研鑽を積む北海道シリーズで飛躍を窺う。7月14日の函館競馬でJRA通算300勝を挙げたのが菱田裕二騎手。デビュー3年目には64勝を挙げて、一躍脚光を浴びたが、8年目を迎えた今、何を思い、競馬に向き合っているのか。調教に明け暮れる最中の函館開催、最終週に語ってもらった。(取材=競馬ラボ小野田)

豊富な調教騎乗 午後は走り込み 充実の日々

-:先日はJRA通算300勝と節目の勝利、おめでとうございます。意識はされていましたか?

菱田裕二騎手:ありがとうございます。はじめは自分では思うことはなかったのですが、函館はデビューから毎年、来ている土地です。良くしてもらっている方が沢山いるので、皆さんのために何とか函館で300勝をしたいと意識が出てきましたね。ただ、300という数字に重きを置いていたわけではないですし、自分自身では通過点だと思っています。やっぱりもっともっと勝ちたいと思いますしね。

菱田裕二

-:そんな所縁のある函館ですが、今年に限らず、毎年のように精力的に調教をつけている姿が印象的です。

菱:レースの日の朝も10頭乗っていますし、追い切りの日もそれ以上、乗せていただいています。疲れることは事実ですが、毎年、函館では毎日のように10頭くらい調教に乗せてもらっているので、すごく嬉しいことですし、本当に日々が充実していますね。栗東でもなるべく多くの頭数に乗せてもらえるよう心がけていても、向こう(栗東)では1頭、1頭の調教に時間が掛かるので、乗れても1日で5頭くらいでしょうか。

-:調教で乗ることは、自身にとってはルーティーンのようなものですか。

菱:そうですね。例えば地方競馬のジョッキーは毎日、毎日、すごい頭数を調教していますよね。僕ら、JRAのジョッキーがそれくらいの頭数を調教しようと思ったら、滞在競馬の時くらいしか出来ません。小倉にいた時もけっこうの頭数を乗せてもらっていましたし、この滞在競馬はすごく貴重な時間だと思っています。やっぱり馬に乗らないと、馬乗りは上手くなれないと思いますし、そうやって1頭でも多く、調教でも何でも乗せてもらえるように意識してやっていますね。

-:公営競馬だと、多ければ1日20頭の調教なんて話も聞きますからね。ただ、2年前だったと思いますが、函館の昼間に競馬場のコース沿いでトレーナーさんとトレーニングもされていましたよね。菱田さんはもともとスポーツをやられていて、体を動かす礎もあったと思うのですが、今もされているのですか。

菱:今は函館市内にジムが新しくできたので、毎日行って、走り込んでいますね。いつもエアロバイクを15分くらい漕いでから、ランニングマシンを7キロ。最後は勾配も上げて、スピードも上げて、ダッシュもして、けっこう追い込んでいますね。今までは函館の馬場で走ったりしていましたが、ジムが新しく出来てからは、施設がすごくいいですし、天気も関係なく、毎日同じメニューをこなせるので、ジム通いになりました。栗東にいる時もジムには行きます。トレーナーはいるのですけど、大阪なので、あまり通えないですから、基本的にはランニングとジム、という感じですね。

菱田裕二

▲JRA通算300勝を達成 仲間に囲まれ

-:朝、それだけ乗って、昼からも行かれると流石に疲れそうですね…。

菱:朝に乗って、一旦、仮眠をとって、いつも3時半から行っていて、本当にその毎日ですね。だから、眠たくて、毎日8時くらいには寝るようになりました。僕は何かやっていないと自信がないといいますか…自分の中で努力しているという実感がないと、レースの時に不安がよぎってしまうので、やりきったなと思える状態でレースに臨めるようにしていますね。

-:社会人になって数年経ったとは言え、まだまだ26歳。遊びたい年頃じゃないですか…?

菱:もうなくなりましたね。やっぱり今の僕の状況では、遊んでいる暇がないんですよ。遊んでいる暇があったら、もっともっと努力しないといけないなと思っています。

3年目は64勝と一躍脚光を浴び 中堅の世代に差し掛かる現在地

-:聞きづらいところもありますが、一時期は年間60勝ほどの成績を早々と挙げられました。今年は20勝弱ということで、ぺース的には去年以上ではありますが、3年目ほどの勝ち星を残せていないことも事実。ここまでの推移はどう感じられますか?

菱:去年よりはいいのですけど、64も勝たせてもらった時は減量の恩恵がかなりあったのは事実です。当時は本当にいい馬に沢山乗せてもらっていましたし、やっぱり自分の実力じゃなかった部分は事実。現実を見直し、今は少しでも上手くなりたいなと思っていますね。減量の勢いで勝たせてもらったことで、その勢いでポンポンといい馬にも乗せてもらいましたからね。

-:年齢的には若手から中堅の間といいますか、もう下も沢山出てきましたね。

菱:若手騎手の期間も終わりましたし、負けないように頑張らないといけないです。もちろん下に負けない、そして、上にもっと上手なジョッキーが沢山いるので、何とかそこに追い付いて、追い越せるように頑張りたいという気持ちです。今年も去年は重賞を2つ勝たせてもらったので、やっぱりまた早くああいう思いをしたい、という願望はあるので、現状には満足はしていないです。ただ、僕たち騎手は自分が走る訳じゃなくて、やっぱり馬に乗せてもらわないとレース出来ないので、「満足していない」と言いつつも、自分が乗せてもらえる馬の中でコツコツ頑張って、関係者の方の信頼を勝ち得ること。その上でいい馬に乗せてもらうということが大事なので。焦っても仕方がないですし、満足はしていないですけど、毎日、自分の出来ることから一生懸命やるしかないかなと思っています。昔は勝ちたいという意識ばかりだったり、勝ち急いだりしたことも多かったですけど、やっぱり1人でどんなに焦っても、走ってもらうのは馬なので…。

-:焦り過ぎるとレースにも影響しますからね。

菱:やっぱりいい結果は出ないですからね。チャンスが回ってきた時に、しっかり結果が残せる準備をしておきたいなと思っていますね。

-:重賞の騎乗数で言うと、今年は物足りないところもあるのではないですか?

菱:そうですね。決して多くないですね。今は外国人ジョッキーも多いですし、なかなかそういう大きい舞台で、チャンスがある馬に乗せてもらえる機会が少ないですからね。ただ、函館記念ではすごくいい馬(ドレッドノータス(セ6、栗東・矢作厩舎)で4着)に乗せてもらえましたし、函館2歳Sでもチャンスのある岡田厩舎の馬に乗せてもらえるので、しっかり結果を残したいと思います。

菱田裕二

▲昨年の北九州記念で重賞初勝利 猪熊オーナーの所有馬だった

-:今、騎乗において心掛けていることを教えていただけますか。

菱:今は、本当に色々な外国人ジョッキーが来たりしていますし、海外のレースも簡単に観られる時代。心掛けていることではありませんが、色々な人の上手いというところを盗みたいなとは、常々、思って見ていますね。ましてや、今はお手本になるような外国人騎手も頻繁に来て、直に見られるわけですから。

-:レース的には当然、前にいた方が有利だと思います。今年はだいぶ先行、逃げで勝っていることが多いように感じます。

菱:あまり意識していなくて、どういうレースをしたら、自分の乗っている馬の持ち味が活きるかなと考えた結果、そういうレースになっていることが多いのだと思います。特に好きなわけではないんですよね。ただ、前に行くにしても、後ろから行くにしても、スタートは常に気を付けています。やっぱりいいスタートを切るというのは、競走なので、かなり大事なことだと思うので、いい態勢でいいスタートを切ってあげるということは、常に意識していますね。

-:でも、乗り方という面では、前とは変わってきていますよね。

菱:そうですね。繰り返しになりますが、色々な人の乗り方を映像で観られますから、試してみることもできますからね。変わってきていると思いますね。

菱田裕二

-:重心は前目ですよね。

菱:そうですね。前で乗ることは絶対に意識しています。本当に前に、前に、乗り込んでいくということを意識しています。それは馬を抑えるにしても何にしても、常に馬の前で操作することを意識しています。そうじゃないジョッキーもいると思うのですけど、僕は重心を後ろで乗ってしまうと、かなりロスになってしまっていると感じる部分が多いので、本当に前で操作するということを意識していますね。ただ、重心が後ろの人が悪いわけではないですし、自分ではこういう乗り方は出来ないなというのは、見ていて思いますね。とはいえ、結果が全てだと思うので、結果が出る乗り方が絶対にいいと思いますね。だから、本当に日々、試行錯誤ですし、それは頭数を沢山乗せてもらっている調教の中から、毎日、色々なことを試しながらやっています。

-:そういう意味では、今、数多く乗れる環境というのは。

菱:かなり貴重ですね。結局、それが正しいかどうかというのは、馬が教えてくれるので。そういうことを試したり出来る機会が、こうやって毎日、何十回近くあるというのも、本当にすごく貴重です。

-:ただ、ポジションが前でも、ハマらない場合もあったり、馬もいる訳ですよね。

菱:そうですね。やっぱりまだ緩い馬などは、前の方で乗ると危ない馬もいますし、それは1頭1頭、馬によって全然違うので、変えていくことはしていますけどね。説明するのは難しいですけどね。

菱田裕二

-:成績をチェックさせていただくと、これまでのキャリアの馬主別成績で今まで一番勝ったオーナーは「バローズ」の猪熊広次さんでしたね。

菱:本当ですか!?確かに振り返ってみれば、沢山勝たせていただいています。よく乗せていただいて、300勝もオーナーの所有馬でしたし、すごく嬉しいですね。

-:好きな血統はありますか。

菱:僕はなぜかハービンジャー産駒が好きです。馬券圏内に来ているイメージもあるのですが、なぜかハービンジャー産駒が好きですね。

-:確かに複勝率は高いんですよね。

菱:ただ、ギアが変わるのが遅い馬が多いです。ハービンジャー産駒に乗る時はギアを早めに替えてあげるよう意識していますが、なぜか好きですね。偶然、函館記念もハービンジャーでしたし、あの子も乗り味がいいなと思いましたしね。

憧れはデットーリ騎手 レースを楽しめる感覚が増えるように
菱田裕二騎手インタビュー(2P)はコチラ⇒