
菱田裕二騎手 北の大地であえて目標なき、得難い日々を送る
2019/8/4(日)
-:先ほど「携帯で海外競馬の動画を観る」とのことでした。どんなレースを観られるのですか。
菱:今はYouTubeでも何でもレース映像が観られるので、けっこう色々なレースを観ていますね。特に、凱旋門賞を勝った(ランフランコ)デットーリ騎手の姿は繰り返し観ましたね。とにかく格好いいですよね。ディアドラの走ったレース(プリンスオブウェールズS)も格好良かったですし、あのレースも何回も観ましたね。親交や面識は全くないですけど、あの人が乗っていると、体が大きく見えますし、いつ見ても格好いいなと思います。今年で49歳という方ですからね。そうは見えないですね。いつもレース映像を観て、格好いいなと思って、観る度にモチベーションが上がります。こういう風に乗れるような騎手になりたいなと思いますね。
-:50歳まで自身がやっているイメージは湧きますか。
菱:いや~、あと23年ですからね。全く思えないですね。50までやるということは、嬉しい思いも沢山してきたと思うのですけど、メチャクチャ大変なことやもちろんケガもあったと思います。すべてを潜り抜けてきて来られていると思うので、きっと馬に乗ることが好きなのだろうなと思いますね。それくらい馬に乗ることが楽しくなりたいですね。

-:楽しくなる領域には、まだ及んでいないと。
菱:正直、そう思えるレースがすごく少ないです。このレースは楽しかったなと思えるレースというのは、なかなか何度も作り出せないので、そうなった時は最高な気分だと思いますね。楽しかったなと思えるレースを一つでも増やしたいです。
-:その中で最近、楽しかったレースはどうでしょう。
菱:一番近々で言うと、本当にこういうレースをしようと思って出来たのは、やっぱり(6月16日の)北斗特別のリリックドラマ(牝5、栗東・岡田厩舎)ですかね。他では、パフェムリ(牝2、栗東・岡田厩舎)の新馬や函館記念もそうですね。リリックドラマはハナに行きたいという考えと、これくらいのペースで逃げたいというプランが、バッチリ全てハマった感じでしたね。函館記念は勝つことはできませんでしたが、気持ちいいレースが出来ました。本当は勝ちたかったのですけど、前回(巴賞5着)はゲートの中の駐立があまり良くなくて、少し出負けして後ろのポジションになってしまったので、今回はいいスタートを切って、(勝った)マイスタイルの直後でレースをしたいなと思っていたので。その通りの形になりましたし、本当に自分が狙ったレースが出来たなと思いましたね。
-:今後もそういうレースが増えればいいですね。
菱:そうですね。自分がこういうレースがしたいなと思ったレースを、毎回出来るようになりたいですね。それが大きい舞台になれば、なおさら嬉しいです。
-:デットーリ騎手とは年齢差もありますが、菱田騎手も酸いも甘いも経て、20代半ばに差し掛かりましたね。
菱:今年の9月で27歳になります。やっぱり時間が過ぎるのはあっという間ですね。でも、昔より今の方が楽しいです。昔は数こそ勝っていたのですけど、ガムシャラにやっていただけで狙って勝ったレースはすごく少なかったです。今は自分でこういうレースをしようと思って、そういうレースが出来ることがかなり多いですし、冷静に乗れているなと思います。あの当時は制裁や騎乗停止も多かったので、かなり人に迷惑を掛けてしまいましたね。結果は出したいけど、やっぱり技術が伴わないから、人に迷惑を掛けることが多かったので、ものすごく自分の中でもどかしかったです。昔は苦しい思いをしていたなと思いますね。
-:直近で騎乗停止というのはありましたか。あまり記憶はありません。
菱:そうですね。しばらく騎乗停止はないと思います。やっぱり人に迷惑を掛けて勝っても、嬉しくないですからね。しっかりクリーンにレースをした中で、やっぱり勝たないと自分の中でもすごくモヤモヤしますからね。

▲3年目にはタガノグランパで日本ダービーの舞台を経験 当時は若干21歳だった
-:オフの過ごし方はどうでしょう。菱田さんのプライベートはSNSもやられているわけでもないですし、謎のベールに包まれていると思います。
菱:SNSはやっていないですからね(笑)。最近は休日が月曜日だけですけど、あまり外出もしないので、部屋でDVDを観ていることが多いですね。映画が好きなので、今も毎週4本くらいDVDを借りてきて、けっこう観ていますね。
-:それは僕も共感できるところがあります(笑)。今後の具体的な目標というのはありますか。
菱:僕はそんなに遠い目標はないです。何故なら目の前の調教から、一生懸命乗ることしか出来ないと思うので。いきなり大きいチャンスをもらおうというのは失礼なので、本当に毎日の1頭、1頭の馬に感謝して、1鞍、1鞍乗ることしかないかなと思っています。そうやってコツコツやっていったら、またどこかでチャンスがもらえるかもしれないし、どこかで誰かが見てくれているということを信じて、毎日頑張るしかないなと思っています。
-:若手でドーンと勝っても、成績的に落ち込んでしまう人がいることも事実じゃないですか。その中で踏みとどまっていかないといけないですね。
菱:そうですね。本当に乗せてもらえる1鞍、1鞍に、今の僕は全力で取り組むということですね。何勝したい、どのレースを勝ちたいというのは、正直、僕が言える立場ではないと思います。でも、もともと特にこのレースが勝ちたいというこだわりはないですね。大きいレースでも未勝利戦でも、どれでも勝てるものは全部勝ちたいですね。

-:もちろん調教以外にも1頭、1頭の個性を把握するため、映像を観られたり、予習はされるわけですよね。
菱:もちろんレース前は、その馬の過去のレースはほとんど観ますね。今は横からの映像だけじゃなくて、JRAの映像でも縦映像も観られるので。その馬の特徴を把握するには、パトロールビデオはすごく役立っています。逆に、映像は全く観ない方がいいという時、馬もいるので。そういう時はあえて観なかったりもしますね。
-:大きな目標をあえて立てないということですが、大きなレースやチャンスと感じている時のテンションはどうなりますか?
菱:昔なら舞い上がることもありましたが、今は随分と落ち着けるようになりました。初めて乗せてもらったダービーではタガノグランパという馬に乗せてもらって4着。すごく落ち着いて乗れましたけどね。あの時に、レースが終わって四位(洋文)さんに「そこからが(勝つまでが)長いんや」と言われて…本当にその通りだと思います。
-:その着順だったら、レース中でも割と行けるんじゃないかと自分でも思ったんじゃないですか。
菱:4コーナーでかなり手応え良く回ってきたので、“あれっ、もしかしたら勝てるんじゃないか?“ と思って、直線に向いたことを覚えているのですけど、やっぱりあんなレースを勝つことはなかなか難しいですしね。
-:昔はキャリアが僅かながらダービーもジャパンカップ、有馬記念も乗った訳ですからね。
菱:そうですね。今はこうやって周りが見えるようになってきたので、見え方も全然違うと思うので、こういう状態で改めて、そういう大きいレースに乗りたいなと思いますね。
-:また重賞勝ちやG1の舞台を目指して、今後も頑張ってください!
菱:ありがとうございます。

プロフィール
【菱田 裕二】Yuji Hishida
1992年9月26日生まれ、京都府出身。学生時代に知人に連れられて競馬場を訪れたことで競馬の魅力にのめり込み、騎手を志す。家族は競馬界とは縁がなく、自ら競馬にまつわる資料を集め始め、京都競馬場の乗馬教室「淀乗馬スポーツ少年団」で経験を積んだ。競馬学校卒業後は岡田稲男厩舎所属でデビュー。3年目には年間64勝を挙げブレイク。2018年8月の北九州記念ではアレスバローズで重賞初勝利を挙げた。北海道シリーズは例年、訪れており、7月14日の函館4Rをブルーノバローズで制し、JRA通算300勝を達成した。
競馬を知る前は京都サンガFCの下部組織に所属していた程、サッカーで名を知られた存在。趣味はDVD鑑賞。好きな俳優の一人はライアン・ゴズリングで、特に面白かった映画は「ドライブ」。バラエティ番組では「東野・岡村の旅猿」のDVDも頻繁にレンタルするという。