混戦ムードだった今年の皐月賞。制したのは7番人気のエポカドーロだったが、レース展開、道悪もあり、異質なレースと感じた方も多いのではないだろうか。さらに勝ち馬の母は短距離の重賞を2勝していた点も未知数な印象に輪をかけた印象だ。2冠の懸かる日本ダービーだが、エポカドーロに距離の壁はあるのか?短距離馬からクラシックホースが産まれた理由とは。エポカドーロの母の主戦騎手だった長谷川浩大調教助手に語ってもらった。

距離不安はあったものの一端の逃げ馬ではなかったダイワパッション

-:今年の皐月賞(G1)を制したのはエポカドーロ(牡3、栗東・藤原英厩舎)でしたが、その母は重賞ウィナーのダイワパッションでした。ダイワパッションの主戦騎手であり、現在は中村均厩舎で調教助手として活躍されている長谷川浩大助手に当時のエピソードを伺います。ダイワパッションには現役時代(2歳未勝利戦から)4連勝して、その3連勝で乗っていた訳ですね。

長谷川浩大調教助手:そうですね。500万の黒松賞を使って逃げ切り、その後にフェアリーSに行って、フィリーズレビューから桜花賞に行きましたね。黒松賞の際に初めて乗せていただいたのですが、乗る前は「スピードがある馬だから、500万ならスンナリと逃げられると思う」という話を聞いていました。乗った感触も(JRA)ブリーズアップ(セール)の馬で仕上がりは良かったですし、気性面も勝っているタイプだったので、競馬は楽でしたね。サッと先手を取って、そのまま危なげなく押し切ってくれました。

-:中山の1200でも押し切れるということは、直線の坂でも全然問題なかったですか?

長谷川浩大

▲現在は攻め専として厩舎の活躍を支える長谷川元騎手

長:問題なかったですね。そういう感触だったので、(増沢末夫)先生と相談して『フェアリーSに使うのなら、またお願いします』という話をして別れたのですが、すると、すぐ次の週に「連闘でフェアリーSを使う」となったので『じゃあ、お願いします』と。今は1600ですけど、昔のフェアリーSは1200mでしたね。当初はすんなりハナを切って、というイメージだったのですが、立ち遅れて中団からになって。でも、中から競馬をした時も上手く捌けて、最後(2着の)ウエスタンビーナスを渋太く交わしてくれました。いい馬だなと思いましたね。

-:この馬は単なる逃げ馬ではなかったですか?

長:そうですね。やっぱり気性的なものが勝っていたし、スピードはすごくある馬だったので、すんなり立てれば普通にハナを切っても良いイメージはあったので、逃げ馬という感じではなかったですね。

-:けっこう、自在性はあったのですね。

長:フィリーズレビューの時も(15番で)外枠だったのですが、(スタートが)良ければハナを切ろうと思っていました。その時も無理のない3~4番手で競馬をしていたので。

「乗った感触と当初のイメージではマイルはどうか、という心配がありましたし、フィリーズレビューも1400は大丈夫かなという懸念もありましたね。実際、1200、1400と重賞を勝って、1回美浦に戻って桜花賞に向かう時に気性的な危うさもあったかもしれません」


-:フィリーズレビューでは1400に距離が延びましたね。

長:乗った感触と当初のイメージではマイルはどうか、という心配がありましたし、フィリーズレビューも1400は大丈夫かなという懸念もありましたね。実際、1200、1400と重賞を勝って、1回美浦に戻って桜花賞に向かう時に気性的な危うさもあったかもしれません。厩舎の人はどう感じていたかわかりませんが、3歳になって競馬に行くとかなりテンションが上がるようになっていたので。

-:しかも、1つ勝つまでに3戦使っていましたから、桜花賞に出ている馬の中では(桜花賞が8戦目で)数を使っていた方ですからね。

長:そうですね。

-:さすがに桜花賞では疲れがちょっとありましたか?

長:人気もしていたので、言い訳は出来ないですけど、僕の競馬の仕方も上手くいかなかったですから。

-:乗る方としてもかなりプレッシャーがありましたか?

長:いや、4番人気だったからプレッシャーはなかったですね。あまりそういうのはなかったのですが、上手くアプローチ出来なかったというか……。

-:いま思えば、具体的にここはこうしたかった、というポイントを教えていただけますか?

長:当時の(内回り)1600なので、やっぱり2コーナーのポジション取りがすごく難しいとは思っていました。それまでの過程でG1もそれほど数乗っていなかったですし、圧倒的に僕の経験値がなかったから、ああいう大敗(16着)をしたのだと思っていましたね。

長谷川元騎手が考える短距離の母系が走るワケとは?

-:桜花賞でも4番人気に支持されたダイワパッションですが、その産駒からG1馬が出ましたが、皐月賞のレースはご覧になっていましたか?

長:ええ、その前から藤原厩舎にいるのは知っていて、さすがに自分が乗って重賞を勝った馬だったのでお兄さん(ダイワインスパイアが2勝、ダイワフェームが1勝している)も見ていました。エポカドーロはすごく操作しやすそうですね。それは厩舎の努力もあるのでしょうし、良い子が出たな、という印象はあったんですけどね。

-:オルフェーヴル産駒というと、何かプチンと切れたら危ういようなところがありそうで、お母さんもちょっと気性の勝ったタイプとの組み合わせなのですが、実際は乗りやすそうというか、むしろオルフェ産駒の中ではお利口ではないかと思うのですが。

長:そうですね。けっこう馬格もあるし、競馬に行っていい気性なのだと思いましたね。お母さんもフォーティナイナーだったので、ちょっと気性が勝っている部分があって、激しいところもあったのですが、そういう部分を色々な環境を使って、上手く成長させているんだなと思いましたね。

エポカドーロ

▲皐月賞でも立ち回りの巧さをみせたエポカドーロ

-:お母さんも勝った中山でG1を勝ったというのは、やっぱり血統的なところがあるのですかね。

長:どうですかねぇ……?まだまだこれから東京でも使うでしょうし、色々な競馬場で使うでしょうけど、馬力はあると思うので陰ながら応援したいです。

-:やっぱり母譲りのオールマイティさをエポカドーロも持っていそうですか?

長:そうですね。オルフェーヴルの良いところが出ているのか、お母さんよりも距離適性は延びているでしょうし、お母さんも一番良い時はそれなりの自在性を持っている馬という感じはあったので、逃げないといけないとか、そう頭ごなしに乗るということは考えていなかったですね。

「JRAの施設もそうですし、育成技術や環境もすごく良くなってきて、スタミナ血統というよりは、やっぱりスピード血統の方が競走体系上、幅が多いので、そういう面では育成さんと厩舎の努力で、距離適性が少し変わってきてもおかしくないのかと思いますね」


-:キタサンブラックのお母さんも短距離のサクラバクシンオーで、ジャスタウェイもお母さんが短めなので、短距離に掛ける有名種牡馬というのは、G1馬を送り出すキーワードになるのでしょうか。

長:そうかもしれないですよね。JRAの施設もそうですし、育成技術や環境もすごく良くなってきて、スタミナ血統というよりは、やっぱりスピード血統の方が競走体系上、幅が多いので、そういう面では育成さんと厩舎の努力で、距離適性が少し変わってきてもおかしくないのかと思いますね。

-:「能力プラス人のアプローチ」でちょっと変わるということですね。

長:やっぱりスピード競馬ですからね。そういう意味では、変わってもおかしくないかなと思いますね。

-:(エポカドーロは)小倉まで輸送をして、その後中山で勝っている訳ですから、なかなか異例のローテーションですね。

長:輸送も含めてそうですけど、やっぱりタフな競馬はしていますね。

エポカドーロ

▲がっしりした馬格のエポカドーロ

-:日本のスピード競馬を考えると、けっこうヨーロッパ系の母馬も入ってきているじゃないですか。でも、アメリカ系のスピードというのは、やっぱり日本競馬に合うと思いますか?モッサリしているよりは。

長:合うんじゃないですかね。どうしても、やっぱり勝負処で動けるのが一番理想ですよね。スピード競馬の中でも、どれだけ前半息を整えて勝負処で、という競馬の方が多いと思うので、そういう面ではスピードを持ちつつ、スタミナも兼ね備えるという方がやっぱり成績は残しやすいのかと思いますけどね。

-:スピードがない馬が押して、押して、で付いていっても、息を入れるところがなくて、しんどいばっかりですからね。

長:そうですね。

-:長谷川助手自身、これからもエポカドーロを応援する立場ですね。

長:そうですね。立場もそうですし、何とか早く調教師になって、自分が関わってきた牝馬の子が担当出来たら良いなと思いますけどね。これからパッションの子が残っていってくれるというのが、僕としても嬉しいし、管理されていた増沢先生も厩舎の方や担当さんもすごく嬉しいことだと思うので。

-:ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンさんにとっても大きな勝利ですね。

長:そうですね。色々な馬主さんや生産者の方が活躍出来るように、僕も厩舎人の一員としても頑張っていかないといけないし、応援していきたいなと思いますね。

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