イレ込む理由は「早く走りたいから」 カラスも蹴りに行く闘争心で勝つ レッドアンシェル
2017/12/29(金)
-:次走は京都金杯となりますが、間隔が詰まるにあたって気を付けていることはありますか?
久:休み明けから叩き3走目ですし、そんなに馬を追い込む必要はないかなと先生とは話しています。もう息も体もできていますし、あとは馬がいいパフォーマンスを見せられる状態にできるように、様子を見ながら調整していきます。まだ3歳ですし、疲れが出やすいところもありますからね。
-:今度は京都競馬場への輸送ですね。
久:京都も当日輸送でテンション高くなりやすい面はあります。ただ京都競馬場の場合、馬運車が2便あるんですよ。前半便と後半便があって、7R以降の馬は後半便で行けるんです。後半便だと競馬場には10時前後に着くので、その分イレ込む時間が短いので、いいと思います。前半便より2時間遅く着けるのは大きいです。
-:レースではそこまでイレ込まないのでしょうか?
久:そうですね。操縦性は高いですし、ゆくゆく将来距離を伸ばしていっても、折り合い面で困ることはないと思います。
-:2000mくらいまでは大丈夫でしょうか?
久:個人的にはそこまで持ってほしいですね。馬の様子を見ながらですが。まあ距離伸びてマイルと同じ競馬ができるかはやってみないと分からないところですけどね。
-:この馬との思い出のエピソードはありますか?
久:新馬戦の前にこの子が入厩してくる時、牧場からレポートが渡されるのですが、そこに『馴致からとても苦労しました。危なっかしいところがありますから注意してください』と書いてあったんです。もう「えぇ~!」となりますよね。こんなレポートある?と思いましたよ(笑)。乗ってみたらそこまでではなかったんですが、ここまで、皆さんが苦労して育ててくれたんだなと。その思いを繋いでいけるよう頑張ろうと思いましたね。
-:初戦はイレ込みもマシだったとおっしゃっていましたが、2戦目で一気にイレ込んで驚かれたりされたのでしょうか?
久:2戦目は「イレ込んでるなぁ」程度にしか思っていなかったのですが、3戦目の朝日杯FSはひどかったですね。まだパドックに先出ししていない頃で他の馬と一緒にいたのですが、地下馬道でパニックになってしまって……。ただ、あの時も展開が向かなかっただけで、力負けではないと思っています。でも翌週、騎乗したシュミノー騎手にトレセンで会った時は謝りました。「スイマセンでした!」って(笑)。全然大丈夫だよ、と言ってくれましたね。
「入厩してくる時、牧場からレポートが渡されるのですが、『とても苦労しました、注意してください』と書いてあったんです。こんなレポートある?と思いましたよ(笑)。ここまで皆さんが苦労して育ててくれたんだなと。その思いを繋いでいけるよう頑張ろうと思いました」
-:その頃と比べれば、最近はイレ込む面もだいぶマシになってきたのでしょうか?
久:先出しするようになってから、朝日杯ほどではないですね。ただ早く走りたいだけなので、その気持ちを尊重してあげています。
-:この馬は走りがブレないように思うのですが、体幹が強いということなのでしょうか?
久:そうですね。みんなこの馬のウリは走りがブレないことやと言っていますね。そういえば、こんなエピソードがありますよ。この馬、いつも調教終わったら寝るんですよ。
-:寝るんですか?
久:そうそう。ゴロンと。でもゴロンと行き過ぎて、寝違えるような感じになるんです。普通は人間が起こしますが、この馬は体幹が強いんでしょうね、自分で脚を使って戻ってくるんです。体幹が強くないとこの行為はできないと思います。身体の軸がないと戻ってこれませんから。変なところで体幹の強さをアピールするなと思いますけどね(笑)。
-:世話をする際はいろいろと大変そうですね。
久:とはいっても、もう1年半の付き合いですから。大体のことは分かってきていますからね。
-:こうして見ていると、馬房の中ではおとなしいですね。
久:皆さんが言うほど、ずっとうるさいわけではないんです(笑)。じっとしているか、何かで遊んでいるか。
-:これが競馬場では違うのですね?
久:競馬場ではね……。トレセンの馬房の中では、もう今日の仕事は終わったと馬が思っていますからね。ただ朝イチの、調教に行く前の馬装の時はウルさいですよ。早く走りたいから、前掻きしてみせたりして。隣の馬が先に出ると怒りますからね。「俺のほうが先じゃないのかよ」と。だから先に出してあげるようにしています。
-:クラブのホームページにも書いてありましたが、馬服を着ていないですね。
久:自分で脱ぐんですよね……。馬具屋さんに相談したら、危ないから着せないほうがいいと言われて。
-:馬も自分で服を脱ぐんですね。
久:自分で肩を噛んでしまうんです。その内だんだんと脱げてきて、すぽっと脱げてしまいます。この子、脱いだ馬服を更に汚していて……。踏んづけてケガするよりはと思い、着せていません。多少毛は伸びますが、仕方ないですね。それでも毛ヅヤは悪くないです。
-:この馬のお兄ちゃん、お姉ちゃんも気性が難しかったイメージがあります。
久:そうですね。お兄ちゃんたちの馬房での様子は見たことないですが、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいた厩舎の人に、「今度あの馬の下が入ってくるんです」と言ったら、人を落としたとか、なかなかいいコメントが聞けなくて……。
-:それに加えて、牧場からのレポートに「気をつけてください」と書かれていましたからね。
久:でも思ったよりマシでしたね。運動神経もいいですし、賢いですからね。物覚えがいいんですよ。こういう風に走るとか、手前はこう変えるとか、教えたらすぐ覚えます。そこが操縦性の良さに繋がっているのでしょうね。
-:これからレッドアンシェルに成長してほしいと思う部分はありますか?
久:走りたいという気持ちは馬にとって非常に大きいことですし、それがないと競馬で結果は出せないと思うのですが、その気持ちを自分の心の中に秘められるようになってほしいですね。
-:身体面ではいかがでしょう?
久:まだトモは甘いですし、もう少しパンとすると思います。
-:2018年の目標を教えていただけますか?
久:そうですね、先生とも大きなところに出してあげたいなと言っていますし、出すだけでなく、いい結果を出してくれればと思っています。アンシェルと1勝1敗だった同世代の馬(ペルシアンナイト)がチャンピオンになりましたし、この馬もいい感じに戦っていければと思います。
-:最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
久:パドックを見たらテンションが高いのでとても買いづらい馬だと思います。ただいつも一生懸命走ってくれますし、いい状態ならいいパフォーマンスを見せてくれると思います。そういう状態に持っていけるよう頑張ります。
プロフィール
【久保 智史】 Satoshi Kubo
1987年生まれ、京都府出身。庄野厩舎一筋の6年目。初めての担当馬はオープンまで出世したトウショウヘイロー。他にもレッドソロモンを担当した。そんな久保助手は思い出の馬は今まで担当した馬みんな。インタビュー中も、「そう言うと馬に悪いからな…」と言葉を選びながら話す、馬を心から愛するホースマン。