関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

森泰斗騎手

森泰斗騎手 ロングインタビュー(中)


騎手デビューから、免許返上までの経緯を語ってくれた森泰斗騎手。第2回は騎手としての再起から、現在所属する船橋競馬に移籍へのエピソード。そして、一昨年に晴れてゴールインされた夫人との出会いなどを回顧。再起を期す森騎手に立ちはだかった南関東の壁とは……。

~所属先が次々と廃止に…そして、船橋へ~


-:再デビューの2001年ですと、341鞍騎乗されていますね。

森:少ないですよね。今、思えば足りないところが多々ありました。北関東の競馬というのは小回りだし、馬の力がハッキリしていたので、北関東の最後の方は強い馬にも乗せてもらえていたので、先手だけをとれれば、だいたい勝ててしまうんですよ。そういう競馬ばかりをしていたから、こっち(南関東)より、あまり折り合いをつけるという概念もなかったですね。とりあえず押していくという感じですか。

-:今よりも、自身の技術よりは、馬の力任せということですか。

森:わかりやすく言えばそうですね。そういう競馬じゃないと、勝てないこともありましたし。競馬の質が違ったんですよね。だから、こっちに来た時は一度、壁にあたりましたね。当時、南関東は勿論、中央競馬もよく観るようになって、研究はしたつもりです。

-:ちなみに今、レースはどれくらい観るものですか?

森:今は南関東で毎日乗せてもらっているので、自然とレースは目に入りますが、中央を観る機会は多少、減りました。土日は体を休めないと、身がもたなくて……。

-:となると、今でも調教はつけられたりはしているのでしょうか?

森:今は毎日3頭くらいですが、去年、一昨年までは一日10頭くらい。ナイターの時なんて、寝る暇がなかったですからね。

-:「去年まで」と言われていますが、ここ2年も年に千鞍近くは乗られているわけですよね。それは流石に乗り過ぎじゃないでしょうか!?

森:後輩とかにも「働き過ぎ」とよく言われていました。一頭、20分強の調教を10頭近く乗って、競馬場に行ってレースして、帰宅して、食事して、寝る。本当にその毎日で忙しかったです。毎日、5時間も睡眠時間はなかったです。

-:それは体力勝負の仕事としては厳しいですね。話は戻りますが、宇都宮競馬に行かれた経緯も教えてもらえますか。

森:足利競馬と宇都宮競馬が、当時、交流をしていまして。今でいえば、南関東4場や園田と姫路のような。足利競馬は潰れたのですが、競馬開催をしないだけで、そこで調教はしていましたからね。

-:そして、すぐに宇都宮が潰れたのですか。

森:ええ、まぁ、「危ない」とは言われていましたが、実際、働いている人は何百人もいて、補償問題とかにもなるじゃないですか?厩務員さん達も「潰れっこないよ」と口を揃えていて、僕もそんな事は夢にも思わなかったですからね。でも、決定してからは早かったですね。

-:その後は地元でもある船橋へ移籍されて、当初は成績の額面だけみれば、なかなか苦戦されたようにも思われます。

森:本当に全然ダメでしたね……。まず、競馬に乗せてもらえなかったです。そんなネームバリューもなくて、若手ジョッキーがポンと移籍しただけで甘くはないですよ。

-:とはいえ、近年、成績が伸びてきていますが、何か要因があったのですか?

森:う~ん、一番は乗せてくれる人が増えたということで。あと、技術的にもそれなりに年々、上がってきているとは思いますが、競馬は馬が走ることですから。乗せてもらえない事には始まりませんからね。「(騎手の)腕がある」なんて言っても、僕らが走るわけじゃないですから、それは今でも思いますし。でも……、船橋競馬だと、(船橋競馬の騎手なのに)あまり乗せてもらえないんですよね(笑)。

-:南関東で船橋が一番、いい馬がいるのに(笑)。

森:そうなんですよね~。だから、ここ最近、成績が伸びたのは大井でいい馬に騎乗出来るようになったのが一番ですね。船橋の調教師さんは、良く乗せてくれる人と、全く乗せてくれない人がいます。川島厩舎にも乗せてほしいとは思うのですが(笑)。川島先生の馬にも5回くらいは乗せてもらったんですけれどねえ。僕も色々やらかしてしまったりしているのもあるかもしれません。

-:「やらかす」というと……。

森:この前のNARグランプリで酔っ払っちゃったり……とか。その日も川島先生に手を引っ張られながら、帰って行ったらしいんですが、全然、覚えていないんです。後日、謝ったらニコニコしていたので、大丈夫だったとは思いますが……。でも、そういうのも川島先生だけじゃないですけれど、気に入らない人は気に入らなかったり、あるのかもしれないですし。この頃は私生活から気をつけないといけないと本当に思います。そういう面は圭太と僕の違うところなんです。彼は本当に真面目だし、素晴らしいですよ。そこが違いますね。

-:私もNARグランプリでは、酔った森さんとお話させていただきましたが(笑)、言える範囲で、他の失敗は何かあるのですか?



森:う~ん、書けない話が多いですね(笑)。でも、周りにも「酒と女には気をつけろ」と常々言われましたが、女性の失敗はなくて、酒の失敗が多いですね(笑)。

-:その“女性”と言えば、ご結婚もされたようですね。

森:そうですね。2010年に結婚しました。子供も、もう1歳半なんですけれど、男の子でカワイイですよ。

-:奥さんとは何処で知り合ったのですか。

森:船橋のとある寿司屋で、船橋の調教師と、後輩の濱田騎手と食事をしていたら、たまたま隣に二人組の女性が掛けたんです。で、調教師の先生とかが「声を掛けてこい」という話で、行きたくはなかったんですが、僕から挨拶をして、というのが始まりです。

-:それはすごいですね~。

森:そうですか。普通は後輩が行くところじゃないですか?でも、濱田君はモジモジしているタイプですし、仕方なく僕が行く形になってしまい、なぜかそのまま結婚してしまったんです。

-:競馬が盛んな船橋で出会ったと言うと、その奥様は競馬には精通していたのですか。

森:いや全くです。逆に競馬が好きだったら嫌ですね。家に帰って、友達とかならまだしも、家庭で競馬の話はあんまりしたくないですね。だから、もともと競馬を知らない人と結婚しようと思っていました。“武豊さんなら知っている。オグリキャップやディープインパクトのことは全くわからない”みたいな感じです。だから、こちらとしては気楽ですね。

-:家庭を持ったことで食生活も楽もなったんじゃないですか。

森:彼女なりに騎手の食生活を考えて、色々やってくれているようですし、僕の負担が全くないです。育児も僕に触らせようとしないんです。僕はお風呂に入れたかったりするんですけれど、「疲れているから寝ていいよ」と言ってくれたり、出来る嫁になってきていますね。あとは「アンタに任せたら危ないよ」という思いもあるんでしょうけれど(笑)。他には掃除、洗濯なんかも、全くやらないですね。仕事に集中できるのはありがたいですね。

-:先程、体重のことも触れられていましたが、体重の調整は難しい方ですか?

森:今は落ち着きました。2006年くらいですか、思ったように乗せてもらえないストレスなどで、暴飲暴食したり、増えてしまいましたね。最近は暴飲だけで(笑)、飲むだけなら増える事もなく普通ですね。最近では週末が53キロくらい。それを日曜の夜から調整して、競馬場に着いて52キロぐらいで、汗取りして51キロくらいですね。減量に関しては全く問題ないですね。

-:所属する船橋競馬場の魅力はどんなところだと思いますか?

森:地方の中でトップレベルの馬がいること。あと、コースはフェアで力通りに決まりますね。でも……、僕らよりもファンの方のほうが、船橋競馬の魅力は熟知しているんじゃないですかね。

-:森騎手が船橋のコースを騎乗する上でのポイントはありますか?

森:広いコースなら、どこでも言えることですが、如何に余力を残して、脚を残しておけるかですか。向こう正面で如何に息を入れるかであったり。あと、今の南関って、どこでもスローな傾向が多いですね。なので、上手く折り合いをつけることが一番のポイントですね。しかも、いい騎手は4場どこでもいい馬に乗っていますし、圭太なんかはいい馬に乗って、前々で残すような競馬をしていますから。だから、圭太が力のある馬に番手にドンとつけてしまうと、スローになりやすいケースがあります。そうなった時の対応が今、僕は重要じゃないかと思います。ただ、そう思っていると、若い騎手がガンガン飛ばすこともあって、難しいこともありますが……。船橋に限らず、そうかと思います。

-:浦和なんかはテンが速い印象があります。

森:浦和はテンが遅くても、向こう正面でマクって、上がりが掛かる時もありますし、この前なんかは、砂を入れていましたから、余計、時計が掛かっていましたね。ユングフラウなどは重賞なのに1分30秒くらい掛かっていましたから。

-:話は逸れるようですが、地方競馬に望むことは、我々一ファンとして見る方は、そういう砂を入れたということを公表して欲しいですね。

森:あっ、公表されていないんですか。僕らはレースに乗っての感触と、勝ち時計から判断して、おおよそわかりますが、言われていないのならば、それは言うべきですよね。

-:それ以外にも、騎手変更が出て、どういう怪我をしたのかも、判り易い場所で主催者が発表してくれなかったり……。

森:あ~、確かにJRAだと媒体も多いし、わかりやすい部分はありますが。

-:そうです。地方はその分、少ないんだから、公式サイトが細かく伝えて教えてほしいですよ。

森:もしそうならば、それは言えますね。そういう場があれば、よく、言っておきます(笑)。何でもオープンにしたりしないといけないですよね。

-:競馬って、レース一つにしても、騎手一人の意識だけで動いているものじゃないし、馬があって、調教師さんや、厩務員さん、馬主さんがあってのもの。ファンももっと余裕を持ってみてもらいたいし、ヤジを飛ばすのもいいけれど、色々な要因があって、動いているのだと、ファンにはわかってほしいですね。ただ、主催者には発表すべきことはきちんとわかり易い場所で公表してほしいものです。

森:でも、売上は違いますし、JRAと同じようにはいかないから、主催者は大変だと思うんですよ。大井はイベントやCMなどプロモーションにも力は入れていると感じられますし、乗り役も前面に押し出して、アピールしたり。船橋はもうちょっと努力して欲しいですね。そうは言っても、なかなか変えられることは難しいと思いますが。

デビューから騎手免許返上まで…
南関東の森泰斗騎手ロングインタビュー(上)→

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インタビュー最終回は大躍進を遂げた昨シーズンから、自身に重賞初制覇をもたらしてくれたエンジェルツイートの出会いまで。そして、ファンへ向けてのメッセージも語ってもらいました。 ※次回更新は3月25日(日)を予定しております。




【森 泰斗】 Taito Mori

1981年 千葉県出身。
地方初勝利
1998年4月18日 宇都宮競馬3R ツルマイローレンス
JRA初勝利
2012年2月4日 1回東京3日2R ユーロビート
地方通算成績は761勝(12/3/9現在)


■重賞勝利
・2011年 東京2歳優駿牝馬/・2011年 平和賞
(共にエンジェルツイート号)


戸崎圭太、繁田健一騎手等、現在の南関東のトップジョッキーらと同期として競馬学校に入学。1998年に足利競馬からデビューを果たすも、一時は騎手免許を返上して引退。その後、2001年に再デビューを果たすと、03年には足利競馬の廃止に伴い、宇都宮競馬へ移籍。
しかし、05年に所属した宇都宮競馬がまたしても廃止となり、船橋競馬へ移籍。移籍当初は南関東の中でも影を潜めていたが、2010~11年と台頭。昨年は南関東リーディング3位に輝き、南関東重賞初制覇も達成した。近年の南関東において、最も急成長を遂げたジョッキーの一人といえる。
先日開設した公式ブログは「森泰斗 Dirt Dreamer」 (http://plaza.rakuten.co.jp/moritaito/)