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安田翔伍調教助手


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秋始動戦も“負けられないレース”と陣営が位置づけていたセントウルSは、対照的に夏場も使ってきたハクサンムーンに後塵を拝する2着。今回のインタビューで安田翔伍調教助手は一切言い訳を口にしなかったが、それこそが連覇を狙うスプリンターズSへの覚悟の表れなのだろう。現在、報道されているローテでは、今回が国内での最終戦。キャリアの集大成となるロードカナロア(牡5、栗東・安田厩舎)の状態をご確認いただきたい。

強かったハクサンムーン

-:ロードカナロアの前走のセントウルSは休み明けで、ハクサンムーンの逃げ切りということで、残念ながら2着になってしまったのですが、このレースから振り返って下さい。

安田翔伍調教助手:まあ、相手が強かったですね。

-:ただ、ロードカナロアの立場からしたら、逃げ馬が不在でハクサンムーンに若干、有利なメンバー構成であったことも、一つあるのかなと思ったのですが?

翔:でも、斤量とか休み明け、展開も、全て把握した上で出走しましたし、それでもこなせると思っていたので、1番人気にしてもらって勝てなかった申し訳なさもありますし、やっぱりハクサンムーンが強かったですね。

-:やっぱりその辺りは今年の高松宮記念から考えても、だいぶ向こうも力を付けているなという感じはしましたか?

翔:向こうの成長力やハクサンムーンを意識して調整内容が変わる訳じゃないので、あの馬がどういう走りをするようになっただとか、そんなことは意識せず、取りあえずカナロアが、その時のベストの状態で送り出すということしか考えていないので。セントウルSに関しては、言い訳のしようのないぐらい強かったなという印象がありますね。

-:あのレースを使った後の疲労というか、休み明けで結構しんどいレースだったと思うのですが、レース後のコンディションについて教えて下さい。

翔:今までのカナロアのパフォーマンスからしたら、言い訳ではなく、ちょっと走り切れなかったというか、パフォーマンスを出し切れなかった面もあるのが、反動がない面に繋がったのかもしれません。全然、レース後は疲労がありませんでしたし、進めていく上で予定通りに1週前もこなせるぐらいの状態でした。あのレースを使ったことでの疲労というのは全くありません。思った通りの上積みというか、競馬を使ったことで思った通りにスプリンターズSを迎えられるなという状態になりました。

セントウルS後の状態と過程

-:先週なんですけれど、台風の影響による代替競馬とそれに伴う変則の調教日程だったじゃないですか。普段の週よりも、ちょっと日にちが少ない中で、ロードカナロアの1週前追い切りがどういう状況だったかというのを教えて下さい。

翔:台風は関係なく、1週前は金曜か土曜にやって競馬の週に2本というのは決めていたことですし、台風の影響は全くなかったですね。

-:あの時は坂路や、ウッドチップが流れて使えないという話もあったんですけど、水曜日から使えて良かったですね?

翔:でも、安田記念の時もコースで追っているぐらいですし、特にコースを選ばなくて良いというのはすごく助かってますけどね。

-:立ち写真を見せていただいたのですけれど、やっぱりセントウルSを使う前よりだいぶ締まりというか、ピリッとした感じがありますね。

翔:そうですね。競馬に行かないとああいう風にならないというのはずっと思っていたので。当初は夏の疲労を考慮して「直行」と言ってたんですけれど、夏を上手に過ごせたことで、使えるなら使いたいと思っていたので、セントウルSに関しては、使えたことが唯一の収穫でしたね。

-:ロードカナロアのフットワークはピッチ走法のタイプに見えます。

翔:結構、体を使いますけれどね。脚はそんなに上げないかもしれないですけれど、体の使い方が違うから。

-:それがいわゆる他の馬のピッチ走法というイメージとは、また違うのがロードカナロアだと?

翔:乗ってみたらそうなんですよ。また違うんですよね。

-:回転数が速い中に伸びがあると。普通、ピッチ走法の馬というと、そんなに?

翔:手先だけで走っているという柔らかさが、背中の柔軟性を感じないんですけれど、それは2歳の頃から持ってましたね。

-:だから、そういうフットワークから見ても、1回使って、より体が温まるというか、動きやすくなるイメージがあるのですが?

翔:それは確かにありましたね。今回使ったことで、一完歩が明らかに大きくなってますしね。

-:特に返し馬とかを見ると、前の出が違いますよね?

翔:ある程度はスピードを出さないと、脚を使わないんですよね。調教の時も角馬場で500mとか乗っても、体を全然出さないので。それで、あまりにもちょっと可動域が狭いな、と思う時はC半周(CWで半周)をやって、体を伸ばすようにしてるんです。今はもうその必要はないなと思って、500を乗って、坂路に行くようにしてます。

-:その辺が前回聞いていた、翔伍さんが気にしている馬のストレッチですね?

翔:それもありますけれど、量を乗るためのC半周とかではなく、坂路だけの走り方を覚えても競馬には直結しないので。

-:それが安田翔伍の中では引き出しなんですね?

翔:カナロアに関してなんですけどね。それが全部の馬に効くとも思ってないですしね。



-:例えば厩舎の前に石が落ちてたら気にするとか?細かいトラブルも未然に防ごうとする姿勢から、調教を組み立てていってる人なんだなと思っているのですが。

翔:乗る時だけじゃなく、普段のカナロアだったらよく触るんですけれど、じゃれてくる時のじゃれ方も見てるんですよね。競馬が近づいて、イライラとしている時とか、戦闘モードに入っている時は、本当に服を破るぐらいのかじり方で、服を掴ませてどんなモノかなと。そういうのも見れますしね。

-:そうやって馬とコミュニケーションを図っている訳ですね。

翔:コミュニケーションというか、あとどれだけ追い切りで怒らせる必要があるかなとか、逆にちょっと入り過ぎたら、優しく調教をした方が良いかな、など。

-:その辺の感覚というのは日本人にはあまりなくて、やっぱり時計だけで判断をしたりだとか、体重を気にし過ぎたり。ある半面、馬の精神状態とか、気持ちを汲んでやるということが苦手なのかなと思うのですが?

翔:でも、大事なことだとは思います。

-:そういう面でいうと、安田記念の時の体というのは、個人的にはパワフルで、圧倒された記憶があるんですけれど、季節も違うので同一には測れないと思うのですが、接していて、あの頃のコンディションと、どういう違いがあるか教えていただけますか?

翔:あれだけの馬なので、本当に競馬を察する能力というのは、やっぱり他の馬と比べても抜けてますし、安田記念前も今回も同じぐらいに競馬モードに入ってます。

-:心配なく、本番を迎えられると?

翔:そうですね。セントウルSで返し馬を見てもらった方もいるかもしれないですけれど、普段でも装鞍所に行ったら、結構デリケートなんですよ、物音とかに反応して。イレ込むことはないんですけれど、結構暴れることが多くて、担当が8レースと11レースで8レースに行ってたから、僕が連れて行ったんですよ。香港の時のイメージがあるから嫌だなと思ったんです。おっかねえな、と思ったら、全然暴れないんですよ。

安田記念の時は壁を蹴る度に吹っ飛んでたんですけれど、全然暴れなくて。それは一概にマイナスとは取らずに、大人しくなったのかなと取ったんですけれど、返し馬を見て「ヤバイ」という話はしていて。ゲート裏で担当と岩田ジョッキーが「ちょっとトモのコントロールが雑で、トモを落としたりだとか、休養馬らしさが出てるね」という話はしていたのですが……。それが負けに直結するとは思ってなかったですね。


-:それで思い出すのが、あの馬はスタートセンスがあるんじゃないですか。その後、結構、促していくシーンがあったので、いつもの方がスッーと行っている感じがありました?

翔:ありましたか。それは岩田さんがハクサンムーンを意識した乗り方を。

-:それですぐに内に行って。それを考えると、明らかに上積みを期待して良いという感じですね?

翔:まあ、上積みはないと困るぐらいですからね、当初の予定では。今は理想の状態で送り出せそうですけどね。



前走2着をレース内容で帳消しに!

-:馬場状態の話を聞くのも、重箱の隅をつつくようですけれども、もし馬場が悪くなった時というのはどうですか?中山はおそらく天気も良いので、そんな必要もないとは思うのですが、思い出すのが一昨年にカレンチャンが勝った高松宮記念が、若干重くて、晴れてはいたけれど、重めの芝コンディションだったじゃないですか。あの時は1枠1番で、一番コースロスなく理想的に運んで3着でした。あの時はまだ4歳でしたし、これから上がってくるという段階でしたが?

翔:今と比較をしたら全然、競馬の経験値も違いますし、フィジカル面も完成度も比べものにもならなかったですしね。初めてのG1の中で1番という枠で、当時はそれで3着というのは、オーナーは納得いただけなかったでしょうけれど、僕らは先を見る上では、すごく評価すべき3着だなとは思ってました。

-:馬場状態が悪くなった時というのも、今のコンディションというか、成長したカナロアなら全く問題ないと?

翔:馬場とか枠とか言ってられないレースですしね、G1で。

-:ここが国内最後のG1なる訳ですしね?

翔:どうなるかはレース後にオーナーとの話し合いです。

-:最後になるかもしれないスプリンターズSで、もちろんファンは1番人気に支持すると思うので、楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

翔:前走の2着というのを帳消しにできるように、巻き返せるように送り出したいと思います。

-:最後に、先程、立ち写真の話で引き締まっているように見えたんですけれど、体重的にちょっとはマイナスで出られそうな感じですか?

翔:体重はマイナスになるんじゃないですかね。

-:輸送もありますからね?

翔:でも最近、輸送は全然。関東圏と関西圏で減り方が極端に変わらなくなっているので。

-:デリケートそうな感じですが?

翔:昔はデリケートでしたね。安田記念の時も全然なかったですし。ただ、安田記念の時とは調整方法が違うので、同じ数字じゃないからといって、減ってるとか、そういうのではなく、この9月の中山仕様にはしているつもりです。

-:僕らファンが注目するのは返し馬に入るところで、前走よりもちょっとピリッとした姿を見たいですね?今日のカナロアは良さそうだな、というのをどうにかファンに判断してもらいたいんですが、ワンポイントアドバイスをいただけますか?

翔:パドックは大人しくて、行儀が良いですからね。返し馬でも見た目にグァーと行く訳ではないから、持ってる中でどれだけあるかで。装鞍所と言っても、そこは見られないですからね。

-:僕らはそういうことを心配せずに上積みがなかったら困るというぐらいのデキだから、安心して見ていたら良いですね?

翔:そうですね。最高のパフォーマンスをお見せできるように、僕らも最善を尽くします。

-:ありがとうございました。

セントウルS前・ロードカナロアについての
安田翔伍調教助手インタビューはコチラ→



【安田 翔伍】 Syogo Yasuda

昭和57年7月8日生まれ。高校時代にアイルランドに渡り、本場の馬乗りを経験。1年間の修行を経て帰国後はノーザンファームへ。その後、安田隆行厩舎に入り、フィフティーワナー、カレンチャン、ロードカナロア等の活躍馬の調教を担当する。
父は安田隆行調教師、兄は同じ安田厩舎に所属する安田景一朗調教助手。兄と共に厩舎の屋台骨として活躍している。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。