オーナー初の所有馬を一気のG1獲りへ導くクロスクリーガー
2015/7/3(金)
至極順調でJDDの見通しは良好
-:今回は中間の精神状態やハミ受けなど、ポイントがあるかと思いますが、今週の動きはいかがでしたか?
庄:前回使わせてもらった後に、短期でリフレッシュして帰ってきたわけですが、特にイラついている様子もなかったです。確かに追い切りが始まって、多少気持ちが乗ってきたな、スイッチが入ってきたな、という面は感じますが、それでも特に無駄な動きをする訳ではないし、予定通りの調教はできているかと思いますね。
-:本番に向けて、返し馬からゲートに向けてイライラするようなところもなさそうだと。
庄:ないと思います。追い切り自体も、先週はCWの内目を回ったのですが、しっかりと80秒を切るようなところを古馬相手(古馬1000万下のタガノギャラクシー)にやっていますしね。ギャラクシー自体も追い切りはよく動く馬なので、ちょうど良い追い切りになったと思いますし、今週も前に調教も競馬も自在にできるオープン馬のトラストワンという誘導馬を置いておいて、ちょうど良かったと思います。
-:兵庫チャンピオンシップでは初めて逃げる形でした。また行きたがったりすることはないですか?
庄:自分から行きたがることは多分ないと思いますね。ただ、兵庫CSの時でも、自分の絶対的なスピードで前に行っているだけです。岩田君も「ゲートを出てから少し促して、上手く行ったらハナに行ってやろうぐらいの気持ちでいた」とのですからね。道中は全然力むところはなかったですし、逆にハナに行ったことで、ちょっと物見しながらフワフワと気持ちもハミも抜けていた感じだったので、余裕は余裕でしたよ。
-:では、今回も(逃げる形と)?
庄:その辺は岩田君に任せてあります。ハナに行っても良いですし、誰かが行ったら、別に番手でも競馬ができますから、特に位置取りに拘ることはないかなと思います。
-:ラップを見ると、平均的にラップを刻むのが得意な馬なのかなと思います。
庄:そうですね。割と速いペースをずっと持続できる感じかと思いますね。
-:展開的にドスローになって、後ろで構えているというのは、ちょっと危険なタイプですか?
庄:そういう展開でも岩田君だから大丈夫でしょう。それは、本当にジョッキーにお任せです。
-:ジャパンダートダービーはナイターですが、初めてのレースで戸惑う馬もいると思うのですが?
庄:スタンドがちょっと明るいのでね。あとは、コースには照明が付いていますが、それは栗東でも週末は暗い中で調教はしているし。
-:そのはずなのですが、負けた後に「初めてのナイターが……」というコメントが存在するので(笑)。
庄:そうですね。多分、大丈夫だと思いますが、やってみなきゃ分からないですよね。
ダートの一流馬を育てるコツ!?
-:これだけ早い時期から活躍して、この間の園田で重賞を制して4勝目を挙げられました。体重的には2戦目で増えましたが、現時点でまだ第二成長期という成長は来ていないですか?
庄:ダート馬ってやっぱり年齢を重ねる毎に体重がドンドン増えていったり、という傾向がある訳ですが、体重の数字だけ言えば、この夏を越したくらいからじゃないかなと思いますけどね。
-:そう考えると、ワイドバッハに次ぐ庄野厩舎の看板馬になりそうですね。
庄:またダートですか(笑)。ワイドバッハも新馬の頃から比べたら、プラス40キロぐらいになっているので、本当に数字だけで言えば、近いものがあるのではないかなと。
「僕が導いたのではなくて、馬主さんの持っているモノが僕を導いてくれたのかなと。しかし、毎年毎年そう上手くいくかと言ったら、そうでもないですし、どの馬にどこで出合うか分からないですが、どこかで出合うということは、それは縁でしかないので」
-:馬主の辻オーナーにとっても、いきなり大物が登場ですね。
庄:初めての勝負服、それも自分の勝負服でこんな素晴らしい馬を。
-:それを導いた庄野先生ですね。
庄:それは逆かもしれない。僕が導いたのではなくて、馬主さんの持っているモノが僕を導いてくれたのかなと。
-:ただ、クロスクリーガーに出合えたのも、庄野先生が持っているコネクションを使って、トレーニングセールに辿り着いた訳ですからね。
庄:それも縁ですからね。しかし、毎年毎年そう上手くいくかと言ったら、そうでもないですし、どの馬にどこで出合うか分からないですが、どこかで出合うということは、それは縁でしかないので。あのセールの中にもっと逸材がもしかしたら埋もれているかもしれないし、まだまだ出てくるかもしれません。
-:この馬を持っている素晴らしい馬運を持続させると。
庄:とりあえずは開花してきたので、それを持続させて、成長させられたら良いかと。
-:ちなみに、ジャパンダートダービーの後のローテーションというのはどうなりますか?
庄:まだ決めていないですね。ずっと去年から走ってきているし、あまりこの暑い中、無理もしたくないと思っています。秋になったら古馬と一緒になりますが、ダート交流にしても中央のレースにしても、選択肢は増えてくるので。
-:いきなり秋のチャンピオンズCは……?
庄:いきなりはないと思いますね。まだまだ古馬のダートのオープン馬には強いライバルが一杯います。ホッコータルマエにしても、なかなか世代交代はさせてもらえなさそうな感じなので、秋以降は先輩方に胸を借りる感じですよね。
「まず肺活量は間違いないと思いますよね。担当している久保君も言うように『息遣いは素晴らしい』と。特に追い切って、酷く乱れるわけでもないし、普段の調教の中でもかなり息遣いの良い馬という印象はありますからね」
-:そういう意味では、450~460の中・小型馬でダートをこなせるというのは、やはり持っている能力はすごいですね。見た目以上のパワーがあるのでしょうか?
庄:まず肺活量は間違いないと思いますよね。担当している久保君も言うように「息遣いは素晴らしい」と。特に追い切って、酷く乱れるわけでもないし、普段の調教の中でもかなり息遣いの良い馬という印象はありますからね。海外や地方に行ったら分からないですが、今の時代の中央のダート馬は、それなりに芝でもやれるかなと思うぐらいのスピードがないと、なかなか上までは行けないので、体的にはそんなに。今から増えていくでしょうが、これが550キロの大型馬になるかというと、そうでもないでしょうし、それを期待している訳でもないですしね。
-:この馬なりに逞しさが出てくればと。
庄:幅が出てきて、筋肉が乗ってきてくれば。もう少し背も伸びそうだし、ワイドバッハの若い頃を見ていても、芝でも走れないかな、と思わせるような走り方だったり、体だったりしていました。今の日本の中央のダートに行こうと思ったら、やっぱり芝でも走れるぐらいのスピードを持っていないとダメだと思います。
-:体というか、筋肉を硬くし過ぎないコツというのはあるのですか。ダート馬がダートコースを走ると、やっぱり使えば使うほどダート馬になって、ドンドン硬さが出てくるところがあると思います。
庄:ダートでずっと走らせていて、ダートを使っていた馬がいきなり芝でやれるだろうかと言ったら、それはやっぱり違うでしょうね。芝からダートと、逆はありなのですが。硬さを出さないコツというのはないといいますか、自分がこう、と思ってやっている訳ではなく、この馬に関してはちゃんと成績を出せたから、逆ローテーションも楽になりました。無駄使いもしていないですし、その辺が一番なんじゃないかなと思いますけどね。
今後も岩田騎手との名コンビに注目
-:先生のところはダートの活躍馬が出て来るのですが、ニシケンモノノフにしてもそうですし、その辺は何かコツがあるのですか?
庄:コツはないです。ダート馬を買っている訳でもないです(笑)。芝のオープンクラスの馬がいないだけです。オープン馬はいるのですが、G1でバンと活躍している馬はいない訳で。ダートで走ってくれると馬はそんなに傷まないですし、調教師としてはすごく有り難い話だし、ダートの上で走れる馬って、オーナー孝行の馬なので。
-:オーナーさんにとったら、ちょっとだけじゃなくて2、3着とか、賞金獲得をドンドン積み上げてくれるだけで有り難いでしょうからね。これからも面白い馬を送り出して下さい。2歳戦のクラシックというところも合わせて期待しています。
庄:相変わらず個性の強い馬が出てきたら面白いなと思います。
-:ジョッキーもずっと岩田さんが乗ってこられましたね。
庄:新馬であれだけのパフォーマンスを見せてくれたので、岩田君もすごく気にいってくれているので。岩田君も、もしかしたらもっとすごい馬が出てきて、「そっちに乗りたい」と言うかもしれないし、それはそれで岩田君の判断であったりする訳です。僕としては岩田君がずっと乗っていたい、と思ってくれるような馬になってくれたら良いなと。
-:岩田ジョッキーも、園田で兵庫チャンピオンシップを勝って、故郷に錦を飾った形ですからね。
庄:中山で伏竜ステークスを勝った後に「ヨシ、これで地元に帰れる」と言っていましたからね。
-:ちなみに夏に向けて2歳の一口コメントというか、進捗情報もお願いします。
庄:来週1頭下ろしますが、勝ち負けになってくれるのではないでしょうか。クロスアンジュという馬ですが、中京の3日目(芝1600m)ですね。それが今年、ウチの2歳の初出走なので、良い結果が出るんじゃないかなと期待しています。
-:分かりました。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)
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リラックスした様子のクロスクリーガーと左は担当の久保助手と
プロフィール
【庄野 靖志】Yasushi Syono
少年時代は馬産を志して日本大学獣医学部に進学するも、調教師に目標を改め、厩舎を開業。開業2年目にホクトスルタンで目黒記念を制し、重賞初制覇を挙げると、2010年のJBCスプリントをサマーウインドでG1(Jpn1)初制覇を成し遂げた。管理馬は王道血統ばかりではないが、昨年もワイドバッハで武蔵野Sを制するなど活躍をみせている。実家が北海道、門別の庄野牧場という、ホースマンのサラブレッドというべき家庭環境で育ったことでも知られている。
1970年北海道出身。
2006年に調教師免許を取得。
2007年に厩舎開業。
初出走:
07年3月4日1回中京2日目11R マチカネオーラ
初勝利:
07年6月2日3回東京5日目4R ハリーコマンド
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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