ラヴズオンリーユー 成長途上で無傷3連勝 所縁の血統に託す夢と期待
2019/5/12(日)
遅れてきた良血馬が一気の戴冠へ。全兄はドバイターフを制したリアルスティール、他にも矢作芳人調教師のもとで管理された兄弟が数多くおり、厩舎所縁の血統としてデビューしたラヴズオンリーユー。初めてのG1挑戦にあたっての手応え、将来性を知将・矢作芳人調教師に語ってもらった。
-:オークス(G1)に挑むラヴズオンリーユー(牝3、栗東・矢作厩舎)について、よろしくお願いします。3連勝で忘れな草賞を勝った訳ですけど、2勝目を挙げた後のローテーションは、本来トライアルから桜花賞を目指す予定だったのですか。
矢作芳人調教師:エルフィンSから桜花賞に直行という画を最初は描いていました。しかし、まずは放牧先でのケガといいますか、細菌が入ったことで脚が腫れたので(フレグモーネを発症)、それが無理になって、徐々に予定を延ばしていくことになりました。
▲馬房でリラックスするラヴズオンリーユーと矢作芳人調教師
何とかトライアルに間に合わないか、と思いましたが、万全の状態では使えないと判断して桜花賞は諦めました。その時点で、オークスに目標を切り替えましたね。当初はフローラSからという話もありましたが、フローラSからのオークスというローテーションは馬にとっては厳しいと思い、仕上がり不足の状態で忘れな草賞に使ったという流れですね。
-:レース後に、先生が「7分のデキだった」とおっしゃられて、乗っていたミルコ(デムーロ)ジョッキーが「6分だった」というコメントをされていたと思うのですが、それでもあれだけ強いレースが出来る馬なのですね。
矢:調教で乗っていた坂井瑠星(騎手)は「5分」と言っていましたからね。相手関係もちょっと恵まれていたと思います。本当に強いところとはまだやっていないですし、むしろ新馬で一緒に走った2着のアーデンフォレストが強いんじゃないかと思うくらいなので、そこは未知数ですよね。本当に強い桜花賞路線(阪神ジュベナイルフィリーズ~チューリップ賞~桜花賞)で揉まれてきたメンバーと比べると、どうなんだろう、という意識はあります。
-:同じ日の桜花賞が1分32秒7で、忘れな草賞が2分0秒6でした。この馬自身のMAXパフォーマンスは出せていないと思うので、そこからどれくらい桜花賞組に近寄れるかがポイントだと思うのですが、先生の見立てとしてはいかがでしょうか。
矢:短期放牧に出して、放牧から帰ってきた時の状態は、当然、前回よりはだいぶ良いですね。ただ、まだ体が出来ていないし、牝馬特有のカイバ食いの問題も残っています。正直言って、どこまで上げられるかですが、まだ100までは厳しいのが本音ですね。8割以上、85~90点まで上げられればとは思いますけどね。
-:それプラス、やっぱり輸送もありますし、スタンド前発走もありますから、あまり肉体面ばっかり鍛えてしまうと、乗り辛くなったりする懸念もありますね。
矢:そうですね。そこまではまだまだ追い込めないですね。ただ、1週前追いの今日(5月8日)の追い切りはシッカリやれましたよ。
▲1週前追い切りでは併せ馬で僚馬を一瞬にして抜き去った
-:CWコースで81秒台の終いが11.6秒でしたね。
矢:良い動きだったと思いますし、順調に上げては来ているなと思います。あとは、輸送から当日の気配だけです。
-:初輸送の対策は何かされるのですか。
矢:今のところ、近場の輸送しかしていないけど、輸送で大きく減る馬ではないだろうと思います。阪神、京都であれば、トレセンとの体重差を考えれば、輸送で減っていないなとみています。ただ、前の日に競馬場に入って、レースという経験は初めてですからね。そこは逆に良い方に出る馬もいますし、東京なんて6時間くらいの輸送ですから。そこで問題なのは、例えばエアグルーヴは東京に着いたら、競馬まで一切何も食べなかったと聞きました。そういう怖さがあって、一晩泊まるということが良い方に向く馬、悪い方に向く馬がいるので、それが良い方向に出てくれないかな、という見立てです。
-:血統的には、これまで先生の厩舎でも活躍した馬がいて、その筆頭がリアルスティールなのですが、牡馬が走っている血筋でようやく女の子の活躍馬が出ましたね。
矢:正直、最初はこんなに走るとは思わなかったなあ。
-:それはどうしてですか。
矢:だって、1歳の頃の馬っ振りと違い過ぎるもん。男だとすごく良い馬に出るんだけど、女の子で出ると、すごくひ弱そうに出てしまうから。
-:その辺は、何か先輩のリスグラシューにちょっと似ているところがありますか。
矢:今の感じはすごく似ていますよ。これが古馬になったら、順調にさえ行ってくれれば、すごい馬になるかな、という期待はあります。ただ、現時点ではキャリアや多頭数の経験がないとか、線の細さ、そこらがリスグラシューの3歳春の頃と共通した感じがありますよね。
-:ただ、力強さがない体ですが、軽さとか瞬発力とか、牝馬特有の切れは持っているということですね。
矢:それは間違いなくありますね。
-:それが、この馬の最大の魅力じゃないですか。
矢:そうですね。リアルスティールより切れますよね。
-:走法的に言えば、リアルスティールはちょっと伸びて走る感じがあったのですが、この馬はちょっと首を立てて走りますね。
矢:たしかにリアルスティールより起きて走っていますね。首を下げる時に沈んでから伸ばす走法ですね。間違いなくそういうところがありますよね。
-:その分、リアルスティールが果たせなかった国内G1勝利というところに、手が届きそうな可能性が多いにあるのではないかと。
矢:ただ、本当に良くなるのはもっと先だと思います。
「期待と不安が半々の状態なので。古馬になってもう少しシャンとしたら、どこだって持って行ける自信はあるんです。現時点ではそこまで自信をもって言えないのが正直なところですね」
-:正直なところ、もうちょっと時間が欲しいですか?それでもやってくれそうな期待はあります。
矢:もちろん期待はありますよ。ただ、期待と不安が半々の状態なので。古馬になってもう少しシャンとしたら、どこだって持って行ける自信はあるんです。現時点ではそこまで自信をもって言えないのが正直なところですね。
-:前回の忘れな草賞で若干掛かった面がありました。あれは休み明けで掛かったのか、スタートして寄られて掛かったのか、先生の見解としてはいかがですか。
矢:それは複合的なものじゃないですか。馬というのは休み明けが一番掛かるものなのですよ。それも一つだし、スタンド前発走も初めてだったし、あとは徐々に馬にスイッチが入ってきたというのもあるだろうね。
-:そういう意味で考えれば、見た目は引っ掛かっていても、馬にとっては大してガソリンを消耗していないというパターンもあるじゃないですか。それだけ前向きさが出てきたとも取れますか。
矢:いや、そんなことでG1を勝てるほど甘くないと思いますよ。そこのロスは少なくしないといけないと思います。
-:この馬にとっては、枠や他の馬との並びなど、1コーナーまでの入り方というのは非常に重要になってきますね。
矢:そうですね。ゲートも速くないというか、遅いですしね。
-:それを、最後の終いの脚で帳尻を合わすということですね。
矢:そういうイメージは持っていますけどね。こちらの期待通り走ってくれるか。
-:この馬が勝つイメージとしたら、流れて終いの切れ味を活かして勝つのか、それともスローで団子の短い馬群を瞬発力で差すのか、どちらのイメージが近いですか。
矢:それはどちらでも気にしないけど、流れた方が楽は楽でしょうね。折り合い面その他、少しバラけた方が不利も少ないだろうしね。
-:今週からBコースに替わって、おそらく馬場は良い状態で出られると思うので、この馬の瞬発力を活かすには持ってこいの舞台じゃないかと思うのですが。
矢:東京も京都も時計が速くて、どちらかと言うと京都は内の前というイメージだけど、東京は上がりの時計が速い割には、差しが決まっていますよね。そういう点では、コース的な不安はないと思いますね。
-:不安としては、やっぱりスタンド前発走や輸送、これまで経験していない、やってみないと分からない部分でしょうか。
矢:そうですね。
-:お兄さんのリアルスティールのエピソードで、装鞍所で鞍を置けなかったくらいイレ込むというところがあったんですけど、この馬に関しては、装鞍所からパドックはどんな感じですか。
矢:非常に大人しいですね。3歳のこの時期の牝馬で、あれだけ落ち着ける馬は珍しいですよ。だから、それも徐々にどうなってくるか…未知数ではあります。
-:磨けば磨くほど本質が出てくる可能性もあるということですね。パドックはこれまで通り、落ち着いている方が良いということですね。パドックでメンコは装着しておいて、ゲート前で外すということですね。それもこれまで通りですね。
矢:ええ。ファンファーレが終わるまでメンコは着けておきます。
-:ファンファーレが終わったらメンコを外して、そこからスイッチを入れていくということですね。初めて強敵相手のレースにはなります。今回は挑戦者としてぶつかると。
矢:本当に、G1戦線を戦ってきた馬からすれば、格下です。挑戦者でしかないと思うので、その分、ワクワクしています。
-:ラヴズオンリーユーは馬柱がすごく綺麗な馬なので、多くのファンが連勝で戴冠を期待していると思います。
矢:そういう思いはありますし、今回のオークスを現状のデキで勝てるようでしたら、また秋以降の夢が色々と広がってくると思います。
-:ドラマを期待しているファンに、メッセージをいただけますか。
矢:本当に楽しみな馬ではありますよね。ただ、今回に関しては、色々な不安点もありますので、そこまで強気には言えない状況です。その代わり、先々はかなりの大物になってくれる、ものすごい夢を我々に持たせてくれる馬だと思います。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【矢作 芳人】Yoshito Yahagi
1961年3月20日生まれ。東京都出身。父の矢作和人氏は大井競馬の元調教師。自身は名門・開成高校を卒業するも、父の影響を受けて競馬界へ足を踏み入れる。厩務員・調教助手時代は5つの厩舎を渡り歩き、2005年に厩舎を開業。実に14回目の受験で、晴れて調教師免許を手にした。
厩舎開業後はコンスタントに勝ち星を重ね、スーパーホーネット、グロリアスノア、グランプリボス、ディープブリランテら活躍馬を多数輩出。2014年と2016年には調教師リーディングを獲得。昨年は安田記念を連闘で挑んだモズアスコットで、エリザベス女王杯をリスグラシューで制している。
また、メディア・ファン対応も精力的にこなしており、2008年には初の著書「開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント」を発刊。『よく稼ぎ、よく遊べ』をモットーに、他とは一線を画した厩舎運営を続けている。