【フェブラリーS】モズアスコット矢作調教師「ダート転向」お願いした理由
2020/2/16(日)
2018年の安田記念を連闘で制したモズアスコットが初めてのダート戦だった根岸Sで1年8カ月ぶりの勝利を挙げて鮮やかに復活。母系の血統背景からダート適性には自信があったという陣営だが、それをレースでハッキリと証明した。次のターゲットはダートのマイルG1・フェブラリーS。芝のマイルG1ウイナーがダートでもビッグタイトルを手にできるか?その手応えを矢作芳人調教師に聞いた。
-:フェブラリーS(G1)出走予定のモズアスコット(牡6、栗東・矢作厩舎)ですが、ダート初戦の根岸Sを見事に勝利で飾りました。ダートに挑戦しようと思われたポイントを教えてください。
矢作芳人調教師:ダート適性に関しては結構自信がありました。まず第1に調教の動き、脚捌き、パワーです。2番目は血統。血統的にダートは絶対に走るなと思っていました。
-:それは父フランケルにダート適性があるということですか。
矢:フランケル産駒は世界的にみてもダート特性は未知数ですよね。極めて少ないサンプル数しかいないのに、芝と決めつけています。一方、モズアスコットの母系はアメリカのダート重賞で2勝しており、母Indiaの父がヘネシーですから明らかにダートは走るだろうと。ただ、安田記念で芝のG1を勝ちましたのでダートを試す機会がなかったというのが本音です。そこに至るまでに何らかの壁に当たっていたら、早い時期にダートに行く青写真を考えていたのですが。やはり芝でG1を勝つと、なかなか使いづらいですよね。
もう一つは昨年一杯で引退という可能性もあったこと。でも、マイルCS後にオーナーから「もう1年現役を続けたい」と言われたので、「それならダートに使わせて下さい」とお願いしました。もし去年で引退していたら、どこか尻すぼみな印象が残るでしょう?種牡馬価値を高めたいという意味でも、ダートで走ってくれたら評価も上がると思いました。
▲根岸Sで安田記念以来となる久々の勝利を挙げた
-:モズアスコットの気性的な話ですが、フランケル産駒はレース当日だけではなく、トレセンでもテンションの高い馬が多い気がします。モズアスコットの強味は他のフランケル産駒に比べて穏やかな気性だと思えるのですが、いかがですか。
矢:そんなことはないですよ。年齢を重ねて気性の激しさは薄れてきたとは思います。特にトレセンでは以前より大人しくはなりました。それでもキツいところはあります。どちらかと言うと、牝馬の方が難しい血筋だと思います。
-:モズアスコットにも激しい面があるんですね。
矢:毎回、馬場入りは大変なんですよ。特に気を使っています。確かにそれ以外は、そこまで手を焼く馬ではないですね。ただ、そんなに大人しいタイプじゃありませんよ。
-:勢いよく馬場に入った後、レース中の折り合い面はいかがですか。
矢:そこに関しては成長しましたね。デビュー当初と比べたら競馬を理解してくれています。
-:次はいよいよダートの頂上決戦フェブラリーSですが、ローテーション的に中2週と詰まっていますが。
矢:矢作厩舎で中2週は普通です(笑)。連闘でG1を勝っている馬ですよ。ただ、モズアスコットに関しては脚元の不安もあります。根岸S後のケアという意味では、もう1~2週あっても良いかなという所はありますね。脚元の不安さえなければ、詰まった方が良いのは間違いない馬です。休み明けを6~7分の状態で勝った反動さえ出なければ、確実に上積みはあると思いますね。
-:根岸S直前のルメール騎手が乗られた追い切りでは、良い時と比べると反応が物足りなく見えました。
矢:確かに、良くはなかったですよね。追い切った直後のルメールは弱気でした。ハッキリと「反応が良くない」と言っていましたからね。
-:叩き良化型だと思っていたモズアスコットが、初ダートの根岸Sであの競馬が出来た。しかも、スタートも決まらなかったのに。……ということは?
矢:まともに走ったら、ケタが違うなと思いましたね。ただ、去年の秋のマイルCSが非常に良い状態だったにもかかわらず全然走らなかったり。そういうわからない所があるのがちょっと怖い。他にはあまり不安はないですね。
-:能力の差を見せつけた根岸Sでしたが、芝のG1馬をダートに転向させても多くは走りません。いきなり結果が出たということは、1ハロン距離が延びて、舞台も同じであるフェブラリーSでも明るい材料と言えますよね。
矢:もちろん、そうですね。やはり根岸Sで惨敗していたら、フェブラリーSを使おうかと思えたかどうかわかりませんね。もしも内容が良くなければ、考え直さざるを得なかったでしょう。
-:先生にとっても、モズアスコットのダート適性は想像以上の走りだったのではないですか。
矢:その通りです。
-:本番は芝スタートですから、ダートスタートだった根岸Sよりは有利なポジションで進められそうですね。
矢:そう思っています。正攻法の競馬で普通に好位、もしくは中団でも良いと思うし、力の違いを見せつけるような競馬をして欲しいなと思います。
-:改めて根岸S後の状態についてお聞かせください。
矢:現状は普通に疲れていて、上がってきています。今はちょうど中2週の中間点なので、回復途上です。これまでのレース同様、それなりの疲れはありましたから。
-:1週前の追い切りは金曜日にする予定です。ファンはモズアスコットの状態を、どう判断すればいいでしょうか。
矢:来週もそこまで攻めないと思うので時計では判断できないと思います。これは非常に難しい質問ですが、専門紙やスポーツ新聞などに正直にコメントを出します。少しでも不安があれば、不安点を言うので、それを見て判断して下さい。体は大きくは変わらないと思いますし、極端に追い切りが軽かったりすれば察してもらえると思います。
-:先生の直前のコメントが抑えめだったら、好調ではないということですか。
矢:そういう所で見てもらうしかないですね。と言うのは、前走でも追い切りの動きはちょっと反応が鈍いなと思っていたけど、その後の金曜日に余計に悪くなったんですよ。そこは、伝える場もないので難しい所ですよね。金曜の朝、脚を突っ張るような動きだったので追い切りが終わっても、気が抜けないんです。できる限りファンの方に伝えられるようにしますので、コメントを見て判断して欲しいです。
-:当日の天候ですが、脚元の不安がある馬にとって、雨が降るよりは乾いたパサパサの砂で走らせてあげた方が良い結果に繋がりそうでしょうか。
矢:クッションがある方が負担は軽いと思います。ですから、嫌なのは雨ですね。この前は良馬場であの好時計が出ている訳で、かなり速かったですからね。モズアスコットにとって良馬場のダートがベストですね。
-:今回のフェブラリーSは、チャンピオンズC組からは出ない馬もいて、混戦模様です。モズアスコットを応援するファンに向けて、先生の意気込みを教えていただけますか。
矢:今回のメンバーでは、明らかに力は上だと思っています。サウジアラビアに行ったゴールドドリームとクリソベリルの2頭がいない訳ですからね。とにかく後は、当日に良い状態で不安なく出せるかどうか、それに尽きると思っています。
-:ファンは調教のメニューと先生のコメントから目を離さずに……ということですね。
矢:申し訳ないですけど、それしか言えないですよね。パドックで明らかにコズんで歩く馬ではないのでコメントを見てください。
-:まだ2020年は始まったばかりですが、モズアスコットの選択肢が広がった訳ですよね。この先のプランをお話しいただける範囲で教えてください。
今年は本格的な二刀流で世界の舞台へ
矢:本格的な二刀流をやろうと思っています。次はオーストラリアのドンカスターマイルと決まっています。ただし、ドンカスターマイルはハンデ戦なのでフェブラリーSの結果が影響すると思います。ブレずに二刀流でいきます。
-:世界的に見ても、フランケルのダート適性を高いレベルで示した初めてのケースだと思います。これから世界のフランケルの産駒もダートに使う馬が出るかもしれないですね。
矢:そういう意味では色々と気持ち良くさせてくれる馬ですよね。なかなか勝てなかったけれど、連闘でG1を勝ってくれました。その上、初ダートで普通の人の考えでは結果を出すのは難しいだろうという中、あのような勝ち方をしてくれましたからね。
-:先生以上にオーナーも喜ばれたのではないでしょうか。
矢:本当にそうですね。もしフェブラリーSを勝てたら、東京マイルでの芝、ダートの両方を勝った初めてのG1馬になります。もう一つは、個人的な話ですが昨年の有馬記念、ホープフルSとG1を連勝しているので、3連勝を目指したいと思います。
-:府中の直線で抜けてくるモズアスコットを期待しています。
矢:ありがとうございます。
プロフィール
【矢作 芳人】Yoshito Yahagi
1961年3月20日生まれ。東京都出身。父の矢作和人氏は大井競馬の元調教師。自身は名門・開成高校を卒業するも、父の影響を受けて競馬界へ足を踏み入れる。厩務員・調教助手時代は5つの厩舎を渡り歩き、2005年に厩舎を開業。実に14回目の受験で、晴れて調教師免許を手にした。
厩舎開業後はコンスタントに勝ち星を重ね、スーパーホーネット、グロリアスノア、グランプリボス、ディープブリランテ、モズアスコットら活躍馬を多数輩出。2014年と2016年にJRA賞(最多勝利調教師)を受賞。昨年はラヴズオンリーユー(オークス)、コントレイル(ホープフルS)、そしてリスグラシュー(有馬記念、宝塚記念、コックスプレート)がG1を制してJRA賞(最多賞金獲得調教師)を受賞した。
また、メディア・ファン対応も精力的にこなしており、2008年には初の著書「開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント」を発刊。『よく稼ぎ、よく遊べ』をモットーに、他とは一線を画した厩舎運営を続けている。