オメガパフューム 年始デビューからダートの最高峰へ 若きトレーナーが送り出す新星
2018/11/27(火)
新進気鋭の勢いでG1獲りへ。今年1月にデビューすると、強敵相手に勝ち進み、シリウスSでは重賞初勝利を挙げたオメガパフューム。管理するのは今年3月から厩舎を開業、かつてはロードカナロアの育成にも携わった(元調教助手の)安田翔伍調教師。若きトレーナーとまだキャリアの浅いパートナーはダートの大一番でどんな走りをみせつけるのか。その勢いに注目だ。
-:チャンピオンズC(G1)に挑むオメガパフューム(牡3、栗東・安田翔厩舎)ですが、年明けのデビューから8戦目でここまで辿り着きましたね。まず、この馬との出会いから教えていただけますか。
安田翔伍調教師:よろしくお願いします。この馬とは調教師試験に受かって、昨年の4月に社台ファームで出会っているんですよ。トレセンに入ってくる過程を学びたくて、色々と勉強させていただいている時に乗せてもらいました。ちょうど千葉セリに上場する馬が入っている厩舎で勉強させてもらっていたんですよね。当時はここまでの成績になるとは分からなかったのですが、僕が好きな走りはしていました。
-:それでオーナーに買っていただいたのですか。
安:いや、2歳馬だったので僕はまだ厩舎の貸し付けは受けていませんでした。この馬を任せていただくことはないなと思っていました。純粋に勉強させてもらった馬たちが千葉セリでどういう評価をされるのか見たかったです。それで会場に足を運んでいました。原(禮子)オーナーにお会いして挨拶をした時に、僕が社台ファームで千葉セリの厩舎にいたことをご存じだったので「どの馬が好きだった?」と聞かれて、僕は「上場番号1番の馬の走り方が一番印象に残っています」という話をさせていただきました。それがスウェプトオーヴァーボード×オメガフレグランス、つまりこの馬だったんですけどね。
▲シリウスSの口取り(オメガパフューム左が安田師、その左が原オーナー)
-:1500万円という値段でここまで走るというのは想像以上でしたか。
安:男馬にしてはもうちょっとボリュームが欲しいなと思っていましたが、乗った感触を知っているので納得できましたよ。見た目だけの評価だったら、もう少し手頃な値段で落札できたと思っていました。それでも1500万円までいったんですけどね。
-:新馬戦は安田隆行厩舎所属としてデビュー。実際に新馬、500万と見られてどうでしたか。
安:やらせていただく以上は万全な状態で、と思っていました、良い走りはするのですが、急がせたら良いモノが崩れかねないタイプの馬だともみていました。オーナーにも理解していただいて、セリが終わってすぐに北海道に戻しました。それで10月にようやくゲート試験を受かりました。だいぶ良くなってきたのですが、安田隆行さんにも責任があるので中途半端な状態で出走させる訳にはいかないですからね。ゲート受かった時のダメージを考えたら、もうちょっと回復させて、ゲートを受ける課題とレースに向けての調整は分割させてあげた方が良いのかなと。それでまた放牧に出させていただいて、暮れに厩舎に入って、1月の新馬を目標にしました。原オーナーには馬の成長についてもすごく我慢して待って下さったと思います。
-:同じ世代の馬たちはほとんどデビューした後ですからね。
安:こちらが求めているような変化でその都度、戻ってきてくれたので。そんなに目立った時計が出る馬ではなく、どちらかと言うと動かないくらいなのですけど心臓が良いですね。初めてのCWの追い切りでは、目一杯ではないけど彼なりのトップスピードを維持する能力がすごいという印象が残っています。
-:デビューしてからの戦績を見ると、いつも安定していますね。
安:そうですね。普通は昇級してから、克服しなければならない壁というのがあります。でもレースの後に“次はこういうことを克服して欲しいな”と思っていることを克服してくれていますね。
▲セリ当時のオメガパフューム 今とは毛色も違ってみえる
-:今回またルヴァンスレーヴとあたる訳ですが、ジャパンダートダービーで戦った時の4コーナーから直線での反応は、他のレースよりも鈍かったのかなと思います。
安:それまでのレースが全部自分のペースで動けていたのに対して、初めて周りのペースアップに対応しなければならないレースだったので、そういう戸惑いもあったと思います。
-:ただ、一瞬外からドンフォルティスに交わされて内にもまだ馬が粘っていました。そこで諦める馬がほとんどだと思うんですが、あそこから伸びましたね。
安:僕のイメージで彼を想像したら、そこまで競馬の数を使っていないというのが良い方向に出たのかなというのと、やっぱりストライドが大きいので、そのリズムが崩れにくい走りなのかなと。交わされて心が折れたとしても、惰性に近いリズムで走っているから、急に減速しようにも出来ないし、本当に同じペースで走れるという彼の走りが、ああいう盛り返した2着になったのかなと思いますね。
-:普通ああいうパターンだと、そのレースで2着になっても、その後に…。
安:そうなんですよ。その後のケアというのはしっかり気を付けないと、と思い、すぐに山元トレセンに出しました。まず気持ちを競馬からリセットさせてあげたいということで、そのまま大井から放牧に出させていただきました。帰ってきてからも心配していたのが良い誤算で、普段の仕草にもドッシリ感が出てきたんですよ。一概にそれがキッカケとは言えないですけど、馬自身がそういう厳しいレースに対して心が折れるよりも、しっかり乗り越えてくれるタイプの子なのだろうということは思います。
▲2着に好走したジャパンダートダービー
-:それがしっかりとシリウスSにも繋がったということですね。
安:そうですね。シリウスSは今までやらないといけないと思っていた競馬で結果を出せたので、今後に向けて自信になったレースでしたね。
-:それを詳しく説明していただくと、どういう感じですか。
安:古馬のオープンとの初めてのレースで、今までの外を回って脚を使う競馬では通用しないレースレベルになってきているので。よりロスなく、なおかつリズムを崩さない走りをさせないといけませんでした。馬群の中に入れるというのも、彼自身が覚えて経験しないといけないことですから。調教では追い切りでも砂をかけても何ともなかったのですが、やっぱり競馬では砂だけじゃなくて、周りのプレッシャーもありますから。
-:最後、ウェスタールンドが凄い脚で追い込んできましたけどね。
安:ずっとウェスタールンドを見ていたんですよ。3コーナー過ぎから(北村)友一がどういう競馬をするのかなと。本当にパフュームとウェスタールンドだけを見ていて、ウェスタールンドが後ろで唸っていたんですよ。こうなったら怖い乗り方をするジョッキーだから、パフュームが思った以上に早く抜け出したというのも不安の一つにもなったし、“うわっ、やっぱりウェスタールンドが来た”と思って。それでも何とか凌いでくれましたけどね。
▲シリウスSのゴール前
-:ちょっとヒヤッとする伸びでしたね。
安:和田(竜二)さんに聞いても「馬場が渋っていて、行く馬も多かった中で、けっこうペースが遅かった」らしいんですよね。「前のサンライズソアにもそんなにプレッシャーが掛かっている感じがしなかったから、早めに動かないとちょっと競馬にならないと思っていったら、思った以上に早く抜け出しちゃった」らしいんですよ。それはサンライズソアの休み明けなどの諸条件が重なってのことかもしれないですけど「早めに抜けだして、もともと左に張るところがあるのが、遊んで右ラチの方に寄ろうとしたり、やっぱりちょっと遊んじゃった」という話はしていましたね。
-:いま言っていた「若干、左に張る」というところは、右回りのコーナーでもそういう仕草が目立つのですか。
安:前走は特に目立ったのですが、それまでは3コーナーまで抱えながらのペースアップで来ているのが、前走は残り1000を切ったら、急に持つところがなくなって、抱えられない状態になってしまったというのがあるんですよね。そうなったら、普段の調教でも抱えて良いリズムをつくれる馬が馬任せのバランスで走って、合図を出したら行っちゃうところがあるのですが、それがモロに出た感じですね。
-:ある程度、コーナーでは手綱を持っていられるくらいの展開が理想と言うことですか。
安:理想ですけどそれも克服しないと。それが好走条件だったら、このレベルでは走っていけません。今はドンドン課題が見つかる方が、この馬がレベルアップするには必要かなと思っています。
-:いわゆる古馬のダート馬と対戦するとなった時に、体つきもダート馬というルックスではないですよね。
安:僕はもともとそんなに体を求めないです。どちらかと言うと、芝、ダートを問わず、大きい馬がダメという訳ではないのですが、どれだけ馬格があってストライドが小さい馬よりも、400キロくらいでストライドの大きい馬の方が競走には向いているとは思うので馬格はそこまで気にしないですね。