている人間ではないので、攻めたらこうなったというだけで。正直、この馬に乗っていて、そんなに拘ったところはないです。気分良く、ということだけですね。ケンカをすると負けるので、要は“好きなようにしたら?”という感じで。ただ、人間を襲うようなことがあったら困るので、振り落としたりしないように線引きだけで、あとは馬任せです。
-:ちなみに、2回続けて東京に遠征して、遠征は3度目ですが、体重の減り方というのはどれくらいを想定しているのですか?
井:10キロ以上を想定しています。
-:ということは、今回は500キロジャストぐらいの可能性も。
井:今のところの予定だとありえますね。それ以上に減るかどうかは、どれだけ無駄なものがあるかによるので、6~8キロぐらいしか減らないで、同じぐらいの体重ということもあり得るのですが、最高で14キロくらいは減ると思ってやっています。
本番で目安になる馬体重は!?
-:今日の動きはどうでしたか?
井:10日前に競馬を走っているので、どうしようかと思いましたが、今はすごくオフの状態になっています。こちらが無理にスイッチを入れる必要はないかなと思って、(坂路4F)56.7-12.7秒という時計になったので、1週前としては良いかなと思います。
-:今日は天侯も良かったし、馬場状態も良かったですが、若干負荷が掛かりそうな深さはあったんじゃないですか?
井:ちょっとチップが上滑りするような感じだったので、終いもうちょっと出ているかなと思ったのですが、12.7かという感じでした。前半もそうだったんですよ。
-:中1週で馬場状態を考えれば、実質それくらいで……。
井:まあ、良いかなという気はします。それと来週ですよね。先生(松永調教師)がどう考えるかですけが、キッチリ追い切りをすると思います。1回やると気持ちが入ってくるタイプなので、金曜日にもうちょっと乗っているかもしれないので、その雰囲気を見つつですね。
-:ファン側としたら、来週サッとやっていたらもうキッチリ出来ていて、気持ち的に入っているんだという感じで受ければいいですか?
井:という感じで良いと思います。びっしりやっていれば、もうちょっと気合い乗れよ、という感じで思っていただいたら。
▲坂路での一週前追い切りの様子
-:今は日本のマイル路線が混戦なので付け入る隙はあると思うのですが、担当者から見て手応え的にはどうですか?
井:一気に上ってきた馬なので、正直一戦一戦使う毎にこっちが驚かされているというのが本音ですが、前走の競馬を見た印象ではやっぱり期待しますよね。
-:しかも、府中は得意です。
井:いわゆるガチンコ勝負をした時に、どの馬が強いか、ということになるだけだと思うので、こっちはその準備をするだけです。まあ、やっぱり期待はしていますよ。
ヴァンセンヌ・井上智史調教助手インタビュー(後半)
「G1を勝って種牡馬にしたい血統」はコチラ⇒
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プロフィール
【井上 智史】 Satoshi Inoue
中学生の頃、競馬ゲームに熱中しテレビでナリタブライアンを見て競馬界を目指す。馬乗りになる為に高校2年から乗馬を始め、大学進学後にオーストラリアの競馬専門学校に留学し、そこからシンガポールで調教助手として2年間働いた。
結果的に大学は中退し、帰国後は育成牧場で2年務め、24才で競馬学校に入学。2007年3月に開業したばかりの松永幹夫厩舎に7月から所属しセレスハントを担当してきた。「競走馬でいる間は出来るだけ馬の気持ちを考え、馬がハッピーでいられるように考えています」とモットーを語る。
現在の担当馬はヴァンセンヌ、ティルナノーグ。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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