雌伏の時を乗り越え いざGⅠ制覇へ ウキヨノカゼ
2016/3/20(日)
雌伏の時を乗り越え見出した光明
-:高松宮記念(G1)に向かうウキヨノカゼ(牝6、美浦・菊沢厩舎)ですが、個人的にも注目させていただいている馬でして、前走の京都牝馬S(14着)はあの馬場でもやれるのはないかと思っていました。結果は残念でしたが、前走の敗因についてはどのように見ていらっしゃいますか?
菊沢隆徳調教師:敗因は幾つか考えられますが、久々で、思ったよりも輸送で(体が)絞れなかったこともありますし、前半は道悪で幾らか脚を取られて、流れもスローでした。ジョッキーも内を突こうと思ったみたいですが、結果的には外に出して、だいぶ外を走りましたからね。「距離は大丈夫」とジョッキーは言っていたので、大きな敗因は道悪や流れだと思いますね。
-:重たい芝でも走れているので、むしろああいう馬場状態がプラスといいますか、少なくとも問題なくこなせるかと思いました。
菊:ただ、(ウッド)チップでも荒れているところではズボッと滑るように脚を取られるところがあるので、良馬場の洋芝とはまた違うなと。以前にも阪神の道悪で使った時がありますが、やっぱりその時も前半で流れに乗るのにノメったりしていたのでね。
-:過去の戦歴でいえば、もともとマイルでも重賞を勝たれて、2年近い休養期間を経てから、昨夏あたりにスプリント戦へ転じられました。その要因を改めて教えていただけますか?
菊:長期休養から休み明けを何戦かしたのですが、すごくダッシュは良いものの、持続できない、メリハリのない競馬になっていました。だったら、ちょっと距離を縮めて、ポジションを下げて終いを活かそうと考えたのです。重賞を勝っていると言っても、何せキャリアも浅いので、何が良いのかとか、適性や脚質などをあまり決めつけないでやった方が良いんじゃないかとも思いました。それらをリセットするのに、短いところで終いを伸ばす競馬をマスターするのには、やっぱり北海道の洋芝の方が向いているかと思って使ったのです。
「馬の回復も良かったですし、今日(3/10)の動きもどこか余裕を感じさせるほどでした。それに、この馬は暖かくなってきた方が良いでしょうね」
-:なおかつ四位ジョッキーも、差しのイメージもある御方ですね。
菊:前半はリズムに乗せるようなタイプのジョッキーですよね。それが、北海道開催では上手くいっていたし、馬も理解してきてくれました。そういう経験を踏まえ、脚質を考慮しても1400は大丈夫かなと思い、前走は限定戦でもある京都牝馬Sに向かったのです。
-:前回の敗戦は思うような結果ではなかったと思いますが、高松宮記念に向かう意味では、考えぬかれた青写真通りのローテーションだったということですね。
菊:そうですね。スプリンターズSを終えてからも、ここを目標にという思いで休養させましたし、今の状態を考えれば、前走は目一杯走らなくて……。
-:むしろ良かったと。
菊:ハハハ(笑)。馬の回復も良かったですし、今日(3/10)の動きもどこか余裕を感じさせるほどでした。それに、この馬は暖かくなってきた方が良いでしょうね。
難しい牝馬を育成することで厩舎力向上
-:この馬の気性や性格はどんなキャラクターですか?
菊:基本的にはキツいですね(苦笑)。お母さんのアドマイヤダッシュは乗っていたので分かるのですが、その下(モエルオンナ)も含め、敏感といいますか、キツいですね。
-:父の血統から譲り受けたものではなく、どちらかと言えば、母系の色が濃い感じタイプと。
菊:そういう訳ではないと思いますよ。オンファイアも立派な馬でしたしね。ディープ系の血統であって、しなやかさ、ギアの換え方の巧さはやっぱりありますよね。気性がキツイとは言っても、調教などでは走り出したら本当に乗りやすい馬なのです。走っている時が一番言うことを聞くほど。それでも、気性を考慮しながら調教していますけどね。
-:この馬の調教には先生も乗られていますが、気性がキツめの馬で、使いつつ良くなってくるというのはちょっと意外といいますか、どちらかと言うと、一発勝負の方が向いているのかなと思います。なおかつ牝馬ですからね。
菊:開業して5年ですが、そういう牝馬をやらせてもらっていて、その経験が参考になっている部分もあるのかな。牝馬ならではの稽古の加減や、競馬の仕方など、馬があまり苦しさや嫌な気持ちをなるべく出さないよう次走に向けて行けるように、という理想はあります。最近ではパワースポットやレイヌドネージュなども気性がキツい子たちなのでね。
「開業当初からすごく良い馬ばかりがいた訳じゃないのでね。その中で重賞をすぐに勝ったウキヨなんて、ウチでは優等生の方ですよね、ハハハ(笑)。他の馬たちは叩き上げの子たちばっかりなので、いかにその馬の競馬人生を、馬主さんのために、どこをじっくりと上げていくかということは、騎手の頃から考えていましたね」
-:やっぱり穏やかな先生だからこそ、そういう風に預けられるのですか?
菊:いや、僕は穏やかじゃないですよ、ハハハ(笑)。ちょっと我慢強いくらい。まあ、馬に対しては穏やかですけどね(笑)。しかし、元気な馬の方が扱う方は大変ですが、そういう馬の方が走りますよね。
-:意欲のない馬よりも意欲のある馬をコントロールすべきなのが競馬のテクニックであるのかなという気がしますね。
菊:そういうような気持ちではやっていますね。開業当初からすごく良い馬ばかりがいた訳じゃないのでね。その中で重賞をすぐに勝ったウキヨなんて、ウチでは優等生の方ですよね、ハハハ(笑)。他の馬たちは叩き上げの子たちばっかりなので、いかにその馬の競馬人生を、馬主さんのために、どこをじっくりと上げていくかということは、騎手の頃から考えていましたね。
-:そういう経験を積まれてきたことで、牝馬の相性も厩舎としては良いのではないでしょうか。
菊:どうなんですかねぇ。何せ簡単に男馬の素質のある馬なんて預かれないのでね。まずは牝馬で(結果を残さなくてはいけません)。去年の預託数の半分以上が牝馬だったので、その中で成績を上げるには、という気持ちでしたね。
菊沢隆徳調教師インタビュー(後編)
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プロフィール
【菊沢 隆徳】Takanori Kikuzawa
1988年に柄崎義信厩舎所属としてJRA騎手デビューを果たす。同期は内田浩一氏、岸滋彦氏などで、初年度は13勝をあげた。1993年に天皇賞(秋)でG1初騎乗を果たし、同12月の愛知杯にて重賞初制覇を成し遂げる。現役22年のうちフェアープレー賞を5度受賞するなど、その騎乗スタイルは若手騎手の手本として評された。
2011年に調教師として厩舎開業を果たすと、初年度にオープンガーデンで阪神スプリングジャンプを制し重賞初制覇。昨年はウキヨノカゼでキーンランドCを制し、スプリンターズCで3着に入るなど、近年メキメキと頭角を現している。