怪我を乗り越えクレスコグランドが再始動
2012/4/26(木)

濱名浩輔調教助手(栗東・石坂正厩舎)
昨年は3連勝で京都新聞杯を制し、日本ダービーでも、着差以上に魅力を感じさせる走りをみせたクレスコグランド。秋初戦に選んだ神戸新聞杯では、枠順発表当日に負傷し、出走取消となったものの、周囲の評価は高まりをみせており、出走していれば、上位人気に推されていたであろう。その後、11ヶ月のブランクを経て姿をみせた大阪-ハンブルクCでは、3着に敗れはしたが、復帰戦としては上々の内容。キャリア・実績共に他馬には見劣るが、今春も桜花賞を制するなど、関西のトップステーブルとして活躍する石坂正厩舎が格式高い天皇賞へ送り込むのだから、素質の高さはうかがえる。昨年のダービーから近況まで、同馬を担当する濱名浩輔調教助手に語ってもらった。
長期戦線離脱も、大事には至らず
-:前回は約一年前、ダービー前にお話を伺いましたが、ダービーから時系列順に振り返ってもらえますか?
濱:ダービーは勢いそのまま行ったとはいえ、期待は持って行きましたが、天気が悪過ぎて、馬には可哀そうなことにはなってしまいました。それでも、最後はノメりながらも追い込んで5着。結果以上に力を見せてくれたし、上がってきてからも「菊花賞が楽しみだね」なんて話をしていたほど。レース内容も秋に向けて期待が持てる内容でしたし、そのまま東京から放牧へ出しました。
-:そして、休養を経て、神戸新聞杯に向かったと。
濱:その後、放牧から帰ってくると、それまでの華奢な印象から、一気に体に張りが出てきて、すごく良くなっていましたね。ダービーの時にも言ったと思いますが、この子のオーナーはクレスコグランドの事をすごく応援してくれる方で、毎週のように厩舎に観に来てくれるんです。いつものように神戸新聞杯の時もトレセンに来て「神戸新聞杯は30人くらいで応援に行くからね」と言われていた次の日くらいに怪我をしたので、もう何と言うか……、言葉で言い表せないというか……。オーナーにも馬にも、申し訳ないし、悔しいし……。それで秋は棒に振る形になってしまいました。
-:その怪我は膝が擦り剥けてしまったと聞きました。
濱:両膝を擦り剥いてえぐれた形になってしまったんですけれど、競走生命や競走能力に影響するような怪我じゃありませんでした。それでも、かなり重い怪我ではあったので、3週間ほど厩舎に入れっぱなしで、放牧に出して、馬が完全に良くなるまで待とうと。その頃は天皇賞(春)にも間に合うか、間に合わないか、という感じだったんです。山元に着いた時もこっちで500キロくらいあった馬が460くらいだったし、体も筋肉も落ち切って、一からというか“零からのスタート”。それでも、あの馬の力というか、生命力の強さで、思っていたよりも早く帰ってきてくれたし、帰って来てからも攻め馬も順調に積めました。
復帰するにあたっては、全馬に言えることですが、攻め馬でもうるさいところはみせので、厩舎のスタッフみんな一丸で、あの馬を無事にレースに出走させようということでやってきて、その結果がこの前の競馬だったので、とりあえず無事に走ってきてくれてよかったなと。勿論、その先の目標はありましたけれど、ひとまずは無事に走れて良かったと思っています。
-:その怪我というのは、どんなシチュエーションで、どんな形で怪我をしてしまったのでしょうか?
濱:怪我をしたのは枠順が発表される金曜日でした。その前の週が変則開催で、月曜日が競馬で、火曜日が全休。水曜日スタートだったんです。で、いつもなら水曜追いするのを木曜追いにして、金曜が運動だったんです。競馬が近いということもそうですし、元からあの馬は特に競馬をしていくにつれて大人しくなってくるタイプ。新馬の時もそうだったんですけれど、休み明けというのは気性的にしんどくて、ピリピリしていて危ない状態、ちょっとの事で暴れてしまいそうな感じだったんです。その日は運動で山(坂路)に行って、そこから帰ってくる途中にバイクの音でビックリしたんですけれど、馬が暴走気味に走っていってしまって、転がるような形で膝ごとズルっと行ってしまったんです。走ったまま、脚が縺れて空回りしてしまうような……。普通だったら、ゴロンと転がってもおかしくないくらい。
僕、その時に乗っていたんですけれど、「これは競馬前だから落ちられへん」と思って、なんとか踏ん張ったのですが、馬が膝をついたまま、自力で起き上がって、「あぁ~、大丈夫かな?」と嫌な予感がしたから、下を見たら、膝が血だらけだったし、「あぁ、これはアカン!は~、やってもうた」と……。馬がうるさいのはわかってはいたんですけれど、防ぎきれなかったんです。いや、防げたとは思うんですけれどね。油断していたわけではないし、気をつけてはいましたが、こちらの配慮が足りませんでした。

-:よく言うガス抜きが出来ていないような状態だったと。
濱:一番ガスが溜まっている状態。これをつかえたら、少し楽になるようなところなんですけれどね。そこを乗り越える直前でした。今回の休み明けも競馬が近付くに連れて、同じような状態に段々なって行くから、そこをやっぱり前みたいにじゃなく、みんなで協力して、調馬師とか他の方に乗ってもらって、僕がひっぱって帰ると。なるべく安全な方向に持って行きました。リスクがなるべく少ないことを選んで、なんとか出走させようという方向に進めましたね。
-:その今回のレースはどう感じられましたか?
濱:休み明けで約一年振り。それもリフレッシュ放牧じゃなく怪我をした休み明け。終わってみれば同じ世代の馬が上位を独占しましたが、初の古馬相手だったし、いきなりのトップハンデ。厳しい条件のレースでした。それでも、重賞を勝っていたから、トップハンデだろうという気はしていましたし、変に軽いハンデを背負わされるよりは、本番とのギャップもないだろうと前向きに考えていました。他に力のある馬もいたし、オープン特別にしたら、なかなかの好メンバーだっただろうし、それでも馬の能力は上位だと思っていて、格好はつけてくれるだろうと。
レースも前が一頭飛ばしていて、周囲が動かない中で、一番、最初に3コーナーから動きましたからね。3~4コーナーから外を回って、最後まで踏ん張ったのは力がある馬じゃないとできないと思うし、トップハンデでしたからね。内容は濃かったと思います。あの競馬をみて、周りも力があることを感じてくれたと思いますし、僕もそう感じました。厳しいレースではあったけれど、力は十分に示してくれたんじゃないかと思いました。
-:その時の追い切りの雰囲気はどんな状態でしたか?
濱:週毎に良くはなっていましたが、休み明けという感じでした。馬の動きとか雰囲気、馬体の張りとか。体重以上に体を細く見せるし、悪くないけれど、もうひと息と言うか。でも、あれ以上、攻め馬をしたからと言って、良くならないと思いましたね。
-:レースを使ってできる部分と。戦前の報道では、復帰戦は大阪杯もプランとしてはあったようですね。
濱:大阪杯を使おうかという話はありましたが、必ずあのレースというわけでなく、日経賞、阪神大賞典もありましたし、あの前後のレースと見ていました。「先生、オープン特別だけれど、大阪-ハンブルグCというレースもありますよ」という話をしていて、長期休養明けだし、3000m(阪神大賞典)を走らせるのはしんどいし、中山(日経賞)は馬場が悪い。大阪杯なら「本番までの間隔もあるから、一番いいんじゃないか」という話をしていたら、馬もかなり乗り込んではいたけれど、もう一つ動きが冴えないところもありましたし、かなりメンバーが強力だったので、いきなり休み明けでこのメンバーと走らせるのもかわいそうだったので、大阪-ハンブルクCになりました。トップハンデになるとして、どれくらいになるかとは思いつつ、結果的に57キロなら、全然問題なかったですからね。
-:その後の様子というのは。
濱:使ってからは馬がいいです。背中や腹回り、腰からお尻にかけての張りも前走より良くなっていますし、馬は良くなりましたね。思っていた通りです。

-:去年、折り合い面に不安がないと言っていましたが、長距離戦でその持ち味は行きそうですね。
濱:この馬は折り合い面での心配はないので、(通りがかった大井調教助手が『競馬に行くまでやな』)そう、競馬に行くまでが課題です。行けばジョッキーの指示に従順に従いますし、前に行っても長く脚をつかえるし、後ろから行っても、それなりにキレる脚がつかえる。自在というか、あの馬の一番の強みですよね。競馬に行っての賢さというのは。やっぱり、能力があっても力は出し切れない馬もいるし、乗り難しい馬もいる。皆、注目している馬がそうであるように。その点、そういうところがないというのは強みですね。それも含めて能力だと思うので。
-:去年の3歳時の活躍を見て、期待している人も多いと思いますが、その時に「3歳の秋以降になれば、より良くなる」という手応えがあったと思うんです。その点、今回怪我があって、一戦使っただけで、どこまでその理想としていた具合に近づいているのか気になるところです。
濱:正直、神戸新聞杯の前の馬の良さには、まだ戻っていないです。あの時って、惚れ惚れするぐらい馬が良かったですから。使って良くはなっていますが、「まだ先かな」という感じで、今回もいい競馬は出来ると思いますが、本当に馬が良くなるのはもう少し先だと思います。“たら・れば”だけれど、去年の秋に使えていたら、今ピークが来ていたかもしれません。やっぱり、零からのスタートになってしまったこともありますし、むしろ、この短期間で馬が戻って来たのが凄いというべきか。「良くはなっている途中だけれど、悪くはない。まだまだ良くなる」という感じですね。
-:天皇賞使ってからのレースのプランはありますか?
濱:今回の結果次第にはなりますが、宝塚記念と言うレースも条件的にはあいますね。天皇賞で賞金を加算できればいいですけれど、先生も言っているのですが、「この馬は大成しなくちゃいけない馬。ここの馬じゃなく、これから先」と。秋のビッグレース、天皇賞やジャパンカップなど、有馬記念を目指すくらいに大成してもらわなければいけない。だから、今、無理使いはしたくない。けれども、使わないと京都新聞杯の賞金もここまでで、使いたいレースに出られなくなってしまう。なかなかそこは難しいところですね。降級もありますし。使ってからのレースも鳴尾記念や目黒記念などもありますからね。まずは使ってからですね。馬の様子をみてからになりますし、天皇賞というレースは馬にとって厳しいレースになりますから。とりあえず無事に使ってからですね。
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