抜群の安定感を武器に挑むゴールドシップ
2012/4/15(日)
須貝尚介調教師(S.R.S)
新馬、コスモス賞を連勝し、札幌2歳S、ラジオNIKKEI杯でも連続2着。能力の一端を伺わせながらも、重賞では惜しい競馬が続いていたゴールドシップ。しかし、内田博幸騎手との新コンビで挑んだ共同通信杯では、正攻法の競馬で圧倒的1番人気に支持されていたディープブリランテを差し切り。一躍、クラシックの主役へ名乗りを挙げた。ゴールドシップをはじめ、ジャスタウェイ、アスカトップレディら、今や関西のトップステーブルに伸し上がる須貝尚介調教師に勝算を探った。
-:いよいよ皐月賞前なんですけど、共同通信杯を勝って約2ヶ月、この中間の調整を教えてください。
須貝尚介調教師:もう本番までは放牧に出さないと決めてたんで、厩舎にいてローテーションを考えながら、こないだみたいにいつでも出陣できるように臨戦態勢を整えてます。
-:中間2ヶ月というのは微妙な期間だと思うんですけども、その間の集中力はどういうふうに維持するのか、そのあたりを教えてください。
尚:ココに使ったらこういう攻め馬をしなきゃいけないな、と。ココを使ったら、このくらいの緩め方なんだろう、と。そういうふうに架空のレースを作って、そこに使ったと仮定して、本番に調整していってますね。
-:つまり、2ヶ月空いているけど、間に架空のレースがあって、月イチで使ってるような感覚で調整を進めていると?
尚:そうですね。言ってみれば、弥生賞にしても、毎日杯にしても、レースを使ったと仮定したトレーニングと緩め方をしています。まあ、もちろん「100%の状態でレースを使いにいかなアカン」という仕上げではないですよ。あまりにも緩めすぎても後に影響しちゃうんで。「ココは使ってるんだぞ」という気持ちでメニューを組んで、今に至る、みたいな感じですね。
-:ゴールドシップはよく坂路で乗られているんですけど、先週は下(コース)で。
尚:ああ、左回りも右回りも下で乗ることは確認の上ですね。手前の替え方とか、馬の形とかの確認もあるし、それほど速い時計は出してないんだけど、直線での反応を確認するためにも必要だということです。だから常に坂路と併用しています。
-:先週の反応はいかがでした?
尚:悪くはなかったですよ。
-:来週の1週前追い切りは坂路で?
尚:馬場の状況、併せ馬のポイントとかを見ながらになるので、直前まではどこでやるのか決めてないですね。輸送のことも考えなければならないので。
-:輸送についてはどうでしょうか?
尚:全然へっちゃらですね。
-:ちなみに、共同通信杯に使われたときは、余裕を持って連れて行ってあの体重(506キロ、+4キロ)だったんですか?
尚:+4キロで競馬できたのは想定内ですね。ただ一つ言えることは、+4キロだったとしても、暮れに使ったときの格好よりも締まって見えた。それでいて+4キロ。これはまさしく中身が濃くなったという意味で、結果もやっぱりプラスだったと。今回もそんなに増減はないと思うんですよね。共同通信杯と同じくらいの見かけで持っていけると思います。
-:輸送でそれほど減るタイプじゃないということが分かったのも大きいですし、精神的にも、輸送に動じる性格ではないということが分かったのも大きかったと思うのですが。
尚:うん。この馬はね、今だから言うけど、輸送は他の馬よりもかなり多く経験しているんだ。それは何故かと言うと、去年、震災のとき、天栄にいたんですよ。そのときに預けていた育成牧場が被災して、馬を移動させなきゃいけないと。この馬はそのときに浦河まで陸路で帰ってるんですよ。1週間前に天栄に入ったばっかりなのに、その1週間後にはまた浦河までの長距離を陸路で帰ってるわけですよ。そしてまた、約1ヵ月後に今度は石川県まで持っていって、それからの入厩になるんです。だからこの馬はデビュー前からかなりの輸送経験を積んでいると。
-:しかも怖い思いをしているわけですからねえ。
尚:そうですねえ。ただやっぱり、ステイゴールドというところで油断はできないですよね。オルフェーヴルもちょっとああいうところがあるみたいなんで。そこはステイゴールドが出ていると思うよね。この馬も自分が気に入らないことがあって「プツン」と切れたらやることは激しいので。その辺を日々注意しながら管理しているつもりです。
-:気性的なところでいうと、馬房でも結構うるさめですし、歩かせているときでも元気が良すぎて人間の方が弄ばれているような……。
尚:いやいや、とにかくこの仔は頭がイイというか、ズル賢いというか、感情的な部分も多くて……。そういう面も厩舎スタッフが考えながらやっていってあげないと。
-:でも、入厩されてから、徐々に精神面の成長というのは……。
尚:いやいや(笑)。そこらへんはケアしながらやっています。前はもっと子どもだったんですけどね。今は子どもが幼い部分を持ちながら、大人になっていっている段階です。
-:共同通信杯で内容がガラッと変わって、正攻法の競馬というか。
尚:「ああいうふうに乗ってくれたらありがたいな」と思ってた通りに内田(博騎手)くんは乗ってくれたんです。
-:ああいう競馬ができたことで、クラシックでも後方一気だけじゃなく、レースの幅が広がりますよね。
尚:ゲートを出して行っても、そこからガンと引っ掛かるタイプではないので、乗り役は操作しやすいと思う。「出ないのか、じゃあ後ろで待っとくか」という競馬じゃなく、「出して、ココにいたい」と思ったところで競馬ができるタイプだと思う。もともとそういう競馬ができる馬だと睨んでましたけど、それは大きな収穫でしたね。
-:普段の様子を見てたら、出して行ったらガツンときそうな感じですが、レースの流れの中では納得した位置で我慢できると。それは先生が仰る頭の良さということでしょうか?
尚:「舐めてる」というか、「ズル賢い」というか。必死にならないんですよね。だからあれだけ追われて、痛い思いをしたときには必死になれるんだと思う。
-:あのレース、4コーナーで内田さんの手が結構動いてたじゃないですか?馬が納得するまで若干アクションがありましたね。
尚:ズル賢いところが出たんでしょうね。周りを見て「何で速く走るの?お前ら」みたいな。「でも速く走らなアカンのやったら走ってやろうか」みたいな感じ。普段見てても、やっぱり舐めるときは舐めるから。ジョッキーやうちのスタッフにも言ってるんだけど、ちょっと油断したら思いっきり立ち上がったり、バックしたり、止まって動かなかったり。レースではそれが逆にいい方に出ていると。
-:あまりにも前向きすぎると、引っ掛かったり、乗りにくさに繋がってきますからね。それがこの馬にはない、と。じゃあ、むしろダービーの舞台が一番この馬に合いそうな。荒れた馬場も苦にしないじゃないですか?
尚:まあ心臓も強いしね。荒れた馬場も経験しているけど、そのときも怯まなかったしね。血統的にも、少々の道悪になったとしても頑張るとは思いますよ。
-:今回の皐月賞なんですけど、舞台になる中山の馬場が結構荒れてきていますよね。軽いスピードのある馬の良さが削がれる舞台になりそうなんですが。
尚:まあ、レースを見てたらそういう感じを受けるんですけども、馬場で左右されることはないと思いますよ。逆に荒れて他の馬が苦にするようだと、この馬にとって有利に運ぶんじゃないかな、というのは少しありますね。
-:共同通信杯の最後の伸び、頑張りを見ると、左回りも結構得意なんじゃないかなと思うんですけど、それもこの馬のオールマイティーさが出ているんじゃないでしょうか?
尚:右回り、左回りというのが、あれで関係なくなったし、まあ常日頃から坂路ばっかりじゃなくて、右回りも左回りも経験させてましたから。速いところに行く(速い時計を出す)のも、左回りでも右回りでもやっているし。そういうことも、やっぱり放牧に出さずにウチでやりたいな、という要素の一つでした。
-:それってかなりの決断だったと思うんですよ。ああいう激しい気性の馬がずっとトレセンにいるということは、一歩間違ったら危ういところもあると思うんですけど。
尚:何かあっ“たら”、という話にはなるんだけれども、やっぱり“たら”になるんであれば、自分のところで責任を持ちたかったということですよね。牧場でもし何かあったら、悔しい思いをしなければならなかったかもしれないし。まあ、レース後のガス抜きのために4,5日は出させてはもらったんですけどね。やはり、もうウチだけの馬じゃなくなったから。「世間と、日高の馬である」という認識をスタッフもしているし、ボク自身も「自分のところだけの馬じゃない」という思いでやらせてもらっているので、「それだったら逆に人に責任を押し付けずに、自分のところで本番まで面倒を見たい」という気持ちが大きいですね。
-:「日高」というのは、馬産地としての「日高」ということですか?
尚:そうですねえ。今やっぱり不況で生産者の方々も大変な思いをしているので、それを考えると、少しでも日高から活躍馬が出て、元気になってくれたら、という気持ちもあります。
-:先ほど体型的には締まりが出てきたというお話だったんですけど、見ると大きくなった印象があるんですが。先生からご覧になったらどんな印象ですか?
尚:いやあ、もう新馬のときの方がデカく思いましたよ。コローンとして。体重の変動はあんまりないけども。人間で言えば、中学生、高校生から脱皮して、プロのアスリートになってきたっていう。そういうふうに成長してきてるようには思います。
-:余分な脂が抜けて、筋肉量が増えた上で体重をキープしていると。じゃあかなり皐月賞は……。
尚:“4強”ですかね。だいぶ絞られてはきていると思うんですけど、共同通信杯で破ったディープブリランテ、ラジオNIKKEI杯2歳Sで破ったグランデッツァ、あとはまだやっていないワールドエース。あのへんがどういうふうに持ってくるか……。僅差の勝負になってきてますし、かなり相手も狙ってると思うので、いい競馬になるとは思いますよ。こないだ勝ったヒストリカルもまだ底が見えてないような気がする。まああれは皐月賞には出てこないけど、本番のダービーとなるとやっぱり強豪の一つには見ておかないといけない。
-:レース内容を見ていると、ゴールドシップは最初の幼さが残るレース振りから、共同通信杯でガラッと変わって良くなったように、色んな面で成長が急だな、という印象です。素質馬の多くは最初からある程度のパフォーマンスを見せて、高い位置でレベルを維持しているのが常なんですけど、そのあたりはどうですか?
尚:この馬にとったら、相手が強くなればなるほどレースがしやすいのかもしれない。と言うのは、コスモス賞のときは抜け出して遊んでたくらいだから。
-:じゃあ、G1向きじゃないですか。
尚:そうだといいんですけどねえ。まあ重賞2着、2着が続いてやっと勝てて勲章をもらえたので、この勲章を本物にするには、やっぱり本番で結果を出さなきゃ、という気持ちは大きいですよね。
-:2歳戦から3歳戦になって、先生にも初めてのタイトルとなったと。
尚:まぐれではない、という証明にもなったし、まあ第一段階は突破できたと。最終目的はやっぱりクラシックなので、そこまで無事にメニューをこなして、管理していかなきゃいけないっていう責任感はもの凄くあります。
-:ただクラシックに出すだけではなくて、恐らく3番人気以内に入るような馬ですから。そのクラスの馬で出走できるというお気持ちは?
尚:ハハハ(笑)。ありがたいですね。ボクを支えてくれる多くの馬主さん、ファンの皆さん、ウチの厩舎に携わってくれているスタッフ、これらのもとでやらせてもらってるので、何とか恥ずかしくないような競馬をさせてあげたいな、という気持ちです。
-:ちなみに、欲しい枠はありますか?結構、中山芝2000mのテクニカルなコースで、外枠は不利かなと思うんですが。
尚:この馬にとっては枠順は関係ない。それだけ操縦がしやすいと思う。
-:お母さん(ポイントフラッグ)もそうだったんですか?
尚:お母さんもある程度乗りやすかったですよ。ただ、お母さんの方が背中が硬かったね。この馬はやっぱりステイゴールドが出ているのかな。
-:でもステイゴールドにしては大きいですよね?
尚:お母さんがデカイ。お母さんがデカイから、ちっちゃいステイゴールドをつけたという馬主さんの意図がぴったんこカンカンだったんですよ。
-:生産の方としてはやっぱり大きいお母さんに、ちっちゃいお父さんで、中柄が出たらいいなあ、みたいな感じで、若干、お母さん寄りになったという……。
尚:体の出方と、色といい、ね。まあそれでも、中身がステイゴールドの根性があるのかもしれないし、上手く配合されたな、という気持ちは凄くありますね。
-:あと、まだまだ気の早い話なんですけど、菊花賞というのも、この馬にはベストかなと。
尚:他の馬で何頭か距離がもたないだろうと言われてる馬がいるかもしれないけど、ゴールドシップの場合は、距離が延びたら延びるだけイイだろう、という印象はあります。
-:楽しみですね。
尚:まあ、いい結果で終わりたいな、という気持ちですよね。ボク自身のタイトルというよりも、みんなの想いが、という気持ちが凄く大きいですよね。
-:ゴールドシップを応援してくれているファンは多いと思うんですけど、皐月賞に向けてのメッセージを。
尚:先ほど述べたように、この馬は自分たちの馬だけじゃなく、みんなの想いがこもった馬だと認識しています。それをボクが預からせて頂いているという気持ちで責任を持って頑張りたいと思うので、これからも応援よろしくお願いします。
(取材・写真)高橋章夫
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■最近の主な重賞勝利
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父は昨年で定年による引退を迎えた須貝彦三 元・調教師。自身は騎手として4163戦302勝。うち重賞は01年のファンタジーS(キタサンヒボタン)など4勝。
09年は年間10勝だったが、10年は25勝を挙げて飛躍。昨年も29勝をあげるなど、一躍、関西のトップステーブルにのし上がった。今年はゴールドシップとジャスタウェイで重賞2勝。クラシック戦線でも活躍を狙う。 |