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長孝昭厩務員

長孝昭厩務員(栗東・藤沢則雄厩舎)

シルクフォーチュンほど追い込みという脚質が当てはまる馬も多くはない。昨年のフェブラリーS後は低迷したかのように見えたが、前走カペラSで目の覚めるような切れ味を披露して復活。その後は同レースのリベンジに向け、迷うことなく照準を狙い済ましてきた。今回は栗東トレセンでは知らぬ人も少ない大ベテラン、長孝昭厩務員に身近で世話をする人のみぞ知るここまでの道程を語っていただいた。

骨折の長期休養により急成長

-:よろしくお願いします。まずは、長さんがシルクフォーチュンを担当されたのはデビューからですか。

長孝昭厩務員:そうですよ。

-:その最初というのはどのような感じの馬だったのですか?

長:最初からソコソコは攻め馬も動いてたし、未勝利は間違いなく勝てるだろうという感覚はあったな。

-:実際はG1に出られる、G1で上位に来られるという馬になった訳なんですけれど、そこまでの手応えはなかったと。

長:いや、その当時はないねえ。ただ、未勝利を勝った時に1000万でも競馬ができるかなという感じやったな。未勝利を勝った時はね。

-:それがG1にも出れるようになった。

長:未勝利勝って、4回使って骨折したからね。それで、1年ほど休んだんですね。それがあの馬にしては良かったのかもしれない。

-:成長を促せたということですね。

長:そうそうそう。

-:そういうパターンも結構、ありますからね。

長:良い方にね。悪いようにいく時もあるけれど、まあ、たまたま。

-:骨折をしなかったら、何走か使い詰めという状態でシンドクなってたかもしれないと。

長:そうだねえ。



-: 1年間の休養でゆっくりと充電できたわけですね。

長:結果としては、骨折が良い方にね。

-:僕ら競馬ファンからしても、7歳馬というのは若干、高齢馬に感じるけれども、実際は1年間の休養があるということを差し引いたら、その分……?

長:それはそうやけど、やっぱり、歳は歳や。だから、俺の考えでは今年いっぱいがピークかなと。一番力が出せるのは今年いっぱいまでかなと思っている。

-:実際、去年のフェブラリーS前でも若干、距離的な不安とかあったんですけれど、それでも2着に来ましたからね。

長:距離ももちろんあるけど、距離よりペースね。競馬の流れ。要するに掛かるという所があるから、流れが速ければ掛からんで済むとこがあるから。だから、去年でもムチャクチャ速いペースやから、結局、引っ掛からないで、あんな結果が出たんじゃないかな。ただ、どうしてもレースが落ち着いたら、掛かる可能性があるわな。そうなったら、あの馬はダメだから。

-:まあ、ルメール騎手が乗った時もレースが向かなかった時に「どうしようもない」と。

長:ダメ。

-:その面では今回はカレンブラックヒルとか先行馬がいますから、ゆっくりにはならないと思います。

長:そうそう、G1はやっぱりね。今まで1600ではあんまり使ってないけれど、武蔵野Sを3年連続かな。全部、3回共にダメ。引っ掛かってしまったね。それで、去年の船橋(かしわ記念6着)もダメやったけどね。でも、G1やったら、去年の南部杯は3着に来ているし、フェブラリーSも2着に来ているし。G1だったら1600でもソコソコ来ているんだよね。

陣営から見るマイル適性

-:去年、武蔵野Sを大敗した後、暮れにカペラSを使ったじゃないですか。まあ、素晴らしい切れ味で。

長:まあ、それは1200の方が切れると思うね。

-:このレースを見ると、若干、怖くなるのは1600がベストの馬だったら、このレースでは勝てないんじゃないかと思って見てたんです。逆に勝ってしまったから、嵌まり過ぎというか、1600だとちょっと長いのかなという心配が。

長:いや、長い。それは若干、長い。まあ、細かく言えば100mぐらい長いな。まあ、1400ぐらいが一番良いかもしれんね。あと1ハロンはどうしても1400の切れ味がなくなるもんね。

-:カペラSの切れ味が凄まじかったですからね。だから、嵌まればアレぐらいの脚を使えるというイメージを持って良い訳ですよね。

長:でも、1200、1400の脚はちょっと難しい。1600では。

-:途中でガス欠じゃないけど、ちょっと鈍る所があると?

長:そうそう。ゴール前がどうしてもね。だから、去年でもテスタマッタと脚色が一緒になってしまった。終いがね。結局、位置取りの差でそのままゴールやったからね。2馬身ほどね。

-:勝ったテスタマッタの方が馬群の真ん中ぐらいで、シルクフォーチュンは外を回ったので距離的にも……。

長:外だったからね。それもある。だから、今回でも上手いこと馬群に突っ込まんと、ちょっと厳しいかもしれん。全然違うもんね。馬群と大外じゃあねえ。

-:ただ、馬って計算上だけじゃなくて、気持ちがあるじゃないですか。外を回した方が伸びる馬もいるし、馬群の中に突っ込んでいける性格の馬もいるし、砂を被った方が燃える馬もいる。シルクフォーチュンはどういうタイプの性格ですか?

長:乗り役の話だと4コーナーを回る時の手応えが良いから、馬群に突っ込んで、もしつかえたりだとか、そういうのがあるみたいでね。

-:4コーナーからスムーズに前が開いている所を行きたいという心理がある訳ですね。

長:そうみたい。乗り役に聞くとね。



理想とする馬体重と本番の位置取り

-:今朝(2/6)の追い切りは、天気も悪くて、馬場状態が結構、悪い時間帯だったと思うんです。動きはどういう風にご覧になりましたか。

長:正面とかゴール前しか見れないからね。ゴール前、ちょっとタレとったなというのはあったけれど、時計を見たらムチャクチャ速いからね。今日の馬場にしたら。(6ハロン)80.3なんよ。ムチャクチャ速いんじゃないかな。全体の時計はね。終いは13秒何ぼ掛かっているけれど。

-:終いはやっぱり、走りにくそうだなという風に見えてたんです。

長:全体から言うと、それは速い。

-:十分、負荷は掛かっていると?

長:そうやね。今週は目一杯の仕上げやから、来週は調整というか、やらんでも良いしね。2週前、1週前としっかりやっているから。

-:今回は輸送がありますが、この馬は何回も関東圏に輸送してますね。

長:輸送は全然、関係ないよ。

-:ただ、体重は若干、前後するじゃないですか。今回の目標とされている体重というのは?前回は474だったんですけれど。

長:そこら辺ですね、やっぱり。470台。ちょっと増えているかもしれんけれどね。まあ、470台だと思う。

-:じゃあ、武蔵野Sの462キロというのはちょっと細かったと?

長:アレはね、ちょっと放牧に行ってたから、夏場ね。それでちょっと蹄を痛めたんよ。

1週前追い切りはCWコースで6F:80.3-64.6-51.1-38.8-13.7秒


-:夏場でも蹄を痛めるものですか?

長:うん。それで調整が狂って。だから多分、牧場でもエサもそう食わしてないやろし。

-:蹄に負担が掛からないように体を軽めにしていたということですね。

長:そうそう。

-:今は蹄の心配はなく?

長:全然、大丈夫だよ。

-:今の寒い時期の方が蹄の不安はありそうですが、カペラSの良いイメージを持って、フェブラリーSに行けると?

長:そうやな。

-:去年が2着なんですけど、今年の手応えを聞かせて下さい。

長:この馬だけはレース展開と流れがあるからね。

-:いや、速くなりますよ。

長:速くなれば出番はあると思うけどね。あとは要するに外をブン回さんで、馬込みに突っ込んだら。

-:今年の鞍上は横山典さん、追い込み馬が大好きな人ですから、思い切り下げるんですかね。

長:考えているやろうけどね。

-:ちなみにカペラSが終わった後、ノリさんのコメントというか、上がってきた時の雰囲気はどうでしたか。

長:いや、それはベタ褒めやったけどね。「いや~、スゴいわ。ケタが違うわ」とか。もちろん上がってきてからすぐ「フェブラリーSもお願いします」と言ってたけどね。手応えはそらあるわね。あの競馬やったら。

-:あのレースでノリさんが馬場に馬を入れてから、ゴール板の近くで。

長:ジッとしてたね。

-:アレは何をしていたんですか。フォーチュンと?

長:だから、ノリ騎手はそういう所があるんじゃないかな。馬を落ち着かす術というか。あの馬はカリカリしているんだけれど、馬場とか行ったら、意外とおとなしい。だから、別にダクを踏んでも踏めるんじゃないかな。攻め馬だったら引っ掛かって行くけれど、競馬の返し馬ではないもんね。

-:今日の馬場入りはそんなに引っ掛かってはないと。

長:馬が分かっているから、今日は速いところやなと分かっているから行かないね。

-:入らないような感じでしたもんね。

長:それで向正面、3コーナー手前から自分で……。分かっているから。

-:体力的なことはあるけども、調教ではこんなもんだと分かっているから、自分でセーブした所があるということですね。

長:そうそう。

長孝昭厩務員インタビュー(後半)
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【長 孝昭】Takaaki Nagai

栗東トレセンで長(ちょう)さんと言えば伝わるキャリア38年余のベテラン厩務員。昭和49年に上田三千夫厩舎でキャリアをスタートし、手掛けてきた中で一番思い出に残っているのは最初のオープン馬であるカシワズハンター。レッツゴーターキンが勝った小倉記念の4着が忘れられないレースと語る。藤沢則雄厩舎に来てからはタイギャラントやスカーレットベル、シルクフォーチュンという個性的な馬を担当。馬と接する上で心掛けていることは「人間と接しているような感じでしゃべって、怒る時もそういう感じで怒る」と。