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吉岡辰弥調教助手

吉岡辰弥調教助手(栗東・角居勝彦厩舎)


スペシャリストの集団で成り立つ角居厩舎


-:あと、今年の傾向として中山の重い馬場で使った馬が、次のレースで疲れてバタッときている。そういう中で、この馬は中山牝馬で悪い馬場を走った後なのに福島牝馬で、大楽勝と言っていいレースをした。あの馬場で走ればどんな馬でも疲れるはずなのに、もう一回、体調を上げていけるというのは、どういった点にあるんですか?

吉:もともとやっぱりヴィクトリアマイル見据えた調整をしてきたからですね。角居厩舎は“カイバ班”って言ってカイバ専門のスペシャリストがいるんですよ。それも大きいですね。

-:疲れを抜くために「今ちょっと疲れているな」っていう時は、そういう軽めの食事にして、「戻ってきたな」っていうときにまた食わしこめる、パワーになるようなエサに替えてやっているという調整と。

吉:そうですね。ただ食べさせるだけでなくて、内臓に負担をかけないようなカイバだったり、しっかり吸収出来る時はそういうカロリーの濃いカイバで、というふうに先を見た工夫をしているんです。

-:みんな年がら年中、カロリーの濃いカイバばかり食べていたら、馬のテンションもおかしくなりますよね。あと、この馬の乗り心地とか、普段、世話をされていて、感じる個性を教えてもらえますか?

吉:そうですね。乗っていてやっぱり感じるのは、佑介と一緒で、バランスはすごく良いですね。だから、直線左回りなら、左手前で走ってきて、直線向いたら右に入るんですけど、大体、手前を替える時って、少なからずバランスを崩すんですよ。でもオールザットジャズは一歩目から、もう完璧なバランスで替えられる馬なんです。

-:手前を替えるのが下手な馬はクビを思いっ切り左に向けないと右手前に替えられない、とかね。替える時に左右に50センチぐらい動いたり。追い切りやレースでも巧いヤツは良く見てないと、手前を替えたかどうか分からないんですよ。

吉:手前を替える時にバランスを崩すっていうことは、ブレーキがかかっているということ。スピードも落ちますから。



-:推進力が逃げてしまうということですね。

吉:あとは折り合いに全く問題が無いっていうことですかね。速い流れでも、遅い流れになっても、まあ折り合えますよね。

-:ズバリ、どの辺りのポジションでレースをするでしょうか?これまでは後ろから行くこともあるし、前から行くこともあるんで。

吉:たぶん、基本的に脚質的には回れるのであれば、後ろで足を溜めて後半勝負すると思うんですけれどね。ジョッキーがね、前走どういう風に感じたのかで、どういう作戦になるかは変わってくるんじゃないでしょうか。

-:あのレースはちょっと小回りに合わせたレースだったかなっていう乗り方では。

吉:どうなんですかね。でも、多分、ヴィクトリアマイルを想定した乗り方だったと思うんですよ。それはもうレース前から言っていたんで。

-:あのレースを勝つだけだったら、もっと後ろからと。

吉:だったかもしれないですね。

-:だけど、ある程度前のポジションにつけて、前目の流れているところで走らせたと。マイルを想定しているから少しキツイ流れで脚をためられるのか、それを確認したレースだったんですね。

吉:佑介は「走ることの天才」って言っていますね。効率はいいし折り合いの不安も全くないし。さっき言っていたようにオールマイティなところが凄いなと思います。

-:それは能力の高さの証明ですね。

吉:そうですね。レース前に佑介が馬と喋っていましたよ。「ここで天才っぷりを披露しようね!」って(笑)。それだけ期待しているんやなって。

-:なるほど。それは福島牝馬の?

吉:そうですね、ゲート裏で話しかけていました。

-:結果、天才ぶりを披露できたんですね。福島牝馬に関しては結局着差がどうのとか、終い3ハロンの時計がどうのとかいうことじゃなく、ヴィクトリアマイルの見据えた課題のもとで、勝つという結果を出せた。マックスのパフォーマンスを出したものではないと。

吉:そうですね。余裕で勝ったと言うと偉そうじゃないですか(笑)。でも福島牝馬を全力で勝ちに行っていたら、本番でも勝負にはなりませんから。状態は凄く良かったですけど、まだもうワンランク良くなる可能性を持っていると思っています。

-:じゃあ二回目のGIで府中のマイルでなんですけども、オールザットジャズを応援してくれているファンの方に一言まとめてもらえますか?

吉:ここまで色々この馬に宿題をレースごとに出してきたんですけど、全部もうクリアしてくれました。あとは、エリザベスの時も課題はあったんですけれど、まだまだ精神的にコントロールきいてなかったので。今はそういう課題が、ゲートなり、折り合いなり、輸送なり、ひとつひとつクリアしてきて。それを克服してのヴィクトリアマイルになるので……。その点、今回は期待できる。もう出す宿題は何も無いぐらい完成度は高まってきていますね。



-:残した“宿題”はGIで勝つということですか?

吉:そうですね、あとは僕が硬くならないように、お洒落なネクタイでもして、本番を迎えたいですね(笑)。

-:明日の1週前追い切りなんですけど、どんな感じでやる予定ですか。

吉:中2週なので、そんなに強い調教は今週いらないので、動きを確認するカタチの追い切りにして、来週、1本、いつもうちの追い切りで周期をちゃんとあわせるカタチで迎えたいなと。

-:3頭併せでどの辺走る予定ですか?

吉:前回は3番手からっていう調教したんですけど、まあ来週のことなんで、今週の追い切りを見て、どこに入れるか、ちょっとまだわからないんですけれどね。

-:真ん中に入れるときは、併せる意味合いがあると。

吉:そうですね。その辺は調教班が考えてくれるんですよ。

-:ああなるほど。まあその馬にプレッシャー与えたほうがいいのなら真ん中に入れるとか。そんなに強い調教がいらないなら、前に行って後ろを待つとか、ビッシリやりたかったら3番手から終いを伸ばすとか。

吉:調教は調教班がやって、カイバはカイバ班が考え、日々の脚元のケアとかは僕が担当している。一頭の馬を仕上げていくって僕一人では出来ないと思うんですよね。いろんな人間がこうやってチームで分担して、一番いい方向に持って行くのがうちの厩舎なんです。

-:結局、角居厩舎はそういうスペシャリスト集団が独立しつつ、それがチームとなって、一頭の馬が成り立っているというわけですね。

吉:そうですね。なかなか一人では難しいですから。チームワークが形になっているんだと思います。その結晶が、大一番で最高の結果に繋がればと思っています。ファンの方々も応援してください。

(取材・写真)高橋章夫


「オールザットジャズはバランスの天才」
吉岡辰弥調教助手インタビュー前半→


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【吉岡 辰弥】 Tatsuya Yoshioka

京都の向島出身。競馬好きの父と一緒に淀の競馬場に行ったのがきっかけで騎手を目指し、一度、騎手課程の試験を受験するも身長が高く断念する。
中学卒業後、北海道の谷川牧場で2年働いたあと17歳で栗東の藤岡範厩舎に所属。 角居厩舎には今年で5年目の在籍となる。
結局、重賞は勝てなかったが、ミクロコスモスが一番の思い出の馬。「ミクロコスモスには常にいろんな経験をさせてもらいました。激しい気性で乗るのも苦労しましたが、間違いなく能力はあった」と語る。