田口貫太騎手インタビュー 周囲への感謝を胸に飛躍目指すホープを直撃!
2023/12/3(日)
競馬ラボでもお馴染みの名ジョッキー・安藤勝己さんなど、多くの名手を輩出してきた岐阜の笠松競馬場。そんな笠松にルーツを持つジョッキーが今年JRAからデビューした。田口貫太騎手。父も、母も元ジョッキーという"サラブレッド"。両親や師匠、そして偉大な先輩…。数多くの人々に支えられ、騎手として上を目指し続ける期待の若手を直撃した。全3回でお届けする。(取材日:10月22日日曜)
-:まずは最初にデビューから8カ月(取材日:10月22日)、ジョッキーになって率直な感想から聞かせてください。
田口貫太騎手(以下貫):毎日競馬に乗れて楽しいです。平日も地方で乗せていただけて、充実しているなと思っています。
-:先週、土曜京都1R(10月14日)をドレシャスで勝たれ、中央地方通算31勝(中央24勝、地方7勝)達成おめでとうございます。これでG1騎乗が可能となりました。
貫:これまでたくさんの有力馬に乗せていただいた関係者の皆さんのおかげです。そして大橋先生が乗せてくださらなければここまでの勝ち星は挙げられていなかったと思います。
-:ルーキーイヤーの目標はどのようなものだったのでしょうか。
貫:30勝です。新人賞が目標でした。
-:ご自身の中で、現時点での目標の達成度はどのくらいでしょうか。
貫:乗せていただいている馬を考えていれば、もっと勝利数が伸びていないといけないと思います。満足はしていませんが、ただそれでもこの時期までに24勝させていただいていますし、ありがたいです。
-:今年3月、クリノクリスタルで待望のデビューを果たしました。初の実戦の感想をお聞きしたいです。
貫:まず第一に、凄くしんどかったです、体力的に。太ももなど体全身が今までにないくらい張っていて。模擬レースは乗っていましたが、ここまで消耗することはなかったです。周りの先輩ジョッキーに気を遣うところもありますし、レースの流れ云々より自分のことでいっぱいいっぱいでした。
-:緊張はされましたか?
貫:緊張といっても、焦りとかそういうものではなく、とうとう始まるなという高揚感のほうが大きかったですね。ゲートを出てみたら1番人気の(岩田)望来さんの馬が前にいて、ついていこうと。
師匠である大橋(勇樹)先生からも「外を回るとカッコ悪いから、内を回ってきなさい。脚があれば直線外に出しなさい」という指示があり、ある程度指示通りには乗れたと思います。なんとか競馬にはなったなという感想がありました。
-:大橋先生はどのような方なのでしょうか。
貫:本当に僕のことを思ってくれている先生です。デビュー週から本当に多くの馬に乗せていただいて、今厩舎にいる管理馬のほぼ全てに乗せてくださいました。
大橋先生は愛のある、ありがたい先生なんです。調教師の中でも年齢は上のほうなのですが、僕が他の厩舎に乗るとなった時、先生はその厩舎の先生に「貫太を頼むな、よろしくな」と毎回声を掛けてくださるんです。大橋先生のおかげで、僕はここまで乗り鞍が集まっていると思っています。
-:初勝利は3月末、自厩舎・大橋厩舎所属のレッツゴーローズでした。前走は田口騎手で2着でしたが、今回は早め先頭に並びかける強気な競馬でした。
初勝利となった3月26日阪神1R・3歳未勝利
貫:とにかく馬の邪魔をしないよう心掛けました。先生からも「手応えが違ったら動いていい。それで負けたら仕方ないから。馬の力を信じなさい」と言われていましたし、ハミを取ってくれたところで無理をせずに動いていきました。
-:初勝利を挙げるとやはり心境は変わるものでしょうか。
貫:やはり違いますね。ホッとしました。前の週に自厩舎のカネトシフラムという馬で単勝2.0倍のグリグリの1番人気に乗ったのですが、それでも2着で…。「今後ジョッキーとして勝てるのかな…」と不安になっていた時だったんです。
デビューして3週しか経っていない僕に1倍台になる馬を任せてくれた大橋先生には本当に感謝しています。ルーキーの僕が乗って2.0倍の評価を頂けるということは、馬が相当強いということだと思うんです。先輩方が乗ったら1倍台の馬だったと思います。そんな馬を僕に任せてくださり、しかも2着だったのに大橋先生は次のレースでも乗せてくださって…。本当にありがたいです。
競馬は厩務員さんがいて、調教師の先生もいて、生産者の方もいて、オーナーの方もいて、自分だけじゃなく、全員の生活が懸かっていますし、それだけに1つ勝てて本当に嬉しかったです。一歩踏み出せた感じになりました。
-:その経緯を踏まえると、初勝利は大橋先生も相当喜んでくださったのではないですか?
貫:そうですね。しかもこのレッツゴーローズで勝ったレースは、大橋先生もちょうどJRA300勝のメモリアルだったんです。一緒に迎えられて嬉しかったですね。
記録が達成間近だったのは知っていたんです。大橋厩舎のスタッフの皆さんからも「貫太で300勝を決めたら先生も嬉しいやろうなあ!」と事前に声をかけられていました。嬉しかったです。みんな喜んでくださいました。
ダート王二ホンピロアワーズも管理した大橋勇樹調教師(左から5人目)
-:中央、地方合わせるとG1騎乗可能ラインの30勝を超えたわけですが、今後大きなレースに騎乗することも増えると思います。普段は緊張するほうでしょうか。
貫:デビューした当初は緊張していましたが、最近はないですね。平常心で乗れているかなと思います。
-:夏の北九州記念でクリノマジンに騎乗し初重賞騎乗を果たされましたが、やはり平場とは雰囲気が全然違いましたか?
貫:もちろんです。重賞に初めて乗せていただきましたが、パドックのお客様の雰囲気からしてまるで違いましたし、返し馬に行く時の歓声、ファンファーレを聞いて鳥肌が立ちました。感慨深いものがありましたね。それでもゲートに入ってしまえばいつもと同じ感覚で乗ることができました。
-:平場のレースと比べて重賞は圧倒的に馬群もタイトで厳しいと聞きますが、実際そうなのでしょうか。
貫:全然違いましたね。1頭1頭の隙間もないですし、みんなきっちり回って、未勝利戦とはレースの質から違いました。
-:デビューから半年以上経過しましたが、普段はどのようなトレーニングをされているのでしょう。
貫:トレーナーさんについてもらって、股関節周りのトレーニングは多いです。肩甲骨周りのトレーニングもしていますが、股関節は力を入れる動作だけでなく、力を抜く動作も必要になるので、特に重要視しています。
-:力の抜き方も重要なのですね。
貫:騎乗時には股関節に力を入れて、抜いての繰り返しになるんです。グっと力を入れるのは簡単なんですが、そこから一気に力を抜くのは難しいので。
筋トレ自体は簡単にできますが、トレーナーさんとしかできないトレーニングもありますし、地味ですが、少しずつ実になっていると感じています。体もデビュー当時より上手く使えていると思います。
-:レースが終わった後の復習はどのようにやられているのでしょうか。
貫:僕の場合は自分の乗ったレースの映像を全部横から見て、その後にパトロールビデオを見て、進路取りなどを確認しています。上手い先輩のコーナリングやゲートの出し方を見て勉強させていただいています。テレビなどに映る横の映像で自分の騎乗姿勢なども確認しますね。
そして一つ一つレースを見ながら、自分の乗った馬の癖などをノートに1頭ずつ書いています。そのレースはこうしたほうが良かったとか、そういうことではなく、次に繋がる馬の癖などをメモしていっています。
-:他のジョッキーが乗った馬についてメモすることはあるのでしょうか?
貫:基本自分が乗った馬のことだけです。他の馬は乗った人から聞いたほうが早いですし、乗って感じることは人によって全然違います。見ただけの先入観は持たないようにしようと思っていて、他の先輩の皆さんの感覚を聞いた後に自分でも乗って、感覚をすり合わせるようにしています。
-:レース後、先輩騎手に話を聞きに行くことも多いのですか?何か印象的な言葉があれば教えていただきたいです。
貫:レース中に迷惑をかけてしまった先輩にまず謝りにいき、そこから「ここでどうすれば良かったでしょうか?」と話を広げていくことが多いです。
先輩からいただいた言葉で印象的なのは、ちょうど今週(取材した菊花賞週)、新馬戦に乗せていただいたのですが、先生から2番手くらいで乗ってほしいという指示を受けていたんです。
指示通り乗ろうとしたのですが、西村淳也先輩に「新馬戦は競馬を教えることが大切で、勝ちを意識し過ぎないこと」と教えていただきました。馬の将来を考えて乗らないといけないとなと改めて感じました。
あと以前、僕がヤマイチエスポという馬に乗って4着だったことがあるんです(9月16日阪神7R・3歳上1勝クラス)。このレース、外に進路があったのに僕が詰まってしまったレースで…。馬の手応えがあると僕たち新人はどうしても前を追いかけていきたくなるんです。でもそうすると進路の選択肢が少なくなってしまうんですよね。
レースを見ていた川田(将雅)さんに「こういう時は冷静に、一つ引いたところで周りを見て進路を探したほうがいい」と教えていただいてから、4コーナーで手応えがあると思った馬でもワンテンポ待って、周りを見てから追い出せるようになりました。まだまだですが、そういう感覚は言われないと気付かないところですし、レース映像を見て教えてくださった川田さんに感謝しています。
-:手応えがあると焦る気持ち、分かる気がします。
貫:やっぱり焦りますね(笑)。詰まりたくないですし…。そういえば初勝利を挙げた日の夜、笠松でお世話になっていた厩務員さんのお疲れ様会があったのですが、そこで安藤勝己さんとご一緒したんです。初勝利を挙げたレッツゴーローズのレースは僕が結構早く仕掛けたレースだったのですが、勝己さんに「そんなに勝ちに行かないように。勝ちに行ったら競馬は負ける」と言われたんです。
勝ちに行くなと言われて、正直"?"となりました(笑)。その時は全然、勝己さんのこの「勝ちに行かないように」という言葉の意味を理解できなかったんですよね。でもその後競馬に乗っていくうちに、色気を持って動くと最後馬は止まることが分かったんです。
笠松が生んだスーパースター・安藤勝己元騎手
もちろん全部の馬で勝つつもりで乗るのは大事なのですが、全部の馬で勝ちに行くとやっぱり最後甘くなってしまうところがあります。
勝己さんは「最低人気の馬で勝つのはなかなか難しいけれど、脚を溜めて最後伸ばす騎乗をして7着とかに入れば賞金は入るし、関係者の方は喜んでくれる。そういうところも大事にするように」とも言ってくださって、最近確かにそうだとより思うようになりました。
「勝てる馬でも勝ちに行くなよ」と勝己さんはおっしゃっていましたが、この発言の本質は勝己さんにしか分からない感覚であるとも思います。ただ教えていただいたこの勝己さんの感覚に、少しでも近づけるよう頑張りたいです。
-:身近に安藤勝己さんのような偉大な存在がいるのは大きいですね。
貫:本当に感謝しています!
プロフィール
【田口 貫太】Kanta Taguchi
2003年12月10日生まれ、岐阜県出身。父は笠松競馬の元ジョッキー・田口輝彦調教師。母の広美さん(旧姓:中島)も笠松競馬の元ジョッキー。両親共にジョッキーという家庭に生まれ育つ。2017年の日本ダービーをお世話になっている馬主さんと共に観戦し、ジョッキーを志すと、2度目の受験でJRA競馬学校に39期生として入学。
2023年に栗東・大橋厩舎からジョッキーデビュー。3月26日、阪神1RのレッツゴーローズでJRA初勝利を挙げると勝ち星を積み重ね、現在39期生トップの勝ち星を挙げるホープ。趣味は野球などスポーツ観戦。座右の銘は"明日の自分は今日より強く"。最後まで貫きやり通す期待の若武者。