8月14日、デビュー4年目にして早くも地方通算300勝をマークした笹川翼騎手。もはや「乗れる若手」の域を越えて、大井のトップジョッキーとして認知されつつある現状だが、9月から1ヶ月間にもおよぶフランス遠征を表明した。聞けば、これまで長期離脱は一度もなかったという順風満帆な騎手人生を思えば、ホームを離れることは決して簡単なことではないはず。招待競走を除き、自発的な海外遠征は初めての試みに懸ける決意のほどを語ってもらった。

かねてからの念願叶い海外へ

-:きょうは雨の中での騎乗のあと、ありがとうございます。以前のインタビューで騎手になるまでの経緯などは伺っているのですが、今回は9月からのフランス遠征をされるということで、そのお話などを伺えればと思います。遠征を決めた理由から教えていただけますか?

笹川翼騎手:よろしくお願いします。まず、もともと海外にすごく行きたいと思っていたのですが、偶然にも、自分の所属厩舎から調教師が開業することになり、その人が「フランスに研修に行く」というので、「僕も一緒に行かせて下さい」と。「海外に行きたい、行きたい」と常日頃から思っていて、過去にもアメリカに行く予定はあったのですが、その時は体調を崩してしまい、行けなくなったので、今回はやっと行けるというか、すごく嬉しいですね。

-:タイミングでいえば、その期間に日本馬マカヒキもフランスに行っているので、そういう意図もあったのかと思いました。

笹:それはタイミングを狙って行きました。どうせ行くなら、日本の頂点の馬だから、間近で観られたら最高じゃないですか。そういうのも勉強だし。

笹川翼

-:向こうの陣営に何かしら縁があるとか、そういう訳ではなかったのですね。

笹:そうですね。そこまで僕自身はなかったですね。

-:マカヒキ自体は、ダービーを直接現場で観ていたと思うのですが、どんなイメージですか?

笹:パドックで観ても、馬がすごく良かったですよね。でも、あの時は馬主さんの関係者との縁もあり、サトノダイヤモンドの応援に行っていて、すごく複雑でしたね、ハハハ(笑)。

-:ネクタイをダイヤモンド柄にしていたのを見かけましたが、サトノダイヤモンドもかなり惜しい競馬でしたよね……。ヨーロッパに行かれるということで、どんな日々をイメージされていますか?

笹:調教が中心の生活になると思うので、調教でどうやって馬を仕上げていくのか、普段の馬に対しての接し方の違いなど、ドンドン吸収していきたいですね。ここの世界しか僕は知らないから、ビックリするようなことばっかりだと思うのですが、勉強になれば、と思います。

-:と言うと、競馬場だけだったら色々な場所で乗られているでしょうが、調教で大井や南関東以外で外に出ることはなかったのですか?

笹:いや、ないですね。だから、そういう楽しみもあります。

笹川翼

▲笹川騎手が滞在するシャンティイ調教場に隣接するシャンティイ競馬場

-:僕もかつて1回だけシャンティイに行ったことがあるのですが、向こうの規模というか、広さがとんでもなく広大で、ほぼ森みたいでしたよ。

笹:そうそう。「ハロン棒とかもないから、森の中の木が目印でゴール」みたいに聞いていたので、そういうのもすごく新鮮です。僕はフランス語が全然分からないので、その不安もあります(笑)。

-:フランス語は一般的にも日本人にとってはあまり馴染みがなく、難しいですね。

笹:諦めていますよ。1回やろうと思って、頑張ろうかなと思ったのですが、本を見たら全然訳が分からなかったので、無理だなと思って。

-:でも、日常の生活自体は一人じゃない分、そこは心強いですね。

笹:そうですね。詳しくは聞いていませんが、住まいも厩舎に用意してもらっていると聞いているので。

-:なおかつ、あわよくばレースに乗れれば……。

笹:そうですね。小林厩舎をはじめ日本人のオーナーが現地にもだいぶいるみたいなので、その人たちが乗せてくれれば嬉しいですけどね。何とかアピールをして、一つでも乗れるようになりたいですね。

日々とは異なる競馬を経験するために

-:先ほど、アメリカにも遠征予定があったと伺いましたが、ヨーロッパとアメリカでは趣が違うというか、競馬の質は全く違うと思います。どこに行くか、というよりはとにかく海外の競馬を経験してみたかったわけですか?

笹:アメリカに関しては、調教師がその前にアメリカの研修に行っていたので、「翼も見て来いよ」と言ってくれていたので、話が持ち上がっていたのです。今回に関しては「自分で行かせて下さい」と直訴しましたね。

-:南関の方でヨーロッパというのはあまり聞き慣れないというか、珍しいケースだと思うのですが?

笹:そうですね。意味があるか、ないかと言われれば正直、分かりません。でも、チャレンジすることに意味があるというか、そこで得られるものが絶対にあると思うので、だから、敢えて……。タイプが真逆じゃないですか。こっちはダートで速い競馬だし、向こうは(距離が)長くて折り合いを付ける競馬だから、そういうのも間近で見てみたいというのが大きいですね。それに、すごく馬と馬の距離が近いし、折り合いをシッカリと付けて終いを伸ばしてくるというのが、見ていて感じ取れるかなと思います。だから、馬とのコンタクトやリズムを取るのがすごく上手ですよね。

-:どんなジョッキーに聞いても、馬群の密集度を指摘しますね。

笹:こっちではあまりない感じですね。そういうのも体験出来れば最高です。

-:しかも、向こうの馬場はこっちと違って?

笹:平坦じゃないらしいですね。「デコボコしている」と言うから。その中であの緩いペースをあの馬群で折り合いをつけるのは、上手くないと出来ませんからね。

「こちらの競馬も大事ですし、今まで乗ってきた馬に誰かが乗ることは歓迎できないことでもありますが、良いことでもあると思います。ポジティブに捉えると、他の騎手だと、どういう動きをするか、見られるチャンスではあるので」

-:逆に不安に感じていることとかはありますか?

笹:不安は別にないと思います。だって、失うものはないというか……。テロが怖いくらいですかね(苦笑)。

-:フランスに行かれている時に、かなりの期間、日本での騎乗を空ける訳じゃないですか。そういったことへのデメリットとかについてはいかがですか?

笹:こちらの競馬も大事ですし、今まで乗ってきた馬に誰かが乗ることは歓迎できないことでもありますが、良いことでもあると思います。ポジティブに捉えると、他の騎手だと、どういう動きをするか、見られるチャンスではあるので。そこはシッカリと割り切って、見て勉強しようと思っていますね。

-:1ヶ月くらい空けられるのは何度目ですか?

笹:いや、ないと思いますよ。僕はケガもないので、帰ってきた時に、周りがどういう反応するのか、想像もつきませんが……。だから、その1ヶ月を無駄にしないようにしないといけないですよね。

-:その期間の遠征費は、もちろん自分で捻出する訳ですよね。

笹:もちろん。

-:決意がいることですよね。

笹:もちろん、そうですね。

-:ご家族には相談はされたりしたのですか?

笹:いや、全然しなかったですね。何にでも言えることですが、自分のことは決めてしまいますね。逆に、自分で決め過ぎて怒られちゃう。「何で言わなかったの?」というパターンの方が多いタイプかもしれません(苦笑)。

笹川翼

笹川翼の強みとは「感覚」

-:私生活でもそういったことはありますか?

笹:予定もスッとすぐに決めてしまうので。朝どこかに行きたいなと思ったら、すぐに行ってしまうし、そういう感じで、予定を組んでいてもガラッと変わっちゃう。それに関わっている人には申し訳ないなと。

-:大物の相なのかもしれないですね。

笹:いや、それはちょっと失礼だと思いますけどね(苦笑)。

-:まあ、それはそれでキャラとして、競馬でもそういうところがありますか?

笹:正直、競馬では感覚が冴える時もあれば、冴えない時もあります。僕はあんまり新聞を見ないので、パッとは見ても、(展開や作戦を)決め込んだりはしません。

-:珍しいですね。

笹:多分そうですね。見るには見ますが、決めこみ過ぎないようにはしています。

「そういう時の方が上手くいったりするかもしれないですね。馬と自分の感覚を信じて、じゃないですが……。もちろん失敗することもありますけどね」

-:ある程度、やってきている相手の癖というのはわかっているでしょうしね。

笹:それは毎回一緒ですから、馬も見ただけで分かるくらいですからね。騎手も知っているし、だから出来るのでしょうが、調教師に「こう乗ってくれ」と言われれば、もちろんそう乗りますけどね。

-:それでも、アドリブ力というのは高いのかもしれないですね。

笹:そういう時の方が上手くいったりするかもしれないですね。馬と自分の感覚を信じて、じゃないですが……。もちろん失敗することもありますけどね。

-:ジョッキーとしてはそういう感覚というか、勘と言ったら簡単に言ってしまいますが、大事なことですよね。

笹:大事だと思いますよね。


笹川翼

地方教養センターで同期の木之前葵騎手(名古屋)と