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安田翔伍調教助手

今週は高松宮記念から安田記念というローテを連勝。昨年の香港スプリント制覇もそうだが、次々と日本短距離界の常識を覆し続けているロードカナロア(牡5、栗東・安田隆厩舎)。当初、今秋はスプリンターズS直行というローテが取り沙汰されていたが、陣営が選んだのはセントウルSからという道筋だった。同馬の出走時にはもうお馴染み、何時も的確なコメントを残してくれる安田翔伍調教助手に、絶対王者のラストイヤーに向けての態勢を聞かせてもらった。

完勝した安田記念を振り返って

-:ロードカナロアについて取材させていただくのが安田記念以来なんですけれど、当時に「マイルに関しては正直、やってみないとわからない」という話をされていたのですが、その結果は完勝でしたね。

安田翔伍調教助手:こなせるけれども、結果に関しては、もっとタメられて良い方に出るのか、もしくは1200の時みたいな脚はちょっと鈍るのか、どっちに出るかわからないというのはありました。

-:あのレースを振り返っていただけますか?

翔:本当に思い描いていた通りでしたね。体重にしても、レース、装鞍所、パドックの雰囲気、ゲート裏も全てが。もちろんレース内容やポジションも描いていた通りの競馬でした。

-:安田記念を勝ったことで、スプリントだけでなくマイルでもやれるという幅広さが見られましたね。

翔:そうですね。それを証明できたレースでもありましたね。

-:仮に勝っていなくても、これまでの成績を見ていると16戦で11回も勝って3着以下がなしというパーフェクトな内容ですよね。

翔:でも、普段から携わらせてもらっていたら、馬の成長と共にやっぱりスゴさも感じ取れているだけに、僕らとしたら安田記念でも、もっと本命の評価が付くのかなと思いましたね。まあ、オッズ的には1番人気だったですけれど、印が思ったより付かなかったことで、結果を出さなければ、今まで一緒に走ってきたスプリンターのメンバーの評価も、レースの価値も下げることになるので、実は結構、結果にはこだわっていましたね。

オーナーサイドからも「何か不安な点があるなら、いつでも止めてくれて良い」とは言われていて、状態に関してはもちろん万全だったんですけれど、そういう意味でも、“ちょっとでも勝てない、勝つ手応えが薄いようなら止めよう”と思うぐらい、今までのレースのことを考えると重要なレースだと思いました。“今までのスプリント戦で結果を出してきたレースの価値と、一緒に戦ってきたメンバーの評価を落とさなくて済んだな”という意味でも、本当に結果が出て嬉しかったですね。


-:しかも2着にショウナンマイティが入ったことで、距離延長で来たロードカナロアと距離短縮で来た2頭がワンツーをしたという、何か変わった安田記念だった気がしますね。

翔:東京のマイルを象徴したようなレースでしたね、2000mを走っているような馬も対応できたし。カナロアはスピードを活かすような普通の1200の馬ではないので、そういう意味で1600をこなせたんでしょう。他の1200の馬が1600に行けるかといったら、自厩舎でも、そういう自信はまだないですし、カナロアだからこなせるだろうなという手応えもあったので。

-:思い描いた通りのレースだったという話の中に、「体重も」というコメントがありましたが、カナロアの体重に関しては、前も500キロちょっとというのはありましたよね。僕が見た中では雰囲気というか、威圧感が安田記念では際立っていたと思うのですが。

翔:そうですね。海外を経験したことで、本当に馬が成長しました。どちらかと言うと悪さはしない馬なんですけれど、ちょっと周りに気を使う面がありまして、それが海外を経験したことで、今年の3戦はすごいドッシリとしていました。香港から帰ってきた後で2回使っていたので、安田記念の時はコンディションが良くて、体も楽だったというのもあって、本当にドッシリしていましたね。

-:ドッシリとしていたし、内からハジけそうな感じでしたね。

翔:意識的に、今までのスプリント戦と同じ作りではいけないなというのはあったので、コースを乗ったりだとか、ちょっと持久力を補うような調教をしてきましたからね。坂路に入れる回数が少なかったということで、スプリントを使っている時より馬のカリカリする面も抑えられましたし。そういう意味でもドッシリというか、ノンビリできていたのかなという風には思いますね。オンとオフの面が、良い意味で際立っていたなというのはありますね。







セントウルSを使うことにした経緯

-:その後、休養に出て帰ってきてからの状態はどうですか?

翔:去年と一昨年の夏の過ごし方があんまり上手じゃなかったので、そういうところをしっかりと把握する意味でも、早めに、7月20日ぐらいには入厩しました。当初はスプリンターズSへの直行を予定していたんですけれど、馬が成長をして、内臓面が強化されたので。原因ははっきりとわからないですが、夏に向けてエサの中身とか、飼養管理はだいぶ変えましたね。それと、去年も一昨年も共に北海道からこっち(栗東トレセン)に来ているのですが、その時は向こうと、こっちの気温の差に対応できなかったのかもしれないですね。

もしかしたら全部が噛み合ったことによってなのかもしれないですけれど、今年は夏に弱い感じもなく、本当によく汗もかきますし、非常に充実した状態で夏を過ごせました。馬も楽な分、1回“15-15”の速いところをしただけで、ノンビリモードからこちらが思っていた以上に気持ちが入ってしまって、スプリンターズSに直行となった時に、“体ができる前に気持ちが出来過ぎてしまうな”というのもありましたね。

今まで、競馬に照準を合わせて気持ちも体も作っていたので、先にで出来過ぎちゃった時にキープをしたことがなくて、それがキープできるのか、もしかしたら悪い方に行くかもしれないというのもあって、そういうところを防ぐためにも。体は乗り込めば造れるという状態で帰ってきてくれたので、“これはセントウルSを使った方がスプリンターズSに負担なく行けるな”という判断で、「セントウルSを使わせてほしい」ということになったんですよね。


-:言わば、ちょっとガス抜きみたいな感じでしょうか?

翔:そこまでカリカリとしてないですけど、このまま行ったらセントウルSぐらいで気持ちがちょっと出来過ぎちゃうかなと。そこでバランスが崩れる馬もいるし、やったことがないことをいきなり今になってやるのも、ちょっと良い方に出なかったら嫌だし。そういう意味で、やっぱり1戦使うことがスプリンターズSに万全に行ける過程だなと思って、「出走させてほしい」とオーナーに連絡をさせてもらいました。

-:飼養管理でバランスを変えたということでしたが、僕らがわかる範囲で結構なので、どう変えたのか教えていただいていいですか?

翔:汗をかきやすいように電解質は常にたくさん与えていましたし、中に入れるサプリだとか、薬とかもちょっと変えました。普通に売られているものなんですけれど、試さなかったものをやったり。競馬から逆算して直前にエン麦を増やしたら、馬の気持ちが乗ったりすることもあるので、そういうメリハリを利かして夏用のエサにもしました。

去年はにじむ程度にしか汗をかかなかったのが、今年は全身ビッチョリとかけるようになっていますしね。筋肉は熱を生産して体温を保持する役割があるので、ただでさえ筋肉が多いカナロアが汗をかけずに体温調節ができないということは、それだけ熱もこもります。それで今までは夏に弱いというのもあったんですけれど、本当に思い描いていた通りに理想の汗のかき方もしてくれました。


-:今年の夏は異常に暑かったにもかかわらず、そうやって上手いこと乗り越えられたんですね。

翔:そうですね。本当に普通の馬と一緒ぐらいの夏の過ごし方ができましたね。


ロードカナロアの安田翔伍調教助手インタビュー(後半)
「昨夏の敗れた2戦を糧に成長」はコチラ→

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【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄と共に厩舎の屋台骨として活躍している。