栗東で飛躍を目指す美浦の2年目ジョッキー
2013/3/10(日)

長岡禎仁騎手(美浦・小島茂之厩舎)
栗東滞在での勝負を選んだ理由
-:それでは、よろしくお願いします。まずは2月から栗東に来られていますが、こちらに来ようと思った理由から教えて下さい。
長岡禎仁騎手:最初、先生に今回のローカルの小倉競馬に行きたいんですけれど、ということを相談したら「ああ、いいよ」という話になって、「小倉滞在するのもありだけれど、栗東(滞在)もありなんじゃないか?」と提案をされました。僕も以前から栗東滞在をしたいと思っていたんですよね。先生にそう言ってもらえたので、これを期に滞在をしようと思いました。そして先生に、小倉通いという形で、しばらく栗東に行かせてもらえるようにお願いしました。
-:それは日々の調教ということを考えたら、所属する小島茂厩舎は人手が1人減る訳じゃないですか。よく先生が「それで良いよ」と言ってくれましたね。
長:「こっちはかなり大変になるけど、飼殺しにする訳にもいかんし、ちょっとでも向こうに行って成績を上げてくれたら、自厩舎でも乗せてあげられるから」という感じで来れるように考えてくださいました。
-:やっぱり、美浦と栗東の違いは『減量ジョッキーの乗り数』が圧倒的に違っていて、最近でも、国分優作騎手、水口騎手などが栗東に来て大幅に勝ち星を伸ばしました。僕も彼らも来た当初はオドオドしている感じで、大丈夫かなと思っていました。でも、レースに乗せてくれるから自信もついて結果的に成績も上がっていきましたからね。
長:先週(2月9~10日)、京都で乗せていただいて、火曜日から来たにも関わらず、5鞍集まって、やっぱり栗東は違うなと感じました。今週はもっと集まって、倍の10頭、11頭ぐらい名前が入っているんです。まあ、入るかどうかなんですけれど(土日の小倉で9頭に騎乗した)依頼はしていただいているので。やっぱり違うなというのは、この2週間だけですけれど感じますね。
-:先週は馬柱を見ても、16番人気など、どう転んでも上位は厳しいなという気がした馬もいました。それでも実戦に1頭でも乗れるということは調教とは違う達成感があるでしょう。
長:すごく嬉しいですね。関東ではそれすら乗れなくて、1頭探すのに結構、頑張ってという感じなので。それが5頭も集まっているわけですから。1週間でこれだけ乗れるというのは気持ちの面でも全然違います。

-:いきなり手応えがありましたね。
長:そうですね、やっぱりコッチに来て良かったなと感じています。
-:そうなった場合、あとは結果を出さなくては。
長:それだけですよね。とりあえず、人気になりにくい馬達が3キロ減を使っていただけるので、そこで名前を売るというのを最低限、この1カ月、2カ月の間に重ねて行きたいです。夏の競馬に繋がる感じで、名前を売るという最低限のことをしなくちゃいけないなと。
-:その名前を売るということで、色々な人に顔を覚えてもらうとか、トレセンの中での知名度を上げるというのはどういう努力をしていますか?来てから、まだ、日にちが経ってないですけれど。
長:僕は単身でコッチに来て、現実に乗り馬が増えるのか?そういう心配はありました。もちろん専門紙や新聞社の方々も知らないですし。そういうことで先生に相談して、こちたではエージェントの方に手伝ってもらうことにしました。そして調教では1日全部、埋まるようにお願いしました。手伝えるだけ手伝って、新しい厩舎を回って、挨拶をして栗東になじめるよう努力しています。
-:色々な人に長岡騎手のことを聞きましたけれど、結構、みんな知っていますからね。
長:ああ、本当ですか?
-:それだけ顔を出しているということですね。
長:はい。ありがたいです。
94戦目で待望のJRA初勝利
-:去年、中京で初勝利を挙げて、結局、あの勝利の後も、それほど美浦では乗鞍は集まらなかったですね。
長:そうですね。次の週やその次の週になっても、そんなに変わらなくって。勝った時はこの流れに乗れれば良いなと思っていたんですけど、全然、変わる感じじゃなかったので……。
-:あの時は94戦目で勝ったんですよね?
長:そうですね。
-:それまでに結構、惜しいレースはありましたか?
長:2着はあったんですけれど、結構、離れた2着とか、際どい2着というのがなくて。
-:あの初勝利もよく勝ったなと。ちょっと詰まり気味だったから、追い出しがゴール寸前で踏み遅れ気味でしたよね。だから、外から差されてもおかしくない感じでしたけれど。
長:そうですね。上手いこと逆にハマったのかなと。
-:あのレースを今更、ファンの人が見ようと思っても8レースの若手騎手限定戦だったから、レーシングビュアーを登録している人じゃないと見れないと思うのですが、詰まり気味で93戦勝ったことがない騎手が、慌てないで前の馬のスペースが開くのを待っていたというのが、スゴいなと思ったんですけど、それができたのはどうして?
長:よく上手いジョッキーのレースを見ていたら、やっぱり待てるというのが一番、僕らにない所なので。そこは経験でココは開くというのが分かって、多分、待っているのだと思うんですけれど。でもあの時は、内か外に出すかとなった時、外は他の馬がいて無理で、内か前の進路を取るという感じでした。前の馬達がフラついてたので、コレは絶対にどっかが開くなと思って、ずっと我慢して。多分、開くだろうと思ったら前が開いてくれたので、そこを突っ込みました。
-:アレは、上手く乗って勝てたレースですね。馬の力に勝たせてもらったという感じはしなかった。長岡騎手がどの馬に乗っているか、そんな知識は全然なく、ただ、レースを見ていて、目立ってましたからね。そこで我慢したらいいよと思って観ていたら来て。ゴールした時は正直、勝ったかどうか分からなかったけれど、自分では分かりましたか?
長:いや、全然分からなくて。ヨシッ、勝ったかなと思ったら、外の方にいたので、アレッと思って……(笑)。
-:終わった後、勝ったことはどのタイミングで分かったのですか?
長:上がってきて、厩務員さんが馬を受け取ってくれて「勝ちましたかね?」と言ったら「勝った、勝った」と言っていたので。ああ、勝ったんやと思って。その時初めて実感が湧きましたね。相当嬉しかったですね。
-:小島(茂之)先生は喜んでくれましたか?
長:喜んでいただきましたね。
-:何かアドバイスを受けました?そのレースに関して。
長:「よく我慢したな」というのは言っていただきました。
1年乗っても目標は蛯名正義騎手
-:あのレースを見て、僕は何でこのジョッキーがこれだけ勝てなかったんだろうと思って、逆に不思議に思いましたからね。機会があったらファンにも見直して欲しいレースです。デビューした時に目標にする騎手は蛯名さんでしたね?
長:はい。
-:1年乗ってきて、今、この人も良いなとか、新しくこの人の良さも見えたなというのはどなたかいますか。長岡騎手は背も高いし、手足も長いから、体を上手く畳みにくい体型ですよね。ジョッキーとしては結構、不利な面もあるから、そういう面でこの人から学びたいという人は?
長:そういう面で僕は蛯名さんを。蛯名さんもそう身長が低い方じゃないし、手足が長い方なので。違う目線で言うと、岩田さんなんて人気馬に乗っても、自分の芯を持って、シッカリ勝ってくるという所を見習いたいなというのはありますね。
-:体型的には?アイルランドのジョセフ・オブライエンなんか180cmを超えてて、あんなに馬にへばり付いて乗っている。なのに、乗っている時は大きさは感じません。
長:外国人騎手は体をすごく折り畳んで上手いですし、松田大作さんなんか、すごく背が高いのに折り畳んでますし。凄いです。
-:1年間やってきて、競馬の難しさというのを改めて感じますか?
長:やっぱり、僕ら1年目は1日1頭くらいしか乗れなかったので、次に試すということができないんですよね。次の競馬も乗れないことが多いですし、いかにベストパフォーマンスをそのレースでするか、ということが一番、難しいかなと。
-:しかもその時に馬がベストコンディションじゃないかもしれませんからね。それで成績が悪かったら怒られるだろうし。
長:馬のコンディションが悪くても、今まで3着、3着と来ていたら、3着か、もしくはもっと上を目指さないとダメという。結果が全てで……。僕ら見習いは1回のチャンスをモノにしないと乗り替わりになっちゃうので。もし、あんまり人気のない馬が2着とか3着に来て、良い所を見せたら「もっと良いジョッキーが乗ったら、勝てるんじゃないか」と馬主さんが思うことは当然ですから。
-:期待度が上がるとジョッキーの質も上げたくなるのが人の常なので。
長:そこを1回のチャンスでモノにするかということが難しいところですよね。
-:今はレースの中でガムシャラな気持ちだけでやろうとしたらケガをしたり、他の人に迷惑を掛けたりするじゃないですか。その辺の気配りというのはレース中、どうしているのですか?
長:最初の頃はやっぱり、もちろん、そうなんですよね。周りが見えなくて、声を掛けられても、自分が声を掛けられていることに気付かないぐらい、真っ直ぐ見てたんです。90何戦と少ないレースですが、最後の辺は周りの声も聞こえるようになりましたし、こうしたら周りの人に迷惑が掛かるなというのが分かりますし。
-:迷惑が掛かるというのと、自分のポジションを主張するのは、また違うでしょうから難しいところですね。
長:そうですね。

-:先週、出身が和歌山ということで、競馬場におじいさん、おばあさんが見に来ていて、熱心にパドックで写真を撮られていましたけど、終わってから何か話をしましたか?
長:帰りは一緒に帰ったんです。僕は向こう(美浦)なので、なかなか会えませんからね。久しぶりに顔を見て、すごく喜んでくれて。「パワーをもらった」と言ってくれましたね。
-:お孫さんが勝負服を着て、晴れの舞台に出てきている訳ですから、すごく嬉しかったでしょうね。ご両親は心配していませんか、ジョッキーになったことを。
長:そうかもしれないですね。ましてや、僕はデビューして1カ月目で落馬していますからね。その時は「おじいちゃん、おばあちゃんには言わなかった」と言っていましたね。落馬したことを黙っていて、1カ月後ぐらいに言ったと。
長岡禎仁騎手インタビュー(後半)
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前編 | 後編
(写真・取材)高橋章夫
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競馬とは縁のない過程に育ったが、ふとしたことから乗馬の経験を持ち、2006年のエリザベス女王杯を京都競馬場で観戦。その華やかさに影響を受けて騎手を志すことに。 中学校時代はテニス部のかたわら、地元のグリーンオアシス乗馬クラブで経験を積み、競馬学校へ。卒業時にはアイルランド大使特別賞を受賞した。 そして、昨年、美浦の小島茂之厩舎所属としてデビュー。デビューイヤーは99戦して1勝のみと、苦杯を嘗める1年となったが、今年は活路を求めて栗東に滞在。減量騎手が重用される関西圏に活路を求めている。 |
