ダービー馬全弟・カントル 活躍が宿命の血統馬 権利獲りへ
2019/3/1(金)
ダービー馬全弟がクラシックへ向けて権利を手にするか。昨年のダービー馬ワグネリアンが兄にいる血統で、大いなる期待を受け昨秋にデビューしたカントル。ここまで4戦2勝と額面だけみれば、ズバ抜けた実績を残しているわけではないが、担当の荻野仁調教助手に語ってもらえば、聞けば聞くほど奥がありそうな感触は伝わってくる。先々を見据えつつも、クラシックへ向けて軌道に乗せなくてはいけない、結果を求める一戦へ向けて、手応えのほどを語ってもらった。
-:弥生賞(G2)へ挑むカントル(牡3、栗東・藤原英厩舎)について伺います。前走のセントポーリア賞は8頭立てという少頭数で2勝目を挙げられました。荻野さんがご覧になった感想はいかがでしたか。
荻野仁調教助手:新馬からずっと見ていて一戦毎に競馬を覚えて良くなっているなと思っていました。前回は、もっと馬が前向きになるように、抜け出してからも最後まで集中してくれるように、ということを目的としてチークピーシーズ着用でレースに行きました。馬具の効果もあったと思います。
-:そのチークピーシーズの効果が3番手で流れに乗れていたところにあったということですね。
荻:全てとは言いませんけど、良かったかなということですね。
▲昨年のリーディングに輝いた藤原英昭厩舎で
数々の名馬の背中を知る荻野仁助手
-:4着馬インテンスライトがしぶとく粘っていて、2頭で追い比べになっていたんですけど、欲を言えば、もうちょっとスッと交わして欲しかったのでは。
荻:いつも相手なりの競馬ですね。未勝利を勝った時は、これで本当に届くのかなというところから、本当に最後の1ハロン切ってからビュッと脚を使ったという感じでしたからね。
-:最後の直線で、右手前から左手前に替えて。
荻:まだ幼いところはありますね。必死に思いっきり走っていないので伸びしろはあると思います。
-:これまで違う形のレースをしてきていますよね。
荻:そうですよね。後ろから行ってエンジンが掛かるのが遅いというイメージがあったものだから、ある程度前々で、ということは思っていたんですけどね。やっぱりゲートをボコンと出るところがあったので、そこだけ気を付けていました。前回はそこもクリアしたのかなと思いますね。
-:持っている能力を全て出し切っている訳ではないということですね。
荻:レースを使う度に馬は良くなっていますね。新馬の時はあっち向いてホイみたいな感じで走っていたからね。2走目でクリスチャン(デムーロ)が乗って、最後の最後だけでビュッと脚を使って、すごい脚を使うなとも思いました。3走目ではある程度ゲートを出て、3着に負けたけど、綺麗な走りでちょっと集中してきたかなとも思いました。前走は抜け出しての完勝で課題はあるだろうけど、一戦一戦良くなっているなと。
「ダービー馬と比較するのは失礼かもしれませんが、イメージとすれば、あの馬よりもちょっと馬が大きいと思います。さすが兄弟だなとは思っていますね」
-:ダービー馬のワグネリアンの弟ということで注目されますね。
荻:ワグネリアンの雰囲気をイメージしたりレースも見返したりしているのですが、見ていて走り方や脚質は似ていますからね。ダービー馬と比較するのは失礼かもしれませんが、イメージとすれば、あの馬よりもちょっと馬が大きいと思います。さすが兄弟だなとは思っていますね。
-:似ているところと言えば、ちょっと敏感なところはよく似ていますか?
荻:やっぱり走る馬の雰囲気といいますか、そういう性格も似ていると思いますね。
-:トレセンの中でメンコを着けている時と着けていない時を見るのですが、それはなるべくオフの時間を作ってあげたいという気持ちの表れが、そういうところに出ているのですか。
荻:トレセンの中でずっとメンコを付けていると慣れてしまってレースでの効果が薄くなるのです。なるべく落ち着いているときはメンコを付けずにしないとね。その辺は、馬の気分を見ながら対処しています。
-:前走は馬場が良かったとは言え、上がりが33秒3でまとめましたね。初めて関東圏への輸送を経験した訳ですが、感じる部分はありましたか?
荻:大方思っていた通りでしたね。競馬自体も4戦目で、初めての遠征、こうなるだろうなという予感があって、その通りになりましたね。
-:それは体重が減ったり、気性的にちょっとスイッチが入ってしまうということですね。
荻:そうです。でも、場所に慣れるといいますか、装鞍所に行って、パドック、本馬場入場としていく訳ですけど、最初はテンションが高かったけども、10分ほど周りを見たら徐々に落ち着いてくるというようなところは分かりましたね。
-:セントポーリア賞の時はパドックでメンコを着けていましたか。
荻:ずっとメンコを着けていました。競馬でも着けていましたね。レースだけ外してテンションが上がると、まだ危ないので。
-:もう少し精神的に成長したらメンコを外して出走できるんですね。
荻:そうですね。外すのなら、普段から外していないとダメですし、そういう風になれば良いですけどね。色々挑戦しているけど、ケガのリスクもあるので、まずは馬の安全を第一に考えています。
-:ダービー馬の全弟という超良血馬ですが、調教で感じる雰囲気はどうですか。良い馬がたくさんいる藤原厩舎の中でも特に注目されている1頭です。
荻:良いですね。それは良い馬だけがもつ背中の感触ですよ。
-:今回の弥生賞に向かう準備、調整課程を教えてください。
荻:短期で10日間だけ、ノーザンファームしがらきに出して、戻ってきました。ちょっとしたリフレッシュ効果がありましたね。体もユッタリとして、カイバも食べてくれるし、あとやっていることは一緒ですね。
-:1週前追い切り(2月20日)は霧の中でしたね。
荻:直接は見ていないのですが、ミルコ(デムーロ騎手)は「感触は良かった」と言っていましたね。どういう風に馬が成長したかを確かめてもらえたと思います。やっぱり初戦の一番幼い時以来に乗ってもらったから「だいぶ大人になったね」という感じでした。
-:新馬戦当時より操作性も上がっている感じですか。
荻:そうですね。操作性も上がっているし、馬の前向きさも出てきたと思います。(デムーロ騎手が騎乗した)新馬当時は走るのは分かっていたけど、まだ幼いからフラフラしていましたから…。
▲1週前追い切りにミルコ・デムーロ騎手が騎乗
-:戸惑っていたということですか。
荻:みんな新馬はそんなものですけど、早く結果を求めたいですからね。いかに早く結果を出すかというところで、色々試行錯誤をしていました…。
-:期待値が高い、それだけの血統ですからね。
荻:時間があってノンビリやらしてくれるなら、何とでも出来るでしょうけど、勝たせていかないと目標のレースに使えないからね。
-:それでももう4回使ってきて、今度で5戦目なので、キャリアも十分ですね。
荻:変わってくると思いますよ。また違う競馬場に行くのが良いんじゃないかな。
▲昨年10月14日の新馬戦 内がカントル
-:ディープインパクト産駒ですが、馬場状態に関してはいかがですか。
荻:やっぱり良いに越したことはないですね。
-:今の中山も、ひと昔前の中山よりも良いですからね。
荻:もちろん結果を残していかないといけない立場ではあるのですが、脚元に負担がかかるような激走をしないといいですね。まだ先がありますからね。
-:全体的に芯が入ってきてから、そういうMAXのフォームで走れるようになるということですね。
荻:欲を言えば、そういうイメージですね。とりあえず結果が欲しいし、どれくらいまた成長して、普通に良いパフォーマンスが出来るかですね。
-:初めて骨っぽい相手と戦うことになりますね。
荻:良いですよ。相手が強くなっても良いなと思っています。
-:乗り難しいと言われる中山コースですが、前回みたいに先行できる脚質なら、心配するところはなさそうですね。
荻:そうですね。ただ、先程も言ったゲートの心配だけですね。あとどういうレースの組み立てをするとかは、枠順が決まってから先生(藤原英昭調教師)が決めるでしょう。
-:カントルの春を占う意味では大事な一戦ですね。
荻:ここで結果を出すか出さないかで、春の3歳G1の皐月賞、ダービーの切符を獲れるかどうかが掛かってきますからね。
「まずクラシックに出るためには、その切符を獲らないといけないですからね。(毎日慎重に、です」
-:金子オーナーはもちろんのこと、競馬ファンの期待値は出られるかどうかの馬じゃないですよね。
荻:俺の中ではそうなのですが、まずクラシックに出るためには、その切符を獲らないといけないですからね。
-:日々慎重に、ということですね。
荻:そうそう。慎重に、です。
-:この馬をやっている上で、難しいことはありますか。
荻:それはどの馬でも一緒なのですが、怪我をしないか、気を遣いつつ注意を払ってやっていくだけですね。
-:今の朝早い時間帯と言ったら、馬場も硬いことがありますからね。
荻:その辺はボスと相談してやっています。
-:期待の良血馬が、ここでどんな走りをするか、楽しみですね。前回は8キロ減っていましたけど、今の体重はいかがですか。
荻:こちらで競馬をして3着だった時も、468で8キロ増えていたでしょ。あの時と一緒の感じで、東京に連れていっている訳ですよ。向こうで(カイバを)食べてくれれば同じような体重だったのですが、食べてくれなかったんです。競馬も分かってきているから、やっぱりカイバが上がる訳ですよ。それで460に落ちて勝った訳ですけど、その時よりも、ノーザンファームしがらきに出して帰ってきた今の方が体はグッと大きくなって、腹袋が出ている感じですね。結局、今の時期にグッと体が成長する時は、体自体が大きくなって、骨が伸びたりすると減らないのですけど、食べ物とかだけではなかなかね。筋肉が付いたりしたら、なかなか落ちないのですが、どこでグッと成長するかですね。2~3週間で伸びる時もある、馬の成長は一瞬ですからね。
-:そうなったら、体がどうこうじゃなくて、骨格自体が大きくなるということですね。
荻:一瞬なので、この3歳の時期にどこで変わるか、というところですね。
-:それがダービー前に欲しいところですね。
荻:そうなったら良いですね。夢ですね。ワグネリアンですら、そこまで身体は伸びていなかったようですからね。
-:でも、もうちょっと若い時の話で言うと、2歳の僕らが最初に写真を撮っている時期に比べたら、ずいぶん変わりましたね。
荻:あの頃は小さかったですね。だいぶ成長しましたけど、まだまだ薄いですからね。
-:弥生賞での馬体重はセントポーリア賞と同じくらいでしょうか。
荻:そうですね。同じかちょっと増えているくらいが理想ですね。
-:分かりました。ありがとうございました。
プロフィール
【荻野 仁】Hitoshi Ogino
卓越した調教技術は、専修大学時代の馬術チャンピオン(障害)という裏付け。藤原英昭厩舎の開業当初から調教助手として屋台骨を支えており、フードマンとして各担当からの意見を取り入れ全頭の飼い葉を調合している。2つ上の先輩である藤原英昭調教師とは小学生時代から面識があり、両人の絆と信頼関係は絶大。名門厩舎の躍進を語る上でこの人の名前は欠かせない。