関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

山下久美調教助手

山下久美調教助手(栗東・安田隆行厩舎)


秋初戦の南部杯を粘り勝ち。スマートファルコンとの一騎打ちに注目が集まったJBCクラシックは2着。そのスマートファルコンこそ、ここへ駒を進めることはなかったが、今度は一昨年の覇者で復調気配を辿るエスポワールシチーとの激突に注目が集まるJCダート。 史上初となるJCダート連覇なるか?今回はトランセンドを担当する山下久美調教助手が語ってくれた。

-:まず、前走のJBCクラシックのレースを見た感想を聞かせてください。

山:南部杯より、行きっぷりが良くなっていましたね。自分から走る気になっていたので、1回使った効果はあったと思います。それに南部杯からJBCへ行くと、中3週弱なんですよ。そこがちょっとトラ(ンセンド)にはかわいそうだったかなと。

-:JBC前の取材では「スマートファルコンにプレッシャーを掛けたい!」と景一朗さん(安田景一朗調教助手)が言っていたわりに、すんなり2番手だったのが意外だった気もしました。

山:そりゃ僕も早目につぶしに行って欲しかったですよ(笑)。スマートファルコンに楽な競馬をさせたとは思います。4コーナーでもスマートファルコンに併せていかなかったですし……馬が外にふくれたのかもしれませんね。それでもトラ自身は最後までよく頑張って走ったと思います。担当者としては、結果は結果として受け止めるしかないですから。だからJCダートで、もう1回スマートファルコンと一緒に走りたかった。今度は負けないぞ!って気持ちだったのですが(笑)。

-:トランセンド、エスポワールシチー、スマートファルコンの3強対決は見たかったですね。

山:僕も楽しみだったんですけど……出て欲しかったな。その分、エスポワールシチーが復調してきたじゃないですか?一番怖い馬が良くなってきた。あの馬との対決も楽しみです。南部杯のスピードは凄かったですよ。しかも、スピードだけじゃなく自在性も持っている。テンのスピードならトラよりエスポワールシチーの方が速そうですね。



-:JCダートには他の馬も出るのでエスポワールシチー相手と決めつけるのも良くないのですが、やはり展開が気になります。エスポワールシチーとトランセンド、どっちが先に行くんでしょうか?

山:これは、僕の個人的な意見ですが、大逃げを打ってもいいデキにあります。ここ最近では一番具合がいいので積極的な競馬をして欲しいと思っています。

-:JBCからJCダートに向けて変わってきたところがあれば教えてください。

山:大幅に変わったところはないですね。今回のJCダートでは516~518キロまで絞って出走できるように調整しています。飼い葉を減らさず、食わしこんで絞ることで、ギリギリの状態に持っていきたいと思っているんですよ。

-:寒くなってきた時期に絞り込むのは難しくないですか。

山:いや、逆に今の時期に絞るほうが楽なんですよ。気温が高い夏場は汗をかきやすいから絞るのだけなら簡単です。しかし、基本的に馬は暑さに弱いですから絞ることでバテる心配があるんです。寒い時期はバテる心配がない分、調整は楽なんです。

-:今週の1週前追い切りでもポリトラックコースで良い動きをしていましたね。

山:1週前の動きとしては納得できる内容でした。これで少し絞れるでしょうし来週はそこまで時計を出さなくても良いと思っています。どの程度、絞れたかは調教後馬体重で感じてください。トラはハイペースで逃げても止まらないスピードの持続力を持っています。その強みを生かすためにもJCダートには絞って出走させたいんです。

-:調教だけをみると逃げ、先行馬のラップではなく差しても良さそうな知り上がりの時計が出る馬ですね。この辺はエスポワールシチーとも近い感じだと思います。

山:多分、追い込んだら凄い脚使うと思いますよ。絶対、レースでは見られないでしょうけど(笑)。この馬の姉のサンドリオンも担当していたんですが、あの馬も紫苑Sで勝った時の脚が凄かった。中山の短い直線で一気に差し切りましたからね。母のシネマスコープの仔には切れる血が流れているんでしょう。それなのに、トラはハイペースで行っても止まらないところが凄い。逃げてバッタリ止まったことはないんです。

-:南部杯、JBCクラシックと2回使って挑むJCダートには自信を持って向かえそうですね。

山:当初からJCダートを秋の大目標にして調整してきました。南部杯の3ヵ月前、暑い時期に栗東に戻したのもJCダートから逆算してのこと。こちらの思惑通り良い状態に持って来られました。



-:今は昔とは違い3ヵ月もトレセンで調教している馬は少ないでしょう。

山:いないでしょう?短期放牧先の牧場でやるようなことを毎日やるわけですから長く感じました。最初の1ヵ月は、放牧帰りのゆるんだ体を調教に耐えられるようなメニューを組みました。この頃が一番しんどかったです。馬も坂路1本でハァハァ言っていましたし、毎日が進まない感じで(笑)。その後の1ヵ月は、体が作れてきたので坂路で55秒くらいを乗れるようになってきました。暑い時期ですから夏バテには注意しながらの調整でした。最後の1ヵ月はポリトラックコースの追い切りも混ぜながら乗っていました。

-:それくらい万全を期すのはトランセンドがずば抜けて走る馬だからこそ、ですよね。

山:まさに王様待遇です。その中で甘やかすだけじゃなく、攻める時は攻める!そういうメリハリを考えて調教していますよ。元々、脚元の丈夫な馬だったから加減せずに攻め切れるのがトラの強味です。最近は以前より精神的にも成長してきたので僕に飛びかかってくる事も少なくなりました。

-:トランセンドって飛びかかってくるようなところもあるんですか。厩舎で見ると大人しくて性格の良さそうな馬に見えます。

山:試しに馬房に入ってみます?たしかに愛嬌があってお茶目なところもあります。強気な姿勢を見せているのに小心者だったり、複雑なヤツですよ(笑)。ドバイでは、1頭だと怖がるので、ずっとブエナビスタについて行動していましたからね。厩舎から馬場まで15分くらい離れていたのでトラはブエナについて馬場まで行っていたんです。そのおかげなのかドバイでも結果が出たんだと思います。

-:やはり海外での経験があって馬も精神的に成長したんですね。

山:その話は、いろんな人に言われるんですけど……僕が見ている限りドバイに行く前も帰ってからも馬に変化や成長はありませんよ(笑)。いつも通りのトラのまんまです。

-:いろんなお話をありがとうございました。最後にJCダートでトランセンドを応援するファンに一言お願いします。

山:過去にJCダートを連覇した馬はいない、という話を聞きました。今回、初のJCダート連覇を目指して頑張っていますので応援してください。間違いなく、今年一番の状態で出走できそうなのでいいレースになりますよ!


【山下 久美】 Hisami Yamashita

父の山下正次さんはダッシャーゴーゴーやスタッドジェルランを担当する厩務員。小さい頃から父のいた厩舎に出入りして、小学生から乗馬を習い始める。中、高校と乗馬を続け卒業後、競馬学校に入学。その後、古川厩舎に所属してハダシノメガミでオークスに出走する経験を持つ。

古川厩舎解散後、攻め馬専門の調教助手として初期の安田厩舎を支えてきた。トランセンドの母シネマスコープの兄妹にあたるゲヴァルトは攻め専時代の思い出の一頭。持っている能力を上手く出してやれなかったゲヴァルトの経験をトランセンドに注ぎ込んでいる。