成瀬琴(以下琴):先日のインタビューでは大舞台を目指す馬たちのお話を伺いましたが、山元トレセンにはまだまだ楽しみな馬たちがいらっしゃるとか。佐藤主任から「この馬には注目!」というオススメの子はいますか?

佐藤恭平主任(以下恭):未勝利を勝ったばかりの馬ですが、レッドアレグロ(牡3、美浦・木村厩舎)を紹介させてください。

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琴:9月1日の3歳未勝利で2着に8馬身差をつける逃げ切り勝ち、とても強い勝ち方でしたよね。

恭:もっと早いうちに勝ち上がれると思っていたのですが、直線でムチを打たれてフラついたり、抜け出してから止まったりと幼い面が目立っていたんです。前走はもう後がない一戦だったので、木村先生とも相談してブリンカーを着用してみようと。馬具がバッチリ効いたことが結果に繋がりましたね。

やーしゅん(以下や):僕はちょうど現地で見ていたんですけど、この時期の3歳未勝利で前回から1秒も時計を詰めたらそりゃぶっちぎりになるよ、ズルいよと思って見ていました(笑)

恭:それでも最後はまだ遊ぶ面があったくらいなんですよ。余力は十分残っていたと思います。能力の高さを見せてくれました。

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や:あの勝ちっぷりで余裕があったのはスゴいです。パドックでも格好のイイ馬だなと思っていましたが、改めて近くで見るとやっぱりイイ馬ですね。皮膚も薄く見えるし、1勝クラスの馬とは思えないです。

恭:いや、本当にこれはイイ馬なんです。デビュー前から新馬勝ちしても不思議ないな、と思っていました。木村先生も「もっと上のクラスでも勝てる馬だ」と高評価しているので、自分たちも今後を楽しみにしている馬なんです。まだ気性的に難しいところがあるので、この中間に去勢を行って、今は次走に向けて調整しているところです。

や:これは間違いなく覚えておいた方がいい馬ですね。すぐに上のクラスに上がってくるような気がしています。

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琴:いきなり楽しみな馬のお話ありがとうございます!2歳馬のお話も伺っていきたいのですが、ヴァリアントマーチ(牝2、美浦・林厩舎)は前走の新馬勝ちが鮮やかでしたね。

恭:ビッグアーサー産駒らしいいいスピードを初戦から見せてくれましたね。

琴:舞台としては、やはり短いところが合っていそうですか?

恭:そうですね。父親のいいところを受け継いでいる印象なので1200mがベストだとは思いますが、1400mまでは持つんじゃないかなと思います。次走は福島2歳Sを予定していて、その後も短いところを中心に使っていくつもりです。

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琴:ありがとうございます!もう一つ…ワガママ言っていいですか?(笑)。デビュー前の2歳馬たちの中から、佐藤主任がオススメする1頭を伺いたいのですが…。

恭:もちろんどの馬も期待していますが、あえて1頭挙げるならディオデルマーレ(牡2、美浦・堀厩舎)ですね。既に山元TCからは退厩済みですが、ココに来た当初よりもグングンと馬が良くなっていくのを感じましたよ。

や:お兄さんのダルダヌス(牡5、美浦・尾関厩舎)はダートの短距離で走っていますよね。上と比べて違いはありますか?

恭:ダルダヌスは見た目にもパワー型でいかにも短いところの馬という感じですが、こちらは距離がある程度持ちそうで、1600mくらいまでは対応できると思います。ロードカナロア産駒なのでゆくゆくは距離が短くなっていくかもしれないですけど、素質と成長力はいいものを秘めていそうで、楽しみにしています。

や:僕もいい話を聞けました、主任、ありがとうございます。ここからは自分が山元研修に来ていた時にお世話になっていた、行本達郎厩舎長にも期待の2歳馬について伺いたいのですが…行本さん、お久しぶりです。

行本達郎厩舎長(以下行:)はい、昔やーしゅんをお世話した行本です(笑)。よろしくお願いします。まずはロードカナロア産駒の男の子、ミッキーマカパ(牡2、美浦・田中博厩舎)から紹介しましょう。ちょっと遅れて山元へやってきた馬なんですが、最初にパッと見た時に「イイ馬だな」と感じたんです。

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琴:かっこいい馬ですね!こちらに来てからの状態などはどうですか?

行:当初は見た目の割に中身が伴っていない印象もありましたが、9月いっぱいは1ハロン15秒ペースで乗り込んで、今は週末に坂路1ハロン14秒くらいまで進んできています。だいぶ基礎の部分がしっかりとして、先日見に来られた田中博先生も「やっぱりイイ馬ですね」と褒めていましたよ。

や:結構馬格があってパワフルな感じがしますね。やっぱりパワー型ですか?

行:基本はそうですね。でもロードカナロア産駒でスピードも感じるので、純粋に能力は高そうな感じです。後は厩舎に預けて、先生の感覚がマッチするところを使ってもらいます。

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や:芝もダートもこなせそうな雰囲気ありますよね。どのくらいでデビューできそうですか?

行:このまま順調にいけば、厩舎の空き次第にはなると思いますが、12月くらいのデビューも視野に入るのかなと思います。

琴:続いて見せていただいたのも同じ田中博康厩舎のリープアップ(牝2、美浦・田中博厩舎)ですが、この子は先ほど調教で走っているところも見せていただきました。どんな感じの子なのでしょうか。

行:この子は既にゲート試験に受かっていて、その時にデビューも……という話も挙がったのですが、一発でゲート試験を受からなかったことなどもあって、無理せずに山元へ戻ってきました。

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や:パッと見た感じの印象ですけど、結構胸が深い感じの馬ですね。

行:そうだね。この馬はイヤリングからリリーバレーに行くのが遅い組だったらしくて、成長はゆっくりなタイプです。まだ腰高な面は残っていますが、それでもだいぶ背が伸びて、前躯が追いついてきました。

琴:まだまだ成長しそうですね、触っていての変化などは感じますか?

行:見た目に関しては毎日触っているからか「ああ、ちょっと大きくなってきたな」くらいの感覚なんですが、田中博先生や見学に来た会員さんは「かなり変わりましたね!」と仰ってくれているので、良くなってきているのは確かだと思います。

琴:今の状態や仕上がり具合などはいかがでしょう。

行:全体的に締まるところが締まって、馬の仕上がり具合は高まってきていますよ。もう一段、二段強い調教をやってみてもいいかな、と思っています。

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や:背丈もそうですが、横幅ももっと出てきそうな感じありますね。

行:多分、競馬を使いつつ、来年の春くらいになったらもっとガッチリしてくるんじゃないかなと思います。

や:ダートで活躍馬を出しているニューイヤーズデイ産駒ですが、この馬も蹄や繋ぎが立っていますね。

行:田中博先生ともそういう話をしていて、やっぱりダート向きかなという印象ですね。12月上旬の中山ダート戦を目標に調整しているところです。

琴:ありがとうございます。次に紹介してもらったこの子は…。

行:コスタヴェルデ(牝2、美浦・鹿戸厩舎)、成瀬さんのお父さんである、鹿戸先生に預かってもらっている子ですね。

琴:あ、こちらこそお世話になります(笑)。行本さん、動きのほうはどうでしょうか?

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行:この馬も3ハロン40秒くらいのところまで進んでいます。現状で400キロを切っているくらいの小さい馬なんですが、走る気持ちはスゴく強い馬です。逆に、速めの調教を行った時に頑張りすぎてしまう面があるので、そこはしっかりケアしつつ進めています。

や:ちょっと気持ちで走りすぎてしまう感じですか?

行:引っかかって行くようなことはないんだけれども、併せ馬では相手に食らいついていこうという気持ちが強いので、これは長所として捉えていますよ。

や:体つきを見る限りは、もう仕上がっているというか、余分な肉が付いていない感じですね。

行:元々肉が付きづらいタイプではありますが、それでも入場時より馬体は増えています。まだ具体的なデビューは決まっていないですけど、飼い葉食いも悪くはないですし、厩舎に送り出す時は余裕を持たせた上で出したいですね。

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琴:お母さんのパルクデラモールも鹿戸厩舎にいた馬ですが、似ているところはありますか?

行:パルクデラモールは牝馬の割に馬格があったので、あまりお母さんとは似ていないですね。ただ気性的なところでいえば、前向きな面は同じですし、適性面で見てもお母さんと同様に芝向きかなと思います。あと、顔の大きいところは似ているかもしれません(笑)

琴:かわいらしい個性が似てくれて嬉しいです(笑)。この子は私もまたお会いすると思うので、どうかよろしくお願いします!その他に、これは覚えておいてほしいという2歳馬はいますか?

行:ダノンアンチュラス(牡2、美浦・国枝厩舎)ですね。父がエピファネイアで、シュトルーヴェの半弟にあたります。

琴:お兄さんのシュトルーヴェと比較していかがでしょう。

行:やっぱりイイ馬ですよ。ただ上のアンティシペイトやシュトルーヴェもそうだったんですが、いきなり早い時期から活躍しだすというよりは、奥手な部分があるんです。その辺りは国枝先生とも相談しつつ使っていきたいですね。

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や:エピファネイア産駒なら、この馬も長丁場向きになりそうですね。

行:コンスタントに走る馬を出してくれて、アンチュラスは本当に立派だと思います。この馬も体型的に長いところのほうが良さそうですし、成長力もある血統なので楽しみですね。

や:自分も好きな血統なので、期待しています。行本さん、2歳馬のお話ありがとうございました!

琴:私からもありがとうございます!改めて佐藤主任にお伺いします。これまで個々の馬たちについてお話をいただきましたが、競走馬を扱っていく中で、チームとして大事にしていること、モットーがあれば教えてください。

恭:いくら鍛えても、状態が悪ければレースで力を発揮するのが難しくなりますから、まずはコンディションを整えて、イイ状態で厩舎にお戻しすること。当たり前のことですがコレが一番大事かなと思っています。

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や:今は外厩である程度馬を作って、トレセンで最終仕上げをするというケースが多いですが、山元TCでは具体的にどのくらいのレベルまで馬を仕上げているんですか?

恭:おおよそトレセンに入ってから3週間くらいでレースを使うので、入厩してからの調教強度は必然的に強くなります。そこに耐えられるような心肺機能、馬体を作っていくことがマストになりますよね。乳酸値を追い切りごとに計測したり、過去にレースでいい走りをした時の調教過程に近くなるように調整していくことは意識しています。

や:乳酸値を測る頻度は自分がいた時より明らかに増えていると感じます。それだけ科学的な視点から競走馬を視ている証ですね。

恭:そういったことでいえば、馬の立ち上げに使っているトレッドミルも変化しています。最近はトレッドミルの部屋を低酸素状態にする機械があって、休養から運動を開始した時の心肺機能をより強化するトレーニングを行うこともありますよ。

や:いわゆる高地トレーニングに近い形ってことですね!効果は感じますか?

恭:やっぱり普通のトレッドミルより低酸素状態で走らせる分、脚元に対して同じ負荷で、心肺を鍛えることができます。運動開始時のスタートがスムーズに行きやすい感覚は受けますね。ちなみに、部屋自体を低酸素状態にするので、調教に付いている時は僕も若干息苦しい感じはあります(笑)

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琴:人も息苦しくなるのは初めて聞きました!調整に関してですが今年はとにかく暑く、まだ残暑が厳しいですが、やはり暑さは気にするところですか?

恭:そうですね。もともと山元ってそんなに極端に暑い場所ではないんですけど、ここ数年で暑さが急に厳しくなってきました。

や:自分が山元研修に来ていたのがだいたい10年近く前なんですが、その時より明らかに暑くなっているのが分かります。

恭:熱中症対策として厩舎にエアコンが付きましたが、あるのと無いのとでは全然馬のコンディションが違うので、設置されて本当に良かったと思います。

琴:夏場はトレーニング内容なども替えたりしているんですか?

恭:トレセンと同じで、なるべく涼しい朝早い時間にズラして乗るようにしていますし、調教が終わった後の上がり運動も早めに切り上げるようにしています。

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調教の強度というよりは、シンプルなことですけど、ケアを重視することに努めている感じです。あとは汗をかいてミネラル不足になりがちなので、夏は飼い葉に電解質を多めに入れたりしています。

琴:その辺りは、人間のアスリートと同じなんですね。最後に、今後に向けての目標を聞かせてください。

恭:馬のレベルにもよりますが、未勝利馬であればまず1勝です。JRAではまず1勝を挙げることで、その馬を長く面倒見てあげられることにも繋がります。

そして既に勝ち上がっている馬であればより上の舞台を目指せるように次の1勝。そして関係者はみんなそうだと思いますが、大舞台に1頭でも多くの馬を送り込めるようにしたいですね。レースで力を発揮できる状態にしっかりと仕上げていけるよう、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います。

琴:とても勉強になりました!ありがとうございました!

や:自分も久しぶりに山元に来られて良かったです!ありがとうございました!またよろしくお願いします!

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成瀬 琴

成瀬 琴 - Koto Naruse

茨城県出身。JRA鹿戸雄一調教師の長女。馬事文化応援アイドル「桜花のキセキ」の元メンバーで、現在は主にタレントとして活躍。横山家と家族ぐるみの付き合いがある。