関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

松田国英調教師

松田国英厩舎、期待の2歳馬

-:近々の話なんですけれども、競馬ファンの多くは2歳世代に注目している人がかなり多いです。松田先生のところで、今年の近々走りそうな2歳を2頭ほどピックアップしていただけますか?

国:シェルズレイにディープインパクトをかけているカアナパリビーチ(牝2、栗東・松田国厩舎)という馬がいるんですけれども、それはもう試験に受かって函館の方に移動させています。あとはファーガソン(牡2、栗東・松田国厩舎)っていう馬がいて、父がマンハッタンカフェ、お母さんがシェアエレガンス。その上(ヒルノダムール)も天皇賞を勝っていますし。馬主さんが里見さんとか、山本英俊さんとか、林正道さん、金子真人さん、今回のセールでもたくさん良い馬を所有なさいましたダノンさん、奥さんの野田みづきさん、その人達が全部うちの馬主さんですから。

-:それは凄いですね。

国:なので、今年の2歳も凄い馬を預からせていただきます。気持ちも高ぶりますけれど、その結果をもうすぐ見ていただけるし、フレンチデピュティがノーザンファームで1番先に2歳世代で新馬を勝ったという馬マラムデール(牝2、栗東・松田国厩舎)も自分のところの馬主さんですし、勝った馬、これから使う馬、まだ入厩していない馬、相当2歳は頑張れるんではないかなと。

-:どんなフットワーク、距離というのは長いところに重きを置く感じですか?

国:長いところの馬というのは心肺機能が相当高くないとダメなので、そのためには無駄な脂肪を付けないだとか、手足が長くて重心が高く見えるだとか、幅はちょっと薄めとか、そういうことを完備している馬って、ノーザンファームしがらきで何ヶ月もかけてトレーニングを見させていただきましたが、13-13ていう相当負荷をかけても乳酸値が普通キャンター、他の馬が普通キャンターで負荷がかかってないよっていう乳酸値の数字しか出ないくらい心肺機能が凄いと。

-:ファーガソンのデビューはいつくらいですか?

国:今ゲートのトレーニングやってますので、いつぐらいデビューになるか……。ゲート試験を通過して、オーナーと相談するときに、ハロンなんぼで通過しましたよってことで、「じゃあ函館持って行こうか、こちらで使おうか」だとか、色々選択肢が広がって来ると思うんですけど。凄い馬は凄い馬ですよ。

-:やっぱり背が高くて、骨格も雄大な感じですか?

国:骨格は雄大ではないですね。550とか短距離のダート馬とかそういう形ではなくて、長距離を走る馬の丁度いいサイズになって来てますね。

-:マンハッタンカフェの骨格は雄大だったと思いますけれど。

国:それなのに、天皇賞でしょうとか、菊花賞の長いところでしょう、黒い馬でしょ、サンデーサイレンスに似てるでしょうなどの感じじゃなくて、ここ何年間っていうのは、函館から走る長距離馬って感じですよね。

-:そのへんが持ってる能力の全体値が高いってことですかね?

松田国英厩舎現2歳世代で初勝利となったマラムデール


国:最初の話にあったように、ダートでも芝でもどこでも、長いとこでも短いとこでもサンデーサイレンスの血がたくさん。

-:本当に走る馬というのは、どのような条件が必要なのでしょうか。

国:母系も必要だし、兄弟とかそういう血統も必要かもしれないです。調教師をトップにした厩舎スタッフ、技術的なもので短い距離の馬は馬主さんがお金で買えます。長いところの距離の馬は、厩舎の全てのものがキチッと噛み合わないとできないですね。一番説明しやすいのはジョッキーの腕でしょ。最初から調教師のイメージしている、それを強制しなくても長距離の馬に育てようってそういう認識を抱きながらレースに向かっていくジョッキーも必須でしょ。長距離馬は人間が育てる。馬主さんの眼力に叶う馬っていうのはやはりスピードのある短距離馬がよく見えるでしょう。それはお金で買えますよ。

-:長距離馬っていうのは厩舎だけじゃなくて、厩舎に付随するいろんなスタッフさんの力、牧場の力、乗り役さんの力、全部噛み合わないとつくれないという難しさがあると。

国:それが面白い。

-:これからも競馬ファンを楽しませてもらえる厩舎でずっといて欲しいですね。

国:厩舎力っていうのはG1勝った馬を担当してる人が7人いますよって。そういう厩舎力が凄いと思います。どうしてもG1の舞台で厩舎は構えているわけですから、それでも敵わない馬が来ちゃったら気の毒だけど、はい次、はい次、っていうだけの頭数を抱えてはいないので。少ない頭数でっていうのが厩舎のスタイルで16年間やってきているわけだから。それでもサンデーサイレンスがいたときは少ない頭数でやれたけど、これが3倍だったら、60頭以上見ながら持つようになったら数で押し潰されましたよね。

これが2.5倍枠になる。やはり少ない頭数でやっている厩舎は一息つきますよね。厩舎のことだけ考えたらもっと競争になりますよ。頭数をたくさん入れている厩舎に勝鞍が多い。現にリーディング上位の調教師だったら、馬はそっちの方に行ったら良かったってなりますよね。僕は盛んに「厩舎力が凄いんですよ」って表現したら、G1勝ってるスタッフを7人抱えてる厩舎なんかは過去にないし。今もそういうスタッフを抱えてるんだから、厩舎力は凄いですよ。


2.5倍枠、マツクニ流の見解

-:2.5倍枠っていうのは、調教師さんからしたら厳しい状況かもしれないですけど、松田国厩舎からすれば、厩舎力がより問われる状況になったという意味でプラスですよね。

国:それはどの広さ狭さで協議するかですよ。JRA全体としてはやっぱり3倍枠で上位の調教師にたくさん馬を入れることによって牧場の人たちは売りやすくなる。馬主さんも上位の厩舎に馬を入れやすくなる。馬券を買うファンの人達は、その中から技術の高い厩舎を判断することにリンクしてるわけで。その高い技術力でG1のステージに馬を送り出すチャンスっていうのは、どうしても技術を表現できない厩舎と、技術を表現する厩舎とでは、ざっくりいうと違いが出てくるわけだから。JRA全体で馬券の売り上げが落ちてる時に、上位の厩舎の預託頭数が減るってことはマイナスですよね。

もう少し狭い分野で見ると、調教師は解散する厩舎もあるくらいの状況下っていうか、ずっと停滞しているわけで、やはり上位と下位の厩舎とはしっかり差がついてしまうので、競争しなさいよっていうのを馬主さんが言っていたのか、競馬会が言っていたのか、世間が言っていたのかわからないけれども、頭数も3倍枠にして目一杯入れられる厩舎、全然入れられない厩舎にして競争しなさいよ、というのを何年もやってくると差がついてしまって、下の方にいる厩舎はなかなか上位を狙えないですよ。


-:中団にもいけなくなりますから。

国:なかなか厳しくなります。ざっくり言って、「競争しなさいよ」と言ったって競争させてくれないじゃないですか。それはやはり2.5になることによって少し競争できるかなって感じですね。これが先々2倍くらいになってくると、厩舎力という技術力の高さの競争になる。今だったら多勢に無勢で“これだけのスタッフ抱えてますよ、トップレベルのジョッキーが乗ってくれますよ、今までの経歴も凄いです”。それでも太刀打ちできないじゃないですか。それを何年もやっていたんで、やはり疲弊してしまいますよね。

16年間で重賞も50以上勝ってリーディング上位の調教師として名を連ねてる。でもこれだけ長い間、多勢に無勢になったら疲弊してしまう。ここにきてやっと立て直してきたなってところ、今の2歳まで力が入るという。今の3歳世代までは馬に申し訳ない。だってこっちはG1のステージで仕事しているスタッフを抱えてるわけだから、やはり鞭打って馬を走らせちゃいますよ。G1で競走するものを食べさせていくわけですから。で、調教の負荷かけるのも、“お前はG1に行くぞ、G1に行くぞ”ってプレッシャーをかけて。


-:ということは、先ほど紹介された馬とか、そういうクオリティの高い馬が入ったことによって今年の2歳世代からまた盛り返せるっていう。

国:盛り返せる可能性は高いです。頭数は少ないんですけど、馬主さんも凄いし。

-:質も上がっていると。

国:牧場も凄いし。イコール馬そのものも凄い。

-:老舗の松田国厩舎の巻き返しをこれから楽しみにしといてよさそうですか。

国:やはり自分のスタッフが物語るんではないですかね。

-:G1を獲ったスタッフが世話した馬たちが応えてくれるということですね。

国:いい馬に会り逢えるか、よその厩舎にその馬が行くか自分の厩舎にいるかいないか、っていう巡り会いはワンチャンスなので。



-:いい馬と巡り会うって話があったと思うんですけど、先生にはダノンシャンティ産駒で走る馬と出会ってほしいですね。

国:1600が種牡馬としてはひとつのキーのレースになる。というのは海外でもどこでもマイルって名前がついてる。スプリントとかステイヤーとかって言うけどマイルっていうのは1600だからね。1800をマイルっていわないですよね。ステイヤーとかスプリントっていうのは距離が曖昧でしょ。マイルっていうのは地上に共通した物差しになる。それでやはり3歳のNHKマイルの時点で1分31秒4ですから。どれだけ凄い馬なのかっていうのはありますよね。

-:ダノンシャンティ自体はその時計で走ってしまった代償か、ダービーは直前で出れなくなったわけですが、子どもたちにその可能性、夢は託されると。

国:本当はそれを乗り越えても良かったのかもしれないです。そのレースが終わった後は何でもなかったわけであって、1回走らせちゃうと、それ以上走る喜びというのをサラブレッドというのは身につけてしまいます。それ以上走らない馬もいるのですが、1回経験して走ることを覚えた馬はもう走っちゃうんですよね。

-:走りすぎてしまう?

国:そう。NHKマイルで壊してしまったんじゃなくて、次のダービーに向けて馬は競馬だけがストレスではないので、日々のトレーニングもストレスなのでね。そのNHKマイルの時のトレーニングでは大丈夫だったけどNHKマイルで1分31秒4で走った気持ちというのはダービーまでの調整でね。

-:最後にお父さんとしてのダノンシャンティを応援しているファンも多いと思うので、ファンに向けてセレクトセールでこうだったよ、というお言葉で締めさせていただきたいと思います。

国:社台やノーザンファーム、大手の牧場がダノンシャンティの仔をセレクトセールに出してくれた。お客さんが最後まで残ってくれるように後半の目玉として何頭も出してくれた。それは自分としては誇りに思いますし、ダノンシャンティが1600で一番強いっていうことを踏まえて産駒がダービーの2400で、また1200の高松宮記念、スプリンターズSで能力を出してくれるのか、管理させていただく馬ももちろんですけれども、他の厩舎で活躍する馬も見てみたいなと心待ちにしています。ファンの方もそれと連動して、私と同じ目線でどの距離でこの産駒が走るのかというのを見つめてほしいなと思います。

-:わかりました。どうもありがとうございました。

国:キングカメハメハ、クロフネ、タニノギムレットら同様にダノンシャンティ産駒も応援してください。

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【松田 国英】Kunihide Matsuda

1950年北海道出身。
1995年に調教師免許を取得。
1996年に厩舎開業。
初出走
96年11月30日 3回中京3日目4R タニノポリシー
初勝利
97年2月8日 1回小倉5日目2R タニノマウナケア


最近の主な重賞勝利
・12年 目黒記念(スマートロビン号)


高校卒業後、競馬専門紙「競馬ニホン」に就職してトラックマンとなる。その後、山内厩舎などの調教助手を経て、調教師へと転身する。種牡馬としても大成功しているキングカメハメハやクロフネ、タニノギムレットをはじめ、送り出したGⅠホースは枚挙にいとまがないほど。同厩舎の門下生には角居勝彦師や友道康夫師、高野友和師がおり、現在も競馬サークルに多大な影響を与え続けている。