重圧を力に変えるゴールドシップの秋緒戦
2012/9/23(日)
須貝尚介調教師(S.R.S)
2強ムードだった日本ダービー5着から夏を越して4ヶ月……。そこで先着された馬たちへリベンジの秋になるかと思いきや、ダービー馬は海外遠征を選び、春は人気を分け合ったワールドエースやトーセンホマレボシは故障で戦線離脱。ゴールドシップのファンに対する責任は変わらないどころか増すことになる。春は幾度も当コーナーで本音を語っていただき、その手腕で皐月賞馬へと導いた須貝尚介調教師に、秋に懸ける意気込みと緒戦に向けての臨戦過程などを伺った。
秋は責任が覆い被さるゴールドシップ
-:よろしくお願いします。神戸新聞杯に出走するゴールドシップですが、休養時の状態について教えて下さい。
須貝尚介調教師:放牧先の吉澤ステーブルの方には神戸新聞杯から始動するということを前々から伝えていました。牧場から一旦函館競馬場に入厩して、2週間ほど馬の様子を確認しながら、15-15を2本、札幌競馬場に移動して2本、栗東に来てからも計算通りのローテーションで調教を積めています。
-:この時期の牡馬は成長する馬もいると思うのですが、ゴールドシップについてはいかがですか?
尚:特に目立った成長はないと思うんだけどねえ……。元から成長が早かったから、そんなに大きな変化はないだろうというのは前々から思っていたことでした。
-:元々2歳戦から活躍していた馬ですからね。他の馬より成長が早いのは当然ですからね。今日、久しぶりに(内田騎手を背に)追い切られましたが?
尚:今日は確認する意味で乗ってもらったんだけれど「反応的にも悪くありませんでした」という言葉をもらいました。
-:素人目に見ると全体時計(坂路4F58秒7-13秒2)が1週前にしては遅いのかなと思ったのですが?
尚:それは土曜日に馬場で追うことを考慮しての計算です。今週の坂(坂路)は反応を見るために、あえて軽めにしたんです。その代わり、土曜日にCWで6Fから心肺機能を整える追い切りをする予定です。ダービー以来なので坂路だけでなくコースも併用した方が馬にはいいと思います。
-:CWコースですか?
尚:馬場状態を見てやろうと思っています。
-:ここ最近は残念ながらライバルの馬達が故障続きです。
尚:素直に喜んではいられないんだよね。いつ自分の身に降りかかるかも知れない災難だから……。善戦していた馬が同じ舞台に立てないというのは少し残念なところもありますし、それなりの責任がゴールドシップに覆い被さったということも事実だろうからね。
-:神戸新聞杯後は3冠最後の菊花賞になります。
尚:皐月賞馬として恥ずかしくない競馬をして欲しいね。
-:ファンの期待がゴールドシップに集中してしまいますね。
尚:そうですね。ダービー2着馬(フェノーメノ・戸田厩舎)も有力だと思うから、本番ではそれらの馬と戦うことになるでしょう。
-:過去を振り返ると、菊花賞に向かう神戸新聞杯に出る馬というのは距離が違うので、あまり攻めて乗れないとういうか、折り合いの事を気にするパターンがあると思うのですけど、ゴールドシップには折り合いの不安はなさそうですね。
尚:そのような心配はゴールドシップ自体にはないと思います。レース間隔が開いた分だけ、馬がナメてしまうようなところが出るかもしれないけど、その辺はジョッキーが把握しているだろうからね。この馬は本当にジョッキーに任すというか、ジョッキーのコントロール次第だと思います。
-:ある程度のオールマイティさがあるということですね。
尚:オールマイティだからね。うん。
-:そして、ダービーは人気を背負う形でしたね。
尚:守りに入ったというか、大事に乗り過ぎたね。あれはジョッキーも不覚だっただろうから……。それを挽回するつもりで、この秋からは乗って欲しいですね。
-:ダービー2着のフェノーメノと戦うわけですけど、他の上がり馬が出てくるかもしれませんし、注目を集めての神戸新聞杯は、騎手として結構乗り難しいレースになりそうですね?
尚:いや、胸を張って乗ってくれれば良い。こっちはそれなりに仕上げていくから。それなりというか勝つつもりで仕上げていくのが僕らの仕事なので。
-:今日の追い切りの時計と土曜日と来週の最終追い切りを1本入れて、体重としてはどれぐらいで出られそうな計算ですか?
尚:体重は500~510の間ぐらいで競馬が出来そうな気がします。
-:そんなに変わらないということですね?
尚:特別変わりはないだろうね。
馬産地に元気を与える奇跡の血統
-:秋の期待はゴールドシップほぼ1本に集中しそうで、先生もシンドイですね。
尚:いや、そんなことはないですよ。まあね、それも調教師冥利に尽きるんじゃないですか。
-:強い馬のひとつには壊れないという条件も入ってきますからね。
尚:そうなんですよ。だから何としても出走させて、皐月賞馬として恥ずかしくないレースをして欲しいですね。上り馬は上り馬でいるかもしれないけれど、それらがこれに勝つことがあれば、褒めてあげなければいけない。
-:それでは、最後にファンの方に一言お願いします。
尚:先に述べたように有力馬達にトラブルがありましたが、それは素直に喜べないし、それだけゴールドシップに注目度が集まって、期待を背負ってしまったのだから、皐月賞馬として恥ずかしくないレースをして欲しいと思っています。あくまでも神戸新聞杯は本番への叩き台。まあ、こんなことを言っては失礼かもしれませんが、そういうつもりで出走させます。この馬は日高の小さい牧場(出口牧場生産)から出てきた馬なので、その辺の期待度も高いと思うので、馬産地の元気が出たら良いかなと思います。まあ、奇跡の血統と言われているし、後々残るようにこれから先、頑張っていきたいと思います。
-:この馬のお陰でポイントフラッグの株がグンと上がりましたね。
尚:でもね、ポイントフラッグは今年種付けをお休みだ。今年休んで、もしかしたら来年も休ませるかもしれません。
-:仔を購入する馬主さんの期待度はかなり高まっているのではないでしょうか?
尚:女の子もいるしね。ウチにいる妹(ポイントキセキ・父フジキセキ)だって攻め駆けしないけど、本番にいったら強い競馬を見せているのでね。まあ、それらが繁殖馬として残っていくだろうからね。こういうゆかりのある血統は競馬で結果を出して、残していかなければいけないのも僕らの仕事のひとつだと思うから。
-:そういう意味では3冠も大事ですけど、この先、古馬になってからも、日本のトップクラスで戦える馬の1頭だと思いますので。
尚:まあ、そうなって欲しいと思います。
-:それだけの馬ですね?
尚:まあ、自分的にはそう思っているのだけれど、結果を生まないとそういう風にはなっていけないのでね。大事に進んで欲しいです。それを預からしていただいているのだから。
-:競走馬の世界は常に故障との戦いなのですけど、今年は妙にそれを強く感じた秋だったので……。頑張って下さい。応援しています。
尚:この馬にとって価値のあるレースをしていってもらいたいと思っています。
-:ありがとうございました。
(取材・写真)高橋章夫
|
||
■重賞勝利
|
||
父は昨年で定年による引退を迎えた須貝彦三 元・調教師。自身は騎手として4163戦302勝。うち重賞は01年のファンタジーS(キタサンヒボタン)など4勝。 09年は年間10勝だったが、10年は25勝を挙げて飛躍。昨年も29勝をあげると、今年はゴールドシップ、ジャスタウェイを筆頭に勝ち星を量産。今年の北海道シリーズでも目覚しい活躍をみせ、一躍、関西のトップステーブルにのし上がった。 「トレセンLIVE!」でコラムを掲載している榎本優也調教助手が在籍していることでも、競馬ラボではお馴染み。 |