【有馬記念】リスグラシュー 大器晩成の名牝がラストラン 女王との初対決で有終の美を
2019/12/19(木)
-:帰ってきて、今朝(12/12)が初めての追い切りでしたが。
矢:半分冗談で言っているんだけど、重めを心配するぐらいですね。昨日時点で486~488キロです。自分で体をつくる馬だし中山まで輸送があるので、ちょうど仕上がると思っています。今日の追い切りは宝塚記念の1週前と同じようなイメージで臨みました。ある程度しっかりやってほしいと指示を出し、時計(51.6-12.3)も宝塚記念の1週前追い切りとほぼ同じ出方だと思います。そこは助手が上手く乗ってくれました。良い併せ馬が出来たと思います。
-:今年は豪華メンバーの有馬記念です。アーモンドアイも出てくるということで、この対戦はすごく楽しみですね。
矢:コックスプレートのレース後にアーモンドアイと戦ってみたいと言いましたが、実現しましたね。普段だったら、メンバーが弱くて賞金が高いレースを選択するのが経営者ですから。それを信条として調教師をやっていますけど、有馬記念に限っては違うと思っています。それだけの思い入れがあり、年末の最後に強い馬が対決する特別なレースです。しかし近年の有馬記念はそうなっていなかったでしょう。そういう意味で本当に嬉しいし、今年は盛り上がるんじゃないかと思います。ものすごくワクワクしていますし、ファンの方々と同じで楽しみにしています。
ただ、一つだけ言いたいのは、どうしてもアーモンドアイの話ばかりクローズアップされていますが、他も強い馬ばかりですからね。しかも、男馬の強いのが揃っている訳で、アーモンドアイ1頭を意識して、アーモンドアイと対決だ!みたいなふうには書いて欲しくないし、そういう意識はありません。他の強い馬もみんなリスペクトしていますし、そんなことを言っていたら、足元をすくわれるなと思います。
-:中山競馬場での対戦についてどうお考えですか。
矢:どこから見てもアーモンドアイは世界一強い馬です。僕がよく言う、負ける喧嘩はしたくないということで、例えばジャパンCを東京の高速馬場でやったら、全然敵わないと思いますよ。だけど、それがもう少しタフな馬場になった時に、少しでもチャンスが生まれるのが中山なんじゃないかと思います。何より強い馬がこれだけ集まれば競馬全体の盛り上がりにつながる。ノーザンファーム天栄も国枝先生もこの英断をしてくれたことが嬉しいです。
-:有馬記念はリスグラシューの引退レースということだけではなく、勝ちにいくレースでもあるんですね。
矢:もちろんですよ。どの陣営もそのつもりでしょうし、自分もそのつもりです。だって、別にアーモンドアイとリスグラシューだけじゃないでしょ。他の馬だって、G1を勝っている馬ばっかりだから、勝てば年度代表馬という可能性は高いじゃないですか。そうすると、どの陣営も狙っているだろうと思います。特にこれだけメンバーが揃ったレースになったら、勝った時の値打ち、アピール度というのは非常に強いでしょうし。
▲最終追い切りもパワフルに登坂
悔いのない仕上げで挑む
-:メンバーが揃っているからこそのアピール度ですね。レーン騎手が乗れるというのは、先生がJRAに要望したと聞いています。
矢:やはりファン投票のレースですし、ファンが一番望んでいることは何かと考えました。宝塚記念もコックスプレートもダミアン・レーンで勝っている訳ですからね。ダミアン・レーンが乗るリスグラシューが一番しっくり来るだろうという考えで、僕の方からJRAへ申請させていただきました。速やかに認めていただいて非常に感謝しています。今のリスグラシューにとってベストと言えるジョッキーに乗ってもらうことはファンのみなさんにも喜んでいただけることだと思います。
-:レーン騎手は中山競馬場は未経験ですね。先生から何かアドバイスはありますか。
矢:ちょっと小さなことはあるけども、あれぐらい一流の騎手になれば情報網もすごいし、それだけの勉強をしているんです。例えば、今日オイシン・マーフィーが船橋が初めてだと言って、どのコースが伸びているか等、非常に細かく分析していましたから。それだからこそ一流なんですよ。
-:先ほど先生は「コックスプレートが思い入れのあるレース」という話がありました。今までリスグラシューを21回使われてきて、有馬記念が22戦目になります。先生にとって、コックスプレート以外で思い入れのあるレースというのは、どのレースなのか聞きたいのですが。
矢:今の所はコックスプレートが断トツで、次はエリザベス女王杯ですね。そこに有馬記念が入ってくるかなというイメージです。宝塚記念は勝てると思っていなかったんです。正直に言うと「あっ、勝っちゃった」という感じでした。あのメンバーで女馬1頭で、あんなにスッと勝つと思いますか?この前のコントレイルじゃないけど、自分が思っていた以上のパフォーマンスでした。
-:レースを見直しても、ムチャクチャ強いですもんね。最初の頃から「リスグラシューは右回りより左回りの方がパフォーマンスが良い」という話をされていましたが。
矢:今でもそう思っていますけどね。でも、成績を見直すと大して変わりませんね(笑)。
-:現実の成績は右回りが3勝で、2着3着もありますし、そんなに左回りに特化したデータも出ていないですからね。
矢:もう気にしていないですけど、自分の見る目がなかったということですね。
-:右回りだと内にササるという所がありましたからね。
矢:そうですね。結局、内にも外にもどっちにも行くんだけど、どっちかと言うと、右回りの方が内にササるかなと思っていました。そういう部分は宝塚記念でもありましたからね。
-:リスグラシューを育てていく上で、先生自身が調教師として新たな発見はありましたか。
矢:やはり馬は先入観に捉われてはいけないということでしょうね。リスグラシューはこちらの想像を超えた成長を遂げた馬だという点です。例えば、2歳、3歳までのイメージだったら、東京に行くだけでも大変でした。ですから海外遠征なんか絶対に視野になかったんですよ。
この馬は輸送がダメだとか、右回りがダメだとか、決めつけというのはどの馬に関しても良くないんだと痛感しました。特にリスグラシューに教えられた部分は大きいと思います。なかなか歴代の競走馬の中でも、牝馬で5歳になってこれだけ急成長した馬というのは珍しいケースです。もちろん僕の調教師人生で初めてですし、あり得ない話だと思いますね。
-:旧年齢で言ったら、6歳ですからね。
矢:そうですね…。リスグラシューを管理させていただいて、せっかちだから競馬も使いたい方だけど、少しドシッと待ってやることも大事だということを教えられました。
-:使いながらドッシリとしてきたということですよね。同世代のモズカッチャンは引退していますが、ディアドラは頑張っていますからね。そうなると引退がちょっと惜しまれますね。
矢:もちろん、それはちょっと惜しいですよ。僕は調教師ですから、競馬を使うのが仕事ですから。ただ、アスリートの引き際としては、惜しまれつつ辞めるという美学もあるとは思いますね。どんなレースになるかは当日になるまでわかりませんが、リスグラシューの現役最後の姿を応援してあげてください。
プロフィール
【矢作 芳人】Yoshito Yahagi
1961年3月20日生まれ。東京都出身。父の矢作和人氏は大井競馬の元調教師。自身は名門・開成高校を卒業するも、父の影響を受けて競馬界へ足を踏み入れる。厩務員・調教助手時代は5つの厩舎を渡り歩き、2005年に厩舎を開業。実に14回目の受験で、晴れて調教師免許を手にした。
厩舎開業後はコンスタントに勝ち星を重ね、スーパーホーネット、グロリアスノア、グランプリボス、ディープブリランテ、モズアスコット、ラヴズオンリーユーら活躍馬を多数輩出。2014年と2016年にはJRA賞(最多勝利調教師)を獲得し、今年は10月26日にオーストラリアで行われたコックスプレートをリスグラシューで優勝。若き日に修行した原点の地でG1を制した。
また、メディア・ファン対応も精力的にこなしており、2008年には初の著書「開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント」を発刊。『よく稼ぎ、よく遊べ』をモットーに、他とは一線を画した厩舎運営を続けている。