サートゥルナーリア 2戦ともノーステッキで楽勝 大器の通過点
2018/12/27(木)
かつて多くの優駿が育った、日本を代表するトップステーブルで、『天性の素質を持つ』と評される2歳馬がいる。サートゥルナーリア。数々の名馬に跨ったスタッフに絶賛される素質。母はオークス馬。ジャパンCを勝った兄と、キラ星のような血統構成。次代の日本競馬を引っ張るスターホース候補の素顔、可能性に迫る。
-:ホープフルS(G1)に出走するサートゥルナーリア(牡2、栗東・中竹厩舎)についてお聞きします。なかなかすごい馬に当たった感じですね?
吉岡辰弥調教師:そうですね。入厩前からすごく期待していた血統でしょうしね。
-:母シーザリオと言ったら、やっぱりエピファネイアとかリオンディーズとか、走る馬が出てくるんですけど、全部の子が走っているという訳ではないですよね?
吉:そうですね。その中でも、入厩した時から体も良かったですし、能力が高いことは牧場にいる頃から分かっていたと思いますけどね。
2019年度・新規調教師免許試験に合格した吉岡辰弥調教師
-:新馬前に入厩して、調教を進めていく中で、ゲートの練習であったり、坂路に上ったりだとか、そういう所で何か違うなというのは感じられましたか?
吉:同じ歳の同じ時期に比べると、やっぱり半年から1年は先に行っている感じがありますね。完成度というか、体の体幹の強さとか、そういうのは初めから見せている感じはありましたね。
-:やっぱりバネが強いということですか?
吉:そうですね。元々、バネが強い馬はいると思うんですけど、それが強くても、まだ緩い2歳というと、初めはブレると思うんですけど、そのブレが少ないというか…。
-:太い芯が通っている感じですか?
吉:それが体幹だと思うんですけど、そのバネを真っ直ぐ使えるだけの身体能力がありますね。
-:それは天性のモノですか?
吉:そうだと思います。
-:実際に調教のペースを上げて、ラップが速くなっていくにしたがっての変化というのはありましたか?
吉:乗っていると、やっぱり体感よりも時計が速くなってくるというのがありますね。追い切りなんかでも、ウチでは普通70-40で回ってくるんですけど、乗っているとすごく遅く感じましたね。それだけ馬に余裕があるというか、他の馬よりも時計一つぐらい遅く感じる感覚ですかね。
-:それだけ余裕があるということですね?
吉:そうですね。
-:跳びもユッタリしていますか?
吉:大きいですね。
-:乗っている時のクッションというか、乗り心地はいかがですか。キンカメ系なので、そんなに柔らかい感じではないですか?
吉:柔らかいです。柔らかくて、強くて、真っ直ぐです、ハハハ。難しいですね。例えると、乗ったことはないですけど、チーターに乗っているみたいな、しなやかな感じで体全部で走っていくんですけどね。
-:ネコ系ですかね?
吉:例えたら、そうですかね。チーターに乗ったことがないですけどね、ハハハ。乗ったらこんな感じかなというような。
-:これだけ良い馬が揃っている厩舎にいても、柔らかさというか乗り心地はちょっと別格なモノがあるということですね?
吉:そうですね。能力はその中でもすごく高いと思います。
-:実際に、新馬戦というのはゲートからいかがでしたか?
吉:スピードの違いでビュッと前に出ちゃったんですけど、ミルコ(デムーロ)は調教と返し馬でだいぶ感覚を持っていたと思うので、あそこで自信を持って下げれたというのは、よほど自信を持っていたんじゃないかなという感覚ですかね。
-:結局、始めての舞台でいきなり好スタートを切って、周りに馬がいない状況で他を待つというコントロールが利いたことが大きいですよね?
吉:そうですね。この血統の馬はみんな激しくて、コントロールが利き辛いところがあるんですけど、そういうのを踏まえて、ミルコはリオンディーズにも乗っていたので、先を見てああいう競馬をしたと思うんですけどね。
-:見る限り、全然エキサイトしている感じもなく収まったといういうことですね?
吉:そうですね。
-:そこから直線の追い出しの反応というのはいかがでしたか?
吉:最初はちょっと進路がなくて探している所もありましたが、空いたらすぐに間を突いたので、やっぱりあの瞬発力というか、一瞬でトップスピードに入れる感じですかね。一歩二歩ぐらいですぐにトップスピードに入っていくので、それはやっぱり普通の馬では出来ないですよね。
-:しかも、抑える余裕までありましたからね?
吉:そうですね。最後は流している感じでしたけど……。
-:1戦目を使ってから、2戦目の萩Sまではちょっと間隔が空きましたね?
吉:そうですね。馬に合わせたローテーションというか、馬の状態を1回レースが終わったら確認してという感じで、馬に合わせてレース選択をしている感じなので、2戦目もすごく馬の成長を促しながら、ゆったり行けたことが一番良かったのかなと。今回もそうなんですけどね。
4ヶ月ぶりの萩Sでも難なく完勝を決め2戦2勝
-:休み明けでしたけど、2戦目では万全の仕上がりを求めることはなかったと思うんですが、仕上がりに関してはいかがでしたか?
吉:すごく良かったです。やっぱり1戦目よりも精神的にも肉体的にも成長していましたし、今回もそうなんですけど、2回目でもうレースが近いということが分かっていると思うのですが、そんなにテンションが上がらないというか、すごく精神面が強いですね。
-:2戦目のレースの方が安心して観ていられましたか?
吉:そうですね。折り合いがどうかなと思って観ていたんですけど、ちょっとペースが遅いこともあって、1800mで(スタートしてから)ずっと直線でスピードに乗っていくコース形態なのですが、そこでも下げれたので、すごくコントロールしやすいのかなと思いますね。それが2戦目でも出来たというのはすごい良かったですね。
-:2回目でパフォーマンスを下げる馬が多いですからね?
吉:そうですね。逆に良くなっていたので。
-:今回の一戦に向かうにあたって、萩Sからの調整というのは、もう一歩仕上げる感じになるのですか?
吉:そうですね。調整過程はほぼ一緒なんですけどね。先週まで強い調教を馬場でやって、最後は坂路で感触を見るぐらいにしているんですけど、前回よりも全体の調教時計も勝手に速くなっていますし、それは馬の成長だと思うんですけどね。
-:1週前はコースで併せ馬で速い時計を出して?
吉:そうですね。1週前、2週前は馬場で強い負荷を掛けて、最後は坂路で。その辺は血統面も考えて、エキサイトしないように配慮しているんですけどね。
-:併せ馬でのコースの追い切りからファンは騒いでいたみたいですね?
吉:ああ、そうですか。時計は出ますよね。
-:ある程度のオープン馬クラスになれば、出てしまうということですね?
吉:絶対的な能力が高い馬ですからね。
-:クリスマスイブの日に坂路で単走で?
吉:これも全然無理していないんですけど、最後にちょっと……。朝一番に出た時から、馬がすごく少なくて、馬がいつもと違うという感じで、物見しがちだったんですよね。やっぱり坂路に入っても、最後の1ハロンで物見をしかけたので、そこで一発だけ肩ムチを入れたんですけど、ほぼ強めというか、馬なりに近い感じですよね。それであの時計(52.5-11.9)なので。
-:今回のホープフルSに向かうにあたっての課題というのは、どういう所にあると思われますか?
吉:本当に、特に心配な所がなくて、課題を探すのであれば、始めての輸送ぐらいなんですけど、輸送も北海道からこっちに来て、(ノーザンファーム)しがらきに出て、こっちに来たりしているので、そんなに心配はないですね。気性的にもすごくオットリしているので、強いて挙げれば輸送ぐらいですけど、あまり心配はしていないですね。
-:今までコーナーが2つのレースを使ってこられて、今回がコーナー4つになるというのと、あとはちょっと頭数が増えることですね?
吉:頭数が増えて不利を受けるとか、包まれて出てこれないとか、そういうのはちょっとやってみないと分からないんですけど、コーナー4つになるというのは、むしろコーナーですごく上手に息が入る感じなので、ずっと直線よりは逆に良いのかなと。
-:京都の1800mの向こう流しの直線が続く舞台よりは、早めにコーナーに入ってくれて、フッとなってということですね?
吉:そういう舞台よりは競馬はしやすいと思いますけどね。あとは無事に不利なく回ってこれれば、と思っているんですけどね。
-:今回の直線もステッキなく乗るのでしょうか?
吉:どうなんでしょうね。ステッキは調教でしか使ったことがないですからね。
-:レースで使った時に、どこまでビュッと来るのかをちょっと見てみたいファンもいると思うのですが?
吉:そうですね。相手も一気に強くなりますし、今までのようにはいかないでしょうからね。
-:競馬も上手ですし、折り合いも付いているので、そんなに極端なポジションにもならないでしょうしね?
吉:それは、今調子が良いミルコも色々考えているでしょうし、ちょっと枠もどこになるか分からないですしね。
-:中山の馬場状態についてなんですが、土曜日まではそんなに重い感じはなかったですけど、日曜日の雨で1200mでも1分9秒とか掛かっている状態だったので、馬場の良し悪しに関してはこの馬はいかがですか?
吉:僕は、むしろタフな馬場の方が有利なんじゃないかなと思っているんですけどね。スピードもあるんですけど、坂路でいつも2番、3番で調教しているので、ちょっと荒れている感じの馬場なんですけど、今日なんかでもちょっと雨が降って、下が重かったんですけど、全然気にしない感じで、力で上がってきちゃう感じなので、むしろそういう馬場になったら、他の馬がちょっと苦しむ分、有利なんじゃないかなと僕は思っているんですけどね。
-:芝馬だと、やっぱりトモの蹴りで推進力を出すところがあると思うんですけど、この馬はどっちかと言うと、四駆っぽい感じなのですか?
吉:どうなんでしょう。分かんないです、ハハハ。後ろの力が強いのは確かなんですけど、それが一切ブレずに前に出てくるというのがあって、それだけ前の支える力が強いからブレないんでしょうからね。そういう意味では四駆に近いのかな。
-:現時点での体重は?
吉:先週、先々週と506キロだったので、もしかしたら前走よりもちょっと大きいかもしれないですね。筋肉がドンドン付いてきているので、成長分だと思うんですけどね。
-:「帰ってきてから、また筋肉が付いた」という話でしたね?
吉:そうですね。放牧に行って帰ってくる度に、体はドンドン著しく成長しています。
-:どこまでの馬になるのでしょうか?
吉:いや、分からないですね。
-:リオンディーズも引退が早かったので、ファンとしては残念な思いをしたと思うんですけど、エピファネイアみたいに古馬になってからも活躍することを期待するファンも多いと思いますからね?
吉:どこまで行くのか、今週のレースを観れば、ある程度見えてくると思うんですけどね。
-:中山の2000mで、ある程度タフな舞台でサラッとやってくれることを?
吉:願っています。
-:会員の方も期待していると思うし、多分1番人気だと思いますので、ファンに対するメッセージをいただけますか?
吉:血統的にも兄弟とかを見ていても、やっぱりすごく注目の集まる馬だと思うんですけど、ここ2戦もパフォーマンスを見ても、注目が集まると思いますし、その期待に応えられるだけの力も能力も持っていると思うので、何とか期待に応えられるように、馬の方は全力を出せるだけの状態にありますので、何とか結果を出したいですね。頑張ります。
-:秋のG1は関東の馬が勝っているので、ここらで関西馬も強いということを?
吉:見せたいですね。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【吉岡 辰弥】 Tatsuya Yoshioka
京都の向島出身。競馬好きの父と一緒に淀の競馬場に行ったのがきっかけで騎手を目指し、一度、騎手課程の試験を受験するも身長が高く断念する。中学卒業後、北海道の谷川牧場で2年働いたあと17歳で栗東の藤岡範厩舎に所属後、現厩舎へ。
一番の思い出の馬は今年のチャンピオンズCで2着だったウェスタールンドの母・ミクロコスモス。重賞を勝てなかったものの「ミクロコスモスには常にいろんな経験をさせてもらいました。激しい気性で乗るのも苦労しましたが、間違いなく能力はあった」と語る。2019年度新規調教師免許試験に合格し、今後は厩舎開業を目指し奔走する。