復権の時来たる。昨年、菊花賞を制しながら、飛躍が期待された今年の上半期は苦戦が続いたキセキ。しかし、今秋の2戦はいずれも中身の濃いレースをみせ、連続3着。復調をアピールすると共に、新たな一面もみせた。今回のジャパンカップも天皇賞(秋)と甲乙つけがたい好メンバーが揃ったが、大一番での逆転となるか。その可能性を陣営に語ってもらった。

天皇賞(秋)前のインタビューはコチラ⇒

逃げて3着 収穫大の天皇賞

-:ジャパンC(G1)に挑むキセキ(牡4、栗東・中竹厩舎)について、前走の天皇賞(秋)に続いて担当の清山助手に伺います。天皇賞は3着という結果でしたが、レースを振り返っていただけますでしょうか。

清山宏明調教助手:状態は、デビュー戦以来、一番といえるほどの手応えを持っていました。調教の動きにしても、普段の仕草にしても、馬体を見ても、非常に手応えを感じられる状態で出走できたと思います。

キセキ

▲天皇賞に続いてインタビューに応じてくれたキセキ担当の清山助手

結果は3着でしたが、メンバー構成を考えてゆっくり構えるより行った方が良かったと思います。前走の毎日王冠を踏まえて、もっと攻めていけるという手応えをジョッキーとも話していました。もっとも先行するであろうと思っていたダンビュライトが直前で競走除外になったので、ジョッキーが切り替えてくれたんですけどね。それでも、道中で緩急のないタイトなペース判断で、自分で流れを作りながら非常に強い内容だったと思うんですよね。スピードもあって、なおかつ力もあるということが実証出来たと思います。負けたことは悔しかったですけど、キセキが本当に強いということを実証してくれたレースになりましたね。

-:1Fごとのペースをみると、12秒台が最初と最後だけという全く緩まないレースだったので、差し込み辛いとは思うのですが、逃げる馬にとっても楽ではない流れでした。終わってから改めてみても強い競馬だと思いました。

清:それを交わしてきた馬たちはもちろん強いと思うのですが、やはり前に目標のない展開を自分で作ったこと、初めての戦法だったこと、それもG1で、これ以上ないメンバーが揃った中でのパフォーマンスを考えると内容があったと思います。

-:先ほど「戦前にジョッキーと打ち合わせをしていた」ということでしたけど、逃げる選択肢が最初からあったということなのですね。

清:ありました。「もし、どの馬も控えるなら、自分で主導権を取っても良いですか」と。ですから僕は「自分で判断して、自分の感触で自信を持って乗ってくれ」と伝えました。前回の毎日王冠でキセキの感触を掴んでくれたのが大きいですね。今度はジョッキーも3戦目になりますし、またジョッキーに自信を持って乗ってもらえる状態を目指します。

キセキ

▲前半5F通過こそ59.4秒だったが、後半もペースを緩ませず逃げたキセキ

-:キセキには川田騎手があっているんですね。

清:将雅が去年のすみれS(3着)で乗って、自分の中で感じた部分はあったと思います。毎日王冠で乗った時に、1番枠が当たったということもチャンスだったと思うんですよ。戦法を切り替える時期と、将雅が攻めの姿勢で乗ってくれる、色々な場面で競馬の神様からのプレゼントだったと思うので。そこでジョッキーが、これまでより前に付けてくれた。それが次の天皇賞(秋)にもつながっているし、天皇賞(秋)の結果がまたJCにも結び付くと思うんですよ。

-:多少、強引にハナを奪った感じに見えました。

清:あれくらいの強い気持ちを持って主張して欲しいですよ。ジョッキーじゃないと分からないと思いますけど、制裁が付くか、付かないかギリギリのところですけどね。

-:気性的に懸念される部分もまだあるかと思いますが、今回は距離も400m延びますね。

清:前回の天皇賞の馬場入場の前に、将雅と「一番パフォーマンスが発揮出来る距離というのは、天皇賞(秋)の距離からJCや有馬記念くらいでしょうね」という話をしていました。感触的には2人で合っていましたし、キセキが力を発揮できる舞台にあるということは、お互い確認出来ています。

激走の疲れも回復 前向きな気性と向き合い日々の鍛錬を

-:気になる前走後の状態はいかがでしょうか。

清:やっぱりレース後の疲労感は確かにありました。回復までちょっと時間を食うのかなと数日間は様子を見ていました。しかし、こちらが思うよりも回復のスピードが早かったですね。体もみるみる膨らんできて、ありがたいことに回復は早かったですね。調教で跨った時も、筋肉の硬さは多少ありましたけど、それはレース後に調教を再開したら、どの馬にも見られるくらいの硬さでした。雰囲気も変わらなかったので、逆にこれならと自信が持てる状況までもっていけそうです。JCに向けての調整メニューを厩舎のスタッフと相談しながら、しっかり調整しています。

-:おそらくファンの中には、前回の競馬での反動を気にする人も多いかと思います。そこは伺いたいと思っていました。

清:こちらが思うよりも心配が杞憂に終わる感じですよ。よくぞここまで来られたな、というのが正直なところです。あれだけの大舞台のレースを経験して、またしっかりと次のJCに、前を向いていける。キセキには感謝しかありません。本当にこの子に教えられること、また助けてもらうこと、そこでありがたい経験をさせてもらっている今なんです。ファンの方、同様に僕も心配することはたくさんありますよ。でも、そういうものを全て良い方向に持っていってくれているのがキセキなんです。

キセキ

▲1週前追い切りを行うキセキ

-:先ほど話題にも挙がっていた、同じ種牡馬のダンビュライトが気の悪さをこのところ見せてしまっています。キセキも春は気性面の課題をみせることもありましたが、ルーラーシップの血統で、そういう傾向を感じる部分はありますか。

清:ありますよ。もともと悍性(かんせい)がキツいところはあります。裏を返せば、生真面目過ぎる。他社さんを含め、キセキの取材を受けさせてもらっていて、いつも言うのですが、本当に真面目過ぎるんです。能力を持っているが故の悩みなんです。気持ちが強くなり過ぎるところがあるので、コントロール出来ない状態になる可能性を持っているところはありますね。ですから、そうならないように気を使いながら接しています。

-:そういう昂る部分と危なっかしい部分を兼ね備えているという、一歩間違えれば。

清:本当にそうなんですよ。鍵の掛け方を間違えれば、とんでもない方向に行っちゃうし、かと言って、不安に思っていたら、やっぱり掛かっている方に行きやすいんですよ。ギアがちゃんと入っているか、恐る恐るやっていたら、外れやすいじゃないですか。そこは、ちゃんと勇気を持って掛かっているかを確認して、その次に行くことが大切なんです。

-:ルーラーシップを現役時代から知っているからこそですね。

清:ベテランも多いですし、そういう繊細な部分を経験しているスタッフがたくさんいます。僕の知識だけではなく、助けられていることもありますね。

キセキ

-:今回JCに挑むにあたっての課題や懸念点を挙げると、どんなところになりますか?

清:まず課題を挙げ始めるとキリがないですね(笑)。キセキが本当に良い状態でレースを迎えられることだけを考えるようにしています。僕がそこまで気持ちを入れ過ぎないように、足元を見失わないようにして、と思いながら過ごしています。色々なことを考えて不安に思ってしまうと、あれもしなきゃ、これもしなきゃ、と考えてしまうのでシンプルイズベストでキセキの状態だけを考えています。

-:その境地に行くまでに、色々経験があって、そうやってシンプル思考になれたんですか。

清:若い頃は騎手として競馬に乗せてもらっていました、騎手を引退してからの色々な経験をしました。角居厩舎に入って、もう10年になります。G1ホースを見ながら、そういう経験も今にすごく活きていると思います。他の担当者のG1に向かう立ち居振る舞いなども間近で見れていた訳ですからね。それを疑似体験出来たのは、今に活きていると思うんですけどね。

掴んだ本格化の手応え

-:天皇賞(秋)の時は、上がってきてから川田騎手からの言葉はありましたか。

清:「1人の時間が長かったからな…」と言っていました。

-:集中力的にはもうちょっとほかの馬に来て欲しかったということですか。

清:やっぱり逃げたのは初めてでしたからね。

-:アエロリットを行かせた2番手だった、毎日王冠みたいな方が良かったのでしょうか。

清:多分、その方がやっぱり脚も溜まるし、リズムも作りやすいですよね。

-:その点、今回は速いかどうかは別として、行くには行く馬がいますからね。逆に毎日王冠でも行ったらどうだったでしょうか。

清:でも、それはやっぱり怖いでしょうね。だから、天皇賞(秋)でも行かして2回続いているから、今回はゲートからスムーズに行けるはず。逆にそこで出す合図を送らないから、スムーズな形で自分のリズムの状態で、3頭が行ったところの後ろで行けるから、ケンカしない状態でスムーズな形でそこに行ける訳だから、そうすると本当にリズム良く回って来られるから、天皇賞(秋)とは違う、道中のプレッシャーといいますか、ストレスがないですね。

「本当に軌道に入ってきたという感覚は、僕の中ではあるんですけどね」


-:前回も伺いましたが、昨年は菊花賞を制して、香港ヴァーズに挑まれました。現地でも調教を観させていただいて、まさかああいう負け方をするとは思いませんでした。この秋は3戦目となりますが、当時とはまた違った形で挑めていますね。

清:今思えば、当時はやっぱり上辺だけで見ていたのでしょうね。しかし、キセキの持っている雰囲気がそう思わせるんです。身体能力というか、回復能力が高いので、ダメージがあっても、そこまでダメージがあるように見せない。見た目では計り知れない部分があるんです。香港ではレースが終わって、やっとそういうのがハッキリしてきましたね…。

香港ヴァーズも勝ってしまうのではないか、と思っていたのですがレース後、おかしいなと思ったら、やっぱり心肺機能にダメージが残っていました。今思えば、あの日程ではしんどかったのかなと。菊花賞の距離をまともに走り切った馬がすぐに回復するのはなかなか難しいですからね。それを乗り越えて来た馬というのは最終的にはG1を再び獲ることもあるのではないでしょうか。

-:色々な経験をして時間はかかりましたが本格化は近そうですね。

清:本当に軌道に入ってきたという感覚は、僕の中ではあるんですけどね。

キセキ

-:父のルーラーシップといえばゲートで出遅れる時の姿勢がすごかったですからね。

清:そうそう。本当にね。

-:ルーラーシップは人の嫌がることが分かるのですかね。

清:何かそういう風に思いたくなる感じでしたもんね。本当にそれくらい賢いんじゃないかと思うくらいでした(笑)。

-:一筋縄ではいかないところもありますが、種牡馬としては面白い存在ですね。

清:本当にそうですね。サンデーが全然入っていないから。今でこそロードカナロアの方がキングカメハメハの後継者種牡馬としてクローズアップされているし、来年にはドゥラメンテも出てくるから、うかうかしていられないでしょうが。

-:馬は一気に気温が低下してきたら、ウォーミングアップでの筋肉の冷やし方も違うじゃないですか。この変わり目は時季的に難しくないですか。

清:正直、難しいです。特にそういう硬くなる馬、またはそうちゃんと意識して調教してもらえていない馬は、人との意識の差が出てきますね。ルーラーの可動域じゃないけど、少しでもそういう可動域を広げられるように意識して、そういうウォーミングアップという意図をちゃんと、最初はゆっくりでも少しずつ暖まったことを確認しながら、もっともっと可動域を広げて、もっともっと暖めてあげることを意識して毎日やっている人と、そうじゃなくて、ただダラダラと時間で動かされている馬とでは歴然ですよね。普通の常歩で可動域を広げられないのは、何かやらないと出来ないですよね。

-:最後に一年ぶりの勝利を期待するファンも多いと思いますので、ファンに向けてのメッセージをいただけますか。

清:菊花賞からキセキを応援してくれている方々はたくさんいたと思うのですが、天皇賞(秋)までの間になかなか期待通りに結果が出せませんでした。天皇賞(秋)の走りで、やっぱりキセキを応援してきて良かったと思ってもらえたのではないでしょうか。毎日王冠から天皇賞(秋)で経験してきた攻める競馬。今の日本競馬の中で素晴らしいメンバーが揃っている今回のJC。そこで勝てる競馬を目指しているキセキを応援していただけるとありがたいです。

-:今回もありがとうございました。

キセキ