杉山晴紀調教師インタビュー(前編)はコチラ⇒

調教師試験に合格後はオーストラリア遠征にも帯同

-:厩舎での勤務を経て、だんだんと調教師を目指されることになったということで、試験はどれくらい受けたのですか。

杉:全部で5回ですね。一次試験は運良くといいますか、2回目の試験で受かって僕もびっくりしたのですが、二次試験は毎年手応えが感じられなくて……。でも、一次試験も初めての時はそこまで勉強をしたわけではなかったのですが、2回目の試験を受けた時、一次を初めて通った辺りから意識はかなり変わりました。本当に試験に合格するためにやってきたので、4年くらいはアッという間でしたね。

-:日々の調教をやりながらですからね。

杉:そうですね。だから、その4年間って、あまり記憶がないんですよね(笑)。仕事をして、勉強をして、気付いたら受かっていたというという感じです。

杉山晴紀調教師

-:あまり息抜きもなかったですか。

杉:家族はいるので、ごくごくたまに。例えば、その年の試験がダメだった後、しばらくは家族サービスみたいなことをしたりはしましたけど、勉強と仕事という感じでしたね。

-:受かった時の思いはいかがですか?

杉:嬉しかったですね。そして、周りの協力もあったので感謝の思いがありました。自分だけじゃ出来ないこともあったし、一生懸命試験を受けている人たちで協力しながらやってきたので、受からせてもらえたのはそういう周りの人たちの力も必ずあったと思うので。

-:受かってからは、どういった研修をされていたのですか?

杉:いま海外遠征が当たり前の時代に、海外遠征の経験がなかったので、機会があればと思っていました。試験に受かった当時は高橋康之厩舎に所属していたのですが、高橋先生はもともと池江厩舎と縁のある方で、池江泰寿厩舎のトーセンスターダム(現在はオーストラリアに移籍)が、オーストラリアに遠征に行くタイミングに、高橋先生が池江先生に僕のことを話して頂き、ずっと帯同させてもらいました。豪州に行って、最後はレースへの出走は叶わなかったのですが。

-:遠征で行って、直前に取り消しは無念ですよね。

杉:残念というか申し訳ない思いはもちろんありましたが、個人的には、実際に海外遠征に携わった経験をさせてもらえたことは大きかったですね。その後も引き続き池江厩舎でいろいろ勉強させて頂きました。池江先生は「走る馬をどれだけ見たり、乗ったり、経験するかが調教師として大事なんだ」とおっしゃっていましたね。

-:池江厩舎時代は、どんな馬に乗られましたか。

杉:去年、皐月賞にも出走したプロフェットの追い切りに乗せてもらいました。ご存じの通り走る馬の多い厩舎ですので、どれに乗っても勉強になりましたね。そういう経験はなかなかできないことなので、感謝しています。

馬、厩舎が発信するサインを感じ取ってほしい

-:ファンに杉山厩舎を知ってもらう上で、ファンは馬の状態をパドックで見られる人もいれば、調教で見る人もいると思います。他にも厩舎コメントも参考にする人もいると思いますが、こういう時計が出ている時は良い傾向が出ているといったヒントがあれば教えていただきたいのですが。

杉:1頭の馬に対して“流れ”を見ないといけないと思うんですよね。例えば、その日のCWで馬場が重かったのにメチャクチャ良い時計で走っている馬が“これは絶対に競馬走る”というのではなくて、もしかしたら前走はもっと良い時計で動いていたかもしれない。その前から調教でずっと動いていた調教番長みたいな可能性もありますよね。そこは厩舎コメントも含めて、その馬の変化を掴みとるのが大事ではないでしょうか?パドックもそうですよ。今日はスゴく良く見えると思っても、いつも良く見せていたり、いつももっと良く見せている馬にしてみたら、意外に今日は普通かもしれないなど。流れはスゴく大事だと思います。

杉山晴紀調教師

▲自ら調教に騎乗する杉山師

-:競馬の本質的なところではありますね。長く見た上でどういう変化があるのかを感じ取るのは。

杉:そうですね。僕ら厩舎人にしてみても、変化を感じ取ることが大事だと思いますし、ファンの方も、他の人が感じ取れない変化を感じ取ることができれば良いかもしれませんね。

-:それは競馬に限らず言えることですね。

杉:そうなんですよ。他の人たちが分からないことを、いかに気付けるかどうか。

-:これは余談ですが、若い頃はけっこう馬券を買われたりしたのですか?

杉:ゼロじゃないですよ。僕はどちらかと言ったら、競馬をギャンブルとして入った人間ではないので、馬券的にはあんまり。予想はしていましたが、大概来ないので、そういうセンスはなかったですね。地道に行くタイプなんです。

-:先程も少し伺いましたが、調教のメニューとしてはどういったところを主体にされていますか?

杉:馬によって全然違いますね。現状坂路一本の方が良ければ、坂路一本で行きますし、あまり坂路が合わないフォームならば馬場で仕上げます。角馬場に入れたかったら、角馬場に行ってから馬場や坂路に行ったりということもします。基本的に常歩運動はみんな揃ってやっていますけどね。だから、その点は馬によって変わっているので、だから、馬によってメニューを変えているという点で、いかに厩務員や調教助手のコメントを把握できるかどうか……ですね。個別にメニューが違う以上は、やっている人、乗っている人の意見を聞くこと。同じ馬でも人それぞれ感覚が違うので、この人がこういう感覚を持っていたら、馬はこういう感じだなと、個人個人の馬に対する考え方というのを深く理解していかないといけません。

-:担当制ですか?

杉:ええ、担当です。僕の馬に対する考え方には担当制が合っているので。

いつか縁のある菊花賞に出走、そしてタイトルを

-:今後の目標というか、将来的な展望があれば教えて下さい。

杉:どんな馬でも、ある程度、結果を出せるようになりたいですよね。スゴくザックリし過ぎているのですけど……。

まだまだ力不足ですし、中にはスゴく気性的に難しい馬がいることも事実なのですが、理想は、そんな馬でも杉山厩舎は普通に競馬に行くんだな、結果が出るのだなと認められたいですね。

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▲杉山師も育成に関わったスリーロールス ゆかりある菊花賞制覇の再現はなるか

-:それはファンだけでなくサークルからも、ということですね。

杉:そうですね。それだけ毎日高い意識で、ずっとやっていきたいですよね。具体的に言えばもちろん、G1は勝ちたいですよ。

-:言い出したらキリがないですからね。ダービーも勝ちたいでしょうしね。

杉:ダービーも勝ちたいし、この道に行くキッカケになったダンス(インザダーク)にしても、スリーロールスにしても、菊花賞ですからね。やっぱり調教師として管理馬が菊花賞に勝ったら、感慨深くはなると思いますよね。別に菊花賞馬を狙ってやっていく訳ではないので、それは巡り合わせですが、いつかそういう時が来たら、縁ってあるんだなと思うでしょうね。

-:そういうドラマのようなものが出来れば良いですね。

杉:そうですね。そうなったら良いなと思いますね。

-:スリーロールスもダンスインザダーク産駒ということで、またそれが母系などに入っていれば……(笑)。

杉:そうですね。母父ダンスで菊花賞勝てれば……。でも、そこまでは別に良いかな。さすがに、そこまでは狙ってできないです(笑)。

-:もちろん全馬に期待されていることと思いますが、今後、伸びそうな馬を教えていただけますか?

杉:テイエムチェロキーは札幌の1000mダートではあるのですが、500万、1000万と3歳のこの時期に連勝していますし、持っている能力は結構高いものがあると思うんですよね。ただ、それが気性的に競馬に行くと控えめというか、消極的になってしまうところがありました。モマれ弱さがあったのを古川吉洋騎手が少しずつ競馬を上手く教えてくれていっているので、持っているものが遺憾なく発揮できるような精神力が今後養われてくれば、古馬になってからも活躍してくれると思います。

杉山晴紀調教師

▲師も期待する3歳のテイエムチェロキー

-:当然3歳という伸びしろもありますし、現時点でのパフォーマンスも高いわけですね。

杉:そうですね。まだまだ線が細いので、これからもう一段階成長して、グンと体に幅が出てくれば本当に楽しみなので、これからにちょっと期待したいですね。

-:1000mダートという条件ながら線が細いということを考えたら楽しみですね。

杉:ダート短距離の体型や跳びの馬ではないですね。走り方やフォームも、むしろ芝でも良いんじゃないかというほどですし。

-:芝の1200や1400へ行くことも、将来的にはあるかもしれませんか?

杉:オーナーも、「芝の1600、1800くらいがベストじゃないかな」とおっしゃっていますし、走り方を見ていると、実際にそこら辺を目指そうかなと思いますけどね。いずれにしても、1000ダートの準オープンなんてないので、距離を延ばしていかないとダメですし、今回阪神ダートの1400で入れたのですが、まさかの除外でした(苦笑)。

-:これから馬主さんは広がっていきそうですか?

杉:そうですね。おかげさまで、厩舎結成以来、多くの馬主さんから声をかけて頂き、本当に感謝しています。

-:毎日忙しい日々を送られていると思いますが……。

杉:忙しいと言えば忙しいですが、しょうがいないですね。だって、開業したばっかりで忙しくない訳はないので。起業していきなり暇な人は、全国探してもあまりいないですよね(笑)。忙しくさせてもらっているというのは、逆にありがたいですよ。

-:今でも調教に乗られているということですね。

杉:毎日乗っています。僕も馬に乗ることで、スタッフとより深くコミュニケーションをとることができますから。

-:今後のご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

杉:ありがとうございました。

~編集後記~
管理馬の調教メニューを調べると、一頭一頭違うメニューが目につく。じっくりとした語り口からも窺えるように、丁寧に管理馬と向き合っているのが印象的だ。
「その馬にとってベストな調教は、その日、その日で何が一番大事なのか考えていくと、自然に馬ごとに出すもの、求めるものは変わってきてしまっていますね」と語る杉山師。これから、管理馬も増えていくことだろうが、その時、細かな努力の積み重ねがどう実るのか。長い目で見守っていただきたい。

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