気運高まるダービー参戦 人事を尽くして天命を待つ ステイフーリッシュ
2018/5/21(月)
-:前回は、あれだけやれる手応えは感じていましたか?
藤:そこまではなかったですね……。共同通信杯は-12キロで競馬に行ったでしょ。帰ってきてもっと減っている訳じゃないですか。体重は量っていないからわからないですけど、牧場では体が戻ってこなくて……。本当は自己条件(500万)を1回使いたかったんだけど、そんな余裕もなかったですから。追い切りも最初は僕が乗って、それで佑介が2本乗って、3本追い切っただけなんですよ。
正直、調教量が足りないと思っていたけど、自信はなかったですね。この子に関してはあんまり期待しないようにしているから。あんまり期待を込めると、また人間が詰め込んで煩くなっちゃうから、ニュートラルで行こうかなと。この子には東京への輸送もキツいと思うから、当日は僕がこの馬を引っ張るのに一杯一杯だと思うんですよ。
-:現状では過度に期待を掛け過ぎずに、精神的にあんまりプレッシャーを掛け過ぎずに、ということですね。
藤:プレッシャーじゃないですけど、血統的にあまり煮詰めると良くないですからね。関係者にもこの子を信じてやらしてもらえているので、ありがたいなと思っていますね。
「お母さんの主戦だったんですよね。自分の形どうこうよりも、(馬の)性格を大事にしてくれるから、この子にとって、この人はベストなジョッキーなんじゃないのかなと」
-:母のカウアイレーンも活躍した馬なので、期待している人も多いと思います。
藤:たまたま空いていたからノリさんに決まったけど、ひょっとしたらベストな選択なんじゃないのかなと。お母さんの主戦だったんですよね。自分の形どうこうよりも、(馬の)性格を大事にしてくれるから、この子にとって、この人はベストなジョッキーなんじゃないのかなと。
-:横山典弘騎手が騎乗する来週の追い切りは、どれくらいのところになりそうですか?
藤:この間の京都新聞杯と同じくらいだと思うけど、あの時とは状態が違いますいから1ハロン0.5速くなるだけで、2秒変わる訳ですから、ちょっと速くなるかもしれませんね。それこそノリさん任せになると思うので、控えめにノリさん任せですね。
-:厩舎でノリさんが乗るのは久々じゃないでしょうか?
藤:7年振りですか。たまたま僕もトレセンでノリさんを見掛けたんですよ。「ノリさんが空いている」という話を知っていて、先生と2人で「ノリさんが良いかな」みたいな話をしていたら、たまたま社台の(吉田)照哉社長から先生に電話が掛かってきて「ノリで行く」と言われて。だから、何かそういう流れだったんじゃないかなと思うんですよ。
-:それが良い方向に向いてくれれば良いですね。
藤:名馬にもいっぱい乗っているから、この馬の評価を下してくれそうだし、本当に色々と楽しみしかないと思っているので。楽しみですね。
-:デビュー前の印象はどうだったのですか?
藤:デビュー前も走ると思いましたが、ここまでとは思わなかったですね。跳びが大きくて、大きいだけでは走らないこともあるんですよ。綺麗な回転で走るだけの馬というのがちょくちょくいますが、この子の場合は「回転が速くなったら、本当に走るだろうな」という話は雄太としていて、競馬に行ったら本当に走ったから。
こんなにすごいとは思わなかったけど、回転の素晴らしさはどことなく感じていましたね。それこそ、1歳、2歳の時は牧場で苦労していたみたいですが、トレセンに入りたての頃はまだ大丈夫で当時は乗りやすかったですね。決して優等生じゃないけど、これは走るだろうなという話はしていたんですけどね。-:この馬の距離適性はどのようなフィールドになってきそうですか?
藤:ある程度、中、長距離になってくるでしょうね。体は(距離適性的に)大丈夫だろうけど、この馬の気持ちが3000mは長くて嫌だと思ったら、2000~2400の王道の距離で良いんじゃないですかね。それこそ、この間、佑介が初めてああいう競馬をしてくれたし、今回もノリさんが乗ってくれて良い経験を積むと思うし、これからの経験でどの方向にも行けると思うから、これから次第ですね。暖かい目で見て欲しいですね。
ただ、馬はまだ完成していないので、もうちょっとシュッとした競走馬らしい体つきになると思うので。この馬の場合は一歩前で完成していないけど、体型的にはこのままでしょうから。あとちょっと背が伸びたら完成かなと思うんですけど、ほぼほぼこの形でしょうからね。
「跳びが綺麗な馬だから、坂路で下が悪いと、チップがそれを相殺しちゃうんだよね。だから、走りにくいだけなのであって。ポテンシャルと総合力は高い馬なので、この馬は完全に末脚タイプの馬だよね」
-:精神面の波を安定させる方が大事ですね。
藤:そうですね、そういった方が。かなり良い時計で走っているし、あとは、歳を重ねて衰えるまではこのままで良いんじゃないかなと思いますけどね。
-:先ほど跳びのお話もありましたが、そう考えると現状では、坂があるより平坦の方が良いですか?
藤:だって、中京で走っているから大丈夫でしょう。そういう細かいことは関係ないですよね。
-:雨が降ったら、ちょっと走り辛いですか。
藤:跳びが綺麗な馬だから、坂路で下が悪いと、チップがそれを相殺しちゃうんだよね。だから、走りにくいだけなのであって。ポテンシャルと総合力は高い馬なので、この馬は完全に末脚タイプの馬だよね。
-:京都新聞杯の藤岡佑介騎手は、過去のレース映像は絶対に観たであろうし、それを踏まえて自分が乗った中で解釈したということはすごいですね。
藤:僕は5~6番手が理想だったけど、口で言うのは簡単だから。頭の中にあるとしても、それは最悪であって、決して逃がしてくれとは思っていないから。結果論的に逃げても大丈夫じゃないかなというだけであって、実際にあの場で競馬に跨って、あの位置で楽に競馬をできた佑介は良かった。
-:初G1勝ちの機は熟していた訳ですね。
藤:うん、迷いがないでしょ。NHKマイルを観ても、迷いなくあの位置から行って、一心不乱に追っていたからね。
-:本人も「良い位置を取りたかった」と言っていましたからね。
藤:ホウオウドリームが御堂筋Sを勝った時は、ミルコ(デムーロ)が大阪杯を勝った前のレースだったんだけど、その流れで大阪杯も勝ったし、この馬は佑介の良い流れで勝ったし、競馬って良い時に良いジョッキーを乗せると、本当に研ぎ澄まされた良い感覚で乗ってくれるんですよね。ミルコがホウオウドリームに乗った時に「届かないと思ったけど、この馬はメチャクチャ走るよ」と。届かないと思っても、直線まで我慢してくれたミルコはあの週は良かったね。話は移りますが、ホウオウドリームが難しいのは1度放牧から帰ってくると、少し下がってしまう。前回(メトロポリタンS7着)はあんまりピリッとしなかったこともあるし。
「ダービーに向かえる馬なんて、ほぼいないじゃないですか。共同通信杯の時はもう終わった、ダメだというちょっとネガティブな流れだったから、それが転じてこのようなことになったのだから」
-:ステイフーリッシュに話が戻ると、あくまで馬の性格をケアすることと、肉体面をちゃんとつくって、コンディションを整えてあげて、競馬に関してはジョッキーに任せるということですね。
藤:若いジョッキーが乗ったら、一緒に作戦を考えてとか思うけど、ノリさんですから(笑)。「お願いします」と僕は観ているしかないから。ノリさんとこの馬のコンビを信じて観るしかないから。それだけのジョッキーだし、それだけの馬だと思うので。多分、ウチの先生でさえも、そういうつもりでいるだろうから。だから、人事を尽くして天命を待つしかないですね。もう待つしかないジョッキーに頼んでいるんだし。
-:この馬の馬名の意味が「常識に囚われるな」といった意味らしいですね。
藤:だから、全てをポジティブに受け取って、今回ノリさんでダービーに出ることは、この馬の運命だったと思って、そっちの方が良いですよね。レースに出る前からクヨクヨするんだったら、逆にそっちだと思って。
-:わずか4戦でダービーですからね。
藤:その割には取材が来ないけどね(苦笑)。本当に来週ダービーがあるのかな?と。それこそ空港に着いた韓流スター並みに新聞屋さんを連れて歩くんじゃないかと思ったけど、全然来ない。知り合いなど何人かは取材に来たので、その人には言っているけど。
-:今のところ、そういう「流れ」みたいなものを感じますか。
藤:だって、ダービーに向かえる馬なんて、ほぼいないじゃないですか。共同通信杯の時はもう終わった、ダメだというちょっとネガティブな流れだったから、それが転じてこのようなことになったのだから、これはラッキーでハッピーなことなんだなと思って、今はそういう感じでやっていますね。
-:今回は突然の取材でしたが、ありがとうございました!健闘を祈っています。
プロフィール
【藤田 俊介】Shunsuke Fujita
1975年11月17日生まれ、東京出身。山田泰誠騎手のメジロパーマーの阪神大賞典を観て、競馬の職業を志す。短大を出てから北海道の牧場に行って、2001年からトレセンで勤務。菅谷禎高厩舎在籍時に当時、厩舎スタッフだった矢作芳人調教師と知り合い、大久保龍志厩舎を経て、厩舎の開業と共に矢作厩舎へ。
仕事上のポリシーは厩舎スローガンでもある「良く稼ぎ、良く遊べ」。過去にはキャンディバローズ(ファンタジーS)、現在はホウオウドリームとステイフーリッシュを担当。ダービーデーは目黒記念と担当馬2頭出しになる。「これくらい良い馬を同時に2頭やることなんて、ほぼほぼ人生でないもんね」と意気込んでいる。