関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

安田翔伍調教助手

翔:簡単に言えば、コンディション良く競馬に行くのは大前提なんですよ。でも、以前だったら調教をやって、コンディションが良くなったら、ハイ、競馬に行って、だったんですけれど、それじゃトップは極められないということを教えてくれました。

-:それはどうしたら良いですか。調教をやって競馬というのは?馬の精神面を考慮しながら、逆算するということですか。

翔:コッチがいかに馬の幼さだとか、逆に変に頭の良さというのを把握しないとダメだなというのは思いました。

-:馬にダマされるじゃないけれど。

翔:頭が良い馬だったら、悪い方に言ったらそういう風なのもありますし、調教とかに携わって解消させていくことによって、更に良い馬になるなというのがあります。やっぱりカレンチャンで行かせてもらえなかったら、海外輸送に対しての対策も、あそこまでできなかったし、競馬に至るまでの調整方法も、やっぱりコッチと重ね合わせたこともあったでしょう。競馬内容にしてもスピードを活かすだけじゃダメというのを知れたのも、カレンチャンで行けたからというのもあります。それを知って、1年間カナロアを成長させて、通用する馬にしたいというのを頭において調整してきたので、それに対してカナロアも応えてくれていますしね。

-:結構、早い時期からロードカナロアを取材させてもらってまして「素質はカレンチャンと同等か、それ以上のモノを持っている」という話だったので。

翔:そうですね。素質はそうですね。

「『絶対はない』と言われているスポーツなんですけれど、今の感触から言ったら、“絶対がなければいけない馬だな”と、そういうつもりで本番を迎えるつもりです」

-:それが現実になって、しかも国内のG1を勝って、それは一つの大きな目標だったんですけれど、それだけじゃなくて香港という短距離馬の……。

翔:格式の高いレースで。

-:日本の馬が香港の短距離馬に勝つというのは。一時は香港の短距離馬は別格という。

翔:1年目、カレンチャンで行った時、香港に対しての意識は壁が厚いものだと思ってました。やっぱり世界を感じたんです、レースまでは。ただ、実際レースをしてみて、内容もこのままではいけないと色々考慮した中で、カナロアの競馬の直前になった時には、もう挑戦という意識は全くなかったですね。手応えしかなかったですね。

-:国内の競馬場のどのレースを使うという選択肢の一つの中に香港があると。

翔:香港の前日とかに、“コレ勝ってくれへんかな?”とかじゃなくて、勝つイメージが岩田さんと共に湧いていましたね。レースはカレンチャンも一緒に見ながら、気を配りながらというのもあったんですけれど、勝った時はハシャグこともなく、思った通りの競馬をしてくれた、という納得の方が大きかったぐらいです。



-:頭で考えていたことが、現実に目の前で起こったという感じですか。

翔:もう競馬がスタートからゴールまで思っていた通りの感触で、その時も調教の感触が競馬で活かせるようになってましたし、阪急杯もそうでした。なっていたら、スゴいアドバンテージになると思うんですけれど、そういうのも以前だったら分からなかったですし、テンションが上がらずに状態さえ良ければいいと思ってたかもしれないので。

-:安田厩舎は坂路を主体にしている厩舎なので、香港に行った時は調教場所に困るというか?

翔:でも、速いところは坂路でやったりしてますけれど、週末とか普段はCWで乗ったりしているので。向こうはコースしかないというのもあって、直前はフラットな走りを教えるためにコースを中心に乗ってました。香港自体が仕上げる場所ではないなというのも1年目に感じたので、日本である程度は仕上げていきました。動く馬はいっぱいいますし、乗り味が良くてとかよく言うんですけれど、そこをできるかできないかで、だいぶ数は限られてくるので。

-:その環境の変化とか。

翔:逆もいるんですよね。調教とか走りはスゴくないけれど、そこがある分、コッチが思っている評価よりも上のクラスにいるというのが。

-:精神面も肉体面も、ちゃんと成長してG1馬になって。じゃあ、今度の高松宮はファンが思ってるのと同じように、やっぱり翔伍さんも自信満々で向かうという感じですか。

翔:僕たちの仕事は当日、馬場に送り出すまでは気を抜かないように一生懸命、調整することだけなんですよ。コースに出てしまえば、カナロアと岩田さんの舞台になるんですが、その中で競馬は何があるか分からないし、「絶対はない」と言われているスポーツなんですけれど、今の感触から言ったら、“絶対がなければいけない馬だな”と、そういう意識で本番を迎えるつもりです。

今年はロードカナロアでウインイングランを

-:何か阪急杯からカナロアに対して、違うことをしてくるというのはありますか。例えば、グレープブランデーだったら、東海Sから舌を縛ったじゃないですか。それでフェブラリーSも舌を縛って結果が出たとか、そういう?

翔:いや、特にないですね。

-:ここまでの馬が、そんな何もアレンジしないでも?

翔:去年の夏とかのままだったら、もしかしたらチークピーシーズを着けたりだとか、そういうことで、もっと気持ちを出させて、それを抑えるぐらいにしないとダメかな、という時期はありましたけれど、今はもう何もないですね。

-:不安もなく、体調も良く?

翔:あとは中京競馬場は傾向を見ると、ちょっと紛れがあるので、レース展開によって早く抜け出し過ぎたりした時に、スバッとやられたりしないように。岩田さんもそこは頭に入れてますし、それを踏まえての阪急杯だったので。

-:今開催の中京というのはご覧になっていますか?

翔:毎週行ってますね。



-:芝のコンディションをファンに伝えれたら、教えて下さい。

翔:内は歩いていても悪くはないんです。ジョッキーとも話してるんですけれど、逃げ馬に対して、風のせいなのか、直線が長いから「他の競馬場よりテンは出して行ってないつもりなんです」と言うけれど、それでペースを上げるところから、プレッシャーが掛かる時間が長いじゃないですか。それがもしかしたら、キツいのかなと。

-:後ろを気にする時間が長い?

翔:そういう精神的なキツさで、楽に行ってても、最後まで残るというのはないので。先週も外は芝がスゴく生えてるし、絶対内の方が良いなと思う馬場なんですよ。それでも先週は外差しが決まっていたので、いかに前の馬にタフな競馬場かというのが頭に入っています。

-:競馬場の特徴として1200の芝というのが、ゴール前の写真を撮っていても、一番最後まで気が抜けないですよ。なぜかと言うと、たった10メートルぐらいで、すさまじい変わり方をするから。あまり早めにロックオンできないんですよね。

翔:そういう印象はあるんで。馬場コンディションでもなく、ペースでもなく……。

-:松山弘平騎手も言ってました。すごく楽なペースで逃げてて、「何でコレで差されるのかが分からない」と。

翔:マークされる苦しさが出ているのかなと僕らは思っているんですけれど。それしか理由がないんですよね。

「(戦法は)最後方待機でも良いぐらいです」

-:ただ、G1級のレベルの馬が、あそこの競馬場で走るのは年1回じゃないですか。だから、G1級の馬だったら、もしかしたら違うのかもしれないですけどね。

翔:そうなんですけれど、このメンバー構成を見た時にハッキリとした逃げ馬がいるじゃないですか?どこまで辛抱して、それが抜け出したりするタイミングもあるので。枠とかメンバー構成も含めて、当日、どのポジションで競馬をしようとか、そういう相談はやりたいんです。

-:おそらく1番人気で単勝オッズ2倍を切ってきますけれど、乗る方としたら結構、神経を使うレースでは?

翔:乗るまでは神経を使うんですけれど、乗ったら多分、何か安心感があるんですよね。そのオフとオンのやり方がスゴく楽なので。

-:カナロアにとって、ちょっと気持ち悪いのは前の先行馬が飛ばし過ぎて……?

翔:いかにカナロアが数字良く行ってても、前が止まってしまった時に……。前走でも枠から言ったら、マジンプロスパーが行くと思ったんですよ、岩田さんは。それを行かせて、残り1ハロンまでトコトンかわいがっていって、それで他にパッとやられたらしゃあないですね、という話をしてたんですけど、展開が逆で、思ったことと違ったので。

目標にする馬がいなくなって、あの馬のリズムで行っている時にちょっとズブさを出した時にスイッチが入って、シュッと行った時に岩田さんはだいぶ待ったらしいけれど「抜け出した時にアクションを起こすというのも教えとくべきということで、1ハロンぐらいからやった」とは言ってました。そういうこの馬の良さが終いになって、マイナスに出ることもないことはないので。以前ならスピードがあることがスタートでマイナスに。今だったら終いにキレがあり過ぎてマイナスに出る恐れが、中京ではあるなと思うので。




-:ちょっと踏み遅れるぐらいでも全然、間に合うぞ、という感じですね。

翔:最後方待機でも良いぐらいです。後ろには持って行けないでしょうけれどね。2、3完歩目が速過ぎて。ただ、作戦的には最後方でも良いぐらいのつもりで。

-:もし、それが出来たら、スゴくダイナミックな高松宮記念が見られますね。

翔:体に悪いですけれどね、観る方は(笑)。

-:それでは、楽しみにしています。応援してくれるたくさんのファンにメッセージがあればお願いします。

翔:やっぱり去年、カレンチャンで勝たしてもらった時に、中京の盛り上がりはここまであるんだというぐらいウイニングランは気持ち良かったんです。今年もあの思いをしたいと思ってるので、ぜひ競馬場で走りを見に来て欲しいですね。

-:今年の厩舎は幸先が良く、グレープブランデーでフェブラリーSを獲ってますしね。

翔:はい。カナロアはカナロアで、結果を求めて行きますんで。

-:僚馬のダッシャーゴーゴーと共に。

翔:もちろん、ワンツーを狙っていきますので、厩舎としても。僕としては調教に乗せてもらって、カナロアしか頭にないですけど、最大限のパフォーマンスを見せれるような状態で送り出すので、その走りを見に来て欲しいですね。

-:分かりました。ありがとうございます。

翔:こちらこそ。ありがとうございました。

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(取材・香港を除く写真)高橋章夫



【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄の景一朗助手と共に厩舎の屋台骨として活躍している。