種牡馬ゴールドシップの現在とは?ビッグレッドファームに独占取材!
2016/9/10(土)
G1・6勝、歴代3位の獲得賞金という輝かしい実績を引っさげ、今年から種牡馬入りしたゴールドシップ。そのキャリアも然ることながら、何よりもファンに絶大な支持を集めた理由はその馬体とエピソードに止まない個性だろう。今後は後世を残していく大役を務める訳だが、どんな第2世たちが誕生していくのか、ファンのみならず、関係者の注目も高いはずだ。新米パパとして、初めての夏を迎える芦毛の名馬の近況を直撃した。
種牡馬一年目は上々の滑り出し!
-:昨年暮れ、有馬記念後の感動的な引退式を無事に終え、種牡馬になったゴールドシップ(牡7)ですが、種牡馬のスケジュールがどんなものか、存じていないファンも多いと思います。一般的な流れも踏まえつつ、まずはここまでのスケジュールを教えていただけますでしょうか?
ビッグレッドファーム・福田一昭氏:よろしくお願いします。有馬記念が終わって、それからウチの茨城の鉾田に一度移動して、ワンクッション置いて、年明けの1月6日にこちら(北海道新冠町)に輸送してきました。
種付けシーズンは2月の2週目くらいにはスタートするのですが、来てから約1カ月、その前に「試験種付け」が行われるので、それを考えると、競走馬から種馬に切り替えるには時間的に若干短いかと思いました。運動をさせながらずっとトレーニングをしてきた馬なので、いきなり運動をなくすと、逆に体のサイクルがおかしくなってしまうだろうし、放牧地に放牧されたというのも、おそらく吉澤さん(現役時代の放牧先であった外厩の吉澤ステーブルWEST)と厩舎にいた頃はほとんどなかったと思うので。放牧地に放して、走り回ってケガをする可能性もありますからね。
▲種牡馬ゴールドシップを担当するビッグレッドファームの福田氏
▲北海道新冠町にそびえるビッグレッドファーム
それに、(蹄)鉄を外しましたからね。何年間かはずっと覆いたままだったのを外した状態になったので、蹄もデリケートになっているでしょうから。到着してから2~3日くらいで雪が降ってくれたので、それはクッションがついて良かったのですが、今年は到着した時点で雪もほとんどなかったもので、かえって下が硬くて、そこもちょっと気を遣いましたね。ウォーキングマシンとロンギ場を使いながら、人とどれくらいの距離感で馬がいるのかを確認し、なおかつ距離感を教えながら、1カ月種付けシーズンまで過ごしてきました。
-:現役時代は個性派として知られましたが、種牡馬になってからの様子や性格はどうでしたか?
福:普段は正直、おとなしいとまでは言えないですが、そんなにむやみに暴れたりする馬ではないので、扱いに関してものすごく難しい馬ではないです。でも、時々、放牧地や馬房で気が向かないというか、自分のリラックスする時間に関わると、耳を絞って逃げたり、ということもあるので、簡単ではない部分は持っているのですが、それは種牡馬ならばどの馬にも当てはまることだったりします。
種牡馬になると、皆それぞれプライドが出てきて、我が出てくる部分もあるので、それを考えると、受け入れる前に想像していたよりは、今のところは手が掛からないといいますか、種付けに関しても普段の生活に関しても助かっていますよ。
「競走馬時代の個性的なところも見ているので、1年目に『ボタンの掛け間違い』をしたら、これから5年10年と、人との関係性やあるいは種付けに向かう姿勢など、苦労してくるかもしれないと思うので、主従関係であったり、アプローチの方法は気を遣いましたね」
-:オンとオフはハッキリしている感じですか?
福:そうですね。種付けに関してはものすごく前向きで上手いですし、相手を選り好みすることもないですし、種馬の1年目としてはかなり優秀だと思います。とにかく1年目なので、種付けを行い気持ちがものすごく全面に出ているので、相手がどうだろうとかあまり関係なく、種付け場に連れて行ったら準備OKの状態になっているので。
-:手脚も長いですからね。
福:それで、体が柔らかいので、繁殖(牝馬)が動いてしまおうが、かなり大きかろうが対応力があるので、現時点では問題らしい問題はないですね。
-:ここまでの種牡馬生活で苦労したこともなかったですか?
福:苦労した部分というのは特に思い当たらないですよね。例えば、馬によっては相手を選ぶ種牡馬もいたり、「竿」がなかなか出ない馬もいますが、サンデー系は種付けに関しては前向きですね。それはお父さんのステイゴールドもそうだったので、今のところ手は掛からないですね。ただ、気を付けているのは、競走馬時代の個性的なところも見ているので、1年目に「ボタンの掛け間違い」をしたら、これから5年10年と、人との関係性やあるいは種付けに向かう姿勢など、苦労してくるかもしれないと思うので、主従関係であったり、アプローチの方法は気を遣いましたね。
現役時代のイメージを覆す資質の持ち主
-:種牡馬としての期待は、現場の眼から見てどんな配合が合いそうですか?
福:ブリーダーズ(・スタリオン・ステーション)と2年置きでしたが、ステイゴールド自身もウチで繋養していたので、その後継として血を繋げていくという期待もあります。これだけファンが多くて、それだけの馬の後継をウチで出すという楽しみもありますし、可能性は色々と考えられるので。
現役時代のイメージで、天皇賞(春)や菊花賞の長丁場を勝って、「重たい」であるとか、現役の後半はズブさというか、自分から進んで行かないところがあって、そういうイメージを持たれると思うのですが、実馬はものすごく軽くて、バネもあって、ちょっと柔らか過ぎるくらいです。体質的にもステイゴールドにすごく似ている馬なので、おそらく2歳の早い時期から使う馬も出てくるだろうし、体格はステイゴールドよりも二回りくらい大きいので、ダートも走るでしょう。色々な条件で走るとは思うのですが、ウチ以外の牧場さんの連れてきた1年目の繁殖の印象を診ると、ちょっと軽いスピードが母系に入っている馬を意識して連れてきているのかなと。やっぱりそれは現役時代のゴールドップに対するイメージがあってのことだと思いますね。
-:種牡馬としての馬産地の評判というのはどうですか?
福:まだ子供が生まれていないので、何とも言えないですが、初年度の(種付け)109頭というのは、想定していたよりは少ないのかと私自身は思っています。その辺はさっき言ったような少し(良績が)長い距離に偏っていたというのと、ちょっと重たい印象、ズブい印象、あとは気性の問題があるのかな、と思いますね。実際に馬を診てもらえれば、メチャクチャ気性が悪い訳ではないし、馬は柔らかいし、軽いので。実際に子供が産まれれば評価は上がってくると思います。
▲現役時代は中~長距離での活躍で目立ったが「ものすごく軽くて、実際は柔からすぎるほど」と評されるゴールドシップ
-:難しい質問ですが、来年はどれくらいの種付けを想定されていますか?
福:それは産まれた子供の評価で、生産してすぐに動くので、何とも言えないですが、ウチの牧場としては、出来る限りのサポートはしていく方向にしてやるのが預かった責任もありますし、そう思っているので。こればっかりは、250頭付けたいと私が思っていても、お客さんが来てくれないとウチにそんな繁殖はいないですしね。
-:グループではどれくらい付けたのですか?
福:30前後くらいですね。
-:ちょっと質問が重複するところもありますが、父のステイゴールドも、このビッグレッドファームで種牡馬生活を送られていました。ゴールドシップと似ている部分はありますか?
福:種付けに関しての対応力、柔軟性といいますか、そこは似ていますね。ステイゴールドはもっと体が小さかったのですが、大きい繁殖であろうが、種付け中に動かれようが自分の体で対応していきますし、種付けに関しての前向きさもすごく似ていますね。あとは、現時点ではステイゴールドほどではないですが、多少気難しいというか、自分の世界を持っているというのはお父さんに似ている部分はありますね。
-:やっぱりお父さんの方が気難しかったですか?
福:お父さんにしてもゴールドシップにしても、ものすごく頭が良いので、今年こそは種付けがすごくスムーズでしたが、1年で学習して、来年は慣れてくる部分で少し問題が出てくる可能性もあるでしょう。ステイゴールドも最初はそうではなかったですが、色々なことや種付けで嫌なこと、繁殖に蹴られたりだとか、例えば獣医に採血されることが分かってきて、それは嫌になってきましたし、だから、そういう部分では似ている部分もあるので、学習をしながら良くなる部分もあるだろうし、頭が良過ぎて、色々覚えてしまってマイナスになる部分もあると思うので、そこの方向性を間違わないようにしていかないと、というのは意識しています。
▲亡き父ステイゴールドの馬房で日々を過ごしているゴールドシップ
プロフィール
【福田 一昭】Kazuaki Fukuda
ビッグレッドファームでの勤務は20年以上の大ベテラン。1歳の順致や当歳馬の視察で生産地を巡回した経験や休養馬管理など、これまでのキャリアは枚挙に暇がない。種牡馬の担当になってからは4年目を数え、現在も調教の騎乗も行っている。日々のテーマとして「ビッグレッドファームで一通りの仕事はさせてもらったので、種馬の仕事で他の作業も行った経験がノウハウとして活きれば良いですね」と語る。