ダービーへ泰然自若!逆転狙うディープブリランテ
2012/5/20(日)
矢作芳人調教師
圧巻のデビュー2連勝から年が明け、共同通信杯、スプリングSと続けて2着。そして、第一冠の皐月賞では3着に留まったディープブリランテ。GIを狙えるだけの素質を感じさせながら、ワンパンチ足りない結果が続いているが、そこは知将・矢作師の管理馬。大一番へ向けての秘策を講じて来ることだろう。皐月賞までの回顧と、ダービーでの逆転の可能性を、矢作芳人調教師に迫った。
-:まず、皐月賞はスタートから1コーナーに入るまでに若干、行きたがるシーンが見られたんですけれど、先生の目から見て、どんな印象でしたか?
矢作芳人調教師:まあ、あれくらいは行くだろうと思っていたんですけど……。ずっとそうなんだけれど、並びがついていないというか、すぐ前に馬がいない状態になっているよね。前に馬がいたらそんなこともないんだろうけど……。まあ、何と言えばいいのかな、気が悪くて行くわけでもなし、元気だから行っちゃうだけなので、別にそれほど気にしてないというか、今回は「ダービーだし、伸び伸び走らせたらいいんじゃないのかな」と思っています。
-:以前、「東スポ杯を勝っているので、道悪が上手いんじゃないか?」という質問をさせて頂いたときに、『いや、良馬場の方がいいよ』というお話だったんですけど、皐月賞もやっぱり、馬場の質から言ったら滑る馬場でしたよね。
矢:いやあ、ホントに良馬場でやりたかったよね。しかも、ああいう競馬になっちゃったんでねえ。
-:内が極端に悪くなって……。
矢:内は極端に悪くなかったでしょ?悪くなかったから、あの馬は勝ったんでしょう (ゴールドシップ)。それなのに「何であんな外に行くんだ!?みんな!」っていうところはあったよね。最後の1時間~1時間半で馬場状態が変わってきたよね。2時間前は内が悪かったかもしれないけど、やっぱり乾き出したら内から乾くので、そんなに悪くはなかったんじゃないかと俺は思っているし、まあ、「あんまり納得の行く競馬ではなかった」というところだな。
-:逆にそれで3着に粘っていることを考えると。
矢:崩れないから偉いよね、あの馬はねえ。ああいう気性のキツイ馬ってダメだったら(結果も)全然ダメだったりするけど、あの馬にはそれがないから偉いよなあ。
-:そうですね。ボクなんかも写真撮っていますので、1コーナーで口を割っているディープブリランテを観ていますから、「あれでよく我慢できるなあ」というのは正直、思いました。だから良馬場前提でダービーが行われるとしたら、まあ条件はガラッと替わりますけど、ディープブリランテにとっては巻き返すチャンスなのかなと。
矢:トビの大きさ、馬の柔らか味、その他いろいろ考えても、良馬場でやらせたいよね。その方が納得行くしね。みんなが納得行くじゃない?お客さんにもいいし。
-:先ほど仰っていた「伸び伸び走らせる」というのは、ダービーの展開で言えば、どのあたり、という想定はありますか?
矢:ああ、私が「伸び伸び」って言うとちょっと誤解を招くかな。みんなが考えている通りですよ。馬を前に置いて、できればインのポケットで脚をタメるという形の競馬になると思います。ただ、そこはもう完全にジョッキー任せなので。他の馬の出方もあるし、今の段階で私が言えることではないので。
-:では、1週前追い切りを終えた今のコンディションについて教えてください。
矢:今のところ、不安な点は何もないです。昨日、かなり動いているけど、まだフィットするんじゃないかっていうのがあって、日曜日と来週の追い切りで、もう少し、もう何%か上げてレースに臨めるんじゃないかなと思います。体重的にはたぶん490キロ台。少し絞って出すつもりです。あと言えることは、岩田君が騎乗停止になってから土日も含めて毎日乗っているので、彼の感覚でいろいろハミを工夫したりしています。
-:それを具体的に教えて頂いていいですか?
矢:いや、これはまだ試行錯誤というか、具体的にどれで行くとか決めてないので……。特殊なハミは使ってないんだけど、ちょっとハミの種類を換えてみて、色んなことを試しています。
-:あと、スタンド前からの発走なんですけど、メンコを着けたりすることもあるじゃないですか?その辺に関してはどうでしょうか?
矢:そういう部分が「伸び伸び走らせたい」ということであって、着ける意思はないですね。
-:ダービーに向けて、馬の造り方などを含めて先生なりの秘策というのはありますか?距離も2000mから2400mにもなりますが。
矢:少し絞るということぐらいで、特にダービーだからどうこうというのはないですね。私はあんまり“G1スペシャル”で「G1だからこうしました」っていうことには、「だったら普段からやったらいいんじゃないの?」って思うクチなので。ただ、ある程度ギリギリまで追い込むっていうのは、みんなそうだと思うし、当然だと思うんだけど。うーん……、まあ、ダービースペシャルみたいなのはないですよ。“調教に王道なし”ですかね。私の考え方は。いつも通り。
-:先ほど先生が仰っていた「フィットする余地を残している」というのは、我々のような側からしたら、感覚的にもうちょっと締め込むっていう感じのことですか?
矢:そうですね。“絞るのではなくて締める”筋肉は十分に付き切っているので、それを少し締めていく感じかなと思います。
-:2歳時から活躍している馬なんですけど、最初はだいぶ丸みがあったじゃないですか?緩い見た目だったんですけど、成長を感じる体にはなっていますか?
矢:そうだねえ。もし、2歳の時と同じような仕上げ方でいったら、もう520キロとかになっていただろうね。筋肉量を増やしながら、締めて行っている感じだよな。それにこの馬は5月生まれなので、まだまだこれからかなというところはあります。まあ、それを考えて2歳の頃はあんまり仕上げなかったんだけど。
-:ボクも去年の暮れくらいに馬に会ったときに、「男馬なのにすごくカワイイ顔しているなあ。これがそんなに強いのか」と思わされました。
矢:まだ先週に3歳になったばかりなんでねえ。そういう点では、まだまだ進歩の余地は残していると思います。
-:ということは、普通の馬に比べて1ヶ月、2ヶ月遅いんですけど、それでいて互角以上のパフォーマンスを出せているっていうのは強みでもありますよね。
矢:いや、2歳のときはもうホントに能力だけだったと思うよね。道悪で強い勝ち方したのも能力だけで走った感じだし、持っているモノだけでやってきたのが、ココのところ負けているのは、「それだけのメンバーの中で、その走り方ではまだまだなんだな」とは感じています。
-:他の馬との成長度合いと、この馬の成長度合いが違うと。
矢:まだ遅いんだろう。これからまだまだ伸びる感じなんだろうね。ちょっと話がズレてしまうかもしれないけど、結局、共同通信杯、スプリングS、皐月賞と能力だけで走って負けてきた。だからダービー勝つためには、秘策なんてものはないけども、俺が思うのは、やっぱり“どこかでタメを作る”こと。ホントは凄い瞬発力のある馬なので、差を詰めるときのスピードは速いじゃない?そこに現れていると思うけど、アノ瞬発力をある程度タメこんで、どこかで爆発させるっていうのが必要だと思うな。勝つためには。今までと同じ内容の競馬ではダメだと思います。
-:じゃあ、今までは素人目に見て「前半ちょっと引っ掛かっているな」というふうに見えるんですけど、そこで能力をロスした上であれだけの脚が使えていることを考えると、そのロスをいかに少なくして終いの脚に繋げられたら、ということですね。
矢:そうだね。それは秘策でも何でもないけど、そういうふうにしたいなと思っています。岩田君もそういうふうに考えていると思います。
-:先ほど、岩田さんがやっていると仰っていたハミを色々試すことは、本番までにまた煮詰めていく感じですか?
矢:そうそう。日々、本当に日々やっていきます。今日も午後からわざわざ来て、乗馬苑まで行ってハミを借りてきて、明日それを試すとか。
-:ちなみに何を借りてきたか教えてもらえますか?
矢:普通のスイロクって、真ん中が一つ折れじゃない?それが二つ折れのやつですね。何故かと言うと、一つ折れで引っ張ったときに口の上に当たって、それを嫌がって頭を上げるんじゃないか?って、推測があるので、二つ折れを試してみようかなと。
-:ハミの山形になっているとこが口の上側に当たるので、とんがって当たるのを、とんがって当たらないように、面で当たるようにすると。そういうハミもあるんですね。
矢:それ、本当は初心者用のハミなんだけどね。初心者用っていうのは、馬の初心者用のハミなんで、ああいう馬に使うとしたら、乗り手の技術が物凄く必要。「お前にその技術はあるか?」って岩田に言ったんだけど、「大丈夫です」って言っているから。あんまりどうかわからないけど、大丈夫なんじゃないか(笑)。
今回着用の新しいハミ“ダブルジョイント”。ジョイントが2つあり、ハミ身が真ちゅう製であることが特徴。
-:それをあと2回、速いところやるときに試してみようかなということですか?
矢:いや、もう明日(18日)から試します。ただ、それで行くかどうかはまだ決めてないですね。
-:その最終判断はもっと直前になってからされると。
矢:ええ、そうです。
-:調教の時はレースほど前半でグッと来ますか?
矢:最初はちょっとあるけど、そこで頑張ると、もう馬が勝手に譲るので来ないですね。調教に関して言ったら、グランプリボスなんかに比べるとコイツの引っ掛かるなんて全然甘いもんですよ。
-:私もそういう風に思っていたんですけど、「レースでは結構、強烈に来るな」というイメージがあったので。
矢:枠とか並びとか、いろんな外的要因もちょっと良くない部分があったんじゃないかなと俺は思うけどね。
-:じゃあダービーはある程度内枠気味に入ってスッと……。
矢:それは誰もが希望することで、そりゃあ内の方が欲しいよな。
-:坂を自慢の瞬発力で駆け上がってくるのが、先生のダービーの理想型ということですね。
矢:まぁそうですね。
-:今までの負けたレースみたいな感じで、先行脚質と決め付けるのは良くないんですね。
矢:うん。やっぱりある程度溜める部分は欲しいね。
-:では、ディープブリランテに期待しているファンも沢山いると思うので、一言お願いいたします。
矢:この馬は古馬になったら間違いなく席巻するくらい凄い馬になると思いますけど。現時点でどこまでできるか、何ができるか、まぁ……、私以上にね、あれだけのジョッキーである岩田君が朝も昼も付きっ切りでやってくれて、本当に彼の情熱を感じるので、それが何とか活きるように私も精一杯やりたいと思います。
-:距離に関して心配することはありますか?
矢:コース的に府中の方が絶対に良いと思うのと、距離も心肺機能が飛び抜けている馬なので将来的には、「あの距離で」と思っています。
-:では、楽しみにしておきます。
矢:ええ、応援よろしくお願いします!
-:ありがとうございました。
(取材・写真)高橋章夫
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父の和人は大井競馬の元調教師。自身は名門・開成高校を卒業するも、父の影響を受け、競馬界へ足を踏み入れる。厩務員・調教助手時代は5つの厩舎を渡り歩き、05年から厩舎を開業。 スーパーホーネット、グロリアスノアなどの活躍馬を管理してきたが、グランプリボスで一昨年の朝日杯FSを制し、GⅠ初勝利を挙げた。 また、08年には著書「開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント」を発刊。メディア対応も積極的にこなすだけでなく、独特の厩舎服を用い、イラストタイプの厩舎ロゴも設けるなど、他とは一線を画した厩舎運営をみせている。 |