「化け物かも」テイエムジンソク初G1でもスピード見せる
2017/11/26(日)
5月まで条件馬だったテイエムジンソクが、一気にスターへの階段を駆け上がる。休み明けで完調に程遠かった東大路Sから3連勝し、重賞初挑戦のエルムSで2着の後、前走みやこSで嬉しい重賞初勝利を飾った。普段から騎乗している武英智調教師は来年に新規開業を控えるため、ともに過ごす時間はあとわずか。竹之下智昭騎手、古川吉洋騎手と力を合わせて育て上げてきた馬を、デビュー以来最高の仕上げでビッグレース送り出す。
-:前走のみやこステークスを制したテイエムジンソク(牡5、栗東・木原厩舎)ですが、チャンピオンズカップ(G1)に挑まれます。前回は待望の重賞初制覇でしたね。かなり強い勝ち方だったと思います。
武英智調教師:そうですね。あの馬の特徴は長く良い脚を使えるところ。トップスピードに入って持続力が長いので、本当にその特徴を活かした良い競馬だったと思いますね。
-:色々と過去のレースを拝見させていただくと、外枠ですんなり流れに乗って、外々を回っても押し切れる力がありますよね。
武:そうですね。入厩した時から、左に馬が張るといいますか、そんなクセがあります。それは今の調教でもそうなんですけど……。
-:デビュー戦は特にそうでしたね。
武:そうなんですよ。それがずっとあって、なるべく前に馬を置いて、という競馬をしてもらっていたのですが、もともとそういう癖があった馬なので、内で包まれるよりはスピードを活かす競馬の方が良いなと思っています。ここへきて、ようやく馬が真っ直ぐ走れるようになってきたことと、調教してきたことが噛み合ってきたというのが、このタイミングなんですよね。
▲現在は技術調教師として木原一良厩舎で経験を積む、元ジョッキーの武英智師
もちろんテイエムジンソクの調教にも携わってきた
-:それにしても、この馬は外枠を引くことがすごく多いですよね。
武:そうですね。だから、坂がダメなどそういうことじゃないんですよね。いかにスムーズに1~2コーナーに入れるかで、内枠だったら包まれるのが嫌なので、押していかなきゃいけないので。どうしても、折り合いが難しい面がある馬なので、あの馬の折り合い面と言いますか、少しスッと小脚が使えたりだとか、器用な面が出てくれば良いのですが、良い意味でも悪い意味でも、全体的に一本調子な面が馬です。外枠でスピードを殺さない競馬が良いのだなと思いますね。
-:フットワークも、割とユッタリめというか?
武:性格はだいぶキツいんですよね。
-:性格的にもあまり序盤に急がせるない方が良さそうですね?
武:そうですね。内を引けば、途中からどこかで動けるような形になれば良いと思いますし、3~4コーナーであの馬のペースを乱してこられるのが一番辛いですね。
-:ス~ッと上がってくるような競馬が一番ということですね。
武:そうですね。
-:あくまで私の意見ですが、敗れはしましたけど、エルムSでもそれに近い競馬をしていたのかと思っています。
武:そうですね。見方によれば「ちょっと3~4コーナーで待った分、あそこで行けばロンドンタウンがもっと楽だった」と言う人もいるのですが、持ち味を活かしているのは、その前後のレースと思いますけどね。
「左に張るので、左回りはモタれるのかなと思いつつ調教で乗ったのですが、むしろ左の方が良いんですよね。先週の日曜日(11/19)も下(コース)で追い切りをしましたし、すごく良かったので、今週は終いは馬なり程度のフィニッシュで終わったんですけどね。1回叩いて、馬が良くなっているのもあるのですが、それにしても先週の日曜日の左回りの調教がすごく折り合いも良いし、真っ直ぐに走っていましたね。僕はプラスに出るんじゃないかと思っていますね」
-:今回、伺いたいことは色々とあったのですが、チャンピオンズカップにあたっては何度も聞かれると思いますが、左回りについてはいかがですか?
武:左に張るので、左回りはモタれるのかなと思いつつ調教で乗ったのですが、むしろ左の方が良いんですよね。先週の日曜日(11/19)も下(コース)で追い切りをしましたし、すごく良かったので、今週は終いは馬なり程度のフィニッシュで終わったんですけどね。1回叩いて、馬が良くなっているのもあるのですが、それにしても先週の日曜日の左回りの調教がすごく折り合いも良いし、真っ直ぐに走っていましたね。僕はプラスに出るんじゃないかと思っていますね。
-:競馬というか、馬も人間もおそらく左回りの方が走りやすいのかなという感じはしますよね。
武:そうですね。ですので、僕は全く気にしていないですね。
-:それよりも気になる点というのは、やっぱり相手関係ですか?
武:そうですね。今までやってきたメンバーから2枚くらい強くなりますから、あの子の持ち味となるような展開となるのかどうか、というのがね。前にも強力な馬がいるし、後ろにも強力な馬がいるので。もうチャレンジャーですので、G1を勝ってきた猛者たちに、どこまで今の力で通用するのかなという思いで僕は見ています。
▲テイエムジンソクの調教をつける武英智師(写真はみやこS前)
-:例年のチャンピオンズCだと、けっこう前が崩れる印象もあるのですが、今年のメンバーを見ると思ったよりも、先行争いは落ち着きそうかなという見立てもあります。
武:そうですね。中京のダートがやっぱり前残りのイメージが強いので、ジョッキーもみんな前々で、という意識も強いのでしょうね。馬込みがダメではなくて、あの馬のペースで走れるかどうかなので。向正面に入った時に5番手だろうが10番手だろうが、その後、気分を損なわないようにスッ~と上がってくるような競馬になれば、力は発揮できるかなと思うんですけどね。
一度、オープンに上がる前に試しているんですよ。どうしても1コーナーで(ハミを)噛んで入るので「ちょっと遅らせて後ろから競馬をして下さい」と言って、後方から競馬をしているんですよね。その時もけっこう噛んで噛んで、噛みっ放しの状態で最後伸びてきたので、別に番手が下がる分には大丈夫ですね。
-:この馬の能力を見抜けたというか、これくらいまで来るなと感じられた時というのはいつだったですか?
武:それが最初から良かったんですよ。ただ、気性が邪魔していました。厩舎に来た時に正直、無事に競馬行けるかな、というくらいの危なさがあったので。本当に地下道に入っても走りだしたりだとか、ゲートを出たら左に跳んでいったりだとか、これはまずいなということで、竹之下先輩(竹之下智昭騎手)に「毎日、乗ってください」とお願いしました。そこから、普段の日も、競馬から帰ってきても、調教をしてもらっていますね。本当にあの人に育ててもらったと言いますか、いまのテイエムジンソクがあるのは、あの人のお陰かと僕は思いますね。
-:追い切り日以外は武先生も乗ったりするのですか?
武:僕も乗ったりするのですが、厩舎には他に19頭いますからね。僕が乗れない時は竹之下先輩で、僕が乗れる時は僕で、という感じで、ずっと2人しか乗っていなかったですね。今になって、古川先輩に乗ってもらったりしていますが、本当に大変な馬だったので。
能力は、新馬を使って2走目で勝ったのですが、その時に僕も竹之下さんも「ちょっとこれは違うよね」という話をしていたんでね。ただ、使って体が増えない。今も500kgくらいはあるのですが、見た目はやっぱり華奢ですし、本当に精神状態というか、気性の課題だけがずっと頭にはあったので、いつ開花するかなという感じではあったんですけどね。
-:確かにダート馬としては、あまりゴツさというのはないですね。
武:ないですね。お尻もシャープですしね。
-:一見すると、まだ肉は付きそうな感じもするのですが?
武:ただ、ずっと「520~30キロになれば」と僕も言っていたのですが、前走の2週前くらいの時に、10キロくらい増えていた時の息遣いが良くなかったんですよ。意外にこの馬はシュッと見えても、あれくらいの方が良いのかなという風には思っていますけどね。
-:繋はけっこう起っているタイプですか?
武:そうなんですよ。フォーティナイナーにクロフネなので、そういう感じかなと。
-:クロフネで重賞を勝っている馬が、意外とあんまりいないんですよね。
武:らしいですね。まあ、頑張ってくれると思いますけどね。良いのか悪いのか、良いところは真面目過ぎるというか、気性がカッとしているので、毎回一生懸命走ってくるので。
「思い入れはもちろん全部の馬にあるのですが、本当に苦労をした馬なので。それまでもずっとやってくれていた竹之下先輩の気持ちも乗っていると思うので、頑張ってくれたらと思っています」
-:激しさの持ち主ですが、ハミを替えられたりはしたのですか?
武:していないです。もうなるべくノーマルな馬装で、ということで考えていました。行けるところまでこのままで、と言いながら、それ以上悪くならずに来ていたので、ずっとハミもノーマルな水勒を使っていますけどね。
-:馬装は敢えて、馬具には頼らないというか?
武:もうシンプルで。
-:それはけっこう大事なことなんですよね。
武:そうなんですよね。それが一番難しいので。何度何度もイジりたい気はあったのですが、なるべくイジらないように気を付けて来ました。
-:そういう努力があってここまで来たというのは、感慨深いものがあるでしょうね。
武:本当に……。思い入れはもちろん全部の馬にあるのですが、本当に苦労をした馬なので。ジョッキーも今回の古川さんに乗り替わってから連勝していますが、それまでもずっとやってくれていた竹之下先輩の気持ちも乗っていると思うので、頑張ってくれたらなと思っています。
「絶対にダメだと思った」東大路Sで1年ぶりV
テイエムジンソク陣営インタビュー(後編)はコチラ⇒