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吉岡辰弥調教助手

吉岡辰弥調教助手(栗東・角居勝彦厩舎)


昨年は1000万下の条件クラスの身ながら、エリザベス女王杯に出走したオールザットジャズ。結果こそ伴わなかったものの、そこは流石、名門厩舎。陣営の期待の高さを裏付けるかのように、自己条件から再出発すると、一気にオープン入りを果たし、中山牝馬Sで2着、そして、福島牝馬Sを快勝と、その勢いは留まることを知らない。アカデミー賞受賞の名作の名を冠した素質馬が、一躍、春の大舞台でヒロインへと登りつめるのか?担当の吉岡辰弥助手にうかがった。

オールザットジャズはバランスの天才


-:まずはルーラーシップのGI制覇おめでとうございました。今年はドバイWCが残念な結果だったこともあり、日本の馬が海外のGIを勝つのは、殊更、気持ちのいいものですね。

吉:いや~強かったですね。スローでも折り合っていたし、成長をみせてくれましたね。

-:去年のドバイなどは、ペースが遅過ぎて、怒っているような感じでしたもんね。

吉:弱い面があった馬ですが、このレースを観ると、スローの内で折り合ったように、遂に本格化してきた感はありますね。

-:もともと日本を代表する血統で、デビュー前からも期待されていた馬ですもんね。

吉:そうですね。あとは日本でタイトルを獲って欲しいところです。

-:そして、ヴィクトリアマイルに出走するオールザットジャズですが、前回の福島牝馬Sは完勝と言っていい内容でしたね。

吉:結構前からヴィクトリアマイルは意識をしていたので、レースごとに課題を持っていましたし、前走の福島牝馬は“マイルの流れに対応できるかどうか”ということをテーマ臨みました。実際にレースも58秒2ぐらいで前半流れて、だいぶ前とは離れていたんですけど、 “速い流れの中でも脚を溜められるか”という課題の中で、実際、それに対応できましたね。

-:しかも、それだけじゃなくて、全く危なげないレース内容。ポジションにしても、位置取りにしても、ムキになることもなく。4コーナー回ってきたらスッと反応して。

吉:内容的には後ろの馬に有利な流れだったんですけど、中団から早目に抜け出しましたね。新潟でも上がり33秒台って速い上がりに対応できるし、2走前のように中山の重い馬場も脚が使える、馬場が痛んでいても大丈夫。位置取りも、大体どの辺にいても問題ないですから。前走も押し切る競馬ができるように、すごく弱点が少ないですね。



-:なるほど、この馬ってすごくオールマイティなところもあって、それって能力の高さの証明なのでしょうが、逆にG1に行ったら、器用なぶん、はめにくいというか……。

吉:何かに特化しているほうがいいってことですか?

-:春の天皇賞がその最たる例だったような気もするし、何かに特化している馬が勝ってしまうG1があるじゃないですか。例えば追い込み馬が勝つG1とかもありますから。乗りやすさとか、オールマイティさっていうのは、逆に言えば特徴が掴みにくいというか……。僕らは馬券を買いますから、どこで買ったらいいのかわからないという事なんですけれど(笑)、マイルの左回りというのは、この馬にとってはどうですか?

吉:左回りは問題無いですね。東京でもそうですし、実際、新潟でも何も問題なかったので。あとはやっぱり、前走、マイルの流れを意識して乗ったけれど、実際、マイルにまだ実績を出せてないので。マイルに使っていたのは昔の方だけですからね。それがどう出るか……。

-:実際、持っている能力というのは、1800、2000mで勝負できる能力持っている訳じゃないですか。府中のマイルというのは、マイルジャストの馬よりも、もうちょっと排気量が要るというか。スタミナも要るっていう面では、この馬なんかはバッチリなんですけども。体重を見ると、それほどスタミナやパワフルさというか、440キロの馬で、これだけのパワーが備わっているというのは、どこにあるんでしょうか?この体重で中山の重をこなす訳ですからね。

吉:“バランス”だと思いますね。佑介(藤岡騎手)もよく言うんですけれど、“バランスの天才”と。馬場が悪くても、一切バランスを崩さないんですよ。それが中山のああいう脚が使えるし。

-:馬場が悪い時って、普通は後ろから行って伸びないですよね。

吉:すごくトビが大きいんですけれど、大体トビが大きい馬っていうのは、バランスを崩しやすいんですよ。小さくこうピッチで走る馬のほうがバランス崩しにくいんですけどね。トビが大きい中でバランスを崩さないっていうのは、なんでしょうね。持って生まれたものですかね。なかなか教えて出来ることじゃないので。佑介が評価するのはそこですね。

-:去年11月のエリザベス女王杯で初めてG1に挑戦した訳なんですけど、その時のレースというのは度外視していいんでしょうね。初G1挑戦だったのと、結果、内を突いた馬が勝った中で、不向きなレース展開になってしまったというか。

吉:そうですね。正直、なぜ、あんなに負けたのかが陣営としてもわからなかったですね。当時、実績面は見劣りしていましたが、体調にも問題無かったですし。

-:勝った馬も内から来ているじゃないですか。それをオールザットが大外を回って、距離損も果てしないとは思ったんですけれど、この15着ほど、能力的には負けてないんじゃないかなという気はしました。

吉:フットワーク的には距離も問題ないとは思うんですけど。ちょっと掴めないような内容でしたね……。



-:あと、さっき仰っていた体重に関してなんですけれど、一時、460キロぐらいまで来ていたじゃないですか。それが今440台で推移しているっていうのは、何か厩舎側の思いや、調整の部分が反映されているのでしょうか?

吉:460くらいの頃の方がカイ食いは悪かったんですよ。すごくこう、イライラ、イライラして、自分をコントロールできない。それで、ゴハンが食べられない。結果、調教を制限する。そのぶん、体に余裕があるというか……。で、最近はだいぶ自分を押さえ込んだり、コントロールできるようになってからは、カイバを食べるようになった。すると、ギリギリの状態にこちらも作れるというか、強い調教にも耐えられて、シッカリ体を作れるんですね。

-:“緩さの残った460”じゃなくて、“キッチリ攻め込んで、ギュッと詰まった440キロ”という解釈ですね。

吉:そうですね。昔はだいぶ調教も軽かったですし。

-:そういう調教を強めで行っている状況で、中2週で輸送明けですよね。そこからもう一度、輸送することは牝馬にとっては過酷な条件だと思うんですけれど。

吉:たしかに中山牝馬Sのあと、少し疲れたのか馬がフラフラしていました。ところが今回は全く大丈夫なんですよ。帰りの馬運車では飼葉を食べる余裕もありましたから、たぶん今の充実した体調の現れだと思うんですよ。輸送は問題ない馬なので、オールザットジャズにとって疲れが残るレースではなかったんでしょう。今回もヴィクトリアマイルに出走するための賞金は足りていて、もう使うことが決まっていた上での調整だったので。そこまで、ギリギリまでは攻め込んではないし、余裕を残して帰ってこられましたね。

「スペシャリストの集団で成り立つ角居厩舎」
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【吉岡 辰弥】 Tatsuya Yoshioka

京都の向島出身。競馬好きの父と一緒に淀の競馬場に行ったのがきっかけで騎手を目指し、一度、騎手課程の試験を受験するも身長が高く断念する。
中学卒業後、北海道の谷川牧場で2年働いたあと17歳で栗東の藤岡範厩舎に所属。 角居厩舎には今年で5年目の在籍となる。
結局、重賞は勝てなかったが、ミクロコスモスが一番の思い出の馬。「ミクロコスモスには常にいろんな経験をさせてもらいました。激しい気性で乗るのも苦労しましたが、間違いなく能力はあった」と語る。