関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!


--:西田騎手、はじめまして。今日は今年のオークスでG1初騎乗をされた時のお話と七夕賞に関してのお話を中心に聞かせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

高橋:よろしくお願いします。

西田:はい、分かりました。

--:原稿はのちほどご確認いただいてから掲載いたしますので。

西田:え、ああ大丈夫ですよ。

--:有難うございます。でも一応念のため、原稿が完成したらお持ちします。

西田:そうですか。

高橋:今まで、自分のコメントが「こんな事は言っていないのにな」という形で掲載されてしまった事とかありませんか?

西田:いや、ありますよ。あの、僕はレース後のコメントって必ず敬語を使って話すようにしているんですけど、それがタメ口みたいな感じでコメントが書かれている事があるんですよ。取材陣はほぼ年上の方ですし、馬には「乗せてもらっている」という気持ちがあるので、馬にも横柄な態度は取れないですから敬語を使っているんですけど。まあ、ですます調よりも文章構成がしやすいっていうのもあるんでしょうけどね。あと、コメントを出す時は自分の言葉で話すように気をつけていますよ。

高橋:自分の言葉で?

西田:そうです。記者さんの質問に「はい」って答えたら、その質問された内容がそのまま僕が言ったコメントみたいになったりする事がありますから。例えば、記者の方に「ちょっと掛かってたね?」って聞かれて「はい」って答えたら「掛かってしょうがなかった」みたいな感じで載ったり。そうすると微妙なズレが出る事もあるので、全部自分の言葉で表現するようにはしています。人気を背負って負けた時なんかはコメントが雑になりがちなんですけど、そういう時こそ自分の言葉でちゃんと話す事が意外に大事です。

--:そうですか。じゃあこの原稿もやっぱり一度ご確認いただいた方が安心です。

高橋:そうですね。じゃあ、そろそろ本題のG1初騎乗のお話を聞きたいんですけど、オークスでパドブレに騎乗出来る事が決まったのはいつ頃だったんですか?

西田:オークスの前のスイートピーステークスから乗せていただいたんですけど、その時には「オークスにも使いたいからスイートピーから乗ってくれないか」という事で声を掛けていただいて。この年でG1初騎乗というのもなかなか無いでしょうし、今の時代はG1に出場する顔ぶれも大体決まっていて、乗る事自体が凄く難しいですからね。非常に嬉しかったですよ。もう「非常に嬉しい」なんて言葉じゃ言い表せられないくらいです。ただ、馬主さんとしてもただのご褒美で僕に乗せてくれている訳ではないと、いうのも分かっていましたから、少しでも上の着順に来られるようにしたいと思いましたね。

高橋:パドブレに乗った感じはいかがでした?

西田:跨った感じは良いものを持っているなという感じでしたよ。背中はさすがにオープン馬だなっていう感じで。

高橋:馬の背中って未勝利や500万の馬と、オープン馬とでは全然違うものなんですか?

西田:全然違いますよ。言葉でどういう感じかって説明するのは難しいですけど、まあ、高級車の乗り心地と普通の車の乗り心地が違うというのと同じような事ですね。おかげ様で、僕は騎手を辞めている5年間に種馬になるような凄い馬にもたくさん乗せてもらって、超一流の馬の背中を教えてもらえましたからね。G1を勝つような馬が2歳の時に乗せてもらった事もあるので、2歳の時にどういう感じの馬がG1に行けるのかっていう物差しも出来ましたし、本当に貴重な体験をさせていただきましたよ。凄い馬にたくさん乗せてもらったので、ちょっと重賞を勝っているくらいの馬に乗る時にも緊張しなくなりました(笑)。レースは別ですけどね、駆け引きもあるから緊張しますけど、調教の時には緊張するという事はほとんど無いです。

高橋:そうなんですか。また話はオークスに戻りますけど、普段と違う事ってありましたか?

西田:周りの雰囲気がピリピリしているところがありましたね。ジョッキーもピリピリしていて、レースの前の夜に他の騎手から「舞い上がって変な事するなよ」って言われたりしましたからね。

高橋:えー。それは、西田騎手の緊張をほぐそう、みたいな感じで冗談っぽく言われたんですか?

西田:いや、普通に真面目な感じでしたよ。要するに「俺の邪魔をするなよ」っていう、釘を刺されたみたいな感じですね。普段のレースだったらそんな事は言われないですから。

高橋:そういうのを言われてドキドキしません?

西田:まあ、そういう事も言われるだろうなって予測もしていましたからね。頑張れよって言ってくれる人もいるだろうし、邪魔するなよって言ってくる人もいるだろうと思っていたので。予測の範囲内でした(笑)。

高橋:予測の範囲内で(笑)。凄いですね。私だったらそんな事言われたら気になっちゃって眠れないですよ(笑)。それでレース当日を迎えて、初めてのG1のパドックはいかがでしたか?

西田:やっぱり気持ち良かったですよ。あの、パドックの真ん中に行くのも初めてでしたし。周りも華やかな雰囲気で。

高橋:レース前に気をつけていた事ってありますか?

西田:普通に、普段どおりに乗るっていう事ですね。もう本当にひとつひとつ自分に与えられた事をやっていこう、と。まずは落ち着かせて、ゲートに入れて、という感じで。他の馬の事を気にするよりも自分の事をしっかりやろうという感じでした。あとは後悔しないように乗ろう、と。

高橋:後悔しないレースが出来ました?

西田:いやー、なかなか後悔しないレースっていうのは無いですよ。オークスの時もスイートピーと比べるとスタートが悪くなっちゃったし、行きたがる面がある馬なんで落ち着かせて行かないといけないんですけど、道中もちょっと馬とケンカしちゃったり…。なかなかカンペキなレースって無いですよ。

高橋:今まででこれはカンペキ、会心のレースだなって思えるレースはありますか?

西田:会心のレースはもちろんありますよ。それは、大きいレースじゃなくてもあります。動いちゃダメ、動いちゃダメって進めていって、周りを先に動かせて後から自分が動いて勝ったりだとか。上手く逃げ切ったレースだとか。僕、割りと逃げて勝つ事が多いんですけど。

高橋:一番思い出に残っているレースは?

西田:一番ですか…うーん、選べないですけど、重賞を勝った七夕賞は上手くいったなと思いますよ。回りも上手く騙せたし、馬も上手く騙せたし。まあ、サクラエイコウオーは弥生賞を勝っていたような馬なので能力は高かったんですけど。僕、競馬学校に通っている赤帽の頃、サクラエイコウオーが出たダービーに手伝いに行ったんですよ。まさか将来、そんな凄い馬にレースで乗ることになるなんて思わなかったです。

高橋:そんな繋がりがあったんですか。西田騎手、七夕賞を勝った時はまだデビューしてそれほど経っていなかったんですよね?

西田:あの時はまだ、デビューして1年半くらいですからね。まさか重賞にそんな弥生賞を勝ったような馬で出られるとは思っていませんでしたから。大先生(故・境勝太郎氏)から「エイコウオーに乗るか?」って言われた時は、また大先生のジョークかと思いましたから(笑)。それまでもサクラバクシンオーがG1をバリバリ勝っている時に「お前がデビューしたら3キロ減のレースでバクシンオーに乗せてやるよ」とか、G1馬が減量の付く平場のレースになんて出られないのに(笑)。そういう冗談をよく言われていたんで、エイコウオーの時もそうかなと思っていたんですけど。それが、オーナーにもいろいろお話してもらったんでしょうけど、本当に乗せていただく事が出来て。僕が境勝太郎先生の息子の境征勝厩舎に所属していたから、大先生にとっては孫みたいな存在だったんですよね、本当のお孫さんと年齢も近いし。本当に可愛がってもらいました。

高橋:素晴らしいサポートをしてくださったんですね。

西田:本当に周囲の人に勝たせてもらいました。エイコウオーは脚元に爆弾を抱えていましたから、それを持たせた厩務員さんの勝利でもありますしね。あと1回使えればいいね、なんて言っていた馬を持たせちゃうんですから凄い技術ですよ。もう、出走出来たっていう事が最大の勝因だったと思います。

高橋:今みたいなお話を聞いていると、私は組み体操のピラミッドを想像するんですよ。土台になる人間がいて、その上に乗る人がいて、最後のてっぺんの人が乗るという。

西田:本当にそうですよ。いろんな人に支えられて、最後に乗るのが騎手なんですよね。特に僕は一度牧場を経験しているので、そういう事を余計感じます。お産から馴致から、大勢の人の手によって育てられてきた馬に、最後レースに乗せていただくのが騎手ですから。

高橋:七夕賞といえば、今週はドリームフライトで出走されますね。

西田:頑張ります!

高橋:自分が優勝した事のある重賞って気になりますか?

西田:やっぱり意識はしますよ。僕もたくさん勝っているわけじゃないですし。

高橋:ドリームフライトの福永厩舎では今まで16勝をあげられていますね。

西田:西の師匠ですから。境征勝先生と親交があったみたいで、まだ減量がある頃から乗せてもらっています。人気の無い馬で勝たせてもらえたり上位に来たりして、相性が良いなというイメージがあって、僕も福永厩舎に関しては妙に自信を持って乗ることが出来ます。

高橋:応援しています。今日は有難うございました。

西田:有難うございました。

--:お二人とも有難うございました。

高橋:西田騎手、お疲れのところ有難うございました。

西田:いえいえ。

高橋:西田騎手はいつも調教にたくさん乗っていますね。

西田:はい、数は多いですね。ここ1~2年で、クセ馬、難しい馬を頼まれる事が増えましたね。何でもそうだと思うんですけど、依頼をされるって悪い事じゃないですよね。自分が必要とされているっていう事ですから。そこで「ノー」とは言えない自分がいます(笑)。

高橋:とりあえず「イエス」と(笑)。

西田:やっぱり頼まれたら断れないですよね。人間ですから気乗りしないっていう時もありますけど、大概は首を縦に振ります。

高橋:調教の騎乗依頼は西田騎手に直接来るんですか?

西田:そうです。今はエージェントもいませんから、騎乗依頼も直接です。昔ながらのやり方で。調教師の先生と話して頼まれたり、午後に厩舎を回って、どこが空いていますって直接やり取りして。

高橋:そうですか。そのクセ馬を頼まれるというお話ですけど、どういうタイプの馬をよく頼まれるんですか?

西田:一番多いのが人間を舐めているような馬ですね。人間を舐めちゃって動かないような馬です。「ガツーンとやってくれよ!」とか言われて頼まれます(笑)。

高橋:アハハ(笑)。そういう馬にはどうやって接するんですか?

西田:そうですね、まずは男の子か女の子かでやり方を変えてみますし、ステッキを使われるのがイヤなのか、推進の扶助でどれをイヤがるのかを見ますね。女の子だったらそれが結構繊細に出ますから。

高橋:普段の調教でそういうところをチェックするんですね。

西田:はい。まあ、調教でじっくり把握出来る事もあれば、いきなりレースでの騎乗を頼まれる事もありますから。その場合は返し馬で感じを掴んで実戦で試してっていう風になりますね。それで自分の考えた事がいつも上手く行く訳ではないですけど、上手く行ったら「ああ、これで良かったんだな」って。

高橋:そうやっていろいろ試すんですね。

西田:そうです。例えば、前に馬がいたらダメな場合は思い切って逃げてみたりして。最近よくズブい馬を頼まれるので、そういう馬には「こうすればいいのかな」っていうのは段々出来てきていますし、僕に合うと思います。ただ、前にノリさん(横山典弘騎手)と話したんですけど、それがマイナスになる部分もあるんですよね。

高橋:マイナスですか?

西田:要するに一つだけの乗り方しか出来ないと良くないんですね。ノリさんから「お前は馬に対して『やれ!』っていうタイプだけど、その乗り方に反抗する馬も出てくるから、その時は乗り方を変えないとダメだよ」とアドバイスをいただいて。「お前のアクションは結構大きめで、他のジョッキーに比べてステッキの入れ方も大きい。それが合う馬もいるけど、例えば繊細な馬だったらマイナスになっちゃうから気をつけろよ」って。

高橋:繊細な女の子で「何、叩いてんのよー!」みたいな馬がいたり(笑)。

西田:そうそう(笑)。その使い分けが僕の今の課題です。トップジョッキーの、例えば武豊さんのように折り合いだとかスタートだとかどの能力も高い騎手は、能力を甲子園のチーム戦力図みたいな5角形で表すとキレイな形で広い面積が出来ますけど、僕は今さらそういう形にはなれないですから。どこか一箇所だけ突き抜けて高い、という風にするしかないです。その特性を軸に、いろんな応用が出来るように引き出しを多くして、少しずつ乗れる幅を広げていければ。

高橋:そういう、何かひとつでも特徴がハッキリ分かっている方が頼む方も依頼しやすいでしょうね。

西田:そうかもしれませんね。騎乗依頼をする時に、トータルの能力で考えてトップジョッキーから頼んでいくっていう方法もあるだろうし、最後まで追って止めさせないで走らせたいから西田に、っていう頼み方もあるでしょうから。その時に何か秀でたものが無いと頼まれないですよね。

高橋:西田騎手は「ズブイ馬は任せてください」と。

西田:そうですね。自分はスタートの悪い馬とズブい馬っていうのは得意ですね。ゲートに関しては自信を持っていますよ。

高橋:どこの競馬場が得意です、というようなアピールもされますか?

西田:いや、それは無いですね。どこが得意っていう意識を持ってしまうと、苦手と思うところも出てきてしまうと思うので。まあ、福島や新潟っていうのは一番たくさん乗っていますから、その時の季節だったり天気によってどういう感じの競馬をすればいいかっていうのは自分の中では分かっているつもりですけどね。

高橋:今週で福島も終わりですね。

西田:もう非常に分かりやすいですよね、今開催は。開催はじめの頃は多少馬場が悪くても前残りで、それで雨が降って馬場が悪くなると先週みたいに外差しが決まるようになって。今週あたりは逃げ馬が逃げ切るのは難しくなるでしょうね。

高橋:覚えておきます。そうか、馬場状態もちゃんと掴んでいないといけないんですよね。

西田:そうですね。自分が乗っていれば分かりますけど、乗っていなくても、その競馬場でよく乗っているベテラン騎手がどこを通っているかを見ていると「今の馬場状態はこんな感じなんだ」っていうのが分かります。例えば福島で中舘(英二騎手)さんが逃げなくなったら馬場が悪くなったんだな、とか。芹沢(純一)さんだったら、多少馬場が悪くても内を通るんですけど、それで芹沢さんが残れば「ああ、内も外も変わらないんだな」とか、そういう見方はしますよね。

高橋:各ジョッキーの乗り方を把握しているとそういう見方も出来るんですね。レースでも人のクセを読んで乗り方を考える事もありますか?

西田:ありますね。乗り方のクセというか「絶対こう乗る」とは言えないですけど、大体この人は外をブン回すとか、この人は内で我慢するとかそういうのは覚えていますよ。

--:それで自分が人気の馬に乗っている時に「この人は右ステッキをよく使うから右が空きやすいな」と思ってそこに突っ込むっていう事もありますし。

高橋:そんなところまで考えているんですね。

西田:やっぱり他の人のクセは把握していると乗りやすいですね。この人が逃げたら絶対に内が空かないとか、この人はあまり逃げないから最後内が空くだろうな、とか。そういうのを考えるのが楽しいんじゃないですかね。でもこっちの意図にすぐ反応してくれる馬じゃないと勝てないですけど(笑)。「予想通りの展開になったけど、俺は後ろにいるし~」みたいな事もありますよ(笑)。

高橋:アハハ(笑)。ちなみにさっきの外差しの馬場に関して聞きたいんですけど、馬場状態を考えると後ろから行くのが有利だって分かっているのに、逃げ馬に乗る時はどうするんですか?

西田:それはもうしょうがないですよね。馬の性格上、逃げなきゃいけない馬だったら逃げなきゃいけないし。馬場は向かないけどもしょうがない、と。競馬はそれで終わりじゃないし、そこで変な事をやって、後々に悪影響が出てしまったら困りますし。だから、馬場は向かないと分かっていても逃げなきゃいけない部分はありますね。目先の事だけじゃなくて、競馬はトータルで考えると引退するまでの話になりますから、次に繋がるレースをしていかないと。

高橋:その一回のレースで終わりじゃないんですもんね。馬の将来の事を考えて、なおかつご自身の結果も残さなきゃいけないですから大変ですね。

西田:そうですね、厳しいですよ。僕らはいつでも乗り替わりっていうのは頭にありますから。

高橋:はい。

西田:だから、人気を背負っている馬で馬込みに入っていて、前が壁になった時に、開くのを待つ事が難しいんですよね。内で詰まったまま脚を余してゴールするよりも、外に持ち出してから差されて2着とか3着になった方が乗り替わりになりにくいんです。そうすると、どっちの乗り方を選ぶかっていうと、外に出して誰もいないところを通る方を選びがちになりますよね。

高橋:そうなんですね。

西田:もちろん、それで差し切る事も多いですけど。でも、その我慢出来るか出来ないかが、今までの勝ち星がある人と無い人の差だと思います。余裕のある無いという。僕も頭では「内で待った方がいい」っていう事は分かっているんですけど、乗り替わりのリスクを考えるとそうなっちゃんですよね。「今回どう乗っても次も乗せてやるぞ」っていう話だったら、そりゃ僕も内で我慢できますけど。僕らくらいの層っていうのは、トップクラスにいる人たちとは乗り方も変わってくるし、営業の仕方も違いますから。それはどの世界でも一緒だと思いますけど。芸能人でもトップクラスの人は「この仕事、受けません」っていう事もあるかもしれないけど、一番多い中間層の芸能人だったらそうも言っていられないだろうし。

高橋:そうですね、自分の特出している分野じゃないと仕事がもらえないですからね。だから私も「ここが高橋摩衣の売りです」みたいなのが無いと。まさにさっきの西田騎手のお話と一緒です。

西田:そうですよね。でも、僕がいきなり一流俳優みたいになれる訳でもないから、自分のポジションでやれる事をやっていかないと。来年からいきなり「一流になりました」って言って、そうなれるわけじゃないですから。

高橋:自分のやれる事をしっかりとやって。西田騎手、凄く充実した毎日を過ごされているんじゃないですか?

西田:はい。やっぱり僕は乗れない時期があったから、競馬をするっていう事が楽しいですよ。毎週末に人と競い合うっていうのが楽しいです。それこそ自分が思った通りの競馬になったら気持ちいいし。出来る限り乗り役を続けたいですね。

高橋:牧場での生活を振り返っていかがですか。

西田:辞めていた時期に外から競馬を見てファンになった部分もありますし、いろんな考えを持つようにもなれたし、貴重な体験でしたよ、今でも牧場に行きますしね。最近の若いジョッキーも牧場で働かないまでも、休みの日に牧場まで行って働いている人に話を聞いたりして、大変さを知ったり勉強していますから偉いなと思いますよ。僕も負けじと昨日行ってきました(笑)。

高橋:張り合って(笑)。

西田:まだ負けませんよ(笑)。…まあ、こういう仕事をしていますけど、時々「サラブレッドって可哀想だな」って思う事もあるんです。

高橋:え、それはなぜですか?

西田:普通の動物だったら生まれたらペットになったり動物園に行ったり、ある程度生きたいように生きられるじゃないですか。でも、サラブレッドは走らなければ牧場に帰る事が出来ない仔もいるわけで。そういう意味では責任を感じますね。牡馬だと種牡馬になれるくらいじゃないと難しいですけど、牝馬なら一つ二つ勝てれば繁殖牝馬になれますからね。

高橋:そうですね。

西田:だから、よく目標を聞かれる事がありますけど、僕は1頭でも多く競走馬を牧場に返してあげることが目標なんです。僕は一回騎手を辞めているし、年間で何勝したいとかどのレースを勝ちたい、とかあまりそういうのは無いんですよ。そりゃあG1を勝ちたいという気持ちは正直ありますけど、成績がどうこうというより、とにかく騎手としていられる事が何より楽しいですし。あとは、目標というか、ファンの方に競馬場に来てもらいたいですね。僕、ファンサービス委員ですから。

高橋:やっぱりライブで観るって大事ですよね。私も昔は父が競馬を観ていても特に興味が無かったんですけど、やっぱり取材をさせていただいて直接関わるようになってハマりました。今は周りにも勧めているぐらいで。実際に女の子でレースを観て、感動して泣いちゃう子もいますし、やっぱりライブで観ると印象が違うと思います。

西田:そうなんですよね。馬券を買わなくてもいいから、まずは競馬場に来ていただきたいな、と思いますよ。例えば三浦皇成騎手がいろんなテレビ番組や雑誌なんかのメディアに露出している事に対して「騎手は芸能人じゃないぞ」なんて声もあるかもしれないし、そういう批判も分かりますけど、でもそうやって競馬をPRする事もひとつの大事な要素だと思います。三浦騎手を応援したいな、というキッカケで競馬場に来ていただけるファンもいらっしゃるわけで、人それぞれ楽しみ方があるでしょうしね。純粋に馬が好きな方、競馬をスポーツとして捉えている方、ジョッキーが好きな方だとか。

高橋:そうですね。

西田:今は野球でもサッカーでもいろんなイベントを行ってファンとの触れ合いの場を作っているわけですよ。ただ、競馬というのは「公正競馬」という決まりがあるから、ファンとジョッキーの間にどうしても一枚カベがあるんですね。競馬の日に握手やサインは出来るけど、一緒になって手を取り合ってイベントが出来るかというと、そこは垣根があるから出来ないんです。今はその垣根を取っ払いながら、少しずつファンとの距離を縮めているところです。福島競馬場に「こんなファンサービスをやって欲しい」という意見を集めるために目安箱みたいなものを置いたら、結構書いて入れてくださるんですね。そうやって、出来る出来ないは別にしても、ファンの方が求めるイベントやサービスを聞いてみたり。

高橋:へー。確かに騎手の皆さんもいろんなイベントをやっていますよね。

西田:先日も福島で骨髄バンクの募金活動をやったんです。早くレースが終わったジョッキーが何人かで募金箱を持って「お願いします」って募って。僕らも最終レースが終わったあと、後藤(浩輝)さんや(小林)淳一さんと一緒に募金箱を持って回ったら、普通にブースで呼びかけて募るよりも多く入れてくださったりしますからね。「1000円募金するから一緒に写真を撮ってください」「いいですよ」みたいなちょっとしたやり取りも出来て、「また明日も来て下さいね」とか皆さんと直接コミュニケーションも取れますし。

高橋:そういう触れ合いはファンにとっても嬉しいですよね。

西田:とはいえ、もちろん危険な面もありますけどね。やっぱり競馬ってお金の絡むものだから、1番人気の馬で負けたとすればそれに対して怒っている方もいらっしゃいますからね。でも思っている以上にマナーを守っていただける方が多いですね。当然ガードマンとかJRAの職員の方がいるからというのもあると思いますけど、別にヤジを飛ばされるわけでもなく、普通にやれました。ただ、1回でも危ない事が起きちゃうとそういうイベントが出来なくなっちゃいますからね。僕らは積極的にやりたいんです。そういうイベントをどんどん増やしながらやっていくのが大事かな、と。

高橋:イベントをやる時に気を付けている事ってありますか?

西田:なるべく若いジョッキーも参加しやすいように気を付けますね。そういうイベントで、リーディングトップのジョッキーだけが出るような形になると「あ、自分は有名じゃないから出なくてもいいや」という感じになって、イベントに対してソッポを向いちゃう子が出ちゃうんです。だから、例えば握手会だったら「ヒマな人は来て下さい」って気軽に参加出来るような感じで呼びかけたり。

高橋:ジョッキー内で温度差が出ないように。

西田:そうです。春に「トレセン満喫デー」という、ファンと交流をするイベントをやりましたけど、その時も「若い子も来てね」みたいな感じで、どのジョッキーでも気軽にイベントに参加しやすいように誘って。「若い子、ヒマな人はみんな来てくださーい、手伝ってー」って呼びかけると来てくれて協力してくれるんです。乗り役としてもそういうイベントを増やしていかないと。今の若い子たちが僕らくらいの年齢になった時、どれだけファンサービスに対して積極性や高い意識を持てるか。そういう気持ちがないと、段々と狭まっちゃうんですね。今の若い子も成績が上がっていようがいまいが、それはファンサービスをする事とは関係の無い事だし、企画に参加してファンと話す事によって「今までこの騎手を知らなかったけど、今度から応援しよう」という風になってくれるかもしれないですし。

高橋:直接会えば応援したくなっちゃいますよね。

西田:そうやって下の世代のファンサービスに対する意識が高まれば、10年後には今では考えられないようなイベントが、例えば競馬の開催中に騎手とファンが上手く交流出来るような形になっているかもしれないし。でも、今は「ファンの方たちが馬券を買ってくれているから、僕らが競馬をやらせてもらえている」という意識が出来てきていると思います。黙っていても馬券が売れた時代と今は違いますからね。やっぱり僕らは何かをしないと。いろんな娯楽が増えた中で、何とか競馬という商品に目を向けてもらわないといけない時代になってきていると思います。

高橋:何か…、西田騎手、ビジネス書に出てきそうですね(笑)。

西田:ええ、経営者感覚で考えていますから(笑)。

高橋:有難いお話を聞かせていただいて有難うございます。またいろんなお話を聞かせてください!

西田:分かりました。また声を掛けてください。




西田 雄一郎

1974年神奈川県出身。
2005年に美浦・境征勝厩舎からデビュー。
JRA通算成績は130勝(09/7/8現在)
初騎乗:1995年3月 4日 2回 中山3日 12R グレイトスターオー(5着/15頭)
初勝利:1995年5月 6日 1回 福島5日 12R サクラファイター


■主な重賞勝利
・96年七夕賞(サクラエイコウオー号)
2005年に再デビュー後も豪快なアクションでのプレーを披露。最後まであきらめない気持ちの見える騎乗ぶりは馬券ファンから高い支持を得る。また、ファンサービス実行委員でもあり、ファンとジョッキーの交流イベントでも活躍中。





高橋摩衣

生年月日・1982年5月28日
星座・ふたご座 出身地・東京 血液型・O型
趣味・ダンス ぬいぐるみ集め 貯金
特技・ダンス 料理 書道(二段)
好きな馬券の種類・応援馬券(単勝+複勝)

出演番組
「Hometown 板橋」「四季食彩」(ジェイコム東京・テレビ) レギュラー
「オフ娘!」(ジェイコム千葉)レギュラー
「金曜かわら版」(千葉テレビ)レギュラー
「BOOMER Do!」(J SPORTS)レギュラー
「さんまのスーパーからくりTV」レギュラーアシスタント


2006年から2008年までの2年間、JRA「ターフトピックス」美浦担当リポーターを務める。 明るい笑顔と元気なキャラクターでトレセン関係者の人気も高い。 2009年より、競馬ラボでインタビュアーとして活動をスタート。 いじられやすいキャラを生かして、関係者の本音を引き出す。