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飯塚千裕氏

ラクソン調教師と厩舎の活躍馬

-:所属されるラクソン調教師についても教えていただけますか?

千:長年やってる大ベテランですね。毎週土曜日になると所属する全頭をボスが馬場でチェックするのですが、馬を見るだけでその馬に何が必要かすぐわかるくらいですから、経験値はさすがだなと思います。元々ニュージーランドで調教師として成功しメルボルンカップも優勝されているのですが、00年にシンガポールに移籍しました。その後04年から09年まで6年連続リーディングトレーナーとなったものの、3年前と2年前は抜かれてしまったんです。そして昨年は最終日の最終レースで勝利してトップに立ち、劇的にリーディングトレーナーに返り咲きました。ニュージーランドに牧場を持っているほか、奥さんのシーラさんも元騎手でニュージーランドの調教師としてメルボルンカップを優勝されているんです。

-:現在もニュージーランドとの繋がりがあるんですね。

千:はい。厩舎に入ってくる馬はニュージーランドやオーストラリアの友達の牧場で馴致された馬がほとんどですので、変な馬は入ってきませんから安心して乗れますね。

-:凄い方なんですね。ラクソン厩舎の活躍馬といえば何でしょうか?

千:最近ではデビューから12連勝して重賞でも活躍したベターザンエバーですね。私がラクソン厩舎に移ったときにはもう活躍していましたが、大事な馬なので私に担当を任せてもらいました。すごく馬体が綺麗でかっこいい馬でしたね。いつも飼葉をやってマッサージもしていたので馬も気を許してくれていました。この馬はいつも主戦のサイミーが調教を付けるのですが、レース前日にサイミーが休んだことがあって、急遽私が調教に乗ったのは良い思い出です。すぐに頭を上げる癖のある馬で、手綱を引っ張れないからとても折り合いが付けにくいのです。翌日のレースでも無事に勝利して、ほっとしました。



-:ベターザンエバーといえばドバイにも挑戦しましたね。

千:はい。あの年は日本で震災があり、その後片付けの手伝いや妹の結婚式が重なって日本に帰ってきており、残念ながらドバイには行けませんでした。でも、順調に行けばその後安田記念に参戦するプランもあって、とても楽しみにしていたんです。しかし、輸送が駄目でしたね。輸送中に暴れて外傷を負い、バンテージを巻いての出走でした。レースでは力が全く出せずの惨敗に終わりました。

-:厳しい結果となりましたね。その後のベターザンエバーはどうだったんですか?

千:昨年、5月のシンガポール航空国際カップを目標に、ひとつ勝ってから挑戦させようと少し無理をさせてしまい、レース中に馬が鼻血を吹いてしまって本番も回避となりました。ニュージーランドで休養後、馬体も戻って今は向こうで現役を続けています。今年の5月末にはG2も勝って、さらなる活躍を期待しています。

-:今、厩舎で一番期待している馬は何という馬ですか?

千:3歳馬のフカフォールスです。今年のシンガポール航空国際カップ出走を目指していましたが、疲れが出たので休ませました。重賞勝ちはありませんが、まだ若いのでシンガポールのナンバー1になってくれることを期待しています。

-:ちひろさんがシンガポール競馬で大きな役割を担っていることはわかりました。では、ちひろさんから見たシンガポール競馬の魅力とは何ですか?

千:全体的に賞金が高くて、それによって競馬のレベルが上がっていることですね。今ではオーストラリアよりも賞金が良いですから、優秀な調教師などもどんどんシンガポールに来ていますし、強い馬も入ってくるようになりました。シンガポールの調教馬がドバイで勝つ実績が出てきたのも、賞金が高くて人材も良くなっているからだと思います。生産もいろんな国の馬が入ってきますね。大半はオーストラリアかニュージーランドですが、インド産も昔はいました。最近はインド産では通用しないので見かけなくなりましたけど。マレーシアで活躍した馬も入ってきますが、これは日本でいうと地方から中央に移籍するようなものですね。





-:ちひろさん自身で、シンガポールで仕事をされて考え方が変わったことはありますか?

千:馬は基本的に暑いのが苦手な動物ですので、年中真夏のシンガポールでちゃんと競馬ができるのかなという疑問はありました。日本の夏競馬では強い馬は休むわけですし、オフシーズンというイメージだったからです。でも、こういう環境でもできないことはないとわかりました。馬も鼻血が出やすくなって体調管理は難しいですが、厩舎にはエアコンが完備されていますし、飼料を工夫したり夏に強い血統の馬を優先に連れてきたりしています。私も暑いのが好きなので、今はこの環境に馴染んでしまいましたね。それからシンガポール政府の対応が厳しいです。競馬はギャンブルとしか考えられておらず、何をするにも許可がいりますし、規制に縛られています。スポーツとして考えてもらえれば、もっと競馬が一般に受け入れられるのにと思っています。

-:ちひろさんがこれまでのシンガポールの経験で一番嬉しかったことは何ですか?

千:日本産馬でとてもゲートが悪い馬がいて、レースのたびにゲート試験が課せられていたんです。ゲートの中で暴れて怪我をした人もいて誰も乗りたがらなかったのですが、私がゲート試験に乗るようになってゲート難も解消していき、騎乗したトライアルレース(能力試験)で1着になったことですね。そのあとのレースでは2着だったんですけど。

-:日本の競馬関係者やファンにメッセージはありますか?

千:競馬は世界中のさまざまな国で行われています。関係者やそれを目指している方は、日本国内だけではなく、ぜひ広い視野を持って、できれば参加してもらいたいです。情報もほとんど日本に伝えられることがなくて残念でなりません。馬券も世界中のレースが容易に買えるようになればいいと思います。ファンの方にはぜひ馬のことを好きになってもらって、海外も含めてレースを楽しんで見てもらいたいですね。

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【飯塚 千裕】Chihiro Iizuka

静岡県出身。97年にオーストラリアクインズランド州立競馬専門トレーニングセンター入学。卒業後はオーストラリアのパーマダイ牧場、北海道の大塚牧場、グリーンファーム八日市牧場で勤務。03年にはシンガポールのスティーブン・グレー厩舎で攻め馬師となるも、05年からは北海道の高昭牧場、滋賀県グリーンファーム甲南での牧場勤務に戻る形に。
06年よりシンガポールの仁岸厩舎開業準備に携わり、07年に厩舎が開業。現在は10年7月から在籍するシンガポールのローリー・ラクソン厩舎で日々の仕事に励んでいる。