競馬をこよなく愛す美浦のホープ 飛躍を誓う2年目の夏
2015/7/31(金)
(高橋章夫、以下、-):きょう初めて美浦トレセンを訪問させていただきましたが、若手の中で一番注目しているのが、石川裕紀人騎手だったのです。僕は関西の人間なので、主にテレビそのレースぶりで観るしかないのですが、追っている姿が好きで、いつか取材をさせてもらいたいと思っておりました。
石川裕紀人騎手:ありがとうございます。嬉しいです。
-:こちらこそよろしくお願いします。では、まずこの世界に入られたキッカケから教えていただけますか?
石:ハイ、よろしくお願いします。僕は東京出身なのですが、親が競馬好きで、毎週、東京競馬場に行くほど。それに連れられて僕も小さい頃から行っていたので、自然と競馬が好きになりました。父だけでなく、母も祖父も競馬好きでしたから。“騎手になりたい!”と志したようなわけではなく、気付いた時には騎手を目指していました。自分自身でもジョッキーになれるんだと、そんな感触もありました。
-:ご両親の「英才教育」による賜物ですね。
石:ハハハ、それは分からないですが。
所属する相沢厩舎の厩舎カラーに合わせたTシャツを着用
「偶然みつけたんです!ナイキのTシャツなんですよ」と笑顔の石川騎手
-:その競馬好きのキャラクターは、自分がプロになられても変わりませんか?
石:ハイ、全然変わらないですね。競馬は本当に大好きです。
-:競馬ファン当時はどういうジョッキーに憧れていたのですか?
石:もちろん武豊さんという偉大な存在がいましたから、ずっと武豊さんをずっと見てきました。ただ、誰か一人だけではなく、色々なジョッキーを見つつ、競馬をみるように心がけていました。自ずとG1を勝つようなトップジョッキーに注目していましたね。
-:最初に記憶に残っているG1はどのレースでしょうか?
石:ジャングルポケットのダービーがかもしれないですね。今でも鮮明に覚えています。
-:子供の頃から競馬に親しみのあった石川騎手ですが、それでも競馬学校に入ったら、トレーニングや実習で苦しいことも一杯あるじゃないですか。そこはいかがでしたか?
石:入る前はけっこう厳しいのかなと思っていましたが、入ってしまったら仲間、同期がいますよね。みんな切磋琢磨してやっていたので、苦しい中でも楽しかった思い出の方が強いですね。
-:切磋琢磨やってきたという競馬学校時代の成績はどうだったでしょうか?
石:ジュニアチームが美浦と栗東にあるのですが、僕の同期では小崎(綾也)、松若(風馬)、関東では僕と木幡(初也)がチームに入っていました。やっぱり最初に入った時はその4人が上位にいたのですが、入って2~3年してしまえば、みんなどんぐりの背比べです。義英真と井上敏樹がそこまで乗馬をやっていなくて、ほぼ初心者に近い状態で入ってきたとはいえ、それでも2~3年してしまえば変わらないですね。競走馬に乗ること自体が初めてでも、努力次第で変わっちゃいますからね。それはすごいなと思いましたね。
「僕は本当に競馬が好きで、同期の中でも一番、競馬を観ていると思ったので、そこは劣らないと自信を持っていました」
-:ジュニアチームからステップアップして、騎乗技術も徐々に向上していったと思います。そこはどの辺を工夫してデビューに漕ぎつけましたか?
石:自分では言いづらいことですが……、僕は本当に競馬が好きで、同期の中でも一番、競馬を観ていると思ったので、そこは劣らないと自信を持っていました。当初はファン目線でしたが、ジョッキーの姿勢や追い方、馬の癖やレースの流れ、そういったところは一番見ていたと思うので、それを強みに感じていました。
-:その自信があっても、やっぱり映像で客観的に自分が乗っている姿を見るのとは、おそらく誤差があるじゃないですか。ユタカさんみたいに乗っているつもりでいても、それを客観的に映像で見た時に“アレッ?”となったりはするかもしれないですよね。
石:ええ、全然違いますね(笑)。それも、コツコツと積み重ねに尽きると思います。自分の癖やフォームは木馬で確認出来るので、そういうことはやっていました。木馬の上ならば何でもできますからね。そこで色々試すことが良いのかなと感じてはいます。
-:その試している乗り方が気になります。教えてもらえますか?
石:木馬に乗った時に試したことを、次の日に調教でやってみたりしています。そして、漠然となのですが、どうしたら馬が気持ち良く走れるのかな、とよく考えますね。それに気持ち良く走れるだけで馬も競馬で勝つ訳ではないので、馬が動く気になるかどうかといいますか……。最近はフォームや技術だけではなく、そういうことを考えていますね。最初の頃はフォームや木馬がどれだけ動いているのか、そういうことばかり気にしていたのですが、どうやったら馬に推進力が伝わるのかなど、中身を考えるようになりました。
-:乗っている時はやっぱりトモを意識して乗っているのですか?
石:そうですね。
-:それが、最後のゴール前の伸びに活かされているのですね。
石:いやいや、そこはまだ僕は3キロの減量があるので、それが最後の伸びや粘りに繋がっているとしか思っていないです。
-:まだまだ自分の力で伸ばせているのではないと。
石:まだ、全然自覚はないです。3キロ減があるので。
-:謙虚ですね。
石:いやいや、本当にそうとしか思わないのです(笑)。
-:その謙虚な姿勢の中で筋力アップやトレーニングなど、取り組まれていることはありますか?今の自分に欠けているところを補うためにしていることも聞かせてほしいです。
石:欠けているところですか?あり過ぎて、どれといったものがないのですが……強いて言うなら、もともと筋力もそこまでないので、付けたいなと思っています。
-:外国人ジョッキーが活躍しますが、彼らの体は日本人ジョッキーよりも逞しいですからね。
石:そうですね。外国人ジョッキーも一杯来ていますが、彼らと戦わなきゃいけない訳ですし、キャリアが浅くても泣きごとなんて言っていられないです。「なんで外人ジョッキーが来るんだよ?」と言ったとしても、ずっといるわけですからね。それに、日本でもトップジョッキーが一杯いる中でやっていかなきゃいけません。
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プロフィール
【石川 裕紀人】Yukito Ishikawa
デビュー1年目の昨年は12勝を挙げて木幡初也騎手とともに民放競馬記者クラブ賞を受賞。2年目の今年は落馬負傷による1カ月半のブランクがありながら、すでに昨年を上回る勝ち星を挙げている美浦のホープ。昨年終盤には今年のヴィクトリアMで3着に入り、大波乱を演出したミナレット、ジャパンダートダービーを勝ったノンコノユメに騎乗して勝利を挙げている。目標とする騎手はライアン・ムーア騎手。
1995年 東京都出身。
2014年に相沢郁厩舎からデビュー。
JRA初騎乗:
2014年 3月 1日 2回中山1日 7R ミストフェリーズ
JRA初勝利:
2014年 6月 1日 2回東京12日 2R ニシノソラカラ
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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