日高ゆかりのホースマンがエポカドーロと悲願のダービー制覇で故郷に錦を飾る
2018/5/20(日)
-:小倉を使って皐月賞ですから、なかなか珍しいローテーションですよね。
久:あの馬は本当にセンスがあると思いますね。賢いというか、レースセンスが抜群だなと思って。
-:あそこで折り合って、終いの1000mでもけっこう良い脚を使っているから、あれだけ圧勝している訳ですからね。
久:そうですね。能力は高いと思いますし、心臓も強いんでしょうね。
-:それに加えて、筋肉の良さもあるのですね。体型だけ見ると、マイルから2000までなのかなと感じてしまう部分はあります。
▲過去にはエイシンフラッシュを手がけ、ダービーを制した久保助手
久:そう感じますよ。ジョッキーの話では乗っていて、あれだけ我慢したり、そんなに力んで走ることもないから、全然(距離は)持つと思うのですけどね。いま練習しているのは、馬群の中に入るとどういう反応をするのかなと。普段歩いていても、馬がガタガタしたり、横に来たりすると、反応するのですよ。だから、それに慣らすために普段の調教でも角馬場でもわざと併走させたり、色々やっていますけどね。
-:他の馬に慣れるように、ですね。皐月賞でも2番手集団の先頭でしたし、スプリングSでは大逃げをした馬がいましたし、小倉では逃げ切りでしたしね。
久:まだ揉まれた経験がないですから、そこで平常心で走ることが出来ればというところですね。
-:ただ、スピードがあって、スッと良い位置が取れるし、スタートも速いですからね。左回りはどうでしょうか?
久:関係ないと思うのですけどね。まだ経験をしたことがないですけど、対応出来そうな気はしますけどね。普段は神経質だけど、コースが替わる点などはあんまり気にしないというか、調教場のコースなので何とも言えないですけど、火曜日と日曜日には(左回りで)スムーズに走っていますし、手前の替え方がぎこちないとかはないですよね。
-:右回りで乗っている時の手前の替え方は、かなりスムーズな印象があります。
久:そうですね。コースが替わりなどはあんまり心配の種になっていないと思いますけどね。ただ、あの馬は何だかんだ言いながら、やっぱり前に行くのでバテないのが分かっているから、目標にされて後ろに付かれるんでしょうし、そこでプレッシャーを掛けられて、どこまで我慢出来るかということでしょうね。
-:今回、ダノンプレミアムが出てくれるので、そちらをマークして欲しいですね。
久:そうですね。ダノンプレミアムの後ろに付ければ、絶対に垂れてくることはないから、安心して乗れるから、乗り役たちは色々考えているんじゃないですか。
-:そういう意味では枠も大きいですね。
久:そうですね。大きいですね。
-:10日間天気予報なので、アテにならないかもしれないですけど、いま見たら、来週は雨の可能性もありますね。
久:そうなのですか。逆に良いかもしれないですね。
-:蹄の形で言えば、重はこなせそうですか。
久:そうですね。これなら重でも大丈夫なのだろうな、という理想的な蹄の形をしていますね。
-:クラブ馬主であるヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンさんは初めてのクラシック制覇でしたからね。
久:そうですよ。それだけに何とかしたいです。やっぱりこうやって触らせてもらうのも何かの縁だと思うので(久保助手の実家は日高の井高牧場)。子供の頃、地元が静内で、たくさんの牧場がヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンさんに馬を預けていたからね。いつかはヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンさんの馬で大きいところを勝ちたいな、何とかあの人たちの夢を叶えたいなと思っていました。学生時代の同級生がみんな牧場を経営していまして、大体みんなヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンさんに入れていますから。「頼むから俺たちの夢を叶えてくれ」というLINEがすごく来るのですよ。「言われなくても分かっているよ」と。どこまで出来るか分からないけど、何とか必死になってやっているから、期待して観ていてくれと言っていますね。
-:ヒダカさんはダービー初出走らしいですが、久保さんにとっても故郷に錦を飾れたら良いですね。去年の暮れはダノンプレミアム一強みたいなムードでしたけど、皐月賞前にガラリと変わりましたね。
久:確かにあの馬は強いですけどね。面白いダービーになりそうですね。みんなそれぞれ持ち味を出して、東京の広い馬場ですから。
-:なるべく、この1週間は食わし込んで。馬の精神状態の安定にも繋がるでしょうしね。
久:とりあえずカイバをやるだけやって、残したらこれ以上いらないのかなという感じで、カイ食いは今すごく良いので、その辺はすごく助かるのですけどね。仮に、このまま行ってマイナス体重だったとしても、あんまり気にしていないというか。
-:食っている上で減る分に関しては気にしないということですね。
久:そうですね。
「正直、負けたとしても、大負けはしないと思うのですけどね。十分に勝ってもおかしくないくらいのモノを持っていると思うのですけどね……。今触っているウチの3歳の中では、やっぱりギベオンとエポカだけは体つきが抜けていますよね」
-:ジョッキーはスプリングSと皐月賞の時で、ガラッと変わったと言っていました。状態面の違いはあったのですか。
久:いつも傍から見ていたので、その辺の状態は分かっているつもりですが、全体的に体の形がややボテッと映るところが大人になってきたというか、成長力があるのでしょうね。まだまだ子供の体つきだったのですが、それでもあれだけ走れたのですから、やっぱり一戦毎に馬の形が大人になってきたというか、線がシッカリ見えてきたというか、形が決まって来たなとは思いますけどね。やっぱり競馬を経験しているから馬も分かっているので、調教の段階で強めていくと、体も対応してシッカリ締まってきて、自分でつくっていくというか、本当に賢い馬なのですよ。
正直、負けたとしても、大負けはしないと思うのですけどね。十分に勝ってもおかしくないくらいのモノを持っていると思うのですけどね……。僕らは当番になると全部脚元は触るのですが、今触っているウチの3歳の中では、やっぱりギベオンとエポカだけは体つきが抜けていますよね。でも、筋肉の質から言ったら、エポカの方が良いかもと思うほどですね。ギベオンは新馬の時に検疫に迎えに行って、最初の段階は僕がやっていたのですよ。
-:「エポカドーロは短距離血統だから……」と来週散々言われるんじゃないですか。お母さんのダイワパッションはどっちかと言うと一本調子のスピード馬でしたけど、エポカドーロは全然そんな感じじゃないですもんね。
久:そうですね。体つきを見ても、そういう感じですもんね。血統は分からないですね。息も乱れないから、やっぱり心臓が強いのでしょうね。
-:キタサンブラックも母系が短距離でしたよね。
久:あれも、(母父が)サクラバクシンオーですからね。
-:久保さんはエイシンフラッシュの担当として有名ですが、比べると、エポカドーロはどうですか?
久:またタイプが違いますね。でも、オルフェだなという感じはありますし、段々出してきましたね。最初の新馬の頃は目つきがノンビリして、ノホホンとして、先生と「オルフェにしてはメッチャ大人しいな」と言っていたのですけど、競馬をしていく毎にやっぱりやることがオルフェだなと。それこそNHKマイルCの時に同じオルフェーヴル産駒がひっくり返ったじゃないですか。あれは観ていて納得ですよ。こういうことをするのだろうなと。
あの馬もギリギリまで煮詰まったから、多分何かするんだろうなという雰囲気はメッチャ出しますからね。気を付けて、怒らせないようにした方が良いなと思ってやっていますけどね。扱っていたら、怒りたくなるときはありますけど、我慢してここはやるところじゃないと思って。
-:日高の牧場の人がコツコツやって、ようやくここまで持って来てくれたのを、最後にパッとジョッキーに渡すところでですからね。ロマンですね。
久:本当にそうですね。本当に勝って欲しいな。僕がエポカドーロをやっていることを言っていなかったのですけど、この間、たまたま実家の牧場から電話が掛かってきたのです。跡取りがいないので去年の春に牧場を辞めたのですが、「楽しみだから」と言って馬主だけはやっているんです。本当は僕が10年くらいここで修業をして、帰る予定だったのですけど、不景気だから個人牧場をしても、どこまで太刀打ち出来るか分からないし、先が見えないから「俺の代で辞めるから、もうお前はそっちで頑張れ」と言ってくれて。
それでも、繁殖牝馬は全部売ったのですけど、何頭か売れ残った馬もいるので、それはいまだに知り合いの牧場に預託してやっていますね。「ダービーに行くから」と言うから「今、エポカドーロを俺がやっているんだよ」と言うと「本当か!?」と。勝って一緒に写真を撮れたら最高だな。「それを目標に頑張るわ」と。
-:今年のダービーは混戦といわれていて、ファンもやきもきしているというか、よく分からなくなっている状況でしょうからね。
久:そうですね。ユニオンの広報の子も、「どうですか、どうですか」と言って、緊張していますね。僕は緊張しないのですけど、やっぱり責任が重たいから、ケガをさせずに、本番まで良い状態で行けるようにしか考えていないので。
-:最後に、ファンにメッセージをお願いします。
久:やっぱりユニオンの初めてのクラシック制覇となったので、何とかみんなの期待に応えられるように。馬もすごく良い状態で来ているので、期待して欲しいですね。
-:皐月賞がフロックじゃなかったというところを見せたいですね。
久:勝負出来ると思うので、フロックじゃなかったというところを見せたいですね。
-:会員さんも、クラブのバックボーンを知って、出資されている人も多いでしょうからね。それだけに期待する思いは強いかと。
久:そう思います。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【久保 敏也】 Toshiya Kubo
1971年3月生まれ。北海道出身。母方の実家は井高牧場を経営していて、幼少期から馬に携わる人生を送った。とはいえ、もともと競馬に興味がなかったが、高校卒業後、家族の勧めで厩務員課程を経て、オグリキャップが現役時代の瀬戸口勉厩舎に入り、10年間勤務。その後、山内研二厩舎でも10年間を経て、現在の藤原英昭厩舎に勤務。
瀬戸口厩舎では、ナリタブライアンと同期のマルカオーカン(ダービーでは7着)。山内厩舎でフィーユドゥレーヴ(函館2歳S)、レディバラード(TCK女王盃など、通算7勝)などを手掛けた。藤原英厩舎では2010年のダービーを制したエイシンフラッシュを手がけたことで著名。最近もトーセンバジルなどを担当している。