騎手・木村健~豪腕が語る、盟友、名馬との思い出~ ロングインタビュー後編
2017/11/30(木)
-:さて、そろそろ木村騎手がこれまで騎乗してきた馬について、色々聞かせていただこうと思います。最初に、ズバリ、木村騎手のベストレースは何でしょうか?
木:かきつばた記念のタガノジンガロ(14年)ですね!本当にあれは特別なレースでした。大接戦で結果が分からなかったし、あの馬はちょっと癖を出しながら走っていたこともあり、まさか勝てるとは…という感じでしたね。
-:タガノジンガロは中央にいた頃から、乗り難しそうな馬でしたね……。
木:当時、乗っていた川田(将雅)君から「けっこう外に張る」と聞いてはいました。園田の転入初戦で勝った時に、普通に回ってきたように見えるけど、外に張って馬場の真ん中まで持っていかれてしまって……。これはヤバいなと思いながら迎えたのが、あのかきつばた記念でした。あの時も3コーナーから外に張り出して大変でしたね。あのレースを勝てたのは嬉しかったです。
-:では木村騎手にとってベストホースは誰でしょう?
木:やっぱりアルドラゴンやね!レースでインパクトがあったのはタガノジンガロだけど。
※アルドラゴン…主な勝ち鞍名古屋大賞典など。園田移籍後33戦で19勝を挙げた。その内16勝は木村騎手の手によるもの。
-:アルドラゴンは「硬くて、ゲートが難しい馬」という話を聞いたことがあります。
木:あの馬は硬かったですよ~。転入初戦にして、いきなりゲートで躓きました(笑)。
-:乗り難しい馬だったんですね。
木:ササったりしてね。あれは癖馬でした。攻め馬からササって乗りにくかった。
-:レース中は攻め馬ほど、ササったりはしなかったのですか?
木:そうですね。レースはそこまでは。攻め馬は外ラチ沿いで乗っていても、勝手に内ラチまでササってくる(笑)。アルドラゴンという馬はそれぐらい乗り難しかったです。最後までそんな感じでした。色々なハミも着けてみましたけど、やっぱり慣れたら一緒。馬場の外側をずっと回ろうとしても、2周目でハミが掛かってきたら、硬口になってそのまま内ラチに行って。余程内ラチが好きだったんだろうなぁ……。追い切りなんて、僕が乗っても、とてもじゃないけど真っ直ぐ走らせられなかったですもん。
-:強めの追い切りの時は、外を回さないといけないのでは……?
木:意識的に外を回しているんだけど、勝手に内ラチに行ってしまう(笑)。それこそ、追い切りは内ラチに僕の足が当たるぐらい、本当にそれくらいササっていました。
-:木村騎手の足先がラチに当たる、ものすごいササり方ですね。
木:本当にアブミが内ラチに当たっていましたもんね。でも、レースに行ったら、あれだけ走る。あれは本当に(田中)範雄先生が仕上げたと言いますか、初めに来た時はまともに乗れないぐらいだった馬を調教して、乗れるようになるまでに持っていって。歩様もゴトゴトしていた馬だったけど、それを一花咲かせて、復活させたのは範雄先生。本当にスゴい仕上げ方でした。あの馬の良いところは1200、1400、1800、2400と全部勝っていたところ。なかなかあんな馬はいないですよね。
-:タガノジンガロ、アルドラゴンと思い出の馬はけっこうな癖馬ばかりですね。
木:正直、癖馬じゃないと(園田に)入ってきていないしね。タガノジンガロもあれだけ走っている馬だけど、制御不能になって、園田にきてくれたから、こちらとしてはその点はありがたかったのかもしれません。
-:園田での木村騎手の印象的なレースとして、先ほど話になったバンバンバンクの楠賞(08年)もあげられると思います。豪快なマクりと、実況の吉田勝彦アナウンサーの名調子「バンバンバンクゥ~!」が忘れられません。向正面でマクるのは、最初から決めていたのですか?
木:いや、ペースが落ち着いていたので、このままだったらまずいと思って、みんなが先に動く前に自分から2コーナーで先に動いて。うまくハマりましたね。ヨッシャーと思っていました(笑)
-:もう10年くらい前になりますね。あの日はJBCデーで、お客さんもかなり入っていましたね?
木:そうです、そうです!アルドラゴンでJBCスプリント3着(1着バンブーエール)だった時です。あれも、直線ちょっと夢を見ましたね。
-:一瞬勝てるかと?
木:手応えがあったから外に出したんですよね。あの時はバンブーエール、スマートファルコン、ブルーコンコルドとかなりメンバーが揃っていたんですが、この馬はやっぱり走るんやなと思いました。
-:中央競馬に話を移すと、まず中央競馬のファンの皆さんに木村騎手の名前が轟いたのは、後の三冠馬アパパネを差し切った、ショウリュウムーンのチューリップ賞(10年)だと思います。
木:ショウリュウムーンは中央では一番印象に残っていますね。ちょうど(小牧)太さんが前回ショウリュウムーンに乗っていて、「本当に力がある」という話を聞いていましたので、自信を持って乗りましたね。ササる馬でしたが、折り合いも付いたし、直線どれだけ伸びるのかなと思ったけど、まさか全部交わすとは思っていなかったし、本当に嬉しかったです。
-:あと木村騎手といえば、忘れてはいけないのが菊花賞のハーバーコマンド(4着)だと思います。見せ場十分、存在感を示したレースでしたね。
木:あの時は僕の馬が外を回っていたら、絶対に3着はありましたね。ウインバリアシオンにも最後交わされて。あれは安藤(勝己元騎手)さんやから、あの着順に来たんだと思います。知らない間にピュッ、ピュッと馬群を捌いてきてね。
-:あの時は4コーナーでどんな心境だったのですか?
木:オルフェーヴルを見ながら、「オルフェーヴル強え~!次元が違うよ!」と思いつつ乗っていました(笑)。ただ、自分の手応えも良くて、2着はあるんとちゃう?と思いましたよ。
-:ハーバーコマンドはどんな馬だったのですか?
木:乗りやすい馬でしたね。コントロールしやすくて、結構押して行けました。僕もG1は初めてでしたし、厩務員さんもGⅠは初めてだったようで、「G1楽しもうや」みたいな感じで言い合いながらレースに臨みました。やっぱりG1は歓声がスゴく響くね。これがGⅠかと思いましたよ。僕だけパドックで礼をしていました。「あれっ、何でみんな礼をしないんだろう」と思ったら、「G1は礼をしない」と言われたのが思い出です。
-:最後もあわや2着でしたね。大健闘と言えるのでは……?
木:でも、僕は「G1」を勝ってるからね。さんまのナンでもダービー(笑)。僕はあれが初めての「G1」制覇です。みんなにも「僕はG1勝っている」と、いつも言っているんです(笑)。
-:他に木村騎手の中央での騎乗では、ベストリガーズの未勝利戦が印象深いです。ベストリガーズのような大型馬で外枠に入ったのに内ラチ沿いから抜けてきて……。
木:人気していない馬とか、けっこうセコく乗ったりするじゃないですか。あのレースは覚えていますね。内々を通って。前がうまく開いてくれました。僕は何だろうな。中央で印象的だったレースなら、チューリップ賞のショウリュウムーン以外だと、毎日杯のゴールデンチケットかな!バーンとハナに行って、途中から行かれて、番手に抑えての2着で。あれは太さんに負けたんですよね、確か。
-:アイアンルックですね?
木:そうそう!勝たしてよと(笑)。勝ったと思いましたけどね……。溜めながら乗って、直線でも余裕で出てきたから、これは1着もあるやん!と思って。でも、アイアンルックはちょっと脚が違ったなぁ……。ゴールデンチケットは良い馬でしたね。スピードがあって、乗りやすくて。
-:印象的なレースが多過ぎて話は尽きませんが、木村騎手が中央馬で乗ってみたかった馬はいたりしますか?
木:ディープインパクト。(武)豊さんが「飛んでいる」と言っていたけど、空を飛ぶ感覚、味わってみたい。空飛んでみたい(笑)。現役馬だとキタサンブラック。渋太い馬やもんね。
-:キタサンブラックと木村騎手のコンビ、観てみたいです。
「騎手・木村健が今語る、相棒・オオエライジン」
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