女王から女傑へ!更に変身を遂げるラキシス
2015/6/21(日)
昨秋からの結果と着順は必然
-:改めまして産経大阪杯では牡馬、しかもキズナ相手に優勝ということでおめでとうございました。ラキシス(牝5、栗東・角居厩舎)について伺いたいと思います。
清山宏明調教助手:はい、ありがとうございます。
-:牝馬限定のエリザベス女王杯では2年連続連対しているように、牡馬混合でも十分やれる最強牝馬になりつつあるという印象です。今日(6/17)の追い切りはいかがだったでしょうか?
清:ジョッキーに乗ってもらいましたが、大阪杯の入厩当初と比較すると、やっぱり今回の方が馬の雰囲気、体の使い方は良かったですね。その状況を踏まえた上でここまで調教させてもらってきました。また追い切りの動き、雰囲気を見ても、好ジャッジができると思っていたところ、ルメール騎手も評価してくれたので、現段階のレースに向けての調整とすれば、非常にいい形で来られたなとは確認できました。
「(有馬記念はエリザベス女王杯と比較しても、状態面の差として)どうしてもそこは否めない部分があります。その中で僅差だったので、改めてラキシス自身の能力の高さというのを再確認させてもらったのかなと思いました」
-:前回(産経大阪杯)、悩まされたのは、1週前の追い切りが抜群だったので、ラキシスはかなり良いなと思っていたのですが、当週の追い切りになると、直線で遅れてしまいました。どういう意図だったのかわからないですが、レース前に若干トーンが下がってしまって、買いにくかったファンもいるかもしれないですね。
清:僕も乗った感触では最終調整として、直線の具合は自分のイメージにもなかったですね。それまで牝馬ということもあって、調整の難しさがありながら、デリケートな調教をラキシスにずっとしてきました。ハードワークを求められない調整を意識している部分がありまして、厳しい事に少し反応が甘い部分を見せたので、これはレースに向けて良くないなと思って、心を鬼にして、激しくアクションさせてもらったのです。
実はエリザベス女王杯の時にも同じような事があって、初めて追い切りの時にラキシスにステッキを入れさせてもらったのです。“こういう甘い事はダメだよ”と知らせる意味合いを持ってのことです。それが功を奏した形もあったのか、直線で川田騎手の魂の激しい激励に応えてくれたのも、やっぱりそこで反応してくれた部分に繋がったのかと感じましたし、これはもう一度ラキシスの持っている能力を発揮させるためには、目覚めさせないといけなかったので、激しいアクションになりました。
-:これまでの牡馬混合の有馬記念も期待していたのですが、キズナ相手にあそこまで走れたことを考えると、有馬は調整的に万全の状態のラキシスとまではいかなかったぶんの6着と考えていいですか?
清:冷静に考えて、僕の結論でもそうなりましたね。やっぱり、長距離輸送に弱いという課題を持っていて、それに厳寒期の調整ということで、筋肉の柔らかさを求めるところも難しいところがありました。エリザベス女王杯で高いパフォーマンスを見せてくれた後だったので、体調的にもあの時を維持するというのは、難しい状況にありました。さらに、もう一段階上のレベルにも移行するところだったのですが、そこで牝馬の難しさが出たのかなという思いはあります。
-:それを“力差”とみないで、“調整の差”と。
清:どうしてもそこは否めない部分があります。その中で僅差だったので、改めてラキシス自身の能力の高さというのを再確認させてもらったのかなと思いました。
▲ラキシスの調教をつける元ジョッキーの清山助手
馬体面で新生ラキシス誕生の予感
-:この間、担当されている滝川さんにラキシスについて伺った時に、「牡馬混合戦を意識的に使っている」という話をされていました。それだけ能力の裏付けを感じているからこそ、ですよね。
清:ええ、そうなりますね。
-:そして、放牧先が天栄ということで、輸送も長距離になって、そこに行くまでに体重がゴッソリ落ちてしまいました。今までもレースから遡って体重を戻すのを見越して、入厩という難しい調整の中で戦ってきたと思いますが、今回はこれまで帰ってきた時よりもガレた感じは少なかったのではないですか?
清:競馬の長距離輸送、放牧の入退厩。それを何度か経験する事によって、ラキシス自身も身体的な成長、それから経験の度合いがみられました。天栄さんも馬体回復に対する調整を手の内に入れて頂いたことと、早めの入厩という調整方法を何度か試させて頂いて、いい雰囲気に進める事ができるようになりましたね。今回は今までの中では一番ボリューミーに帰ってきてくれたので。
-:そこから調教をして絞り込んでいくという。
清:ええ、ある程度の負荷をいい形でかけてこられたので、ここまでは順調に進められたと思います。
-:そのデキの良さが、前半の行きっぷりに繋がっているのでしょうか?
清:ルメール騎手が乗ると感触が違う部分も出て、そうなったのだなと思いますが。
-:当週の追い切りは見ない方がいいですか?前回を見ると、1週前の追い切りだけを見て、調子が良さそうだったら馬券的に狙う、というスタンスでどうでしょう(笑)。
清:ハハハ。確認のために見ておいて頂けると。
「フックラした状態でレースに出た時はどうなのかな?という思いもありますよね。レースに向けて調整していくと体も絞まってきますし、理想論では片付けられないというのはあると思いますが、3歳の時に比べると、数字にしても、シルエットにしても、いい形に向かって出走できるイメージではあります」
-:またCコースで清山助手の鬼のステッキが飛ぶかもしれませんね。
清:状況次第ということで、楽しみにしといて下さい。
-:ラキシスは体重が萎んだりすることも多かったのですが、今回は違う体つきで結果に繋がりそうな手応えはありますか?
清:今まではカイ食いの細さ、持ち前の骨格から言えば、馬体重の額面上の数字は非常に寂しく見える、ギリギリのところで進めていた現状があります。フックラした状態で、という理想は持ちながらいたのですが、そういう形にならないラキシスがいましたね。ただ、その中でハイパフォーマンスを見せつつ、ポテンシャルの高さを再確認させられながら来ているので、タイプとすればそういう馬なのかもしれません。
フックラした状態でレースに出た時はどうなのかな?という思いもありますよね。レースに向けて調整していくと体も絞まってきますし、理想論では片付けられないというのはあると思いますが、3歳の時に比べると、数字にしても、シルエットにしても、いい形に向かって出走できるイメージではあります。
-:3歳時といえば、フローラSでは勝ち馬が同厩舎のデニムアンドルビーで、ラキシスも成長途上の状態で使って、差をつけられてしまいました。現時点での評価を考えると、甲乙つけられないというか。
清:そうですね。それにタイプが全然違いますしね。
6/17(水)、ルメール騎手が騎乗してCWコースでの併せ馬
一杯に追われて5F68.8-11.8秒をマークしている
持ち味はパンパンの良馬場でこそ
-:今の阪神の馬場状態ですが、内は砂埃もあがり、馬場コンディションは柔めで、タフな馬場と思います。前回ラキシスは不良馬場でキズナを破っているので、タフな馬場向きと思われがちなのですが、フットワークを見ると、どちらかといえばパンパンの良馬場の方がいいのかと思います。
清:ええ、そうですよ。馬格があり、トビが大きくて、爪の形からいうと、不良馬場や力のいる馬場というのは、不得手に思いますね。しかし、僕らの既成概念を覆してくれる、といいますか、いとも簡単に結果を出してきました。そこはラキシスが持っている本質的な素材の良さ、能力の高さがそういう結果を出していると思うので、本当はパンパンの良馬場の方がいいと思いますよ。
やっぱりキレ味も素晴らしいものを持っているので、キレ味が発揮される競馬が一番の魅力だと思います。大阪杯のように厳しい状況・メンバーの中で勝ってくれたので、こちらとしては不安材料とするところが少しずつ減って、レースに挑めるというのは、心強い部分ではありますがね。
極悪馬場を駆け抜けた産経大阪杯
-:ファンとしては、ラキシスの高い能力を信じて「重の鬼」と思ってもいいですか?ゴールドシップもどちらかと言えば、そんな重い馬場の方が歓迎じゃないですか。
清:そうですね。あの馬は実際激しい部分を見せながらG1をいくつも勝って来ているので、やっぱり一筋縄どころでいかない凄い相手ですね。ただ、大阪杯よりも、少し上積みされたといいますか、レベルアップした状態で出走できるということに、僕も魅力を感じています。レースは蓋を開けてみないとわからない部分もあるのでね。
-:競馬は荒れる時はだいたいが牝馬によるものですね。
清:そうですよね。
-:厩舎の3頭とも応援しています。今回も鬼のステッキでいって下さい。
清:そうですね(笑)。ありがとうございます。
(取材・写真=高橋章夫 写真=山中博喜)
プロフィール
【清山 宏明】Hiroaki Kiyoyama
鹿児島県出身。競馬学校騎手課程第2期生で、同期には横山典弘騎手や松永幹夫調教師がいる。騎手としては重賞4勝を含むJRA通算141勝の 成績を残し、2002年に引退。重賞の舞台で、人気薄ながら2度の逃げ切り勝ちを決めたロンシャンボーイとの個性派コンビでも名を馳せた。引退後は領家政蔵厩舎の調教助手になり、その後角居厩舎へと移る。これまでにウオッカやディアデラノビアなど厩舎の看板ホースの調教を担当。トップステーブルを支え続け、数多くの取材を受ける厩舎のスポークスマンとしても広く知られている。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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