関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

松田国英調教師

大盛況の内に幕を閉じたセレクトセール2013だが、当歳馬が上場された2日目を盛り上げたのは、ダノンシャンティら新種牡馬の存在。現役時代に同馬を管理していたのが、セールの常連であるキングカメハメハ・クロフネらも送り出した松田国英調教師で、競馬ラボはセレクトセール直後に独占取材を敢行。産駒の特徴や競走馬時代の思い出、今後に懸ける期待などを独自の理論で語り尽くしていただいた。

セールでダノンシャンティ産駒を見て

-:今年のセレクトセールというのは過去にない盛況で、売上面から見たら過去最高だったのですが、盛り上がっていた中にヴィクトワールピサやダノンシャンティという新種牡馬が出ていたのですけれど、先生の管理されていたダノンシャンティ、ご覧になって産駒はどうでしたか?

松田国英調教師:大手の牧場がダノンシャンティの産駒をセレクトセールに出して来るということで、自分たちとしても下見でダノンシャンティの仔を見させていただきました。印象としては、馬そのものにまとまりがあるというのか、1600のレースをレコードで走る馬というのは、長距離ではもたない。短距離ですと、手足が短すぎて筋肉がつき過ぎる。

そういうところから考えて、種馬に送り出すときには、キングカメハメハにしろ、タニノギムレットにしろ、クロフネにしろ、全て1600をテスティングランさせるというのか、もちろんその中でダノンシャンティというのは父フジキセキも含めて1600にこだわっている血統だなっていうのを、自分としても送り出すときに感慨深いものがありました。

セレクトセールで下見も含めて見させていただいた産駒たちは、全てではないんですけれども、丁度いい長さというか、筋肉の質なども程よい量。偏ったどうのこうのではなくて、これからダービーに行くのか、それとも短い高松宮記念とかそういうところに行くのか、ダノンシャンティの産駒を見て、おもしろい子どもたちが出てきたなという感じはありますね。


-:先生のおっしゃる「丁度いい」というのは、オールマイティーさというふうに受け取っていいんですか?

国:手前どもの厩舎は、“種馬を作る”っていう命題を最終目標としているわけなので、種馬に行くまでの過程において、やはり1600というG1レースを通過させなきゃいけないです。そこに至るまでにどのレースを走らせるかとか、またそのレースだけではなく、NHKマイルを使った後はダービーですからね。ダービーもクリアできるようになるとオールマイティーという風になってくるだろうし、キングカメハメハにしろ、クロフネしろ、短いところも長いところも走る。かつ芝もダートも走る。なおかつ、牝馬も牡馬も走る。という感じの種牡馬を生産地に送り返したいなと。

あと、馬を甘やかして種を残すっていうのは、自分としては遺伝的に何もプラスにならないというか。やはり過酷な状況下、一番過酷なのはやはりG1レースだろうし、3歳のレースは古馬と違った過酷さがあると思うんですよ。その馬の個体別な極限っていうのはあるわけなんですけれども、壊れるリスクを背負いながら極限の状態に仕上げ、3歳という限定戦で勝たなきゃいけないっていうプレッシャーを、馬がじっと我慢してくれるかどうかというのと、過酷な調整に耐えられるかっていう。

ダービー、NHKマイル、桜花賞、オークス、それだけじゃないですからね。他のレースも使ってきてなおかつ、そのレースを使わなければいけない。3歳という伸びしろというか、そういう状況にある時期に過酷なレースを馬がやることで、遺伝子的に子どもに能力を伝えることができる種馬になれるようにと現役時代は思っていました。




シャンティの父、フジキセキとは!?

-:フジキセキ産駒のダノンシャンティなんですけれども、フジキセキ産駒はサンデーよりも胴が詰まっていたり、コロンとした体型が多かったりする馬が多いイメージがあります。例えばキンシャサノキセキ、これもセレクトセールに出ていましたよね。方向性は全然違うと思うんですけれど、ダノンシャンティの良さっていうのは、僕の中では凄く軽い、スピードを感じるような体に見えたんですけれども、先生の中ではどういう種馬というか、どういうスタイルに映っているのでしょう。

国:フジキセキっていう種馬からキンシャサノキセキ、ダノンシャンティを見た場合、フジキセキ自身が非常に闘争心がキツくて、日々のトレーニングも扱いも、非常に調教師の手からもこぼれるくらいの危なさっていうのがあって。(フジキセキを管理していた)渡辺栄厩舎は隣だったので、よく見ていたら、危ない馬でしたね。サンデーサイレンス自身も草食獣のサラブレッドであるはずなのに、肉食獣的なイメージ。種馬っていうのはそういう肉食獣的なパフォーマンスをするし、オーラみたいなのも出てるわけですけれども、特にサンデーサイレンスは身構える歩き方なんかを見ても、動物の肉食獣、攻撃的というイメージを持っていて、それを農耕民族の日本人がなぜこれだけ上手く扱えたかと言ったら、自身が野性的、肉食獣的であっても、産駒はそれ以上の事はしないんですよね。

「身のこなしも軽い」って話も出ましたけれども、軽いし、飛び跳ねている時、驚いた時の一瞬の動きなども、なかなか付いて行けないんじゃないかなっていうぐらいの速さと飛距離があるもんですから、見ていたら危ないなと。手足が軽いっていうのは、走るときにはいいけれど、日々の扱いにはリスクを背負うんじゃないかなとも思うんです。それがゲート試験を受ける時もスムーズですし、追い切りもまっすぐ走るし、日々の扱いもほとんどサンデーサイレンスは扱いにくいって言葉を感じさせないで、競走成績を生み出すことができると。でも、フジキセキは違いましたからね。

ひとつ間違ったら怪我するなっていうくらいの状況下の動きで、朝日杯の時いつも調教が15-15よりも速い調教で坂路上がって来てましたものね。これで持つのかなって思う日々の育成の状況下で。ダノンシャンティもやはりキツイものは持ってたけれど、コントロールはできましたから。日々、“危ないな”っていうトレーニングはお見せしないで、普通の何千頭の中の1頭で、栗東でトレーニングできてましたから。そういう精神的なもので、キンシャサノキセキ、ダノンシャンティなんかはどうしてもスピードはあるわけで、コントロールが利かなかったら、どうしても1200のキンシャサノキセキになるだろうし、コントロール利いてくると2000mとか1600に強いパフォーマンスをお見せできたダノンシャンティになるだろうし、馬の形そのものが、キンシャサノキセキは筋肉で詰まった馬かって言ったら、そんなことはないんですよ。

普通の短距離馬とキンシャサノキセキは違って、ただ精神的にスピードを乗せてしまう、そういうコントロールの難しさっていうのを常に抱きながら、がむしゃらに走ってたイメージがあって、それが必要なことは必要なんですけれども、ダノンシャンティはもっと距離の長い体型してるかって言ったらそんなことはないですよね。シングスピールが母系の近親(母シャンソネットがシングスピールの半妹)で、あの馬はジャパンカップを勝ちましたもんね。だからみんな、「フジキセキは1600だろう。でも、サンデーサイレンスが後ろの方にドンと構えているから、オールマイティーだろう」っていうのは予測のつくところだろうけれど。

馬体も470、480っていうのは、少し前までは、「その馬体重がダービーを制する」って言われていて、それ以下だったら菊花賞か天皇賞かの長い距離。それで500以上になってくると短距離っていうイメージがあって。3歳のダービーを制する馬は何キロが望ましいかって聞かれた時にダノンシャンティの470、80、90くらいの馬体重が喉から手が出るほど、言い換えれば財布から手が出るほど、必要になってくるはずですからね。






落札された主なダノンシャンティ産駒。上からストームティグレスの2013、レディスキッパーの2013、リトルディッパーの2013


-:ダノンシャンティの産駒はさきほど手先の軽さって話が出たんですけれども、それだけじゃなくてクロフネとかとも近いんですよね、首周りのシャープさが。

国:シャープさと、しっかり度がありますよね。

-:キンシャサノキセキはもうちょっと首周りが重たいっていうか、前が勝っているイメージがあって、そこが違うなっていうのがありまして。

国:同じフジキセキでなぜそうなるのかっていう場合に、やっぱりシングスピールっていう血筋が長い距離でも大丈夫だという。ジャパンカップが凄く強かったんですから。その後ろにサンデーサイレンスがいるのは同じなんですけれども、僕が言わんとしているところは、血の仕事なんでね。血の仕事をそういうふうに受け継いでくるけれども、やはり母系なんかでアレンジした産駒を残す。その中で、どういうふうな状況下で修羅場、極限のレースをやったか、それは2000なのか、1200なのかっていうところもあるし、そのレースだけじゃなくて、そこまでの調整過程にコントロールは利いてるのか、利いてないのか、ギリギリのところでみんな望んでると思うのでね、G1を勝つような馬は。

つまりギリギリのところの、レースも含めて極限の調整などもダノンシャンティが難しかったっていうのは、そういうことはないもの。だから走り過ぎちゃって、結局は骨折するわけなんですけれども、それはやはり、悲観するっていうのは抱かなきゃならんけれど、子どもに伝える場合にはやはり、壊れるほど走る馬でないと遺伝子的にダービーを獲る馬を望んでいるのだとか、桜花賞獲る馬を望んでいるのだとか、古馬まで活躍して天皇賞とかジャパンカップ、凱旋門賞とか海外のレース、そういう馬っていうのは、自分の身が壊れても走るっていう勇気、そういうものを遺伝子的に伝えないとダメですよ。だって、サンデーサイレンス系はそういうところが凄いわけじゃないですか。


-:今はもうサンデーの直仔ではなくて、孫の世代にほぼなってきているわけなんですけれども、ダノンシャンティはサンデーの良さも、シングスピールの良さも、これからの日本競馬に伝えていける良い素材というふうに期待していいですね。

国:それを手前どもは調教師として、生産者は血や遺伝というものとして、ジョッキーは競走成績として、みんなそれぞれのポジションで頑張ります。

管理馬の産駒が続々と登場

-:セレクトセールの中でも、先ほど名前が出たキングカメハメハとか、タニノギムレットとか、クロフネとか、先生の管理していた馬が数多く鑑定台にあがっていたわけなんですけれども、それをご覧になってるというのも特別な思いがあったんじゃないでしょうか。

松田国英調教師:毎年、毎年ですからね。18年前に調教師免許をいただいて、それから2年間の研修を踏まえて、報道の人たちに自分の心境を発信する時に、“種馬をつくる。そういう命題を常に忘れないで仕事をしたい”ということを発信しつつ、ここまで来ているわけで、最初から一貫して、種馬をつくる、種馬をつくる、で来てるわけなので、それがその通りになるというのは、自分を褒めてあげたいなっていうことも確かにあるかもしれません。

それでも結局、自分は何もしてないので。生産者とか馬主さんが高い値段で馬を買うとか、自分の所で働いてるスタッフが常にモチベーションを高めて仕事をしているとか、うちの厩舎だけじゃなくて他のところも、これはキンカメの仔だよ、クロフネの仔だよってことで、厩務員さんとか助手の人たちがわざわざ僕の前に曳いて持って来ますからね。騎乗していたらわざわざ止めて見せてくれるので、「俺の孫だから頼むぞ」っていう、そういう会話を含めて、なおかつ日本で一番大きなセレクトセールで、自分のところから出た種馬っていうポジションで見れるわけですから、仕事の極まりというのか、取材を受けて改めて感謝するっていうのは至極ですよね。

それは、ものすごく究極なことに至るだろうし、嬉しさも言葉で表現できないくらい、感謝が大きければ大きいほど至極の喜びっていうのも付いて来るわけで。それが全部僕の収入なんて、そんなの知れてますよ。あのセレクトセールっていうのは、本当に自分の収入とは関係なしに、高い値段でどんどん売れていくわけですから、キンカメにしても、クロフネにしてもそうですし。だけど、そういう感じっていうのは、感謝の大きさとリンクして、どれくらいの大きさかって言うと計れない嬉しさは持ちますね。


-:タイムリーなところでは、キングカメハメハ産駒のベルシャザールがダートで勝った直後にセレクトセールがありましたものね。

国:最初に「オールマイティーですか?」という話もあったように、キンカメは安田隆厩舎(ロードカナロア)で短いところのG1を勝っていますし、海外での成績も凄いだろうし、ダービーは絶対勝てるっていうのはアンカツさんが言ってましたからね。

-:半分の距離を。

国:そうですよね。そう考えると、やはりオールマイティーの馬が母系とか血筋とか、自分たちのトレーニングの技術、もっと言えば厩舎の持っているもの、また獣医師とか装蹄師とか、自分のブレーンを抱えてるわけで、調教師と言ったら私一人を見るわけじゃないけれど、僕の場合には、ジョッキーとか装蹄師、獣医師、自分のスタッフ、牧場のスタッフなども相当次元の高いところで仕事してますので、そういう人たちのおかげですよね。



-:それが先生の人柄であり、そのサポート隊と言うんですか、松田先生を支えている、協力しているサポート隊の力もやっぱりあると。

国:それが凄いね。今年のダービーを勝った馬(キズナ)、安田記念を勝った安田厩舎の馬(ロードカナロア)は、うちの装蹄師ですからね。みんなG1の舞台で活躍してる獣医師ですし、やはり一番大事なところの獣医師、装蹄師は、過去にダイワスカーレットとかキンカメ、タニノギムレット、ダノンシャンティ、そうそうたる馬をやっていますから。それがそのまま宇治田原に行くわけですから。獣医師は金曜日、装蹄師は1週間に3日くらいいて、仕事をするわけです。

-:担当の装蹄師さんはどなたですか?

国:福田さんです。ジョッキーでも、福永祐一君、岩田君、浜中君がガッチリサポートしてくれているし、だから、松田国っていう一人の調教師だけを見て評価するのではなくて、よく見て欲しいんですよね。そうするとやはり獣医師も装蹄師も、過去の遺物ではなくて、今まさしくトップで活躍している人たちで。手前どもの厩舎スタッフは、ダイワスカーレットをやっていた斉藤さんは定年で引退しましたけれど、G1を勝っている馬を担当しているものが5人、他所でG1馬を担当していた人が2人。

すなわちG1を勝った馬を担当していたスタッフが7人いるわけで、他に目黒記念勝ちました、何勝ちました、っていうG2、G3のスタッフもいるわけですから。スタッフのことを「凄いんだよ」って話しても、それは普通に考えて、馬主さんでも牧場でもファンの人でも、例えばクロフネやってた人にやってもらってますって言うと、やっぱり説得力ありますよね。キンカメやってた人にやってもらうとか、ダノンシャンティやってた人にやってもらったりだとか。G1の世界でジョッキーも獣医師も装蹄師も自分のスタッフも、僕の周りはみんな動いているので、セレクトセールとかではもう、テロップで流したいくらいですよね。


-:テロップが長くなりますね。

国:テロップが長くなるし、うちで今までやってた馬がダメってわけでなくて、素晴らしい馬をセレクトセールで拝見する時に、自分が関与している牝系がたくさんいるわけです。種牡馬もたくさんいるわけで、一番大きいセールで牝系からも父系からも、両方から自分は垣間見るというか、夢を見る。凄いなあとか、良い馬だなとか、自分でやりたいなとか、そういう気持ちを抱きますよね、セレクトセールは。

松田国英調教師インタビュー(後半)
「松田国英厩舎、期待の2歳馬」はコチラ→

1 | 2


【松田 国英】Kunihide Matsuda

1950年北海道出身。
1995年に調教師免許を取得。
1996年に厩舎開業。
初出走
96年11月30日 3回中京3日目4R タニノポリシー
初勝利
97年2月8日 1回小倉5日目2R タニノマウナケア


最近の主な重賞勝利
・12年 目黒記念(スマートロビン号)


高校卒業後、競馬専門紙「競馬ニホン」に就職してトラックマンとなる。その後、山内厩舎などの調教助手を経て、調教師へと転身する。種牡馬としても大成功しているキングカメハメハやクロフネ、タニノギムレットをはじめ、送り出したGⅠホースは枚挙にいとまがないほど。同厩舎の門下生には角居勝彦師や友道康夫師、高野友和師がおり、現在も競馬サークルに多大な影響を与え続けている。