大器晩成の名牝・リスグラシューがいよいよラストランを迎える。2歳時から世代トップクラスの走りを見せるもタイトルになかなか手が届かず、初G1は4歳秋のエリザベス女王杯。しかし、そこからは牡馬相手に海外でも奮闘。今年は宝塚記念、豪・コックスプレートとG1を連勝。その勝ちっぷりも圧巻で、まさに全盛期を迎えてのラストラン。名伯楽・矢作芳人調教師に「調教師人生で初めて」と話す愛馬の急成長、そしてグランプリに向けての意気込みを大いに語ってもらった。

3度目のオーストラリア遠征でコックスプレートを勝利

-:まずはリスグラシュー(牝5、栗東・矢作厩舎)の前走、コックスプレートの勝利から振り返っていただけますか。

矢作芳人調教師:とにかく向こうに行ってからの状態が良かったです。またさらに良くなっているくらいの状態でしたから。このメンバーならおそらく勝てるという自信はありました。コックスプレートで勝つには枠順がちょっと外過ぎましたが、ヒヤヒヤしたのは道中の位置取りだけです。

-:ジョッキーも自信を持っていたからこその位置取りだったのでしょうか。

矢:見ている分には1コーナーまではそれほど速いと思いませんでしたが、レーン騎手は「速いと思ったから控えた」と言っていましたよ。

リスグラシュー

▲一気の末脚でコックスプレートを快勝

-:その前のメールドグラースの勝ち方も似たようなレースでしたけど、4コーナーでは勝てるという感じでしたね。

矢:ただ、人気していたせいでキツいレースになりましたよね。やっぱり最初の位置から下げたし、外から被せられて楽に抜け出せないような形になりました。

-:日本では考えられませんが、レース前は2時間ぐらい観客の目の前で待機しているんですね。

矢:その時の状況が、もう一段成長を感じさせるぐらいの落ち着きでしたからね。逆にあまりにも落ち着き過ぎていて心配になるぐらいでしたね。

-:そういう環境の変化の中でも耐えられるようになったのがリスグラシューの成長の証ですね。先生は若いころにオーストラリアで修業されていた経験もお持ちですから、思い入れも強かったのではないでしょうか。

矢: 1981年から82年にオーストラリアで学びました。37年前に現地で観て感動したコックスプレートを自分の管理馬で勝てたわけですから、今回の勝利は格別です。

リスグラシュー

-:過去2度、バンデ、チェスナットコートでオーストラリアに挑戦されています。これまでのノウハウが今回の結果に結びついているのですか。

矢:それは絶対にあったと思います。過去2度の遠征と同じウェルビー競馬場の検疫施設だったので、行く度に環境のことを要求し続けました。言い続けた甲斐があったなという感じで、少しずつ少しずつ良くなっていました。やはり追い切りをするにしても、去年のチェスナットコートで訪れた時よりも馬場状態が良くなっていましたから。

ファン投票2位で管理馬が有馬記念初出走

-:今回の有馬記念でリスグラシューは引退となりました。矢作厩舎としては初めての有馬記念出走になるんですね。

矢:15年目にして、やっとですね。

-:有馬記念というのは、目標にするとなかなか難しいレースですからね。

矢:それもありましたね。香港には適合しても、有馬記念と言うとどうだろうというのもありました。なかなか適合する馬がいなかったということでしょうか。

-:一番最後の古馬G1で、ジャパンCの後で余力を残すのが難しい一戦です。有馬記念はコースもトリッキーですしね。日本で一番盛り上がるレースとも言われている有馬記念ですが、先生の思いはありますか。

矢:ただ出走させるだけでは嫌だったんですよね。出すのであれば勝負になる馬でファン投票で選ばれたいという思いが強かったです。有馬記念に関しては、それこそコックスプレート以上の思い入れがあって、42年前に16歳の高校2年の時に学校の友達4人で開門前から並んでゴール前のラチ沿いで観戦した思い出のレースです。テンポイント、トウショウボーイ、グリーングラスの有馬記念です。

リスグラシュー

▲意外にも有馬記念初出走となる矢作芳人調教師

朝から有馬記念までお客さんが多くて、動けなかったのを覚えています。自分は関東人だったからトウショウボーイを応援していました。あれだけのレースをしてテンポイントが勝ち、応援していたトウショウボーイが負けた。悔しいレースでしたが、本当に競馬に感動したんですよ。当然その場に行くぐらいだから競馬に対する興味はありましたが、“将来この仕事をしよう”と志すきっかけになったレースは、間違いなくこの有馬記念です。

-:その日から始まり、たどり着いた今年の有馬記念。リスグラシューはファン投票2位という票数を集めたのも嬉しい評価ですね。

矢:ファン投票で選ばれた関係者はみんな嬉しいでしょうし、重みを感じていると思います。ファン投票の重みは感じています。それだけの人がリスグラシューを見たいと思ってくれているということに対しては、ある種の感慨を覚えます。

-:本当に強くなって、充実している今年のリスグラシューを有馬記念で観れるのはファンにとっても嬉しいと思います。充実した今のリスグラシューなら、どのコースでも走りそうですが、中山コースは初めてなんですね。

矢:例えば、トリッキーなコースであるとか、距離的にも2500は初めてですし、そこはよく聞かれます。それに関しては一切気にしていないですね。トリッキーさということを思えばムーニーバレーを克服している馬に、なぜ中山競馬場をトリッキーだと懸念する必要があるのかということが一つ。初コースということに関しては、シャティンも初めてで、あの惜しかった2着、当然ムーニーバレーも初コースでしたし、別に何もそういうことは気にしていないですね。

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