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田代信行調教助手

田代信行調教助手


昨年の日本ダービー馬・エイシンフラッシュ。そのダービーで降したヴィクトワールピサ、ヒルノダムールらが海外に活躍の場を求める中、自身はその後、6戦を消化した今も勝ち星に見放されている。
エイシンフラッシュの逆襲を待つファンも多い。“最強世代”と謳われた現4歳馬の頂点を極めたエイシンフラッシュの近況は如何に?今回は日々の調教を担当する田代信行調教助手が答えてくれた。


-:まず、ダービー後、勝ち鞍から遠ざかっている点について田代助手はどう思っていますか?

田:フラッシュは3歳春の時点ではまだ体が完成していなかったんです。そんな状態でもダービーを勝ったわけですが、あの弾け方ですからトモには疲れが残っていたんだと思います。ダービー後、休養はしましたが、休み明けの神戸新聞杯前に乗った時にも、まだ疲れが抜け切れていない感じがあったんです。

-:その神戸新聞杯はローズキングダムの2着でした。

田:フラッシュは“気のある”馬ですから、その状態でも一生懸命走ってしまうんです。その反動が出てしまい、直前になって菊花賞は回避しました。その後、ジャパンカップへと目標を切り替えたんです。

-:そのジャパンカップ、有馬記念と使った後、休養に入りましたね。今年の春シーズンは産経大阪杯から復帰し、2着1回、3着2回。復調の気配を感じました。

田:GⅠ2着で満足するクラスの馬ではないので……。今年、4歳の春でもまだ完成はしていなかったんだと思います。

-:夏の休養から戻ってきたフラッシュに変化はありましたか。

田:一旦、函館に入って調整してから栗東に戻ってきました。だいぶ良くなっています。歩いている時の脚を1本1本注意しながら乗っているんですが、以前よりトモの踏み込みが力強くなってきました。体にも少し筋肉がついて、スラッとした中にも男馬らしさが出てきました。休養先の社台ファームで心身共にリフレッシュできたので、食欲も旺盛になっています。

-:ようやく肉体的にも完成に近づいている感じですね。

田:先日、獣医さんにフラッシュの歯を診てもらったんですが「歯の質が硬くなっている」と言われました。馬は歯の成長で骨の完成度がわかるんですよ。



-:完成に近いフラッシュの乗り心地を教えてください。

田:一言でいうと柔らかい。ゴムまりのような感じです。僕もこれまでたくさんの馬に乗ってきましたが、フラッシュの背中は最高なんです。こんな馬、乗った事ありませんよ。僕もレースで乗ってみたいくらいです(笑)。

-:気性や性格はどんな感じですか。

田:性格は素直で気持ちに余裕があります。トレセンのコースの真ん中に角馬場があるんですが、そこで乗っているときに他の馬が暴れると、フラッシュも一瞬に暴れるんです。だけどスッと気持ちがおさまる。オンとオフの切り替えが上手な馬です。

-:フラッシュが暴れたら凄そうですけどね。

田:以前、角馬場で乗っている時にジャンプした事があったんです。走っていてバーンッと飛んだ。普通、急にそんなことされたら、乗ってる人間は怖いんです。でもフラッシュがジャンプしたら乗っていて気持ち良い(笑)。これは乗った人にしかわからないんですけどね。凄くクッションの効いた背中で、ずっと乗っていたくなるような馬です。

-:フラッシュのレースの中で、田代助手の好きなのはどのレースですか。勝ったダービー以外でお願いします。

田:春の天皇賞ですね。3200mという初の長距離戦でしたが、我慢させると弾けるというのが、改めてわかりましたから。……、でも、力でねじ伏せて欲しかったのが本音です。

-:あのレースは勝ったヒルノダムールが1枠2番、フラッシュは7枠15番でしたから枠の不利もあったと思います。

田:それを言い訳にできる馬じゃないんですよ。そういう状況でも勝てる能力を持った馬ですから。個人的にヨーロッパの競馬が合いそうな気がするので、チャンスがあればフラッシュと一緒に行ってみたいです。世界のGⅠの中でもトップクラスの馬が揃う凱旋門賞は非常にタフな競馬になります。でも、フラッシュなら対応できるんじゃないかと思っています。これから1つでも2つでも大きいタイトルを獲って欲しいですね。

-:軽い鼻肺炎でローテーションを変更して臨んだ皐月賞にも驚きました。フラッシュは鋭い瞬発力を持った反面、皐月賞のような悪い馬場でも伸びてきます。普通、柔らかいフットワークの馬は悪い馬場は苦手なイメージがあるのですが。

田:たしかにそういう傾向はありますね。フラッシュは馬場状態の悪いボコボコしたウッドコースを走っていてもノメらないんです。乗っている人間が気にしているのにフラッシュはしっかり走っている。四肢のバランスが良いんでしょう、芝馬にありがちなトモだけが強い馬ではない。前脚も想像以上に力強い馬ですよ。

-:走っている時の前脚は凄いですね。真上から叩きつけるような独特のフォームで走っています。

田:あれもフラッシュの特徴の1つですね。脚さばきは力強いのに柔らかい背中を持った馬です。

-:今週の1週前追い切りの感触はいかがでしたか(10/19CW6F81.4-65.9-52.0-38.9-11.9)?



田:鮫島騎手が乗って追い切りました。中身からフラッシュの気持ちが伝わってくるような感じでした。今日はステッキも入れましたし、これで一段と良くなると思います。

-:休養後、歩いているフラッシュを見かけましたが、少し筋肉が増えて雰囲気が出てきた感じがしました。少し首を下げた、いつもの歩き方で気分も良さそうでした。

田:2歳の頃はもっと頭が起きて(上げて)歩いていたんですよ。起きすぎていたのはトモの踏み込みが弱かったせいなんです。今はトモが前に入ってくるから馬の重心を前にかけて歩ける。トモが弱いと後ろに重心を残さないと歩きにくい、そんな感じです。それと、どの馬も同じですがフラッシュも調子が良くなってくると、トップクラスの馬特有の雰囲気やオーラを出します。それは馬の専門的な知識がなくてもわかると思いますからパドックで見てください。

-:具体的に言うと好調時のフラッシュはどんな感じでパドックを周回しますか。

田:集中しているかどうか?ですね。あまりキョロキョロして気が散漫な仕草は良くない。グッと闘志を内に秘めて歩いていたら好調だと思ってください。パドックの中に多くの関係者が入っていたダービーの混雑したパドックでもフラッシュは堂々と歩いていました。それは周りの状況を気にせず集中していたからなんですよ。

-:なるほど、それに秋3戦はクリストフ・ルメール騎手が手綱をとるというのも興味深い話題です。

田:そうなんですよ。フラッシュはケガで休んでいる内田博騎手が馬の力を信じて我慢させる競馬を教えてくれました。そのおかげでダービーも勝つ事ができました。一番は彼に乗ってもらいたいのですが、復帰までにはもう少し時間がかかるのでルメールにお願いすることになりました。と言っても(世界的オーナーの)アガ・カーン殿下の主戦ジョッキーですから、彼に対しては何もコメントする必要はないでしょう。むしろ、日本でのルメールの評価が低すぎるくらいです(笑)。

-:ルメール騎手がエイシンフラッシュをどう乗りこなすか?今から楽しみです!

田:こちらもしっかりと仕上げて天皇賞に送り出すつもりです。何の先入観も持たずに乗ってくれるでしょうから、どんな競馬をしてくれるか僕も楽しみにしています。

-:最後に良い状態で戻ってきたエイシンフラッシュのファンに向けて一言お願いします。

田:春は惜しいレースが続きました。ひと夏越して心身ともに成長して帰って来たフラッシュの姿を見てください。僕にとっても初めてGⅠのタイトルを獲らせてくれた馬です。それも日本ダービーを勝ったわけですから、フラッシュには感謝しています。ファンのかた同様、もっともっとタイトルを獲らせてやりたいと思っています。


【田代 信行】 Nobuyuki Tashiro

専修大学馬術部出身。全日本学生の障害で優勝した経歴を持つ。 卒業後、ニシノフラワーで有名な栗東・松田正弘厩舎で調教助手を務めた後 藤原英昭厩舎へ。重賞3勝を挙げたトーホウアランをダービー、菊花賞へと導いた。 その経験と技術を生かし、現在はエイシンフラッシュの調教を担当。 藤原師のもと共に頂点を目指す荻野仁助手は大学の先輩にあたる。