関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

長孝昭厩務員

長孝昭厩務員(栗東・藤沢則雄厩舎)


馬を長く走らせるための秘訣

-:最後にこの馬のパドックの特徴というか、こういう時が良いよというのがあったら教えて下さい。

長:大体、カッカした馬やねんけれど、気を抜くというか、ちょっと休まる所が多ければ多いほど良いかな。1周回るのにあの馬はずっとカッカすることはないね。どこかで必ず気を抜く。例えば、競馬関係者がいる所に行ったら、少し見て、また、回ってウワーンとなるとこがあるんですわ。それが多ければ多いほど、ちょっと落ち着いているかなと。

-:だから、よそ見をできる余裕とか、遊べる時間が長ければ長いほど良いと。ハミを噛んで曳っ張っているのは良くないと?

長:それはあんまり。気合が入り過ぎている所があるかなという気があるね。

-:馬体を見たりするんじゃなくて、1周ずっと、この馬に付き合って見ておかないといけないですね。

長:うん、そう。あの馬は体重が細いとか、増えているとかじゃなくて、“気分屋”やから。気持ちが乗ればええ馬やな。

-:いかにレース前にリラックス出来るかということが重要なポイントということですね。

長:それはもちろん、競馬に行ったら尚更やけれど。あんまり燃えんで、掛かるとかがなくて、道中リラックスして行けたら一番、結果が出るというか。

-:長さんはベテランじゃないですか、入られた頃と今とではカイバの質とか、種類とかが全然、変わっているじゃないですか。それはどういう風に?

長:俺は変えないね。

-:昔ながらの?

長:昔ながら。良いのか悪いのか知らないけど。ただ、結果が出ているから、俺はそうしてやっているけれど。

-:牧草と燕麦(エンバク)とですか?

長:人間で例えれば、メシとみそ汁と、あとはちょっとツマミがあれば良いかなという感じでやっているけれど。

-:じゃあ、そんなに配合飼料とかは?

長:うん、やらないな。

-:昔ながらの方法で?

長:何でかと言うと、やっぱり馬を長持ちさせたいからね。

-:みんなそう言いますね。年輩の人に取材をしたら「配合飼料を使って、馬体を良く見せることは簡単やけれど、一旦落ちたら、上がってくるのに大変で、長持ちをさせたいのなら、昔ながらのカイバが良いんじゃないか」と言ってましたね。

長:やっぱり、そうやろ。俺もどっちかと言えば、そういう考えや。取りあえず、長持ちさせんことにはね。一発勝負みたいなのと違うから。

-:去年、引退されたホエールキャプチャの厩務員さんも栗東の出張馬房に阪神JFあたりからコッチに来ていて、馬は見栄えがしなかったんですよ。ジュベナイルフィリーズの取材に行って、見栄えしないけれど、本当に走るのかなと思って、その時にエサの話を聞いたら「いや、コレはこんなもんなんだよ」って。アレでも走りますからね。馬は見栄えでは全く分からないですね。

長:そら、分からんよ。人間もそうやろ。見栄えが良いからといって、人間が良いとは限らんからね。

-:なるべく見栄えは良くしたいでしょうけれどね。

長:もちろん。



-:フォーチュンもどちらかと言えば、ダート馬としたら非力に映るタイプで?

長:そうや。最近は大分、幅も出てきたけどね。それでもあのメンバーに入ったら、ちっちゃいからね。500キロ以上の馬ばっかりやからね。

-:体重もそんなに関係ないというか。

長:別に太っても、ビシッとやってるから。ビシッとやって、太ってる分は別に気にせんでいいんとちゃうかな。

-:藤沢則厩舎さんというのはスカーレットベルなどがいましたね。

長:それも、俺がやってた。

-:アレもダートでメッチャ走りましたね。子供は関東馬になっちゃっいましたけど。

長:国枝厩舎にはいっちゃったね。てっきり来ると思ってたけれど。

-:アレも馬が良いですよ。

長:相当に能力があったけれど、やっぱり気性がね。最後の方は引っ掛かって、どうしようもならんかったもんね。あの時のユタカでも乗れんかったもん。

-:勝つ時はスカーレットベルもかなり鮮やかでしたからね。

長:アレこそ、もったいなかったけどね。やっぱり、精神的に……。

-:でも、繁殖牝馬としては優秀そうですし。

長:どこかで当たるかもしれんね。

-:色々なお話をありがとうございました。シルクフォーチュン、応援しますね。

長:いやいや、こちらこそ。頑張ります。



(取材・写真)高橋章夫


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【長 孝昭】Takaaki Nagai

栗東トレセンで長(ちょう)さんと言えば伝わるキャリア38年余のベテラン厩務員。昭和49年に上田三千夫厩舎でキャリアをスタートし、手掛けてきた中で一番思い出に残っているのは最初のオープン馬であるカシワズハンター。レッツゴーターキンが勝った小倉記念の4着が忘れられないレースと語る。藤沢則雄厩舎に来てからはタイギャラントやスカーレットベル、シルクフォーチュンという個性的な馬を担当。馬と接する上で心掛けていることは「人間と接しているような感じでしゃべって、怒る時もそういう感じで怒る」と。