プリンシパルSをレースレコードで快勝したダイワキャグニーが、夢舞台で花を咲かせる。1歳のセレクトセールで1億円を超える値がついた期待馬は、課題だった精神面や体力面を強化しながらダービーへ駒を進めてきた。キャリア唯一の敗戦となった弥生賞(9着)は苦手の右回りで、東京コースでは3戦3勝。NHKマイルCをアエロリットで制し、G1トレーナーの仲間入りを果たした菊沢隆徳調教師に胸中を聞いた。

根性あるけど繊細「幼児を育てるような気持ち」

-:日本ダービー(G1)ダイワキャグニー(牡3、美浦・菊沢厩舎)にはデビュー前から追い切りにも跨られていると思いますが、どのような馬だったか印象をお聞かせいただけますか?

菊沢隆徳調教師:馬は柔らかいですが、精神的、体質的にまだまだこれからだな、というような思いでずっと稽古をやっていましたね。

-:それで新馬勝ちをされましたが。

菊:6月入厩ですが、2回くらい放牧を繰り返しているし、その辺はまだ体質が……。デビューまでには、これで、というような感じでは使えなかったですね。

-:(体質が)弱いのですか?

菊:弱いというよりかは、強い稽古をしたりすると、疲労度が大きくなるのでね。これで競馬に行っちゃったら、後々反動が大きいだろうということで、下地は徐々に上げていかなければいけないという見立てではいました。

-:初戦のレース内容を振り返られていかがですか?

菊:まず装鞍所から下見所にかけて、相当な馬っ気を出しちゃって。若さも見せたし、通常だったら競馬で勝ち負けどころじゃないなという印象は受けましたね。ただ、普段でもそうなのですが、ガッと気合は乗っているのに、走り出せば大人しくて、落ち着いて……。最初はそうでもなかったのですが、そういうことを覚えてきましたね。ただ、今でもそうですが、ウッド(での調教)ではそんなに目立つ動きをしている訳じゃないし、それでも芝になれば走れるなという感じはありましたね。

-:それが実際のレースでも出たということですね。

菊:そうですね。新馬にしては良いペースで飛ばす馬もいたので、良いポジションで競馬が出来ました。でも、追ってからがモソモソしていて、やっぱり大変だなと思いながら……。2着のパルフェクォーツという馬も強かったからね。それを交わし切ったのを見て、素質と抜こうという根性を最初から見せたので、この馬は走るなと思ったんですけどね。

菊沢隆徳

▲15年の1歳セレクトセールにて1億円を超えた期待馬

-:続いてセントポーリア賞を振り返られていかがですか?

菊:同じ距離で同じシチュエーションでしたし、問題は新馬戦で見せた馬っ気などがなかったら良いなと思い、当時はパシュファイヤーを着けたのですが、意外と(効果が)良かったですね。1戦目よりはちょっと進歩が窺えたかなという感じはしました。

-:馬具の工夫が効いたということですね。

菊:それもあり、競馬が2戦目で慣れというか、馬も分かってきたのかなと。

-:レース内容自体はいかがでしたか?

菊:本当に、完勝に近いような強い競馬でしたね。メンバーがなかなか揃っていたので、それでああいう競馬をして、あの上がり(33.4)を使ったのでね。今度は脚元とか大丈夫かなという心配になりましたね、ハハハ。

菊沢隆徳
菊沢隆徳

▲主戦の北村宏司騎手も「しっかり伸びてくれて強かったですね」と好感触

-:その次は弥生賞(9着)に進まれましたが?

菊:その時に限って、放牧を挟まなかったですね。今度は右回りということで、苦手な部分があって、そこが対応出来なかったかなと。

-:キャリア唯一の敗戦が弥生賞だった訳ですが、右回りが原因だったと。

菊:ええ。あとはテンションと競馬の運び方というか、そういった面も色々含めて、だと思います。

-:あのレースによって見えた、新たな課題はありましたか?

菊:戦前から、メディアや周囲から「この馬は先行して押し切る」という、先行馬の印象を持たれちゃったことが、(北村宏司)ジョッキーにとってもマイナスだったんじゃないかと思います。僕は決してそういう風には思っていないので。

-:先生の印象では違うと。

菊:僕は、本当にポジションとかにこだわらず、前半はゆっくり行って、終い脚を使うというようなスタイルで育てたいなと思っていたので。あまり前にポジションを取ったりだとか、そういうような馬の気のスイッチをあまり入れないで、なだらかに流れに乗っていくのが理想かなと思っています。

-:そうだったのですね。弥生賞後の過ごし方はいかがですか?

菊:放牧に出しましたけどね。もう、皐月賞は一切諦めまして、目標はダービーということで、その辺のタイミングで(厩舎に)戻してきました。案の定、弥生賞の疲れもとれていましたね。ただ、脚元もまだ固まっていない部分があるので、その辺は十分考えながらやっていったんですけどね。

-:ダービー前のステップレースとして、プリンシパルSを選ばれましたね。

菊:そうですね。プリンシパルSを選んだのも、やっぱり気性的なものもあって2400というのも幾らか不安もあるし、スタンド前発走という点も多少不安がありました。だったら、1800と2000は似たような向正面で待機出来て、というような考えで、そういった条件を踏まえプリンシパルSと思いました。

-:レースは良い時計で勝たれましたが、先生は振り返られて内容はいかがでしたか?

菊:速い時計で走り過ぎじゃないかと、本当にまた心配になりましたね。ただ、東京においての素質の高さというのを改めて見直して、やっぱりちょっと違うなと思いましたね。

菊沢隆徳調教師インタビュー後編
『厩舎としてダービー初挑戦「騎手時代からの夢」』はコチラ⇒

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▲北村宏司騎手の隣には競馬ラボでもお馴染み、“ハイセイコー”の増沢末夫さんの姿も