モズアスコット 昨年は連闘 今年は王道ローテで 前年度覇者が目覚めるか
2019/5/26(日)
13、7、7着。近3戦で馬券圏内はおろか、掲示板も確保することが出来ず、苦しい結果が続いているモズアスコット。昨年、連闘で安田記念を制したことを思えば、これが馬本来の力とは思えないが、春の目標としていたレースで、巻き返しはあるのか。不振の要因と復調の可能性を探った。
-:安田記念(G1)に挑むモズアスコット(牡5、栗東・矢作厩舎)ですが、去年は高速決着の中、見事G1初勝利でした。今年も相変わらず馬場は速い状態が続いています。安田記念と言えば、リピーターも多いですし、適性の高さに期待したいところです。
玉井俊峰調教助手:前年の覇者として、復活というか、復調して欲しいですね。ただ、前走(マイラーズC7着)は休み明けと言っても、負け過ぎかなという内容でしたからね。
-:あくまで予想する立場で見させてもらうと、調教量を見ると、先を見据えた部分もあったかなと思います。
玉:正直、そういうところも感じつつやってきたのですけど、レース的にはもうちょっとやれるかと思っていましたからね。
▲昨年の安田記念にてモズアスコットと担当の玉井助手
-:スローペースでしたし、いくら上がり勝負になったとは言え、普通であれば、そんなに着差は付かないはずですね。レースを終えられての原因といいますか、ジョッキーのコメントはどんな内容でしたか。
玉:特にジョッキーとは喋っていないのですが、もしかしたら気の問題もあるかもしれないですね。
-:今のところフランケルの産駒が古馬になって、成長しているよりも、成績が上がっていない現状はありますね。
玉:そうですよね。知識として把握はしているので、そうなるのは勘弁ですね…。
-:マイラーズC前の厩舎の談話では「気の悪さが出ている」といったコメントも目にしました。以前との違いはありますか?
玉:気の悪さといいますか、精神的な課題はもともと持っていると言えば、持っているんですけどね。やっぱりそれがマズい方に出たのかもしれないです。前走のレース前は、キツいところはよりキツく、とはなっていたのですけど、全体的なテンションは今までより落ち着いているくらいだったから、良い方に成長しているのかと思いましたけどね。
▲マイラーズC時の返し馬
-:こうして馬房を見る限り、特に気が入っているという感じではないですけどね。
玉:そうですね。もともと、普段からオン、オフがすごく激しいというか、ちょっと嫌になったら、とんでもなくなっちゃうところがあったので、普段は大人しいイメージはありますけどね。
-:それは、馬場に入ったりする場合ですか。
玉:馬場に入れる時が一番危ないですね。調教が終わって上がってくる時は、ちょっと我慢するようになったんですけどね。
-:その前走後はいかがですか。
玉:マシにはなっていますけどね。放牧から帰ってきた時はやっぱりありましたし、もともと「牧場ではちょっと悪さをやる」とは聞いていましたし、立ち上がって拒否するようなところがあったのですけど、その辺はだいぶ改善されてきていますね。
-:前走の体重は、時期も暑さも違いますが、去年の安田記念とは+10くらいの差がありました。その影響もありましたか。
玉:成長分もあるとは思うのですけど、思ったより減らなかったですね。香港で減り過ぎた感じもしますので、そこまでは…ですね。
-:2走前には、香港マイルにも挑戦されました。香港の環境はどうでしたか。
玉:やっぱり馬場が硬いというのもあるし、坂路がないとキツいと思いましたね。馬場は雨が降る時はドシャと降ると聞いていたんですけど、雨もなく、乾いていましたからね。
-:この春のチャンピオンズデーの前日も、けっこう大雨があったということでしたからね。
玉:あったみたいですね。練習環境もやっぱりその馬場でやらないといけなかったですからね。
-:馬は違いますけど、シャティン競馬場の外国馬の馬房は閑散としていて、寂しがるという話も聞いたことがありますが、そういう心配はなかったですか。
玉:リスグラシューがいたから、それは大丈夫でしたね。いなかったら、ちょっと分からなかったですけど。
▲香港でリスグラシューと併せ馬を行うモズアスコット
-:馬房も普段から近いですもんね。一緒に旅行に行くようなものですね。
玉:対照的なタイプで、環境が違うから、最初はやっぱりイレ込むんですよね。厩の中はすごく落ち着いているんですけど、一歩出たらすごくアタフタして。逆にリスグラシューは、厩の中では「早く出せ!」という感じで、出たら初日から悠然と歩いていましたね。
-:競馬場での仕草というのは、去年1年間で変化というのは何かありましたか。
玉:イレ込んでいることはいつものことなんですけど、前走は自分1人で曳けたし、大丈夫だな、良くなっているなと思ったら、馬場に入れる時にえらく跳ねたりして、危なかったですね。前に調教師が、地下馬道から坂を歩いていたんですよ。そこに飛び込んでいったので…(苦笑)。放す時は危ないので、そこだけ2人曳きにしました。やっぱりジョッキーを乗せると、全然違っちゃうので。
-:次回乗るジョッキーも気にした方が良さそうですが、そこは坂井騎手なら、厩舎のことは把握されているでしょうからね。
玉:今、角馬場に行ったり、メンコをしたら、マシになってきたようですけどね。ゲート裏までメンコをするかもしれないですし、その辺は考えていきたいです。香港の時はヤバかったですね…。香港は以前、他の馬もルール的に先に行くことはNGだったようで「周りの馬と一緒に隊列で行って、カラーコーンをちゃんと回ってから、返し馬に行ってくれ」ということで。4~5歩歩けたので、案外歩けるやん、と思ったんですけど、前の馬がカラーコーンを回って、キャンターに行くのを見たら、もう…。あともう少しで乗っかっていましたね。それくらい突進していましたからね。そういうところがある馬ですから。
-:でも、その国のルールがそれぞれある訳ですね。
玉:従って、対応しないといけないですからね。
-:この1年間で体質面の成長分はあるということでしたね。
玉:シッカリとはしてきていると思いますね。全体的にドッシリしてきましたし、前はトモから股関節の課題があったので、そういうところがドッシリしました。
-:去年のレースは、なかなか異例のローテーションでの勝利でしたが、改めて振り返っていかがでしたか。
玉:「あれを狙ってやったのか?」と言われたらね(苦笑)。こちらとしては、そんなに上手くいくとはと思っていたので、本当にビックリしたレースでしたね。「良く勝ってくれた」としか言いようのないローテーションでした。
-:いま思えば、連闘だけでなく、色々な課題をクリアしましたね。
玉:全て噛み合って勝たせてもらいましたけどね。
-:戦前の見立てとしては、どんな感触でしたか。
玉:連闘したこともあって、馬が硬くなっていました。その前走で負けてしまって、(安田記念には)出られないな、と思っていたんですよ。
-:それでも勝利出来た要因というのは、どういったところにあったのですか。
玉:馬の内面は上がっていたのでしょうね。
-:良くも悪くも馬が追い詰められている部分があったのか。
玉:それはあるとは思いますね。
-:その点、今年なのですが、前回が負けるにしても、不可解なところがあった中での敗戦。レース後の話で言うと「京王杯SCを使うかも」ということでしたね。
玉:そうですね。予定はしていたのですが…。
-:ある意味、今年は正攻法ですね。
玉:そうですね。臨戦過程としては良いとは言えないんだろうけど…。
▲23日、坂井騎手が騎乗して追い切りを行った
-:具合としては、先週にジョッキーが乗られて、明日も乗られるようですけど、1週前~10日前の段階でいかがですか。
玉:悪くはないですけど、もともと時計が出ちゃう馬なので。今週も来週もシッカリやるという話はしているので。ジョッキーが決まってからは、毎日ずっとジョッキーが乗っていて、長いことコンタクトを取るようにしています。そこは自信になっている感じですね。
-:追い切り以外にも乗っていらっしゃるということですね。
玉:基本的に毎日乗っていますね。
-:狙いとしては、テンションの上がり方や仕草を把握してもらうということですか。
玉:そうですね。G1馬ですし、(坂井)瑠星もかなり気合が入っていますね。
-:スタッフ的にも先生的にも、若手に任せるということはなかなか勇気がいることだと思いますが。
玉:そうですね。シッカリやってもらおうということですね。
-:香港の馬場は硬さがあった中で、去年は時計が出ていた訳じゃないですか。その点の違いはありますか?
玉:走った後のダメージは大きな変化はありません。終わった後、あんなに走った割には元気にしていたな、という記憶があるんですけどね。普段は、レースを使って、疲れたイメージがありましたからね。
-:しかも、去年のレースは前も残りましたけど、一旦2ハロンくらいまで、道中付いていったところ、狭くなって後退。そこから割ってくるという、普通だったらやり辛いレース振りでした。あれで勝つというのはなかなか大変だったのかなと。当日モズアスコットを見たファンが好調と確認出来ることと、これはいつも通りだと思って良いポイントがあれば。返し馬を見る派にはちょっと厳しいですが。
玉:どれだけ力み過ぎずに返し馬に行けるかというのが、やっぱりあるんじゃないですかね。
-:音の反応は敏感ですか?
玉:そこも考えて、メンコはしているんですけどね。もともと音を拾ってしまうところもあるんです。落ち着いているはずなのに、馬運車の音で飛び跳ねたり、かと言って、何にも反応しなかったり。競馬場に行った時の盛り上がり方の音は、内面から来ていると思うので、どうなのかは判断が付きづらいですけど。
-:厩舎の位置を考えたら、門の近くで交通量が多いですけど、そういうのは関係ないですか。
玉:そこまでは大丈夫だと思います。それよりも、馬道に面した厩舎じゃなくてよかったなと思いますね。
-:厩舎は、オークスで見事にG1を勝たれましたし、勢いに乗れそうですね。
玉:先週にビシッとやって、当該週はサッと、というのが流れですけど、今回はそれじゃダメだということで、ビシッと。
-:体重的には、次回はどれくらいの目安になりそうですか。
玉:それほど変わらないか、輸送もあるし、目イチでやりますから、ちょっと減るくらいですかね。
-:レースに向けての意気込みをお願い出来ますか。
玉:この馬の良いところを、何とか、また発揮出来るように、調整していきたいですね。
-:ありがとうございます。
プロフィール
【玉井 俊峰】 Toshimine Tamai
学生時代に馬術部所属。福島の馬の温泉での勤務を経て、JRAの厩務員課程をパスし、トレセンへ。既に解散した梅田康雄厩舎を経て、矢作芳人厩舎へ。過去には、マカニビスティーでドバイ遠征も経験した。日々の仕事のモットーは「特にない……けれど、見落としがないように気を付けたいなとは思いますね。馬は厩務員によって変わってくる場合もあるので、そこが怖いと言えば怖いですよね。そういうので手が替わって、ボーンと上に行ったりしているのは悔しいし、そういうのがないように自分で出来ることはやりたいなと思います」と謙虚に語る。