史上初障害通算2000回騎乗の林満明騎手 197勝+106度の落馬を経験した男のラストメッセージ
2018/7/8(日)
-:そんな中でも、最近ではアップトゥデイト(牡8、栗東・佐々晶厩舎)という馬が障害に入って活躍しましたね。
林:アップトゥデイトはトビのすごく綺麗な馬で、オジュウチョウサン(牡7、美浦・和田郎厩舎)と比べたら全然違うからね。オジュウなんかは危ない飛びをしているからね。
-:でも、そのオジュウチョウサンにはなかなか敵わないですけど、そこに立ち向かっていったのが林さんでしたね。
林:去年の暮れ(中山大障害)は良かったんだけど、今年の春(中山グランドジャンプ)は完敗でしたね。付いて来られて、ダメだったもんね。
-:ターゲットがアップトゥデイトしかないという乗り方でしたからね。障害の強さというのは、平地とは全然違うからこそ、平地で未勝利だった馬がオジュウチョウサンみたいになったりするのが魅力ですけど、それだけ求められるものが全然違う訳ですよね。
林:そうですね。でも、能力的には、平地で出し切れなかった隠れたものがあると思うんですよね。オジュウのお兄さんのケイアイチョウサンが平地の重賞(ラジオNIKKEI賞)を勝っている馬だから、血統的には素質は持っていて、それを平地の時代に開花出来なかった馬が障害に行って、上手く花が開いたと思うんですよ。
▲2015年の中山グランドジャンプをアップトゥデイトと勝利
-:そういう馬が花開く可能性があるところも障害の面白さですね。これまで32年間乗られてきて、色々な思い出があったと思うんですけど「平地が80勝だったので、100勝出来たら良かったのにな」と言われていましたが、平地の思い出から聞かせていただけますか。
林:オンワードレニエという馬が一番期待した馬だったんですけどね。松田博資さん(元調教師)のところにいて、地方から転厩してきて、芝で強い勝ち方をしましたね。ニッポーテイオーの時代に「勝てるかもしれんから、宝塚記念を使おう」ということになって、勝てていたら乗り役人生が変わっていたかもしれませんね。
-:その宝塚記念に出走出来たとしたら、林さんが乗る予定だったのですか?
林:その前のレースで強い勝ち方をして、使おうとしたら故障しちゃって、エビ(屈腱炎)になっちゃったのかな。それがもし無事だったら、また違った…。当時は20代前半の時でした。
-:競馬ブームが来るか、来ないかくらいの時ですね。応援してくれていた調教師さんたちがけっこう定年で引退されたんですけど、ファンの方が知っているところで、林さんが乗られていた厩舎を教えていただけますか。
林:坪憲章厩舎ですか。重賞は勝てなかったですけど、ウィッシュドリームとか、マキシマムプレイズやけっこうオープンで活躍してくれましたね。戸山厩舎から、坂田厩舎、庄野先生の親父さんのところとか、けっこう乗せてもらいましたね。
-:それだけのキャリアがあって、106回も落馬をして、今も何か後遺症が残っているのですか。
林:後遺症はやっぱり胸椎の破裂骨折が一番厳しいですね…。胸の上の胸椎ですね。破裂骨折で、そのまま固まったから何とか。ズレてて神経に当たっていたらもうダメですよ。だから、長い間、仰向けでは寝られない。苦しくなるから。痛くなるし、なるべく横向きで寝るように。
-:オフはどういう体のケアをされてここまで来たのですか。
林:いや、全然、していないですね。
-:トレセンのスタンドでお相撲さんみたいに柱を押しているのが林さんのイメージだったのですが、それも健康法ですか?
林:ああ~四股を踏んで、馬に乗る前の準備運動みたいな感じで。やっぱりルーティーンですね。
-:障害騎手・林満明と言えば、先行するのが持ち味でしたよね。
林:どっちかと言うと、そうかな。
-:それは乗りやすい馬だったら、展開利のあるところに嵌め込みやすいということですか。
林:前に行った方がレースはしやすいし、前で落ちたりだとか邪魔されることも少ないでしょ。
-:それは障害をとっても馬を守るというか、ケガなくレースが出来るというところにも繋がるということですね。
林:と思うんだけどね。レースを観ていてもケツから走るよりも、ケツになっても前に行っていた方が見せ場はつくれるのでね。
-:障害のコースはたすきになって、逆方向に行ったり、けっこう難しいじゃないですか。今までの経験で間違えたことはないですか。
林:さすがに間違えたことはないね。
-:けっこう、難しくないですか。
林:最初の頃は、昔の阪神の時に、これが最後だと思って飛んだら、もう1個残っていたことがあったけどね。昔の阪神はスタートが外側にあったから、今は内にあるけど、1回外に出していけないといけなかったから、難しかった。馬もバテててはいなかったけど、予想外に1個残っていて、ドキッとなったね。
-:最終障害を飛んでから、ゴールまで計って体力を計算しているのですか。
林:いや、そんなことはしていないね。やっぱり出して行くよね。
-:バテてゴールすることもあれば。
林:脚を残したなという場合もあるし。
「植野貴也みたいなラチぎりぎりを走るジョッキーとか、熊(沢重文)みたいに早めに仕掛けてくるとかね」
-:今までで一番悔しいレースを挙げるとすれば、ありますか?
林:2010年中山大障害のタマモグレアーかな。4100走ってハナ差負けでしたからね。3000mくらいで頭だったらね。4100m走ってハナ差だから、何とかならなかったかなと思って。
-:それは後で思い返せば、どこがどうだったとかいうのはあるのですか。
林:いや、思いつかないけどね。けっこう、キッチリ計られたみたいな感じだったね。相手が上というより、展開に恵まれた相手に負けた感じでしたね。
-:勝負の世界では一発勝負の怖さがありますね。
林:あるよね。
-:やっぱりレースに出走する前は、人気上位の出走馬を見ながら、脚質と自分の馬とを照らし合わせて組み立てるのですか。
林:一応、組み立てるけど、やっぱりゲートを出たら、また違った流れになっていくからね。行くと思った馬が行けない時もあるし。
-:このジョッキーだったら、たすきの内から突っ込んでくるなとか、そういうパターンはありますか。
林:だいたい分かるね。植野貴也みたいなラチぎりぎりを走るジョッキーとか、熊(沢重文)みたいに早めに仕掛けてくるとかね。
-:みんな癖があるから、それも障害競走の楽しみの一つですね。
林:やっぱり個性が出るよね。