スワーヴリチャード 左回りの2000mで舞台は整った ダービーの雪辱晴らす
2018/10/24(水)
現役最強馬の道へ-。再び頂点を目指すスワーヴリチャードがこの秋緒戦を迎える。春は大阪杯を常識外れのロングスパートで制すると、続く安田記念で初めてのマイルに対応。1分31秒台の好時計勝負の中で3着に食い込んだ。スピード、スタミナ、全てを兼ね備える日本屈指の実力馬が、名実共に最強の座を目指し、スタートを切る。
-:天皇賞・秋(G1)に挑むスワーヴリチャード(牡4、栗東・庄野厩舎)についてお聞かせください。前走、春の安田記念は残念ながら3着でしたね。戦前に、マイルの速いペースに付いていけるのかという懸念があったと思います。それまでのスワーヴリチャードのレースが、どちらかと言うとテンは遅かったと思います。末脚が切れると言っても、間に合うのかなと思いましたが、担当されている人から観て、あのスタートからのポジション取りというのはいかがでしたか。
久保淳調教助手:いや、良く走りましたよ。担当していたから言えるのだけど、行かせばなんぼでも行くから、ゲートから出てジョッキーが追っていけば、多分引っ掛かるくらいで行くのだろうなというのは頭にありました。しかし、まさか本当に引っ掛かるとは思わなかったですね。
-:でも、逆に言ったら、長距離のスローの中でしか走れない馬という感じではなくて、むしろあのペースでも前目に付けられるということですね。
久:どこまで対応できるかは分からなかったですけど、ミルコ(デムーロ)もゲートの練習をしていたから、前目には付けられるだろうとは思いましたけどね。
-:やっぱり慣れの差という面で、最後のゴール板でちょっと甘くなりましたかね。
久:あれは苦しくなったんだろうね。やっぱり引っ掛かっていったもんね。
▲普段からおっとりとした気性のスワーヴリチャードと担当の久保助手
-:時計も31秒台という速い決着でした。
久:速かったですね。レコードにコンマ1ですからね。そう考えても、よう走ったと。
-:スワーヴリチャードは、左回りはド得意と言われていますね。
久:どちらかと言えば左回りがいいでしょうけど、どちらでも苦しくなればモタれますね。安田記念の時でもモタれていましたから。
-:結局、あそこで右に右に、外へ外へ行くから、そこをモズアスコットが出てきた訳ですね。
久:(モズアスコットのクリストフ)ルメールが見ていて、突かれたんですよね。向こうは1200mでも勝つ短距離馬ですからね。
▲安田記念のゴール前 マイル戦初挑戦で3着だった
-:去年の夏を思い出すと、菊花賞を使わず、同世代から帰厩が遅れた経緯がありましたよね。
久:昨年は当初から「菊花賞は使わない」と言われていたから。でも、帰厩が遅れたと言えば遅れたのかな。今年は9月13に帰厩予定でしたから予定通りでしたよ。やはり牧場にいた感じで、緩さはありましたね。
-:そこからある程度1カ月時間を掛けて。ご自身がコースなり馬場で乗っているのですが、今のところ、どれくらいの仕上りですか?
久:天皇賞に向けて、ということでは、8割は来ているんじゃないかな。あとはキープするだけでしょうね。
-:昨日(10月18日)追い切りの感触を教えていただけますか。
久:見ていても良い感じでしたよね。ミルコが乗って、らしさが出ていましたね。「らしさ」とはちょっと頭の高い走り方ですね。
-:普段ご自分で乗られているから、客観的に見ることは少ないと思うのですが、あの馬に調教で乗っている時の感触というのは、どんな乗り心地なのですか。
久:乗り心地は背中も良いですね。まだトモの甘いところがあるのかと思いますけど、よく言うのが、オンとオフのスイッチがよく分かっているから、普通のところで走ろうと思ったら、ずっとオフのところで走ってくるし。
-:それは、普段の馬場1周をする時ですか。
久:そうそう。人間も楽ですね。
-:そうしたら、そんなにコミュニケーションを取るのが難しい馬ではないということですね。
久:そういうことはないですね。
▲写真は追い切り前日10月17日撮影
-:けっこうマッタリしているという感触を持っています。
久:普段からマッタリしていますね。歩かせなかったら、その辺で止まっているんとちゃうかな(笑)?
-:そういう馬が、府中の2000mというワンターンで、ある程度スピードもスタミナも求められるところに持っていくとなったら、仕上げておかないと対応できないのかなとも思います。
久:自分で勝手に体をつくってくれているみたいだね。こちらはそれほど考えていませんから……。
-:エサの調整という点では、どんなエサの組み合わせにしているのですか。
久:僕はエサを食べないと嫌だから、どんな手を使ってでも食べさせてやろうという考えがあります。もし、ちょっとでも残していたら、足してみたり、引いてみたり。こんな配合じゃないとか、エン麦の量がこうだ、配合がこっちの方が良いだとか、色々工夫をしますね。
-:それで体をつくっているということですね。
久:実勢は、体をつくっているという訳じゃないでしょうけど、馬自身がもう競馬と分かっているからね。
-:自分で走ると分かるけど、走る前はあまり食べたくないという。
久:だから、競馬ってみんな勝負カイバは少ないですからね。腹が減っている方が走るとみんな言うもんね。もともとカイ食いは良くて、追い切りをやるにつれて、カイ食いが良くなってくるけどね。
-:動いて新陳代謝も上がってくるということですね。帰厩した頃の見栄えと変わりましたか。
久:変わってきましたね。大阪杯当時とはそこまで差はないでしょうけど。でも、トモが目立っていた3歳時のほうがよく見える気もしますけどね。
-:背丈もちょっと伸びましたか。
久:背も伸びましたね。
-:だからそう見えるのかもしれないですね。
久:多分そうかもしれないですね。ダート馬をやることが多くて、どうしてもガシッとしている馬を見ていることが多いから、そう見えるのかもしれないですけどね。
-:厩舎の中での性格はどんな感じなのですか。
久:まだちょっと子供っぽいですね。立ち馬の撮影でも子供っぽいから、じゃれてきて立たないから(笑)。遊んでいますよ。
-:今回はどんな風な戦いになりそうですか。いつもコメントを見ていると「枠はどこでも」とおっしゃっている印象です。
久:枠はどこでも良いね。僕だけのことじゃないし、言っていられないもんね。今回はメンバーが強いよね。揃っているよね。
-:でも、春に大阪杯のタイトルを獲っていますからね。
久:やっぱりレイデオロともう1回やりたいなと、それは切に思っていました。
-:ご自身は、スワーヴリチャードは左回りの方が良い、右回りだったらちょっとマイナス要素などの見立てはありますか?
久:僕はないかな。どっちもプラスでなければマイナスでもないし、楽に競馬してくれればどっちも何もない。苦しくなればどっちでもやると思う。東京スポーツ杯2歳Sの時も若さはあっただろうけど、右に行ったり、左に行ったりしていたから。この夏を越えて、その辺がどれだけ成長しているかですね。
-:となると、やっぱり折り合いがちゃんとつくか、ですね。
久:折り合いは大丈夫じゃないかな。昨日、ミルコも「ものすごく折り合いがつく」と言っていたから。だから、帰ってきて引っ掛かるのかなと思ったけど、安田記念を使った後でも今まで通り折り合いはつくからね。その辺は心配していないですね。 プラスで考えたら、ゲートも出てくれるんじゃないかと。どうなるか分からんけど……(笑)。
-:引っ掛かる、引っ掛からないというのは1枠1番じゃなくて、もうちょっと外の真ん中辺だったら、もうちょっと馬のストレス的に折り合いがつきやすいというのがあるかもしれないですね。
久:それはあるかもしれないですね。
-:あの窮屈したあたりが。
久:嫌なのかもしれないですね。普段の攻め馬はギュウギュウになっていても、何の反応もしないですけどね。なんぼ抜かれていっても、我関せず、で走っていますけどね。
-:そういうところがケガをせずに来られているところですかね。
久:そういうところと違うかな。この間の水曜日でも、坂路を一番で登ってきて、速いところがけっこう来たけど、何も気にしていなかったからね。
-:それは乗っていて頼もしいものですか、もうちょっと手応えが欲しい感じですか。
久:これでOKですね。手応えはあるんですよ。でも、それほど気にしていなかったから。グッと来ているんですけど、カッとはならないですから。首を上げてしまうと怖いんですけど、グッと来ている分には。
-:体力があって、余裕があるということでしょうね。強敵相手にどれだけやれるかというのは。
久:ここは楽しみというか、一つの試金石という感じですかね。
-:それでも仕事はマイペースですね。
久:何もかもがマイペースで行かないと。変えることが分からないし、同じことをやっておけば。
-:これまで走ってきて良い時もあったでしょうし、もう一つの時もあったと思うんですけど、パドックではこういう時が良いよ、という傾向があったら教えて欲しいのですが。
久:リチャードに関しては、やっぱりパドックでちょっとボケッと歩いている方が良いかな。安田記念の時は残り3~4周の時にカッとハミを噛みだして、あんまり良くないかと思ったら、やっぱり噛んで引っ掛かったもんね。リチャードは1~2周回ったら、何か飽きてきてダラッと歩き出すんですよ。そういう方が良いかな。
-:ファンからしたら、もうちょっと……。
久:気合いが欲しいなと思うくらいの方がいいですね。さっきも言ったオンとオフで、スイッチがオフなんだと思います。
-:パドックはオフで良いということですね。
久:ジョッキーが跨って、少々オンになれば。跨っても、そこまでオンにならないからね。
-:そこは個々で注意深く見て欲しいところですね。あとは体重の変化なのですが、今はどんなものですか。
久:今が524キロで、東京に持っていくと大体10キロ減りますから、514キロですか。ただ、この間の安田記念とダービーの時が20キロ減ったんですよ。ここが思い当たるフシがないんですよ。安田記念も大阪杯と同じくらいでいけると思ったら、506になっていましたからね。それが怖いなと。
-:今から20キロ減ったら。
久:504キロになるし、それじゃ安田記念より細くなっちゃいますからね。時季的なものもあるのかもしれないですけど、ダービーと安田記念は5月の終わりから6月の頭で同じ時季ですからねえ。
-:来週の木曜日に量る馬体重から10キロ減なのか、20キロ減なのかというのは、そこは10キロ寄りの方が良いということですね。
久:そうです。だから、ダービーも安田記念も2着、3着で大崩れはしていないんだけど、10キロの方が良いですね。
-:例えば、調教後の馬体重から-10キロだったら、精神的にも落ち着いていて、折り合いも付きやすい、といったこともあるかもしれないですね。
久:そうかもしれないですね。でも、ダービーの時は引っ掛かっている訳でもなく、あれは負けて強しの競馬でしたからね。
-:そのレイデオロと雌雄を決する訳ですが。
久:成長分もあっただろうし、向こうはさらにまた成長しているかもしれないけど。あれが、もしかしたらリチャードの20キロ減がなければ……。
▲昨年のダービーのリベンジとなるか
-:502キロで出したかったけど、492になったということですね。
久:そういうことだったと思いますね。だから、最後に持たなくて、差し切れなかったんだと思いますね。
-:けっこう、10キロなのか20キロなのかというのは、この馬にとっては結果を左右しそうな感じですね。
久:そうと思います。アルゼンチン共和国杯が502キロで、共同通信杯が500キロで、僕の中では10キロか20キロかというのは…。
-:時季的に考えると、アルゼンチン共和国杯と近いから、一緒くらいしか違わないのかなと。だから、-10キロくらいの輸送で行けるのかなと。
久:行けると思うんだけど、それが精神的に来ているものだったら、やっぱり20キロになる可能性があるから、季節的なものだったら10キロで済むかもしれないけど。
-:そこの馬体重の発表と当日の目方は気にした方が良いかもしれませんね。
久:なった方が良いかもしれませんね。
-:それとパドックを注目して。
久:パドックは大人しくて、暴れる訳じゃないんだけど、カッカしているかしていないか。僕が引っ張っているような感じかな。引っ張るほどではないんだけどね。今から競馬か?という感じでちょうど良いんじゃないかな。
-:すごいですね。そういうマッタリしたところがありながら、嫌々走る訳でもなくて、そしたらやろかと切り替わるという。
久:ジョッキーが跨れば、気が入るという。
-:「やれば出来る子」じゃなくて、「最初から出来る子」なんですね。
久:そうそう、最初から出来るんです。
-:最後にスワーヴリチャードを応援しているファンにメッセージをいただけますか。
久:頑張りますのでよろしくお願います。普段通りにやります。何も変わらずやります。
-:この後のローテーションとしては、ジャパンCは決まりということですか。
久:一応、ジャパンCまでは決まっているみたいですね。そこからどうするかは流動的ですね。
-:有馬記念もリベンジしたい一戦でしょうからね。
久:したいですね。あれも枠(14番)でしたからね。それはスタートしてカーブとなれば、外と内とでは全然違いますからね。
-:忙しいところ、長々とありがとうございました。
プロフィール
【久保 淳】Jun Kubo
俗にいう「トレ子」で、身内に競馬関係者が多数という家庭に生まれる。当初は競馬界をむしろ嫌っていたほどだが、結果的に18歳の頃から北海道の白井牧場で勤務し、20歳の時にトレセンへ。宇田明彦厩舎から所属すると、幾つかの厩舎を経て、現在の庄野靖志厩舎に。2011年から持ち乗り助手になったが、それまでは攻め専を務めていたこともあり、初心に帰って飼い葉の知識から学び直したという。仕事上で心がけていることは「平常心。走るから仕事を変えようとか、走らないから手を抜こうとか、そういうことはせずに、とりあえず同じように平常心ですることですね」と語る。それだけにG1馬だからといって特別な扱いをせず、大きなレースでも緊張しすぎることもないという。